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ティファニア編:魔法移動車

更新遅くなりました。



 ハオの一撃に備え、ティファニアは体を半身にして構えた。

刀を左手に持ち、地面と垂直に構える。


 ハオは突進の勢いそのままに、戦斧を上段から振り下ろした。

それをティファニアは足捌きだけで避けきった。

相手が常人であればこれだけで勝負は決する。

渾身の一撃を避けたのだから隙が生じる。

ティファニアにはそれだけで十分であった。

相手が()()であれば。


 ハオは戦斧が避けられたと見るや、無理やり軌道を捻じ曲げ、ティファニアを追尾するように戦斧を横へ払った。

ティファニアは大きく後ろへ跳び距離を取る。


 腕力だけであればハオの圧勝である。

ハオの得物が重量のある戦斧であるから、ティファニアは刀で受け止めることはできない。

更に言えば、受け流すことさえ容易ではないと判断した。


「仕切り直しだ」


 ハオはそういいつつ、肩に戦斧を担ぎ上げた。


 ティファニアは刀を構え直しつつ、ハオを分析する。

ハオは鍛え抜いた肉体だけではなく、関節が柔らかく丈夫である。

それゆえ戦斧の軌道を変える事も可能なのだろう。

エルフ族にはいないタイプである。


「さて、内側に入らなければ勝負にならないようですね」


 ティファニアが小さく独り言を呟く。


「第二ラウンド開始だ」


 ハオが再度突進してくる。

強振した戦斧に体重を加え、受けることも受け流すことも不可能な一撃を放つ。

ティファニアは先ほどと同様に足捌きだけで避けた。

ただ、先ほどと違うのは避けた後、一歩足を前に踏み出したことだ。


 ハオはとっさに戦斧を引き戻した。

カン! という乾いた音が奥の間に響き渡り、二人の武器が激突し火花を散らす。

攻撃したのはティファニアで、防御したのがハオであった。

ティファニアは主導権を渡さないために、鋭い突きを正確無比に打ち込んでいく。

ハオはどうにかそれを捌ききる。

しかし、一撃目よりも二撃目。

先ほどよりも今。

ティファニアの剣速は次第に勢いを増し、ハオの太ももや横腹を刀が打った。


「くっそ、がー!」


 もはやハオの敗北は必至。

破れかぶれの一撃をハオが上段から振り下ろす。

ティファニアは冷静に見切ると返す刀でハオの手首を強打した。


「うっ」


 戦斧が床に落ち、カンという甲高い音が響き渡る。

ハオが戦斧を手放し、痛みに呻いた。


 これで勝敗は決した。


「勝者ティファニア。まさかハオに勝つとは驚いた。見事な腕前だ」


「ありがとうございます」


 皇帝の素直な賞賛に対し、ティファニアは一礼した。


「こうなっては、そなた程の女性が好いた男というのが気になるな」


 皇帝は朗らかな笑みを浮かべながらそう言った。


「全てにおいて私とでは吊り合わないほどのお方です」


「つまり、戦いにおいてもそなたを上回るということか?」


「もちろんです」


 迷いのないティファニアの肯定に、皇帝は驚きを隠せない。


「にわかには信じ難いな。その者はいったい何者だ?」


 その質問に対し、皆がティファニアの答えに耳を澄ませていた。


「あのお方の名前はセリア・レオドール。聖剣の担い手として魔王を倒し、この世界を救う真なる英雄です」


 ティファニアはまるで自分のことのように、誇らし気にセリアのことを語った。


 ざわめきが起こった。

ライ皇国の要人達にとって初めて聞く名であったのだ。


「セリア・・・・どこかで・・・・」


 そんな喧騒の中で、皇帝は必死に記憶の糸を辿っていた。

毎日数多くの者と面会し、様々な情報が皇帝の元へもたらされる。

ゆえに、すぐには誰の口から聞いたのか思い出せなかった。


「セリア様本当にすごいお方です。既に魔王軍の幹部を一人葬っているのです。あれは、私でも手も足も出ないほど恐ろしい怪物でした。しかし、セリア様は私たちを庇いながら戦い、敵を圧倒して勝利されたのです。本当に信じられないほどの強さでした!」


 皆へ力説するティファニアの頬は僅かに赤く染まり、まるで恋する乙女のようであった。


 ティファニアの話を聞き、皇帝はやっとどこでセリアの名前を聞いたのか思い出した。

皇帝はなおもセリアのことを力説するティファニアを見つめながら思索に耽っていた。

セリアのことを思い出したと同時に、目の前のティファニアの正体さえも思い至ったのである。


「なるほど。ティファニアよ、約束であるから、魔法移動車の使用を許可する」


 ティファニアの話が一段落すると、皇帝がそう告げた。


「ついては、少し時間をもらえるか?」


 皇帝は穏やかな表情ではあったが、拒否は許さぬといった声色でティファニアへ問いかけた。


「わかりました」


「うむ。サヤも来るがよい。では、わしは一旦この場を離れるゆえ、後はシンに任せる」


「かしこまりました」


 シンが皇帝に頭を下げた。


 皇帝はティファニアとサヤを連れ立れ、馬車で皇族領へ向かった。

到着したのは皇帝の住居である『一陽の館』であった。

二人が通されたのは皇帝の自室であった。


 勧められたまま椅子に座ると、すぐに侍女が三人の前に飲み物を置いた。

それは湯気が立ち上る温かなもので、色は美しい翡翠色をしている。


「ここの庭で取れた茶葉で作ったものだ。飲んでみるといい」


「はい。いただきます」


 ティファニアは一口飲むと、体中が温かくなり緊張がほぐれた。


「さて、本題に入ろうか。ティファニアよ、そなたはエルフ族であるな?」


 皇帝の問いに、ティファニアは驚き言葉を失い、サヤはお茶を吹き出した。


「ち、父上。気づいておられたのですか?」


 口元を袖で拭いながらサヤが問いかける。


「お前は、わしを何だと思っておるのだ?」


「そ、それは・・・・」


「とはいえ、気がついたのは聖剣の担い手の話が出た時だがな。少し前に冒険者ギルド長からそのような報告を受けていた。何でも、大陸の北西にある街に聖剣の担い手が現われたとか、その仲間にエルフ族がおり、名をティファニアと言うとな。遠い地のことで聞き流していたのだが、まさかわしの目の前に現われるとは・・・・」


 皇帝がティファニアを見つめた。

しかし、ティファニアはどう対処してよいのかわからなかった。

ライ皇国の状況から、エルフ族を敵対しているのはわかっている。

ゆえに、皇帝がどのような行動にでるのか読めなかったのだ。


「して、そなたは何ゆえにここへ・・・・いや、魔法移動車の使用を求めるということは、目的はルーフの森だな。では、いったい何のためにそこへ向かうのだ?」


 ティファニアの答え如何では、皇帝は約束を反故にするかもしれない。

二人の間には張り詰めた空気が流れた。

さすがのサヤも口を挟むことができず、状況を見守るしかない。


「私は、彼らがエルフ族の掟を破ってはいないか、その真意を確かめるために行きます」


 ティファニアは言葉を選びながら答えた。


「エルフ族の掟とは?」


「他種族の争いに介入しないことです」


「なるほど・・・・。だが、その掟は既に破られておる。エルフ族はバンドーンに味方し、我が国とも対立関係にあるのだ。そなたは、それを確認してどうする? エルフ族がバンドーンへ手を貸しているのを止めてくれるとでもいうのか?」


「できるならばそうしたいと思います」


 皇帝へティファニアは強い意志の篭った瞳で見つめ返した。


「いくらそなたが凄腕だとしても、一人では無理だろう」


「ですがやらなければなりません。本来であればエルフ族すべてで解決すべきことですが、それでは手遅れになります」


 皇帝はティファニアの瞳を真っ向から見つめた。

ティファニアの意思の強さを確認すると、視線をサヤへ向ける。


 既に皇帝はティファニアが信に値する人物であると思っていた。

そして、人に壁を作ってきたサヤがここまで肩入れしたことが、その考えを強く裏付けていた。


「よかろう。魔法移動車を使うが良い。それとだ、わしから一つ助言をする。一人ではどうにもならないときは、無理に解決しようとするのではなく、誰かに頼ることも必要だ。そのことを努々忘れるな」


「わかりました。そして、感謝いたします」


 皇帝はティファニア一人の手に余るようであれば、ライ皇国を頼れと暗に仄めかしていた。

だが、ティファニアの頭には一人の男の顔が浮かんでいた。


 二人が一陽の館から外へ出ると、カラやソウエン、彼の部下が待っていた。

彼らと合流し、皇族領にある『駅』と呼ばれる施設へ向かった。

駅に着くと、既に使用許可が下りていた。


 入り口に立つ兵士が扉を開けると、中は地下へと続く長い長い螺旋階段が続いていた。

一行は松明の明かりを頼りに、ゆっくりと階段を降りていく。


「サヤは魔法移動車を使ったことはあるのですか?」


「いや、実は初めてじゃ。なぁに、馬車とかわらんじゃろう」


 そう言ったサヤであったが、実物を見て言葉を失った。


 二人が想像したものは、トロッコを大きくした物であった。

しかしどこまでも伸びるトンネルの地面に線路はなく、あるのは鉄の箱に前後左右合わせて16個の車輪がついているだけの物であった。


「待っていたよ! ささ、入って入って」


 待っていたのはローブに身を包んだ魔法使いの女性であった。

サヤは彼女を何度か見たことがあった。

皇帝直属の魔法使いで、名前はシズハだったか。


 鉄の箱の扉が開き、中へ促された。

中を覗くと、十人分の座席がある。


「どこでもいいので座ってくださいな。あっ、でもトイレなどはしておいて下さいね」


 シズハはそう言いながら皆へウィンクした。

どこまでも馴れ馴れしい魔法使いである。


「我々は問題ありません」


 ソウエンが部下含め準備万端であるとサヤに告げた。

ティファニアとカラもサヤへ頷く。


「では、出発してくれ」


 サヤがシズハへそう言うと、シズハは親指を立てた。


「了解了解。では出発しますよー」


 シズハは先頭の椅子に座ると、球体の魔法具へ手をかざす。


「それで操作するのですか?」


「いやー、これに魔力を込めただけで魔法移動車は進むんだよ。西の国境なら『八雲』だから、この魔法具へ魔力2回と半分を込めれば到着だよ」


「魔力2回と半分?」


「そうそう。まぁ、私の魔力では1回と半分が限界だから、今日は『四条』までだね。では、皆準備できたかな? 出発するから歯を食いしばってね。それではー、レッツゴー!!」


 シズハは言うと同時に魔力を魔法具へ込めた。

魔法移動車は動き出すと、一気に最高時速へ到達する。

急激な変化と、馬車とは比べ物にならないほどの揺れが皆を襲った。


「のお、これはいったいいつまで続くのじゃ?」


 耐え切れずサヤがシズハへ尋ねた。


「いつって、今日半日このままだよ?」


「な、なな、なんじゃと? 休憩とかないのか?」


「ないない。だってこの車ハンドルどころかブレーキさえついてないんだから。込めた魔力が尽きるまで真っ直ぐ進んで止まらないよ。あっ、でも吐いたりしないでよ。もし吐いたら、自分で片付けてねー!」


 楽しそうに話すシズハとは対照的に、皆の顔が青ざめた。


「この魔法具は、欠陥品のようです・・・・」


 ティファニアの呟きに応える者は誰もいない。

幸運な者はそうそうに意識を手放し、不運な者はいつ終わるかも分からない揺れに襲われひたすら吐き気と戦うのであった。

いつもご愛読ありがとうございます。


続きが気になる方、面白いと思っていただけた方は是非ブックマークと評価をお願いします。


また、感想も随時募集しておりますのでお気軽にお送りください。


ティファニア編は後少しで終わります。


終わり次第本編を再開しますので乞うご期待ください。


それでは今後とも、何卒よろしくお願いいたします。

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