本音② 舞風優視点
「まずは・・・私がなんで今日話しに来たかわかっています?」
「河瀬さんを傷つけたからですか?」
「ええそうです。でも、たぶん勘違いしています。」
「え・・・」
「私は別に八瑠佳にもう会わないと言ったことに対しては特に何も感じていません。寺沢さんが八瑠佳を受け入れるか、受け入れないかはあなたの自由ですから。だから、なんで八瑠佳を振ったのかを詳しく聞くつもりはありません。」
舞風優はグラスに再び口を付ける。ほとんどグラスは空になっていた。
「私が聞きたいのは、あなたは八瑠佳と向き会いましたかということです。」
「・・・」
寺沢さんは沈黙する。
「八瑠佳は真剣にあなたと向き合っていました。寺沢さんはどうですか?私にはあなたが八瑠佳から逃げているようにしか思えなかったんですよね。八瑠佳と向き合うのが怖いですか?」
「・・・・・・」
寺沢さんはまだ黙ったままだ。
私はビールのお代わりを頼んだ。
すぐに新しいビールが運ばれてきた。そのタイミングで寺沢さんは話し始める。」
「怖いですよ。人と向き合うのが。あんなまっすぐな想いをぶつけてきてくれる子なんかと向き合ったら、自分がどんなクズな人間かがわかる。正面から向き合えないですよ。」
ビールを少し飲み、話を続ける。
「神谷さんの言う通りです。俺は人と向き合うことを避けています。でも・・・」
寺沢さんの声が震えているように思えた。
「俺なりに必死にやりましたよ。正面からは向き合えないけど、向き合おうとしましたよ!けど、俺といれば、いつか河瀬さんが傷ついてしまう。こんな俺に真剣に向き合ってくれた河瀬さんを、傷つけたくなくて・・・俺は河瀬さんと会わないという結論をだしたんですよ!」
「・・・ウソでしょ、それ。」
この時の私の目は自分でも驚くぐらい冷めた目をしていたと思う。
「八瑠佳を傷つけたくないって言ってるのは本当かも知れないけど、一番傷つけたくなかったのは・・・自分自身でしょ。」
寺沢さんはいたずらがバレて罰を受けるのを恐れている子供のように怯えているような印象だった。
「八瑠佳のことを考えているようで、自分のことしか考えていないのが私は許せなかった。」
「・・・・・・・・・・」
これまでで一番長い沈黙だった。
「・・・ダメなんですか・・・?」
「え?」
「自分のことを守って何が悪いんですか?自分を優先するのはダメなんですか?」
寺沢さんはとまらない。
「誰だって自分が大切じゃないですか?誰だって傷つきたくないじゃないですか。」
「それは間違ってないよ。誰でもそうだと思う。私もそうだよ。でも、それは八瑠佳を傷つけていい理由にはならなよね?」
「それはそうですが・・・」
「八瑠佳は自分が傷つくことを恐れながらも、あなたに近づいていった。寺沢さんはそれに応えた?八瑠佳に対して不誠実だとは思いませんか?」
「・・・」
「八瑠佳最初、あなたに告白できなかったっていうウソをついていたんですよ。私、八瑠佳がウソをつくところ初めて見ました。あんないい子にウソをつかせたあなたを許せない。」
「・・・」
「八瑠佳今でも自分が悪いって思っているんですよ。あなたのことを悪く言われたくないから、自分を悪者にしてるんですよ!自分を傷つけながら・・・」
「・・・そんな・・・。河瀬さんは悪くない。」
「その通りですよ。あなたが悪いです。八瑠佳泣いてましたよ。あなたのことを想って。八瑠佳は傷つけられてもなお、あなたのことをかばっているんですよ。」
「・・・」
舞風優のグラスは空になった。寺沢さんのグラスも空になろうとしていた。
「私、生中頼みますけど、寺沢さんも飲みますか?」
「僕も生中お代わりします。」
「すみませーん。生中2つお願いします。」
舞風優は言いたいことを言えた。こんなに人に自分の言いたいことを言えたのは初めてだった。そのせいか気分はすっきりしていた。八瑠佳の問題が解決したわけではないが・・・
2人分の生中がテーブルに届いた。
「神谷さん。少し話を聞いてもらっていいですか?」
寺沢さんが話を切り出す。




