思い出② 蓮視点
「良かったね、水族館。」
「うん。北陸ならではって感じの水族館だったね。」
俺と千愛希は水族館をたっぷり楽しんだ。
水族館を出た後、近くのレストランに入って夕食を食べているところだ。
すっかり日は暮れてしまっている。
まだ、雪は降っていない。
「ねぇ、今日楽しかった?」
「うん。楽しかった。金沢に来てから一番楽しいと感じたんじゃないかな・・・?」
「・・・・良かった。前に兼六園に行った時よりも表情が明るくなったね。」
「そうかな・・・?」
俺は目を閉じる。
頭に浮かんだのは神谷さんの存在だった。
「そうかもしれない。」
「・・・・私も楽しかったよ。」
「そっか、良かった。」
「そうだ。忘れないうちに・・・」
千愛希はカバンから小さな箱を取り出す。
「はい。誕生日プレゼント。受け取ってくれるかな・・・?」
「もちろん。ありがとう。うれしいよ。開けてもいい?」
「うん。喜んでもらえると嬉しいな。」
俺はゆっくりと箱を開ける。
「・・・これって、懐中時計・・・?」
「うん。蓮君に似合うと思って・・」
俺は懐中時計を手に乗せる。
「ありがとう。すごく嬉しいよ。」
「これでおあいこだね。」
「え・・・・?」
「昔付き合っていた時、私の誕生日にネックレスくれたでしょ。」
「うん。そういうことか。あれ・・・まだ持ってるの?」
「うん。ほら・・・」
千愛希は着けていたネックレスを外す。
見覚えがある。俺が昔送ったネックレスだ。
「・・・ごめん。気付かなかった。せっかくしてきてくれたのに。」
「ほとんど見えなかったし、気にしないで。」
俺は嬉しさと同時に恥ずかしくなった。
あの頃はお金がなくて、ネックレスも安物だった。
「まだ持っているとは思わなかった。そんなに高価なものでもないし・・・」
「いいの。」
「・・・」
「いいんだよ。これは蓮君が私のことを想って買ってくれたものだから・・・それだけで意味があるの。値段は関係ないよ。」
「・・・・ありがとう。懐中時計大切にするね。」
俺たちは食事を終えて、外に出る。
時刻は19時少し前だ。
電車で金沢まで一時間くらいだ。
「ねぇ・・・まだ時間は大丈夫?」
「うん。」
「歩こうよ。」
「いいよ。」
俺たちの口数は少ない。
「昔行った水族館みたいに夜景は見れないね・・・あの時の夜景覚えてる?」
「ああ、はっきり覚えている。俺があそこで、か・・・千愛希に告白したんだ。」
「そう・・・だね。私もはっきり覚えている。」
「あの時はいっぱいいっぱいだった。初めて告白するから、めちゃくちゃ緊張してた。」
「本当?私には結構落ち着いて見えたよ。」
「「・・・・・」」
俺たちは無言になる。
海岸沿いまでやってきた。
「俺さ・・・千愛希に伝えたいことがある。」
「うん。私もある。」
俺たちは向かい合う。
周りに人はいない。
波の音だけが聞こえる。
「私から、言わせて欲しい。今度は・・・」
「・・・・わかった。」
「・・・すうー。」
千愛希は深呼吸する。
「私は蓮君のことが好きです。私とずっと一緒にいて欲しいです。」
「・・・俺は・・・」
「私が全部先に話ていい?答えはそれから聞きたいです。」
「・・・ああ。」
(彼女はわかっているんだ・・・俺がどう答えるか・・・)
なんとなくだがそう感じた。
「昔、蓮君に告白してくれた時、その時は蓮君のことを恋人として好きじゃなかった。それは、別れるまでずっとだった。本当にごめんなさい。私、不誠実だった。」
彼女は深く俺に頭を下げる。
「・・・・・なんで、俺と付き合うことにしたの?」
俺は、ずっと聞きたかったことを聞く。