思い出① 蓮視点
今日は森田さんと水族館に行く日だ。
俺は今日、電車で来ていた。
雪が降る中での運転は慣れていないので電車を選んだ。雪で電車が止まったら、大変だが・・・
森田さんも電車で来るそうだ。
俺は改札を出て、待ち合わせ場所の噴水前に向かった。
「あっ・・・」
森田さんは、すでに来ていた。
待ち合わせの時間は14時だ。集合時間の15分前にもかかわらず彼女は待ち合わせ場所で待っていた。
「お待たせ、待った?」
「そんなことないよ。今日は寒そうだから、暖かい恰好をしてきたんだ。」
彼女は暖かそうなコートを着ていた。赤いマフラーもしている。
確かに、暖かそうだ。
「かわいいね。今日の服。」
自然と言葉が出ていた。
「!?」
「え・・・」
「・・・うん。ありがとう。嬉しい・・・」
彼女からしたら、意外だったようだ。
(照れている?そういえば、服装を褒めたことなんてなかったな・・・)
「俺の顔に何か付いてる?」
「・・・・・・いや、そんなことはないよ・・・」
「そっか・・・」
彼女の顔が曇ったような気がした。
「寒いし中に入ろうか。水族館内は暖かいと思うし。」
「うん・・・・ま、待って・・・!!」
「う・・・ん。」
歩こうとした瞬間に声をかけられる。
「あ、あの・・・今日だけでも・・・いいから・・・下の名前で呼ばせて欲しいです。そして、できれば私のことも下の名前で呼んで欲しいです。」
「・・・・・」
「・・・・・ダメかな?」
「いいよ、千愛希。こんな感じでいいかな?」
「うん・・・!嬉しい。ありがとう、蓮君。」
「こんなことで喜んでもらえるのなら、良かった。」
森田さんの表情が明るくなった。良かった。
昔叶わなかったことが、今叶った。
互いを下の名前で呼ぶ。
俺は下の名前で呼び合うことは特別なことだと思っている。
憧れだった。
俺の下の名前を呼ぶのは家族以外は、2人目だ。
ただただ、嬉しかった。
昔あれほど詰められなかった距離が縮まっているのを感じる。
あの頃、今のようにできていれば、何か変わっていたのだろうか。
そんなことを思いながら、森田さん、千愛希と並んで歩く。
空は今にも雪が降りそうな曇天だった。