痛み 蓮視点
「寺沢さん、なんかありました?」
山下 菜都美がスタッフルームで作業している蓮に声をかける。
「・・・何もないよ。」
「今の間は何ですか?私で良ければ聞きますよ。」
「・・・少し考えてもいい?」
「もちろんです。」
菜都美は部屋から出ていく。
(そんなにわかりやすいか・・・)
河瀬さんに最後に会ってから1週間が過ぎた。
蓮の心は重いままだった。河瀬さんの最後の無理に作った笑顔が忘れられない。思い出すたび、心が痛む。これは河瀬さんを傷つけた罰といわんばかりのようだ。
いっそ、ビンタしたり、思いっきり罵倒してくれれば良かったのに。そうすれば、一時的には傷つくがそれだけで終わるだろう。
ほらやっぱり俺みたいな奴が、付き合えるわけなかったんだと思える。諦められる。
蓮は彼女のことを好きなってしまっていた。自分にあんな真剣に向き合ってくれた女の子を好きになれないわけがない。
きっと蓮の心のトラウマとしていつまでも心の中に残るだろう。
(矛盾しているな。俺は・・・)
好きなら、ウソをついても付き合えば良かったのかもしれない。いや、河瀬さんと付き合うのをきっかけに、脱オタするのが一番正しかったんだろう。
なぜ正解がわかっているのに、俺はその道を進めないのか?誰が見てもそのルートが正しいのに。
きっとあんな良い子から好意を好意を寄せられるなんて一生ないだろう。そして、恋愛に前向きになれるかもしれなかったのに。
(やはり、一人で考えていてもダメだな。山下さんに話聞いてもらおう。)
そう決意し、蓮は席を立つ。
「山下さん。さっきの話だけど、お願いしてもいいかな?もちろんおごるから。」
「はい!そうと決まれば、今日の仕事終わったら行きましょう。明日は私達休みですし、ゲロるまで飲みましょう!」
「お手柔らかにお願いします。」
・・・・・
仕事が終わり、2人は店を出た。外では雨が降っていた。
「いやー、完全に梅雨に入りましたね。」
「そうだね。あまり雨は好きじゃないなあ。」
「そうですか?私は嫌いじゃないですよ。雨には雨の良さがあります。」
「そっか・・・」
「もー、元気ないですねー。はやく行きましょ。」
山下さんは、前を歩きだす。
「いつも、飲み会で行っているところでいいですよね?」
「いいよ。」
「・・・マジで元気ないですね・・・」
山下さんは呆れたようだ。
「すみません」
2人は声のした方を振り返る。
そこには神谷さんがいた。
「ごめん、山下さん。今日の約束はなかったことにしてもらっていい?埋め合わせは今度必ずするから。」
「え、え・・・」
山下さんは困惑している。
「本当にごめん。」
一緒に行くわけにはいかない。なぜなら、これは俺への罰だ。河瀬さんを傷つけた罰がくだされるのだろう。