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ホンモノノスキ  作者: リンゴ
言えない本音
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出会い     蓮視点

「結局昨日はほとんど寝て終わってしまった・・・」


少し後悔しながら、目的地まで車を運転しながら蓮はつぶやく。


昨日は結局夕方まで雨が降っていた。朝起きて雨が降っているのを確認すると、二度寝を決め、だらだらとしているうちに、一日が終わってしまった。思い出すように、今日の用意をしたが、必要なものを詰め込んだだけだった。



自宅から車で30分ほどで登山口に到着した。平日ということもあって、駐車場の車はまばらだった。


登山靴に履き替え、軽く体操をして、歩き出した。地面は昨日の雨で濡れていた。



今日は一人での登山だ。一人で登ると色々考えてしまう。蓮はほとんど一人で登山をしない。


なぜかというと蓮は登山が好きではない。かといって嫌いというわけでもない。一人でわざわざ行こうという気にならないのだ。正直、家でネットサーフィンをしていたり、ゲームをしている方が性に合っている。


では、なぜ蓮はアウトドアメーカーに就職したのか?その答えはできたからである。


大学生の時にアルバイトを始めてそのまま、深いことを考えず、給料と仕事内容で選んだ。アルバイトの延長の感覚で就職してしまったのだ。


登山が好きだからということで入社する人は多かった。当然、同期は登山やアウトドアが好きという人が多かったし、情熱を皆持っているように感じた。そのようなこともあり、蓮は同期と仲良くなることができなかった。完全に自業自得であるが、蓮は疎外感を感じることが多かった。


店舗に配属されてからも、やはり疎外感が消えることがなかった。むしろ皆と仕事をすることで疎外感は増すばかりだった。


自分は本当にここにいていいのだろうか?登山のことを好きと胸を張って言えない自分は会社にとって必要なのか?そんなすぐに答えの出せないことばかり考えている。




そんなことを考えているうちに山頂についた。


登山の山頂といえば、景色を楽しんだり、昼食を楽しんだりと山の醍醐味だろう。しかし、蓮は水分補給をし、コンビニで買ったおにぎりを食べ、15分もしないうちに下山行動に移った。




登山口までもう少しのところで女性の2人組が座っていた。


髪が長い女性が座り込み、同じくらいの歳だと思われるシュートカットの女性がうちわで風を送っている。


「こんにちは。暑いですねー。」


「こんにちは。ええ、本当に暑いですね。」


挨拶だけして、そのまま進もうとするが、髪の長い方の女性が何も反応しなかったことに気づいた。


「大丈夫すか?」


「たぶん大丈夫です。本人も大丈夫と言ってますし、彼女運動不足なんですよ。だからすぐへばってしまって・・・。」


「めまいや吐き気、だるさとかありますか?それらがあれば、軽い熱中症かもしれないです。」


「水は飲ませましたけど・・・そういえば、さっき気持ち悪いって言ってました。」


ショートカットの女性が答えると、座り込んでいた女性もうなずいた。


「タオルやハンカチとかありますか?」


「ありますよ。」


蓮は冷却スプレーを、取り出し受け取ったタオルに噴射した。


「これで身体を冷やしてください。あとはスポーツドリンクがあれば少しずつ飲ませてあげてください。」


そう言い立ち去ろうとする。すると、


「彼女大丈夫ですか?」


「今は何とも言えないですね。もうしばらく様子を見た方がいいです。ただ今日はもう帰った方がいいと思います。


「ホントに申し訳ないんですけど、少しの時間ここにいてもらっていいですか?全然人通らないですし、あんまりこんな状況になったことなくて・・・」


こんなことを言われてしまえば、帰ることはできない。


「ええ、いいですよ。」




それから約20分蓮はショートカットの女性、神谷かみや 舞風優まふゆと話していた。


2人は大学の同級生で、一緒に来ていた髪の長い女性は河瀬かわせ 八瑠佳はるかで、運動不足の彼女を登山を少しやっている舞風優が連れてきたらしい。


「そうなんですね。寺沢さんも熱中症になったことがあるんですねー。」


「その時は一緒に登った先輩に迷惑をかけてしまって・・・今はこうして冷却スプレーを持ってきてるんですよ。今回初めて役に立ちました。」


「本当に持ってきてもらって助かりました。ありがとうございます。」


「ありがとうございます。」


「八瑠佳大丈夫?」


どうやら少しは回復したらしい。


「少しはましになったんですが、まだ気持ち悪くて・・・」


「そうですか・・・歩けそうですか?」


「ゆっくりなら歩けると思います。」


「じゃあ、ゆっくりでいいんで、行きましょうか。僕も一緒に行くんで。」


「迷惑をかけます・・・本当にごめんなさい・・・」


「気にしないでください。ゆっくり行きましょう。」


そう言ったものの、時計は1時半をまわっている。歩くペースにもよるが、あまりゆっくりしているわけにもいかない。


八瑠佳は歩き出そうとするが、まだふらいついている。これはダメだなと蓮は判断する。


「もし河瀬さんさえよければおぶりましょうか?」


「いやいや、それは・・・。」


八瑠佳は遠慮する。どうしたものか。


「あの、八瑠佳をおんぶしてもらってもいいですか?」


そう舞風優がお願いをする。


「舞風優・・・ごめんなさいお願いします。」


「ええ、大丈夫です。荷物を神谷さんお願いしてもいいですか?じゃあ河瀬さんのってください。」


正直助かった。蓮では八瑠佳を説得することは出来なかっただろう。


「失礼します・・・」


八瑠佳は蓮の背中にのる。


「重くないですか?」


さっきまで軽いザックを背負っていたので正直言って、重いが言うわけにもいかず、


「問題ないです。ただ、汗臭いのは我慢してくださいね・・・」


そして、蓮は歩き出す。




それから約1時間後登山口に到着した。


蓮はゆっくりと八瑠佳をおろした。


「ありがとうございました。」


「いえいえ、車で来ていましたよね?神谷さんが運転されるんですか?」


「そうです。」


「なら安心です。家に帰ったら早めに休んでくださいね。それではこれで・・・」


そう言い蓮は自分の車に向かおうとする。


「本当にありがとうございました。」


2人は頭を下げる。蓮も頭を下げ、立ち去った。




車に乗り、一息つく。


「しんどかった・・・」


人を背負って歩いたのは、高校の部活以来だった。約10年ぶりということになる。


「これは明日筋肉痛になりそうだ・・・さっさと帰って休もう。」


そうつぶやき、蓮は車のエンジンをかけ、走り出す。かなり疲れていたが、蓮は満足していた。いいことをするのは悪くはなかった。


「二人ともかなり美人だったな。美人な山ガールって存在してたんだな・・・」


そう言いながら、蓮は帰路についた。






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