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第82話:巨大魔法陣より弱ぇー・・・

更新遅くなりました。

中々表現が決まらず、執筆が進みませんでした。



「これは、すごいですね!」


 興奮しながらコンラートが俺の横に降り立つ。

否、正確には降り立ってはいない。

俺とコンラートの足は30cmほど地面から浮いているからだ。


「そうだな。俺もここまで大きな魔法陣は始めて見た」


 転生前でも、ここまで巨大な魔法陣を見た記憶は無い。


 目の前に広がる無数の曲線。

それらが何らかの法則により描かれている。

魔法陣が青白く発光しているということは、魔法が発動しているということだ。


 さて、ここまでくれば分かるだろう。

これほどの魔法陣であるなら、発動している魔法の効果も生半可なものではない。

つまり、この魔法陣こそ俺が捜し求めていたもので間違いない。


「それにしても、この魔法陣は複雑過ぎやしないか?」


 俺は呆れたように呟く。


 見えているのは魔法陣のほんの一部である。

それでも、この魔法陣が複雑であるということは良く分かる。

正直、全体像を見れば俺の知識を参照して、ある程度は解析できると思っていた。

しかし、これでは全体像を見ても理解するのに数日かかるかもしれない。

いや、そもそも理解すらできないかもしれない。


「僕には何が何だかさっぱり分からないよ・・・・」


 コンラートにはお手上げのようだ。

当然である。

こんな子どもに理解できるような品物ではない。


 俺達はしばし、圧巻とさえ思われる魔法陣に見とれていた。

それを破ったのは、秘薬が切れる前兆である。

どちらの効果が? と問えば、どちらもだ! と答えたい。

体が小さく上下運動を開始し、視界が揺れる。


「まずい。今ここで降りたら魔法陣を踏んでしまう。そうなったら結界魔法へどんな影響を与えるかわからない。いや、何らかの防護魔法を廻らせている可能性が高いから・・・・マジやばい」


 俺はどうにかしてその場から動こうと、平泳ぎのように宙を泳ぐ。

しかし効果は皆無である。


「これならどうかな? 大気に宿りし大いなる意思よ。我が意に従い収束せよ。ウインドコンバージェンス」


 コンラートの右手に風が集まる。

どうやらそれで推進力を得ようとしているようだ。

それならここから動くことは可能だろう。


 コンラートが左手を出す。

俺はその手を握った。


「どっちに行けばいいんだろう?」


「こっちだ。この方向へ魔力が流れている」


 俺の指し示す方向を見て、コンラートが頷く。

コンラートは風魔法を操作し、移動を開始する。

しかし、すぐに異変に気づいた。

新入生代表になるほどの天才コンラートの魔法が安定しない。

出力に強弱が生まれ、どこかぎこちない。


「おい、どうした?」


「それが、魔法がうまく操作できないんだよ。なんか集めた魔力が途中で抜けるような・・・」


 コンラートの右手を見る。

魔法を発動しているのだから、当然魔力の湯気が右手に集まっている。

同時に、その湯気の一部がこの空間に充満する湯気と同様、俺達が向かう先へと流れていくのがわかる。

なるほど。

それが魔法の操作を阻害しているのか。

このような空間でもなお、魔法を発動し、操作しているのだから、やはりコンラートは天才である。

あと数年すればリンカへは及ばないにしても、ユイ程度ならば追いつくだろう。


「おじさん! 前に誰かいるよ!!」


 コンラートが焦ったように声を荒げる。

俺にはさっぱり見えない。

老眼だからではない。

秘薬のせいである。


 更に近づくと、俺の目でもその存在を確認することができる。


 その人物は、魔法陣の中央で膝を着き、祈るように両手を胸に当てている。

顔には特徴的な文様が描かれた仮面が見える。


「教祖様・・・・か」


「やっぱりそうだよね」


 コンラートが魔法を微調節し、少女の方へ向かう。

本来であれば、こんなところにいるのと誰かに見られたらまずいと思う。

だが、コンラートは俺の意を汲んだように、少女へと近づいた。


「おい! ここで何をしているんだ?」


 少女へ声をかける。

我ながら馬鹿みたいな質問である。

何をしているかなどわかりきっている。

どう考えても、この少女が魔法陣を発動させ、維持している。


 少女は俺の言葉に全く反応しない。

それどころか、俺達が近づいたことさえ感知していないようだ。


「おーい、教祖様ー。起きてますか?」


 やはり反応はない。


「どうやら寝ているようだな」


「いやいや、さすがにそんなことはないよ。どう考えても、魔法陣を発動させるための瞑想とか集中とか、そんな感じでしょ!」


 コンラートが全力でツッコミを入れてくる。

こんな時にあれだが、こいつのツッコミは本当にセンスがない。

俺だってそのくらいのことはわかっているが、あえて寝ていると言った。

こいつは真面目過ぎて、本当に面白くないやつだ。


 俺がそんなことを考えていると、コンラートが周囲を見渡して何度か頷く。


「教祖様が結界魔法を維持しているのなら、納得だね」


 コンラートは何も疑わず、この光景を受けて入れている。

だが、俺にはこの少女だけで魔法陣を維持しているとはどうしても思えない。

一日、二日程度ならどうにかなるだろう。

あるいは一、二週間でも可能かもしれない。

しかし、結界魔法の性質上、半永久的に持続させなければならないのだから、それ以上の期間魔法を維持しなければならない。

どう考えても人には不可能な所業である。


 その理由は一つ。

魔力量は、魔道教典を媒体に島民から集めているのだからどうにかなるだろう。

しかし、魔力をそのまま結界魔法へ変換することはできない。

ゆえに、少女が一度魔力を体の内に貯める必要がある。

それが不可能なのだ。


 人には魔力量の他に、魔力を内包できる許容量がある。

それを超えて魔力を貯め込むことはできない。

これは絶対の原則である。

それが無ければ、そもそも迷宮であの魔王軍第3師団隊長ゲキにあそこまで苦戦するはずがない。


 あの少女の魔力を内包できる許容量がリンカやティファニア以上だったとしても、魔法陣を維持するのはせいぜい二週間強が限界だろう。


 だとするなら、からくりはやはりこの先にある。

俺は魔力が流れていく方向を見る。


 その瞬間、一瞬だけ魔力の湯気が消えた。

まずいな。

どうやら本格的に秘薬の効果が切れそうだ。


「コンラート、そろそろ本当にやばい。全速力で移動しよう。秘薬が切れる」


「う、うん。わかった」


 俺達は反応がない教祖をそこへ残し、魔力の流れに沿って再度移動を開始する。

案の定、浮遊の秘薬の効果が切れたが、コンラートが魔法を操作しどうにか宙に留まり、移動している。

魔力の流れだけはまだ、右目が捕捉している。


「この線の上に降りて線が消えたら、やっぱり魔法陣って消えるのかな?」


 コンラートがポツリと呟く。

ここでの魔法操作は、俺の想像以上に難易度が高いらしい。

コンラートの額が汗ばんでいる。


「いや、さすがにそれはないだろう。これだけの魔法陣であるならダミーや、迂回路などもあるだろうし、すぐに影響はでないだろう。それよりも進入者対策で、線自体が罠の方が怖い。俺なら、間違った線に触れたやつへ魔法陣の魔力の一部を強制的に送り込んで、魔法過多で内部から破裂するようなのを設置するな」


「――――え? 何それ・・・・怖い」


 コンラートは必死に魔法を安定させようと集中する。

俺も手助けしてやりたいが、今の魔力量ではすぐに魔力切れになるだろう。

そうなっては、それこそ足手まといになってしまう。

すまんな、コンラート。


 右目が通常に戻った頃、俺達は魔法陣の端へたどり着いた。

コンラートは魔法陣を踏まないよう、慎重に俺を降ろす。

そして、自身も地面へ着地すると、ヘナヘナと座り込んだ。

かなり神経をすり減らしたようである。


「お疲れ様」


 俺は右手をコンラートへ差し出す。

コンラートがそれを握る。


「さて、どうやらここが結界魔法の核のようだ。どうする?」


 俺達の目の前には横穴が見える。

入り口からは黄緑色の光が漏れている。


「ここまで来たんだから、行こうよ」


 まぁ、そうだろうな、と俺は納得する。

真面目なコンラートでも、彼が魔法使いであるなら知識欲には勝てないのだろう。


 俺達は横穴の中へと足を踏み入れる。


 その光景を正確に表現することは難しい。

視覚から得られる情報は、驚愕と感心。

だが、俺の心の根底には怒りと侮蔑が存在していた。


 目の前には、大きな試験管が並び、黄緑に発光している。

その数、軽く10を超えている。

中には人の姿が見て取れる。

この光景、この状況、俺は知っている。

転生前の世界で、一度だけ見たことがある。

禁忌の魔法、人体製造。

間違いなくこの施設はそのために存在している。


 さらに近づき、試験管を確認する。

試験管の下には魔法陣が描かれている。

この程度なら読解可能である。


「なるほど。この魔法陣が、この中にいる者へ魔力を供給しているのか」


 呟き、試験管の中にいる者へ目を向ける。


「なっ・・・・、これはまさか」


 中にいたのは予想通り教祖である少女であった。

仮面はしていないが、背格好から、髪の色まで同じである。

しかし、その顔は俺の想像を越えたものである。


「――――リンカ・・・・」


「え? これってリンカ・シュタットフェルトなの?」


 俺の言葉にコンラートが反応する。


「いや、本人ではない。おそらく、彼女の複製だろう。つまり・・・・」


「つまり?」


 魔法を貯蔵する媒体を人工的に作るなら、魔力の許容量が多い人物の複製こそが効率的だ。

この施設、システムを見て、俺でもその結論に達する。

しかし、仮に考えついたとしても、果たして実行するだろうか?

いや、普通の神経ならそんな真似はできない。


 結界魔法を構成する魔法陣を見られるよりも、この施設を誰かに見られるほうが万倍やばい。

それを俺達は見てしまった。

ばれたら間違いなく抹殺対象だろう。

俺だけならまだしも、コンラートは将来有望である。

ここはすぐにでもこの場を離れるべきだ。


「少年、今すぐここから出るぞ」


 俺の緊迫した様子が伝わったのか、コンラートは何も言うことなく頷いた。


 幸いなことに、出口はこの施設の奥に存在した。

扉を潜ると、長い螺旋階段が姿を現す。

俺達はそれを急ぎ足で駆け上がる。


 地上への扉を開くと、夜風が体を包む。

全速力で走ったのだから、非常に心地よい。


「ここって、講堂?」


 俺達がいるのは先ほどまでいた講堂の裏手である。

講堂の入り口とは違うところにあり、裏手へ人はあまりこない。


 ちなみに今日は講堂の周辺を一周したが、この地下への入り口には気がつかなかった。

壁の作りと一体化しているのはもちろん、扉の裏に人避けと偽造の魔法陣が描かれている。

講堂が広いため、ピンポイントでここを探し当てるのは非常に困難だ。


「今日はもう遅いから、解散だな」


「そうだね。僕も少し、考える時間がほしいよ」


 俺達は校舎の入り口まで歩く。

体が非常に重い。

年甲斐も無く全力疾走したせいである。


 コンラートも、魔力消費、精密操作によって体力、気力も限界を迎えつつある。

疲労困憊の顔をしている。


「それじゃぁ、おやすみ」


「おやすみ」


 お互いに手を挙げ別れた。


「やっぱりおじさんに付いて行って正解だった」


 最後にコンラートの呟き声が聞こえたような気がした。


 

いつもご愛読ありがとうございます。


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