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第80話:秘薬に弱ぇー・・・



 あの日から3日の夜が過ぎた。

俺とコンラートは夜になると校舎へ忍び込み、コウ達の動向を監視した。

彼らは5人で、分散して校舎内を歩き回る。

その行動は何かを探しているようだ。


 校舎1階、2階、中庭、地下。

彼らを尾行しながら、彼らの目当てを俺達も探した。

しかし、結局何も見つかっていない。


 本当に、学院に結界魔法の媒体はあるのだろうか?


「セリア氏、何か悩み事でござるか?」


 ラボで物思いに耽っていた俺へ、『ござる』が話しかける。


「なかなか思うように行かなくてな」


「それは仕方ないでござる。そもそも、思い通りに行くことの方が少ないでござるよ」


 それはそうかもしれない。

『ござる』だって、まさかこの若さでここまで髪が後退するとは思っていなかったはずだ。


「髪は関係ないでござる」


 どうやら俺が頭部を見ていたことに気がついていたようだ。

申し訳ない。


「それはそうと、お前は未だに秘薬を作ってるのか?」


 何の秘薬かはあえて言わない。


「もちろんその通りでござる。あと少し。あと少しでせっしゃの望みが叶いそうでござる」


「その根拠はいったいどこから来るんだよ・・・・」


 俺が呆れていると、『ござる』の手伝いをしていた『鉄火面』が口を開く。


「脛、腕、髭、眉毛。次、頭髪」


 久しぶりに『鉄火面』の声を聞いたような気がする。


「は? なんだそれ??」


「これまでの成果でござる。次第に体の上部へ向かっているのであるから、次は間違いなく頭髪でござる」


 自信満々であるが、根拠になっていない。


「失敗するに、あたしのこの髪に潤いを与える秘薬を賭ける」


「なんと! 女帝秘蔵の秘薬でござるか。せっしゃの新しい髪にその秘薬を使えるとは、何たる幸運。せっしゃ、今回は本気でござるよ」


「いいから早くしな! ま、結果は見えてるけど」


 女帝が馬鹿にしたような笑いを浮かべる。


「ぐぬぬぬ。これが最後の工程でござる!!」


 『鉄火面』が手に持つ試験管に入った液体を『ござる』に手渡す。

『ござる』の手には2つの試験管が握られている。

その二つを掛け合わせ、軽く振って混ぜ合わせる。

すると、毒々しい色の液体が完成した。


「ついに完成でござる。苦節三年、その間せっしゃの髪もゆっくりと後退し、中には戦線離脱するものもいたでござる。しかし、しかーし、ついにせっしゃは成し遂げたのでござる。涙が、ちょちょぎれるでござる」


 試験管を持ったまま涙を袖で拭く。

まだ効力も試していないのに、こいつは本当に大丈夫か? と神経を疑いたくなる。

それは女帝も同様のようで、遅々として実験を進めない様子に青筋を立てている。


「では、待ちに待った瞬間をとくとご覧あれ!」


 そう言って『ござる』は液体を口に含み飲み込む。

正直、よくあんな毒々しいものが飲めるなと感心する。

案の定、飲んだ瞬間眉を潜め、飲み終わると舌を出してまずさをアピールする始末だ。


「こ、これは。魔力が全身を駆け巡っているでござる」


 ふぅ、ふぅ、と荒い吐息を吐き出す姿は、ヤバイ薬をやっているやつにしか見えない。

本当にあの薬大丈夫だったのか?


「お! おぉおぉぉ!! 浮くでござる。せっしゃ、浮いているでござるよ!」


 ・・・・は?

何で毛生え薬で体が浮くんだ?

いったいどういう材料と配合で作ったんだ!


 ラボ中の皆が『ござる』に注目している。

それもそのはずだ。

これまで浮遊魔法や魔道具で空を飛ぶことはできた。

しかし、魔法薬で空を飛べるなど聞いたことがない。

図らずとも世紀の大発見をしてしまったのだ。


「おいハゲ。自由自在に飛べるのか?」


 うわ、女帝がド直球にハゲといいやがった。


「む、無理でござる。ここから動けないでござる!」


 『ござる』は今、床から30cmくらい浮いている状態である。

そこでジタバタと足や手を動かすが、まったく移動できない。


「誰か! 誰かせっしゃを助けてくれ!」


 涙目で訴える『ござる』を見て、親友である『鉄火面』が『ござる』の方に手を当て、地面へ下ろそうと力を込める。

しかし、『ござる』の足は少しだけ地面に近づいただけで、結局着地までは至らない。

磁石が反発するような現象に似ていた。


「お前の作る薬は相変わらず使えないな。そこにずっといるがいい」


 女帝の興味は既に無く、自分の作業に戻る。


 俺はこの状況、『ござる』がどのように乗り越えるのか見物することにした。


 オロオロする『ござる』に対し、表情を変えない『鉄火面』が近づく。


「第2弾」


 『鉄火面』はおもむろに、懐から試験管を取り出す。

その中には先ほどと同じような毒々しい液体が入っている。


「さすが一の友! 失敗した時のために次なる秘薬を用意していたとは驚いたでござる」


 え? まさか飲むのか? 

先ほど実験失敗したのに?

こいつ不死身か!?


 俺の心配をよそに、『ござる』は試験管を軽く振り液体を攪拌させると、迷うことなく液体を口に含み、飲み下した。


「お! ぬぉおぉぉ! 今度こそ! 今度こそ!! 全身の魔力が頭部に集中しているでござる。これは実験成こ・・・ん?」


 宙でふらふら揺れながら『ござる』が首を傾げる。


 ちなみに、当然髪は生えていない。

しかし、見るからに何かが起きているのだけは分かる。

目が血走り、充血しているからだ。


「皆の体から湯気みたいなものが、ゆらゆらと出てきているように見えるでござる」


 湯気みたいなもの?

何だそれ?


「しかも、何やら視界がぼやけておりますぞ。これは、視力が低下してしまったようでござる」


 視力が低下する秘薬とかマジで使えない。

本当に、どうやったらそんな物作れるんだよ。

『鉄火面』のほうを見ると、腕を組み、何やら考え込んでいる。

女帝はもう、振り向きもしない。

『ござる』・・・・本当に哀れだ。


「むむむ、湯気が出てるのは人だけではないようでござる。あれも、あれも、あれからも出てるでござるよ!」


 『ござる』が指差した物を見る。

女帝が作成中の秘薬。

この部屋にある魔道具の数々。


 ――――待てよ?

これってもしかして、魔力の流れが視認できるってことではないのか?

だとするなら・・・・。


「おい、ござる。ちょっと俺が魔法を使うから、見ていてくれ」


「ぬぉ!? ござるとは、まさかせっしゃのことであるか?」


「お前以外に誰がいるんだ」


 こちらを見ることなく、女帝がツッコミを入れる。

それを聞いた『ござる』は絶句している。


 さて、適当な魔法を使うか。


「アウスローゼン」


 俺は汚れている机に向かって浄化魔法を発動する。

光が机を覆うと、汚れが一瞬にして消えた。


「どうだ?」


「う、うむ。なんと言うか、セリア氏の手に湯気が集まって、それが机の上に移動したように見えたでござる。これはいったい何でござるか?」


「たぶん、魔力を視認できる秘薬だ」


「魔力を視認!? それは結構すごいことでござるか?」


「あぁ、すごいことだ。俺でも魔力の視認はできない」


「やったぞ友よ! ついに、せっしゃ達の悲願が叶ったでござる!」


 『ござる』と『鉄火面』がハイタッチをする。

いや、『鉄火面』は知らんけど、お前の悲願は頭皮の毛生え薬だろ?

勝手に悲願を変えるな!


「それで? その秘薬はいったい何の役に立つんだい?」


 女帝が睨むように『ござる』を見る。


「そう言われると、これって何の役に立つでござるか?」


「未発見の魔道具を見つけることができるだろ?」


「そ、そうでござる! 未発見の魔道具を見つけることができるでござる!」


 俺の言葉を借り、『ござる』が女帝へ答える。


「そんなもの、鑑定魔法ですぐにわかるだろ・・・・」


「そ、それもそうでござるな・・・・。これ、使えないでござる」


 女帝の最も言い分に、『ござる』は意気消沈している。

しかしその間、俺の頭はフル回転していた。


 魔力の流れを視認できる。

リンカの理論では、結界魔法の魔力は島民から集められている、だったな。

その媒体は魔道教典。

それならば、追えるのではないか?

魔道教典からの魔力の流れを追えば、魔法陣か魔力を貯蔵するシステムを見つけることができるのではないか?


「ござる、その秘薬を俺にくれ」


「ござるではないでござる!! まぁ、いいでござるが」


 いや、粉うことなき『ござる』だろ、お前。


 俺は『ござる』から試験管を受け取った。

中には先ほどの液体が入っている。


 俺はそれを確認すると、これからのことを考える。

魔道教典を読み、その魔力の流れを追うのに、一人では難しい。

視力の低下があるのだから、特にそうだ。


「やはり、コンラートへある程度の事情を話して手伝ってもらうのが正解だな」


 ここまで考えたのだから、後は実行するのみだ。

俺は今夜、結界魔法の秘密を暴いてやる。


 これでレーアやリンカに、馬鹿にされなくて済むと思い、ほくそ笑むのであった。

いつもご愛読ありがとうございます。


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また、気になる点などありましたらお気軽に感想を送ってください。


それでは今後ともよろしくお願いいたします。

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