残すモノ② 八瑠佳視点
結局来てしまった。
二か月前は毎週のように来ていた彼のアパートに。なつかしさすら感じてしまう。
私は何をしたいのか?何を彼に求めるのか?
さすがに、理由なしに来るのはできなかった。私の部屋にあった彼のシャツを返すというしょうもない理由を付けてここに来た。
「あれ・・・もしかしてもう行っちゃった?」
彼の車はもうなかった。
昼に出発と聞いていたので、11時ちょっとすぎに来たのだが・・・
私は彼の部屋のドアの前まで、来た。
どうしようか・・・チャイムを鳴らすか・・・
迷っていると、ドアが開いた。
「あ・・・すみません・・・」
電話をした男性が出てきた。
「これ本当に捨てちゃっていいんですか?高そうですけど・・・わかりました。失礼いたします。」
電話が終わったようだ。
「もしかして、寺沢様のお知り合いですか?」
「まあ、そうです・・・もう出ちゃいました?」
「はい。30分ほど前に出発されました。捨てるものとしてお預かりしているものがあったのですが、明らかに高価そうなものがあって、電話で確認しても捨ててもらって構わないと言われてしまいました。ですが、さすがに・・・」
「ええ・・・・」
「大変お手数になんですが、お渡しいただくことってできますか?」
「・・・・え・・・」
「お願いします!会ったらでいいので、お願いします。本当はこういうのはダメなんですけど・・・」
男性は小さな箱を私に差し出す。
「・・・わかりました。でも私は責任はとれませんよ。」
あまりにも必死にお願いされるので、受け取ってしまった。
「ありがとうございます。」
私は彼の住んでいたアパートを後にする。
ここには2度と来ないだろう。
こんな風にどんどん過去が増えていくのだろう。
「結局、会うことはできなかったな・・・」
もし彼と会うことができたのであれば、何か変わったのだろうか?
◇
私はそのまま帰宅した。
「このシャツどうしようかな・・・?そういえば、預かったものって何なんだろう?」
私はカバンから、預かった小さな箱を取り出す。想像以上に軽い。
開けていいのだろうか?私は一瞬悩む。
「いっか、どうせ彼と会うことなんて・・・もうないだろうし・・・」
私は恐るおそる箱を開ける。
「・・・・・え・・・・」
中には指輪が2つ入っていた。シンプルなシルバーのペアリングだ。このメーカーは知っている。
そんなわけないと思いつつも、私には確信があった。
「まさか・・・」
私はゆっくりとリングを取り出す。そして内側を見る。
イニシャルが刻んであった。私と彼のイニシャルが・・・
「婚約指輪・・・?あの日に渡そうとしていた?」
私は固まる。
私は彼の言葉を遮り、別れを一方的に告げたことを思い出す。
彼は自分の言葉では、私の心を動かすことができないと思い。形でホンモノを示そうとしたのではないか・・・?
「ああ・・・私・・・」
この指輪は彼のホンモノだったんだ・・・
もしあの時彼がこれを出していたら、私は考えをかえただろうか?
過去に帰れない以上、自分がどう考えるかわからない。
「あったんだ・・・私と彼が繋がれるかもしれない未来が・・・私はそれを・・・私がつぶしたんだ・・・」
気が付けば私は頬に涙を流していた。
もう今更、変わらないのに・・・




