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ホンモノノスキ  作者: リンゴ
言えない本音
11/117

食事     蓮視点

いよいよ河瀬さんと食事をする日になった。


河瀬さんと今日の約束してから、連絡をしていない。もちろん彼女からの連絡もない。


彼女はやはり純粋にお礼がしたいだけなのだろう。


蓮が女性と二人きりで出かけるのは社会人になってから初めてだった。今日の服は普段は行かないオシャレな店で購入したし、前の休みには美容院にも行った。今朝はワックスまでつけてきた。


期待はしてはいけないと思いつつ、内心期待していた。


「だいぶ早く着きそうだな・・・」


蓮は待ち合わせ場所の栄駅に着いた。待ち合わせ時間にはまだ30分以上あった。


「来ているわけないか・・・」


河瀬さんに着いたというメッセージはもう少ししてから打とうと思い、どこで待とうかとあたりを見渡した。すると、


「あ・・・」


彼女はいた。


声をかけづらいほど、彼女はかわいいかった。蓮も彼女を知らなければ、モデルと見間違えてしまうだろう。


一瞬声をかけるのを戸惑ってしまったが、蓮は勇気をもって声をかける。


「すみません。お待たせしました。」


「いえいえ、まだ待ち合わせ時間まで30分ありますし・・・じゃあ早いですけど、行きましょうか?」


「ええ・・・」


蓮は悩む。河瀬さんの今日の服をほめようと思ったのだ。だが、彼氏でもない自分が褒めてどうするんだと思い、とどまった。


「以前あった時と雰囲気が違って、一瞬わからなくて、探しちゃいました。」


という意味不明なことを言ってしまった。


「私変ですか?」


「いえ、そんなことはないです。」


蓮は強く否定する。


「・・・」


微妙な雰囲気になってしまって、二人は黙り込む。まだ、食事も始まっていないのに、大丈夫だろうかと蓮は不安になってしまった。




駅から歩いて数分、とある喫茶店に着いた。


「ここです。ビーフシチューが美味しいらしいです。予約はしていないですが、今日は平日ですし混んでないと思います。」


河瀬さんは扉を開ける。


「いらしゃいませ。すみません。今混みあってまして、少しお待ちいただくことになってしまいますが、よろしいでしょうか?」


河瀬さんは困惑した顔でこちらを見る。


「僕は大丈夫ですよ。河瀬さんもいいですか?」


「はい。もちろんです。」


蓮は店員に


「大丈夫です。ここで待っていればいいですか?」


「申し訳ございません。用意できましたらお声がけします。」


「お願いします。」


店員が立ち去る。


「じゃあ、少し待ちましょうか。」


「すみません。予約しておくべきでした。」


「謝らないでください。話して待っていましょう。」


「河瀬さんはお仕事は何をしているんですか?」


・・・・・



30分ほど経つと席に案内された。


「ここはビーフシチューが美味しいんでしたよね?」


「そうみたいです。私はビーフシチューにしようかな?」


待っている間話すことで河瀬さんと少し打ち解けることができたみたいだ。蓮も最初ほど緊張しなくなった。


「僕もそうします。」


店員に注文をして2人はまた、話し始める。


最初の沈黙がウソのように2人は話すことができた。




食事が終わり2人は店からでた。



「美味しかったですねー。」


「寺沢さんお金渡します。」


電子マネーで会計をすると割引ということで、蓮が支払いをしたのだ。


「いや、いいですよ。」


「でも・・・」


「ここは男の僕にかっこつけさせてください。」


「・・・ありがとうございます。」


河瀬さんは納得してなさそうだ。


「栄駅まで一緒に行きましょうか。」


2人は歩き出す。


「今日は楽しかったです。誘っていただいてありがとうございました。」


「私もすごく楽しかったです。寺沢さんのこと色々と知れて良かったです。」


「僕もです。山で会ったときはあんまり話せませんでしたから・・・」


今日のことを話しながら、2人は並びながら歩く。2人の間には微妙な距離があった。


10分ほどで栄駅に到着した。


「さっきも言いましたが、今日はありがとうございました。ホームは反対でしたよね?」


「こちらこそありがとうございました。すごく楽しかったです。ここでお別れになりますね・・・」


「じゃあ、これで・・・」


「あの・・・」


歩き出そうとすると、河瀬さんに呼び止められた。


「また、一緒にご飯とか行きませんか?甘いものも好きってことだったので、カフェでもいいですし・・・」


「・・・。」


蓮は困ってしまう。ただ、彼女の真剣な想いをいい加減な気持ちで返したくなかった。


「ええ、もちろんです。」


蓮は笑顔で答える。


「良かったです。また連絡しますね。」


河瀬さんはホッとしたような顔をする。


こうして2人の食事が終わった。傍からみたらデートにしか見えないが、蓮はそう思いたくなかった。






河瀬さんと別れたあと蓮は寄り道せずにまっすく帰宅した。


予想外だった。思った以上に好意を寄せられているみたいだ。蓮は人から好意を寄せられることに慣れていない。むしろ、厄介者扱いされることが多かった。


昔からそうだった。家族との中は一見良好に見える。蓮にはできの良い妹がいて、両親はいつも妹をかわいがった。


蓮は勉強も運動も特に優れているわけではなかった。何度も蓮が眠った後に、両親が自分のことで言い争っているのを聞いてしまった。その日から、蓮は自分は両親から、厄介者扱いされていると思い込んでしまった。


友人関係では、中学時代仲良かったと思っていた同級生がと学年があがり、クラスが変わった後に会いに行った時に自分とはタイプの違う同級生と楽しそうに談笑しているのを見て、自分がいたせいでその同級生といたかったのではないかと思い込んでしまった。


2つとも思い込みではある。だが、どうもこの2件のせいで蓮は自分は人から好かれないと感じ始め、人と積極的にかかわるのを避けるようになってしまった。


大学生の頃のある出来事で、蓮は完璧に諦めてしまった。


人と真剣に付き合うことを諦めた蓮には河瀬さんは眩しすぎた。彼女に好意を抱かれるのはうれしい。しかし、あとで嫌われるくらいなら好かれない方がいい。


河瀬さんに悲しい顔をさせたくないという想いで、また食事に行くと約束してしまった。


「俺は不誠実だ・・・」


今日の会話だって、当たり障りのないことだけを話しただけ。彼女に真剣に歩み寄ろうともしなかった。次に食事に行ったら、きっと会話はなくなってしまうだろう。


「結局俺は自分が傷つきたくないだけか・・・最低だな・・・」



つくづく自分のことが嫌いになる。



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