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第76話:噂に弱ぇー・・・

本編へ戻ります。



 入学してから一ヶ月が経過した。

その間、俺は一部の男子生徒からは崇められる存在となっていた。

浴場へ行けば、上級生達がこぞって俺のモノを見物に来る。

その度に、賞賛、羨望、嫉妬の眼差しを向けられる。

それはまぁ、リェーヌにいた頃と大した違いはない。

違うとすれば、女子生徒にこの噂が広まったことだ。


「見て、あの人がそうよ」


「あれが噂の・・・・」


「キャー、こっち見たわ。妊娠させられるわ」


 廊下ですれ違っただけでこの言われようである。

教室でも女子生徒は俺からできるだけ離れた席へ座る。


 くそ! 俺が何したんだよ!!


 大声で叫びたくなるのをぐっとこらえる日々であった。


 コウといえばその状況を見て、さすがに謝罪してきた。

でもこいつ、半分以上面白がっているに違いない。

目が完全に笑っていやがるからだ。


 今日は朝から講堂へ集められた。

例のごとく、俺の座る周辺に女子生徒はいない。

両側を野朗のコンラートとコウが固めている。


 俺はステージに立つ19人の生徒を見ていた。

彼らは今日、このシュタットフェルト魔法学院を卒業するのだ。


 卒業式は一月毎にあるそうだ。

ちなみに卒業式が終わると、翌日が休校である。

この魔法学院の休みは月に一度、その日だけである。


 理事長がステージへ上がり、卒業生一人一人と握手を交わす。

そして卒業する彼らの進路が発表される。


 19人すべてが島所属の魔法師になるそうだ。

例年であれば、冒険者になる者、地元に戻って魔法を役立てる者など、様々な進路があったそうだが、現在の状況を鑑みれば致し方ない。

島所属になりたくない者は卒業の機会を伺っている状況だ。


 バンドーンとの小競り合いはこの一ヶ月間で数度あったそうだ。

学院にいると情報がほとんど手に入らないが、損害は皆無で、一方的にバンドーンの船を沈めているとのこと。

まぁ、いくらエルフ族が力を貸しているとはいえ、魔法使いが主力の船に対して通常兵器では損害など与えられるはずがない。

この島ほど魔法使いがいる場所など世界のどこを探してもないのだから、バンドーンの宣戦布告は無謀とも思えた。


 そんなことを考えていると、隣のコウのつまらなそうな顔が目に入った。


「コウ、お前三ヶ月で卒業するとか言っていたが、あと二ヶ月で卒業できるのか?」


 小声でニヤニヤしながら尋ねると、コウが欠伸をして答えた。


「まぁ、卒業するくらいならできるだろ。けどな、卒業すべきかどうかはまだ考え中だ。もう少し魔法について造詣を深めるべきだとも思ってな」


 こいつ、卒業できる気でいるのか。

俺なんて、卒業するための単位が取れるとは到底思えないんだけどな・・・・。


「おっさんは難しそうだな」


 今度はコウがニヤニヤしながら言う。

俺としてはこんな居心地が悪い場所などさっさと卒業しておさらばしたい。

そのために、早く結界魔法についての情報を集めなければならない。


 ――――つか、俺が居心地わるいのはこいつのせいだよな?


「それでは、教祖様から祝辞をいただきます」


 文句の一つでもコウへ言ってやろうとした時、卒業式の司会を行っている教師の言葉が耳に入った。


 教祖様と言うのであれば、魔道教の教祖様だろう。

この島でそれ以外は考えられない。

――――そういえば、俺は教祖様を見たことがないな。


 ステージへ姿を現したのは、いつぞやのよく分からない文様の描かれた仮面を被った少女であった。

あいつ教祖様だったのか!


「卒業生の皆さん、卒業おめでとうござます。これからあなた方は一人の魔法使いとして振舞わなければなりません。魔法使いとは、人族の中でも選ばれた者達です。私達魔法使いは、選ばれた者だという誇りを持ち、助けを求める者には友愛と守護を。矛先を向ける者には裁きと鉄槌を。そうすることが責務です。そのことだけは忘れないように。そして、皆さんに幸あらんことを」


 教祖の少女の言葉は、抑揚もなく無機質である。

まるで誰かが書いた台本をた読んでいるだけのようにである。

お世辞にも人を惹き付けることも、カリスマ性があるとは思えない。


「あれが教祖様なのか?」


「知らねーよ。俺だって初めて見たんだからな。まぁでも、そう言われてんだからそうじゃねーのか?」


 どうやら聞く相手を間違えたようだ。

俺はコウへ向けていた視線をステージへ戻す。


 理事長がステージを降りる教祖様を出迎え、深々と一礼した。


 なるほど。

誰もが認める大魔法使いであるグラン・シュタットフェルトが頭を下げるか。

それが教祖という立場を明確にしているのだろう。


 教祖様のありがたい? 言葉が終わると、理事長が卒業式の終わりを告げた。

これにて一ヶ月ぶりの休日である。


 とりあえずレーアとリンカのいる家へ帰ろうか。

近況報告と情報共有が必要だ。


「そう言えばコウ、お前これが終わったらどうするんだ?」


 卒業式が終わり、自室へ戻る生徒の波にのまれながら隣を歩くコウへ尋ねた。

コンラートは休日の間、図書館で本を読むと言っていた。

島から外へ出られないのだからほとんどの生徒が学院に残る。

よって皆似たり寄ったりだろう。

そう思っていたが、俺の認識は甘かったらしい。


「ふっふっふ、俺達は街へ繰り出しての酒盛りだ! この学院は酒が提供されないからな。今日、明日は浴びるほど酒を飲むつもりだ。おっさんも来るか?」


「いや、遠慮しておく。俺も予定があるからな」


「あぁ、あの三人の美女が家で待ってるってやつか。こんな冴えないおっさんに美女三人とか嘘だろって思ってたが、あの聖剣を見せられたらあながち嘘ではないようだな! せいぜい楽しませてやるこった。――――くそが!!」


 最後は吐き捨てるようにそう言うと、コウは振り返ることなく人の波へ消えていった。

あいつ見た目は優男なのに、妙に奥手なんだよな。

まぁ、俺も人のこと言えないけど・・・・。

レーアにしても、ティファニアにしても、リンカにしても手を出していない。

というか、命に関わるからそれは無理だろう。


 俺は自室に戻り、荷物をまとめると帰路に着いた。

一ヶ月ぶりの帰還である。

レーアもリンカも驚くだろう。

もしかしたらティファニアも帰っているかもしれない。

久しぶりに皆で食事でもしたいものだ。


 少し心が弾んでいるような気がする。

気がつくと歩調が速くなっていた。

どうやら俺も少し寂しさを感じていたようだ。


「おーい、俺だ。今帰ったぞ?・・・・??」


 家へたどり着いたのは昼前である。

レーアは働いているからいないかもしれないが、リンカはいるだろうと思っていた。

しかし、俺の声に誰も反応しない。

当然、家は閉まっている。


「おーい、おーい」


 どれだけ声高に叫ぼうと反応無し。

業を煮やしてドアへ向かって拳を叩きつける。


「あんた、うるさいよ!」


 何度もドアを殴っていると、隣のおばさんのドスの効いた声でドヤされた。


「す、すみません」


 平謝りし、どうにか許しを得た俺は、どうやって家へ入ろうかと玄関前に座って考えた。

腕を組み、考えていると、海から漂う柔らかい風と、暖かな秋の日差しが降り注いでいた。


「あんた、こんなところで何してんのよ?」


 目の前にはレーアの顔が見える。

辺りを見渡すと、既に太陽が夕焼け色に変わっていた。

どうやら随分寝ていたようだ。


「どうやら少し寝ていたようだ」


「少し寝ていたですって? あんたね、私の職場へ隣のおばさんが来て、家の前で変なおっさんが死んでるって言ってたのよ。だから慌てて帰ってきたのよ?」


 久しぶりに再会したというのに、レーアは相変わらずである。


「あんたって相変わらずね。学校へ通えば少しはマシになるかと思ったけど、どうやら望み薄のようだわ・・・・」


 レーアは呆れながら家のドアを開けた。

彼女に続いて、俺も中へ入る。


「リンカー、セリアが帰ってきたわよ!」


 レーアがリンカの部屋の前で大声を上げる。

すると中から、ベッドから落ちる音、転ぶ音、頭をドアに打ち付ける音の三連コンボの音が聞こえた。


 ドアが開くと、額を押さえたリンカが姿を現した。

どうやらこいつも寝ていたようだ。


「あ! セリアさんお帰りなさーい。学院はどうですかー?」


 こいつも相変わらずマイペースである。


「どうも、こうもない。毎日授業授業でそろそろ飽き飽きしてきた」


「そうなんですねー。おじい様は元気でした?」


「あぁ、理事長な。元気も元気。つか、あの人鋭すぎだろ。入学早々リンカのことを知っているか? と俺に聞いてきたぞ? もちろん」


「さすがおじい様です」


 リンカがその大きな胸を張る。

いや、そこは誇らし気にするところではないだろ。


「それで、あんたは結界魔法について何か分かった?」


 レーアが飲み物を準備し、俺とリンカの前に置いた。

こういうところはさすが元冒険者ギルド職員である。


「いや、残念ながら何もわかっていない」


 飲み物を手に取りそう言うと、一口飲もうとコップに口をつけた。


 ドン!! 


 ぶふっっ!!


 レーアがテーブルを叩いた拍子に、コップの中身が俺の顔面に降りかかった。


「あんたね、一ヶ月よ一ヶ月。一ヶ月あれば大抵のことができるでしょ?」


「そうは言ってもだな、俺も勉強だったりラボだったりで忙しかったんだ。卒業しなければ、そもそもこの島から出られないだろうし」


「はぁ? あんた馬鹿なの? 卒業しなくても結界魔法の構造を把握して転移できれば島から出られるでしょ?」


 その通りである。

本当に、誰だよ卒業しなければ島から出られないと言った奴は。

真面目か!


「そのー、結界魔法について私が調べれる限りのことは調べ終わりました。話してもいいですかー?」


 レーアが怒り、俺が萎縮している中、それらを意に介すことなくリンカが口を挟んだ。

今はリンカの、その鈍感さが心強い。

俺は鬼になったレーアから逃げるように、リンカを真正面に捉えて何度も頷くのであった。


 

いつもご愛読ありがとうございます。


今回から本編へ戻ります。ティファニア編は一旦終了です。


長らくお待たせいたしました。


気に入っていただけた方、今後が気になる方は是非ブックマーク、評価をお願いいたします。


感想も随時受け付けております。


それでは今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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