ティファニア編:演舞
更新遅くなり申し訳ありません。
翌朝、ティファニア達が向かったのは皇族領にある皇帝の住居ではなく、街の中心にある執政宮であった。
馬車で向かうと、既に街は祭り一色に染まり、楽しそうな声や音色であふれていた。
サヤの話では、生誕祭は7日間続くそうで、今日がその2日目とのことだ。
ティファニアは自分の衣装を確認した。
純白の和服に身を包み、腰には刀と呼ばれる剣が差している。
この刀だが、渡された際に抜刀してみたが心底驚いた。
刀身がまるでダイヤモンドのように光り輝き、一寸のぶれもなく真っ直ぐである。
これを舞で振れば、星が瞬くように幻想的だろう。
「今年こそは、いつもいつもわらわをバカにする兄様達に目にものを見せてやる。絶対の絶対にじゃ」
サヤが並々ならぬ決意を示す。
それを黙って見ていたティファニアは、触れてはいけない話題だと判断し口を固くつぐんだ。
「それに、今回はコウお兄様がおらぬから、俄然わらわ達が父上にいい所を見せなければならぬ。頼むぞ、ティファニア、カラ」
「お任せください」
カラが深々と頭を下げる。
ティファニアもそれに倣い、笑顔で頷いた。
執政宮に到着すると、侍女達に出迎えられ道を案内され奥の間へと向かった。
入り口から先は、かなりの長さの廊下が伸びている。
明らかに何らかの意図がある構造だ。
ティファニアは歩きながら側面の壁を気にしつつ進む。
「少し待ちください」
一行は程なくして巨大な扉の前に辿り着いた。
この先に奥の間であり、そこに皇帝がいるのだろう。
そういえば、この廊下は一直線で曲がり角も他の通路も見当たらなかった。
もし奥の間への入り口がここしかないのであれば、奥の間へ賊が向かったとしてもこの通路で討ち取られるだろう。
ティファニアが思案している間に侍女が戻ってきた。
「どうぞ、お入りください」
そう言うと、扉が内側へ開かれた。
「第九子、サヤ・ライハ様、御到着」
兵士の一人が高らかに告げると、皆が一斉にサヤへ注目した。
そんな中をサヤは堂々と歩く。
ティファニアとカラ、ソウエンがその後ろに続く。
奥の間には多くの人がいた。
大臣や内政官、商人や楽師達もいた。
そんな中、奥の間の更に奥側には数段高くなった場所があった。
そこに座しているのは七人の男達である。
中央の椅子に座っているのが皇帝、レオン・ライハである。
皇帝以外の男達はまだ若い。
彼らがサヤの兄達である。
さらに、彼らの後ろには護衛と思しき武人達が立ち並んでいた。
「皇帝陛下、ご健勝で何よりです」
「そなたも変わりなく、安心した。それで、コウは問題なく旅立ったか?」
皇帝からは王特有の威厳が感じられた。
さらに言えば、皇帝自身もかなり武芸に秀でている。
ティファニアは立ち振る舞いや体つきからそう読み取った。
ただし、ティファニア自身よりも強者であるか? と問えば、否と答えただろう。
「はい。コウ兄様は問題なくメデゥカディア島へ向かわれました」
「そうか」
皇帝が満足そうに頷くと、横から一人の青年が口を挟んだ。
「ふん。生誕祭にも出ず魔法学院への入学を優先するとは、相変わらず常識のないやつだ」
青年は髪をかき上げ、バカにしたような口調でそう言った。
「カイン、そうは言うが、コウは俺達兄弟の中でも、いや、このライ皇国内でも上位の冒険者になったのだぞ? 更に力を求めて魔法学院へ行くという向上心は我々も見習うべきだと思うがな」
今度は落ち着いた雰囲気の青年が言った。
「シン兄はコウに甘い。そもそもコウは魔法がないと弱いから魔法学院へ行ったんだ」
カインと呼ばれた青年がシンへ言う。
「では、魔法がなければコウに勝てると?」
「もちろん。俺の槍の方があいつよりも優れている」
カインが自信満々に答えた。
「そこまでだカイン。今はサヤが謁見している。少しは口を慎め」
一際体の大きい青年が有無を言わせぬ口調でカインを嗜めた。
カインは口をつぐむと、視線をサヤへと戻す。
「それで、サヤ姫はどのような催しで父上を楽しませるんだ?」
体の大きな青年が続けてサヤへ問いかける。
その様子はどこか小馬鹿にしたようであった。
サヤは一瞬頭に血が上ったが、いつものことだと我慢した。
ただ、いつもと違うのはコウがここにいないことである。
もしいたら、サヤの代わりにキレていただろう。
「父上、此度は是非、私が準備した演舞を見ていただけないでしょうか?」
「うむ、そなたが舞うのか?」
「いえ、私の後ろにいるティファニアとカラが舞います」
サヤがそう言うと、皇帝はティファニアとカラへ視線を動かした。
「そなたの舞いでも、わしはよかったのだがな・・・・。まぁよい、早速見せてもらおうか」
「はい」
サヤは返事をし、ティファニアとカラへ視線を向ける。
「頼んだぞ」
ティファニアとカラは頷き立ち上がると、それぞれの配置へ向かった。
「演舞は『エン国とソウ国の戦姫』です」
サヤがそう告げると、楽師が管弦楽器で演奏を開始した。
ティファニアとカラは向かい合っていた。
純白の和服に身を包んだティファニアとは対照的に、カラの着ている和服は黒基調で赤い花びらが描かれている。
刀もティファニアが輝く物であるのに対し、カラの刀は漆黒である。
演奏と同時に、二人は動き出した。
この演舞をするにあたり、練習はほとんど行っていない。
なぜならば、基本ルールさえ守れば問題なく舞えるからだ。
基本的には四拍子目で刀を打ちつけ合うというのがルールである。
それ以外は思い思いに舞うことになるが、剣術の上段者同士であれば動きが同調していく。
更に舞が進むにつれてテンポも速くなっていく。
そうして舞いは美しく、幻想的になるのだ。
ティファニアは純白の和服をはためかせ、刀を振り、優雅に舞った。
四拍子目でカラの刀と自身の刀が触れ合うと、小さな火花が散る。
洗練された動きで体を回転させ、勢いを増す。
カラの目を見ると、まだまだ余力が感じられた。
ティファニアは更にスピードを上げ、剣速も、ステップも実戦の領域へと突入した。
カラはそんなティファニアの動きにピタッと合わせる。
二人の刀は交わい、離れる。
四拍子目以外でも片方が刀を振れば、見事にかわして見せた。
曲のテンポも更に速くなると、舞を舞っているのか、闘っているのかわからなくなる。
「ほう。これは、見事なものだな」
皇帝が二人の舞を見て感嘆の言葉を漏らした。
皇帝だけではない。
奥の間にいる者は皆、ティファニアとカラの舞に目を奪われていた。
曲のテンポが最高潮に達し、最後に一際大きく楽器がかき鳴らされると、二人は絡み合うように舞っていた体を離し、距離を置いた。
肩で息をしていた二人は、お互いを見やり健闘を称え合う。
「すばらしい!」
「これはすごい!!」
「いいものが見れました!」
賛辞の言葉と共に、万雷の拍手が巻き起こった。
もちろん皇帝だけでなく、サヤの兄達も拍手をしている。
「素晴らしい舞だ。実に良い物を見せてもらった」
皇帝は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。父上、折り入ってお願いがございます」
「ほう? そなたから願いを聞くなど久しくなかったことだ。よろしい、先の舞の礼だ。何でも申すがよい」
「このティファニアに魔法移動車を使う許可をいただけないでしょうか?」
サヤの言葉に、皇帝はしばし沈黙した。
そして視線がティファニアへと移る。
皇帝の射抜くような視線を受けたティファニアだが、それを真っ向から見返す。
怯むことも、気負うこともなく自然体なティファニアの瞳を見て、皇帝は内心驚愕した。
舞で剣術の才が見て取れたが、胆力まで底知れない。
「ティファニアと申したか?」
「はい」
「魔法移動車は我が国の重要機密である。何ゆえサヤがお主に話したのか分からぬが、使用するには条件がある」
皇帝はそう言うと一旦言葉を切った。
サヤを咎めるような視線を向けるが、そ知らぬ顔をしている。
サヤは『窓際の美姫』とうたわれているが、その実、八人の兄達を見て育った少女である。
皇帝はサヤへの追及を諦めた。
どうしても唯一の女児であるサヤに弱いのだ。
皇帝は視線をティファニアへ戻した。
「そなたは剣術の才に優れ、相当な実力者だと見た。条件は一つ、我が息子達の誰かと結婚せよ」
皇帝の突然の発言に周囲がざわめく。
「父上、ならば俺だ。実力もさることながら、相当に美しい。ならば俺にこそふさわしい」
体の大きな青年が立ち上がり、皇帝へ直訴した。
「お待ちください父上、ハオ兄様。ティファニアには既に心に決めた殿方います。ですからその条件はあまりにも横暴です」
「サヤ、いくらお前でも父上に対して言葉が過ぎる!」
ハオがサヤを嗜めた。
サヤはさすがに言い過ぎたと口を閉ざすが、皇帝へ訴えかける視線だけは止めようとしない。
「よい。ティファニア、誠か?」
「はい。私にはお慕いしている方がいます」
「そうか、それならば」
「待ってくれ父上!」
皇帝の言葉をハオが遮った。
「ティファニアとやら、俺と手合わせしろ。もし俺が勝てば俺の妻になれ」
ハオは一方的にそう言うと、ティファニアが口を開く前にサヤが立ち上がった。
「では兄様、もしティファニアが勝てばどうするのですか? よもや何もありませんでは話になりませんよ?」
サヤは自分よりもかなり大きなハオを睨みつけた。
「わかった。では、ティファニアがハオに勝てば魔法移動車の使用を許可しよう。双方それで良いか?」
皇帝のその質問は主にティファニアへ向けられていた。
ティファニアはハオを見る。
恵まれた体躯に、鍛え抜かれた肉体。
なるほど、自信があるはずである。
だが、それでもティファニアには勝算があった。
「わかりました。問題ありません」
ティファニアがそう告げると、ハオがニヤリと笑った。
「そうこなくてはな。おい、武器をもってこい」
ハオがそう言うと、兵士達がいくつかの武器を持ってきた。
「これは模擬戦用の武器だ。刃はつぶしてある。好きな物を選べ」
そういうとハオは巨大な戦斧を手に取った。
ティファニアは差し出された武器を見る。
いつも使っている細剣はない。
だが幸いなことに、この国にある刀は形状は違えど細剣に近い。
ティファニアは刀を一振り手に取ると、横に振った。
不思議な程手になじむ。
「私はこれで」
ティファニアが武器を選んだことで兵士達がその場から下がった。
ハオはティファニアの方に視線を送り、距離を測る。
おそらく全力の初撃を放ち、勝負を決めるつもりだろう。
「では、初め」
皇帝が始まりを告げ、右手を挙げる。
それと同時にハオがティファニアへ戦斧を振り上げながら突進した。
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