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第84話:学徒出陣に弱ぇー・・・

更新遅くなりました。



 この日、任意授業への出席者は創設以来始めて0を記録した。

理由は明確で、この授業が始まる直前にもたらされた情報が生徒達を震撼させたからである。

その情報とは、メデゥカディア島に所属する魔法使いの船とバンドーンの大艦隊が衝突し、魔法使いの船が壊滅したことに起因する。

誰もが最初は冗談だと思った。

しかし、生徒へ伝えられた内容は、それが真実であると告げていた。


「卒業資格を有する者は、島所属の魔法使いとして戦争へ参加するものとする」


 現時点で卒業資格を取得している者は、半強制的に戦争へ参加しなければならない。


「条件に合致する希望者は、島所属の魔法使いとして戦争への参加を認める」


 年齢、学年、能力の制限はあれど、生徒の戦争参加を容認する。

これらの内容が、突如として掲示板へ掲載されたのだ。


 生徒の話題は、この話でもちきりである。

卒業資格を持つ生徒達は他の生徒に囲まれた。

また、それ以外でも戦争への参加を検討するなどの話がいたるところでされていた。


 そんな中、俺は所属するラボへと向かった。

もともと任意授業は出席しても寝ているだけである。

このような状況になったのなら、やはり行く必要は無いと判断してのことだ。


 ラボに着くと、任意授業の時間帯であるにもかかわらず、メンバーのほとんどが集まっていた。

そして、その中心には女帝が君臨している。

しかし、いつもと様子が違う。

何かあったのだろうか?


「セリア氏、ようやく来たでござるな」


「あぁ、いったいこれは?」


「女帝の出陣で、ござる」


 ん? と一瞬疑問を持った。

しかし、良く考えれば最上級生なのだから、卒業資格を得ていてもおかしくはない。

だとするのなら・・・・。


「戦争に参加するのか?」


「あぁ、そうさね。まっ、学院からの通達では仕方ないさ」


 女帝は何でも無い風を装い返事をする。


「不満はないのか? そもそも学生が戦争へ参加するなど、ありえないことだろ?」


「そうでもない。卒業したら島所属の魔法使いになる予定だったしな。たぶん卒業資格を持つやつらは皆同じような感じだろう」


 そうかもしれないが、心の準備という面では少々不安ではないか?

魔法使いとして、戦いに身を置く覚悟をして卒業した者と、状況により突然戦いに身を置かなくてはならなくなった者。

両者には自発か強要かの違いがある。


 俺が何か言いたそうな顔をしていることに気づいたのだろう。

女帝が言う。


「あたしのことはいいんだよ。それよりも、こいつらをどうにかしてくれ」


 俺はこいつらと呼ばれた二人を見る。

『ござる』と『鉄火面』がそこにいた。


「どういうことだ?」


「はぁ~、こいつらも戦争へ参加するつもりだとさ」


「え? どうして?」


「せっしゃ達は年齢も、学年も、能力も問題ないでござる」


「いや、そういうことじゃなくて。どうして戦争へ行くんだ? 強制ではないのなら、わざわざ危ないところへ行く必要ないだろ?」


「セリア氏はこの島を護っている魔法使いが何人くらいいるかしっているでござるか?」


 俺は腕を組んで考える。

島はそこまで大きくない。

恐らく住んでいる人口も1、2万人程度だろう。

そうであるなら・・・・。


「千人くらいか?」


「ブー、×でござる。正解は300人でござる」


『ござる』が手を交差し、×を作る。

その仕草は、なんかムカつくな。


「今日の昼の戦いで失った戦力は大よそ70人。大よそ四分の一の戦力が失われたでござる」


 なるほど。

だからこその生徒動員か。


「我が友はこの島出身でござる。だから、我が友は戦争へ参加すると言っているでござる」


 我が友というのは『鉄火面』のことだろう。

俺が彼を見ると、黙って頷く。


 このシュタットフェルト魔法学院の生徒の多くが、メデゥカディア島以外の出身である。

島にいる若者の多くが学院へ入学しているとは言え、もともと人口が少ないため比率から言えば少数になる。


 島出身の者にとって、バンドーンとの戦争は負ければ家族まで被害が及ぶ。

ゆえに、彼らもまた戦争参加を希望せざるを得ないのだ。


「せっしゃは友のために」


 『ござる』がドヤ顔を決める。

その姿はこれまでの情けない姿とは違い、輝いて見える。

・・・・どこが? とは言わないが。


「女帝のため」


 ボソッと『鉄火面』が口を開く。


「ぬわぁあぁぁ。それは言わない約束でござろう!」


 『ござる』が慌てて『鉄火面』の口を塞ぐ。

なるほど。

本当はそれが理由か。


 俺は女帝を見るが、本人にはまったく伝わった気配がない。

首をかしげ、頭に?がいくつか並んでいる。

この女帝も、どうやら色々拗らせているようだ。


「決心は固いようだな」


「もちろんでござる。セリア氏や皆はせっしゃ達が守るでござるよ」


 親指を立てる『ござる』を見て、説得は無理だと悟った。

俺は女帝へ顔を向けると、首を振る。

仕方が無いことだ。

愛のために、男は譲れない時がある。

彼にとっては今、この時だろう。


「三人とも、気をつけて」


「とは言っても、後方支援になるんだろうけどな。さすがに最前線は正規の魔法使いが担うだろうし」


「そうでござる。心配無用でござる」


 実際にその通りだろうが、この世に絶対はない。

戦争へ出ると言うことは、やはり危険と隣あわせだ。


「ところで、一つ頼みがあるんだが」


「なんでござるか?」


「昨日の浮遊の秘薬をくれないか?」


「いいでござるが、あんなもの何に使うのでござる?」


「ちょっとな・・・・」


 俺の言葉に顔をしかめつつも、『ござる』が液体を二つ用意した。


「この二つを合わせればできるでござる。たぶん」


「ありがとう。・・・・たぶん?」


「昨日一度できただけでござるから、再検証はしていないのでござるよ」


 そういえばそうだな。

まぁ、大丈夫だろう。


 俺は受け取った液体を慎重にマジックポーチへと入れる。


 その後、いつもの秘薬の研究ではなく、明日の戦争についての討論を行った。

バンドーンの戦力、戦術などを考え、メデゥカディア島の対応などを話し合った。

その話で一つ気になったことがある。

バンドーンの船にエルフ族の姿が見当たらなかったという情報があった。

誰も理由は分からない。

俺は、もしかしたらティファニアのエルフ族への説得が成功したのではないか? と思った。

だとするなら、近いうちにティファニアは戻ってくるだろう。


 俺達がこの島を出る日も、そう遠くないような気がした。




 決戦を前日に控えた夜。

月下を一隻の船が海を渡る。

向かう先はメデゥカディア島。


 両陣営共に警戒している中、誰も気付くことなくゆっくりと進む。

乗っているのは唯一人。

目深に被ったフードから時折り見える金髪が、月光を受けてその輝きを増す。


 小船はメデゥカディア島の結界へ到達するが、何事もなく通り抜ける。

そのまま警戒している魔法使い達の船の間を進む。


「行ったようだな」


 その光景を、夜目が利くエルフ族の族長は見つめていた。

彼女の周りにはエルフ族の魔法使い達がいる。


「面倒なやつがやっといなくなった。これで心置きなく魔法を発動することができる」


 族長は魔法使い達を見やり宣言する。


「夜明けと共に幻想召還魔法を行う。これは人族のためではない。我らの悲願のためだ。そして、傲慢な人族の魔法使い共を葬るためだ。さぁ同胞よ。明日こそ我がエルフ族が世界を救済する記念すべき一日としようぞ」


 エルフ族達は歓声を上げない。

代わりに、彼らの目には強い意志の炎が宿るのであった。




 今夜もまた、俺とコンラートはコウ達を見張るために校舎入り口に集まった。

明日バンドーンが総攻撃を仕掛けてくるのなら、それに呼応してコウ達も何らかの動きを見せるだろう。

そうであるなら、今夜下準備などを行う可能性がある。

だからこそ集まったのだが・・・・。


「コウ達は校舎を一周して、北寮の食堂へ行ったよ」


 コンラートの言うとおり彼らは食堂にいた。

しかし、椅子に座ったまま動かない。

何かを話しているようだが、ここからでは内容を聞き取ることはできない。

既に準備が整っているのだろうか?


 しばらく様子を伺ったが、深夜になると彼らは解散しそれぞれの自室へと戻っていく。

その姿に不審な点はない。

どちらかと言えば、その姿を陰から見ている俺達の方が不審である。


「それじゃぁ、今夜はここまでだな」


「だね。おじさん、おやすみ」


 いつもより早い時間に俺達は分かれた。


 俺は一度寮へ戻る風を装い、コンラートの姿が見えなくなると講堂へ向かう。


「セリア様、こちらにおられましたか」


 暗闇から突然声が聞こえてくる。

不意打ちであったため驚いたが、その声はどこか懐かしい。


「ティファニアか? 久しぶりだな」


「はい。今しがた戻って参りました」


 姿を現したティファニアは目深に被っていたフードを取る。

月光に照らされたティファニアの顔は、やはり人族のそれとは違う神秘的な美しさがあると改めて思い知らされる。


「お前が戻ったということと、エルフ族がバンドーンの船に乗っていなかったということは、エルフ族への何らかの対処ができたということか?」


「はい。彼らは今後人族の争いには加担しません。今は戦場の後方で待機しています」


「そうか。俺の方も、結界の魔法陣とそれを支えているシステムを見つけた」


「そうなんですか! さすがセリア様です」


 ティファニアからの手放しの賞賛は素直に嬉しい。


「まぁ、俺が本気を出せばこれくらい楽勝だ」


「はい。セリア様は最高です」


 相変わらず盲目的である。

ちょっと怖いな。


 ほどなくして講堂の裏手へたどり着いた。

ここには地下への入り口がある。

まぁ、普通の人には発見できない偽装魔法が施されているが。


「セリア様ここは?」


「この地下に巨大な魔法陣がある。んで、ここがその入り口だ」


「なるほど」


「ティファニアはレーアとリンカと合流し、このことを伝えてくれ」


「分かりました。それでは、明日、エルアルドへ戻るということでしょうか?」


「ん?」


「いえ、魔法陣が見つかり、リンカへ伝えたのならすぐにでも解析して、転移できるようになるのでは?」


「・・・・そうだな。だが、この状況をこのままにしておくのは」


「ですが、エルフ族が介入しないのですから、純粋な人族同士の争いです。セリア様が片一方へ力を貸せば、そちらが確実に勝利することになります」


 俺が勝利者を決定するのでは公平ではないということか?

だが、今は人族同士で争っている時ではない。


「明日一日考えさせてくれ」


 明日でこの戦いの趨勢が決まる。

それを見極めてからでも遅くはないはずだ。


「わかりました。セリア様、もし私の力が必要な時は言ってください」


「わかった」


 ティファニアは一瞬笑顔を見せた後、フードを目深に被り、闇へと溶けていく。

俺は彼女を見送った。


 そして物陰に姿を隠すと、地下への入り口を見張るのであった。

いつもご愛読ありがとうございます。

気に入っていただけましたら幸いです。


いよいよシュタットフェルト魔法学院編も佳境へ突入します。

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