バトンタッチ① 千愛希視点
暗い中、私は一人で歩く。
「はぁ・・・泣きそう・・・」
寺沢君の方を何度も振り返りそうになった。
泣きそうにもなった。
早く家に帰って、やけ酒でもしたいところだ。
でも、私にはまだやらなければ、いけないことがある。
私の大好きな人を救わなければいけない。過去にとらわれているあの2人を。
私にできることはまだある。
スマホを確認する。
水族館でトイレに行った時に送ったメッセージには既読がついていた。しかし、返信はない。
「ここで向き合わないといつまでも向き合えないよ。舞風優・・・」
本当に世話が焼ける。
なんで振られた私が舞風優のサポートをしなければ、いけないのかと少し思う。
でもそれ以上に、私の好きな2人に幸せになって欲しかった。
きっとあの二人は誰かがくっつけないと、一生すれ違いをしていそうな気がする。
だから、少しだけおせっかいな行動をしよう。
実は舞風優を駅に呼び出している。指定した時間はもう過ぎている。
彼女はいるだろうか。
「あ・・・・雪だ・・・・」
私は空を見上げる。
ゆっくりとゆっくりと白い雪が降ってくる。
私はカバンから折り畳み傘を出す。
そして、傘を開いた。
「蓮君・・・持っているかな・・・」
カバンの中にはもう一つ折り畳み傘が入っていた。
「渡しておけば、よかった・・・」
私は早足で駅まで向かった。
人はほとんどいなかった。
ここは水族館ぐらいしかない。
昼に待ち合わせをした噴水が見えてきた。
待ち人はいるだろうか?
「・・・舞風優・・・」
舞風優は傘をさして待っていた。
私の声に反応して、私の方を見る。
「来てくれたんだ・・・・」
「うん・・・」
「「・・・・・」」
私たちは無言で見つめ合う。
「私・・・振られちゃった・・・」
「・・・・・」
舞風優ばつの悪そうな顔をしている。
「ごめん・・・言い方が悪かったかな・・・私、舞風優には悪いけど、遠慮はしなかったよ。」
「・・・うん。」
「後悔がないと言ったらウソになるし、未練もめっちゃくちゃある。でも・・・私、全力で恋愛した。想いをぶつけた。結果はダメだったけど・・・」
「・・・・」
「だから、次は舞風優の番だよ。」
私は舞風優の手を掴む。
「悔しいけど・・・私じゃ、過去にとらわれた寺沢君を救えなかった。でも、きっと・・・舞風優なら・・・できるよ。」