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ティファニア編:同胞

次回、ティファニア編最終回です。



 翌朝、ティファニア達は八雲にある店を回り、旅に必要な物を購入していた。

サヤもティファニアと共にリーフの森へ行きたいと言ったが、さすがにそれはカラが止めた。

もちろん、ティファニアもサヤを連れて行くつもりは毛頭ない。

ティファニアとてリーフの森に住むエルフ族に歓迎されるとは限らない。

もしかしたら攻撃される可能性さえあるのだ。


 護衛は本来ソウエンの役目であるが、幸か不幸か、朝になってもソウエンは旅館へ現われなかった。

そのため、女性三人だけの買い物であるから、サヤを見た住民も他人の空似だろうと解釈した。

そもそも八雲は帝都から見ても、最も遠い位置にある街だからである。


 あらかた準備が終わり、国境と街、両方の入り口を兼ねる門へ三人は赴いた。

そこには既に、ソウエンと部下が待機していた。

どうやら、サヤを八雲の街中で探すほどの体力はなく、間違いなく訪れるであろう門へ先回りしていたようだ。


「サヤ、それから皆さん、お世話になりました」


 ティファニアが皆へ頭を下げた。

そうしながらも、ティファニア自身不思議であった。

エルフ族の村にいた頃は、こうも自然と人族に頭を下げる自分を想像できなかった。


「こちらこそじゃ。ティファニア、必ずまた会おうぞ! わらわはここで待っておるゆえ」


「わかりました。では、行ってきます」


 ティファニアは真っ直ぐ門をくぐった。

それからしばらく歩き、後ろを振り返る。

そこにはまだ、サヤを初め、カラやソウエンなど、ティファニアを見送る姿があった。


「そうですか、私は、いつの間にか人族が好きになっていたのですね」


 ティファニアは僅かに笑顔を作り、自分の感情を口に出した。

ふいに、メデゥカディア島へ残してきた仲間達の顔が浮かんだ。

ティファニアは彼らに、無性に会いたくなった。


「でも、今はまだですね。私のわがままでここまで来たのですから、エルフ族の真意を確かめなければ。きっとそれをセリア様は望んでいるはずですから」


 ティファニアは深き森を目指し、道を進む。

千里眼の使用により、エルフ族の住むリーフの森がどこにあるのか何となく分かっていた。

彼らがいる所は間違いなく結界が張られている。

だからこそ、千里眼で覗けないところが彼らの住処である。


 森に入り、奥へ奥へと進む。

森が深まるに連れ、懐かしさがこみ上げてくる。


 夕暮れ時になってもティファニアは進み続けた。

辺りが暗くなり始めて、やっと歩みを止める。

明日の昼にはエルフ族の結界へ到達するだろう。

いや、彼らのテリトリーを考えれば、それより早くに遭遇する可能性が高い。


 ティファニアは太い木の根を枕に寝転がった。

持ってきた毛布を体にかけ、空を見上げる。

木々の隙間から、満天の星空が見えた。

耳をすませれば、聞こえたのは夜の森のささやきである。

久しぶりの感覚に、ティファニアは自分が森の民であることを思い出していた。


 翌朝、日が昇り始めたと同時に歩みを進めたティファニアは、自分が何者かに見られていると感じていた。

もちろんティファニアを見張っているのがエルフ族であることはすぐにわかった。

巧妙に気配を消しているが、そのやり方はエルフ族特有のものでだからである。


 ティファニアは迷った末、そ知らぬ振りを決め込んだ。

どの道、先へ進めば彼らから接触してくると考えたからである。


 歩調を緩めることなく、真っ直ぐ結界へ向かう。

エルフ族の結界は、メデゥカディア島のものとは大きく異なる。

前者は人を寄せ付けないためのもので、方向感覚や視覚を狂わせるもの。

後者は純粋にあらゆる進入を防ぐ強固なものである。


 ティファニアは結界に入っても、迷うことなくエルフ族の村へ向けて進んだ。

ここに来て、さすがのエルフ族も黙ってはいられなかった。

人の気配が増え、もはや隠す気もないようだ。


「止まれ。これ以上は我らエルフ族の森だ」


 ティファニアの目の前に、エルフ族の青年が立ちふさがった。

周囲を横目で確認すると、草木の隙間や枝の上などに弓を構えた者が大勢いる。


「なるほど。相手の力も測れないのですね」


 ティファニアはため息混じりに吐き捨てた。

もし相手の力を見極めることができれば、こんな風に高圧的に武器を向けることなどしないはずだ。

これでは最初から交渉の余地さえなくなってします。


「何だと? 貴様、人族の分際で身の程を弁えよ」


「あぁ、そうですか。私のこの格好で人族と判断したのですね」


「どういう意味だ?」


 エルフ族の青年が更に顔を険しくさせ、ティファニアを睨みつけた。


「やめなさい」


 声が響き、青年の後ろからエルフ族の女性が現われた。

透き通るような白銀の髪、整った顔立ちには僅かに皺が見られる。

そして周囲の者の態度から、彼女がここの族長であると分かった。


 族長の言葉に、青年が狼狽しながら口を閉じる。


「あなたは、エルフ族ですね?」


 族長はしっかりとティファニアを見定めた上で問いかけた。


「はい。私はルーンア族のティファニアです」


「ルーンア族・・・・、ティファニア・・・・。――――なるほど。予想よりも遥かに早いですね。私

はリーフ族、族長のミュレットと言います。こちらは私の息子であるフーリエです」


 ティファニアはちらりと先ほどの青年、フーリエを一瞥した。


「私がここへ来ることを知っていたのですか?」


「いえ、まさかルーンア族一の戦士であるあなたが来るとは思いませんでした。それに、ここまで早いとも思いませんでしたよ」


 ミュレットは朗らかにティファニアへ笑いかける。


「私のことを知っているのですか?」


「もちろん。若くしてルーンア族最強になった天才ティファニア。その名を知らぬ者はエルフ族にはいませんよ」


 それを聞いたフーリエは目を大きく見開いた。

噂だけは知っていたのだが、とっさに思い出せてはいなかったのだ。


「私がここへ来た理由もご存知のようですので、話を聞かせていただけますか?」


「ティファニア、その話は後にしましょう。あなたも長旅で疲れているでしょうし」


 どうぞと促され、ティファニアはミュレットの後に続いた。

その後ろから、フーリエ達が続く。


 リーフ族の村はルーンア族の村と良く似ていた。

木などの植物で作られた家、美しい川。

しばらく人族の中で暮らしていたティファニアとって、エルフ族は自然と共存できていると思った。

それは素晴らしいことである。


 ミュレットは村の中を一通り案内すると、彼女の家へティファニアを招待した。

旅の荷物を降ろすと、椅子を勧められる。


「どうぞ」


 ミュレットと向かい合って座ると、飲み物を渡された。

一口飲むと、薬草の香りが口いっぱいに広がった。

幾分か体が軽くなったような気がする。

エルフ族の飲み物は、味よりも効能を優先する。

けれど人族は味を優先していた。

一度おいしさを覚えてしまえば、おいしい方がいいに決まっている。


「なぜ人族の争いに介入しているのか、話していただけますか?」


「ふむ。それならば、直接見てもらった方が理解してもらえるでしょう。疲れていませんか?」


「大丈夫です」


「では、ついて来てください」


 ミュレットとティファニアは家から出ると、更に深い森へと向かった。

まさかその先に眠るものが、今後の趨勢を占うとは思いもしなかった。

 

いつもご愛読ありがとうございます。


ようやくティファニア編、残り1話になりました。


ここまでお付き合いありがとうございます。


終わり次第本編へ入ります。


続きが気になる方、気に入っていただけた方は是非ブックマーク、評価の方をよろしくお願いいたします。

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