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第74話:任意授業の睡魔に弱ぇー・・・



 学院生活3日目。


 俺は清々しい朝を迎えていた。

いつもならば、ベッドから起きるとまず腰の痛みに呻く。

しかし、この日の俺は違っていた。


 昨日ラボトリーで飲んだ秘薬は本物であった。

これから腰痛とは無縁の生活が送れると思うと、打ち震えるほどの歓喜が湧き上がる。


 窓に映し出された自分の姿を確認する。

腰を気にしなくても良い分、背筋も伸び、幾分か背も高くなったような気がする。

さらに、この余裕のある精悍な顔つき。


 まさに、俺は生まれ変わったのだ。


「おっさん、今日は早いな」


 コウの取り巻きの青年が声をかけてくる。


「あぁ、おはよう。起こしたか?」


「起こしたというか、おっさんのベッドが入り口で、俺のベッドが窓側だからな」


「それは、悪いことをした。申し訳ない」


 素直に頭を下げる。

余裕のある大人は学生とは違うのだよ、学生とは。


「なんか、今日のおっさん気持ち悪いな」


 こいつ、起きて早々酷くないか?

だが、まだまだ俺には余裕がある。


「そういえば、君の名前はなんだったか? すまない、聞いたような気はするが思い出せない」


 青年は一度大きくため息を吐く。


「まぁ、おっさんは歳だから仕方ないか・・・・。俺の名前はユーヤ・リャウだ」


「そうか。ユーヤ、改めてよろしく」


「お、おう。なんか、調子狂うな」


 ユーヤは頭を掻きながらベッドから起き上がると、身支度を整え始める。

俺もユーヤに倣い、身支度を整え始める。

そうこうしていると、他の生徒も次々に置き始めた。


 準備が整うと、食堂へ向かう。

昨日は朝食を食べ損なったが、今日は食べられそうだ。


 朝食はバイキング形式である。

種類は豊富で、目移りするほどである。


 俺は好みの料理を皿に取り、空いているテーブルへ向かう。

イスに腰掛けると、料理を堪能する。


「おはよう!」


 元気な声がして、向かいのイスにコンラート少年が座る。


「おう、おはようさん」


 俺は片手を挙げて挨拶すると、食事へ戻る。


「ねぇ、おじさん。昨日はどこへ行ったの? 僕、探したけどわからなかったよ」


「あぁ、ちょっと訳ありのラボトリーへ見学に行っていた」


「へー、そうなんだ。おじさんはそこのラボトリーへ入るの?」


「まぁ、そのつもりだ。お! これうまいな!」


「そっかぁ。僕が入るラボトリーへおじさんも誘おうと思ったけど、もう決まっちゃったんだね」


 残念がるコンラート少年を尻目に、俺は料理をモリモリ食べる。


 コンラート少年も取ってきた料理を食べ始める。


 それからコンラート少年と他愛無い話をしながら朝食を満喫した。

朝からこれだけの量を食べたのは久しぶりである。


 俺達は一旦別れ、それぞれの自室に戻った。

準備を整えると教室へ向かう。


 教室に入ると、空いている席へ座った。

コンラート少年はごく自然に俺の隣の席へ腰掛ける。

どうやら、俺達が隣同士で座ることは決定事項のようだ。


「おう、おっさん。今日も辛気臭い顔をしているな」


 コウが教室へ入るなり、酷い言葉を投げてくる。


 こいつ本当に見る目がないな。

今日の俺は昨日の俺とは一味違うことがわからないのか?

椅子に座っても背筋は伸び、腰の痛みに悩まされることはない。


「残念だが、今日の俺は、昨日の俺とは違う」


「どこが?」


「腰だよ、腰。わかるか? これまでの腰痛が解消された俺は、いわば翼の治った鳥、脳みそのあるゴブリンだ!」


 不敵に笑う俺に対し、コンラート少年とコウは顔を見合わせる。


「いや、おっさん。ゴブリンはないだろ・・・・」


「朝からゴブリンはちょっと・・・・」


 どうやらお気に召さなかったようだ。

それも仕方がない。

この世界でのGとはすなわちゴブリンだからだ。


「皆さん、席についてくれたまえ」


 教師が教室へ入って来る。

相変わらず神経質そうだ。

あいつにも、何か役に立つ秘薬はないのだろうか?

例えば、元気が出る秘薬とか。


 そんなことを考えていると、点呼が始まった。


 教師は全員の出席を確認すると、授業に入る。

これから始まるのは通常の授業である、魔法基礎だ。


 属性の説明から始まり、詠唱と効果の関連性、現象の体現と魔力の因果関係など多岐にわたる復習である。

新入生の中には独学で魔法を使えるものもいるそうで、そういう者にとってはとてもためになる話である。

ただ、俺のように魔法の真髄まで到達した者には、非常につまらない授業である。


 隣を見ると、コンラートは一文字も漏らすことなく板書している。

本当に真面目なやつだ。


「おじさん、おじさん」


「何だ少年?」


 コンラート少年が小声で話しかけてくる。

授業中に私語とは・・・・、意外と真面目ではないのかもしれない。


「ちゃんとノートに取らないと、テストでいい点取れないよ?」


 前言撤回。

こいつは本当に真面目君だ。


「必要ない。俺の頭には、既にアレくらいの常識が入っている」


 自信満々に言う俺を、コンラートがジト目で見る。


「入学試験、最下位なのに?」


「うっ」


 それを言われると辛い。

だが、あれは魔法歴史などが原因であって、魔法の知識不足だからではない。

それを説明しようかと思ったが、この天才からしてみれば言い訳に聞こえるだろう。


 俺は仕方なく、板書をノートへ写し始めた。


 通常の授業が終わると、今度は専攻授業である。

コンラート少年と教室を移動する。


「おっさんも、応用魔法かよ」


 教室に入ると、コウが最前列に陣取っていた。


「お前もか・・・・」


 俺達はコウから離れた席へ座る。

できるだけ、コウとは関わり合いになりたくない。


「なぁ、お前といい、コウといい、成績いいのにどうして応用魔法を選んだんだ?」


 最下位の俺に残されるくらい不人気授業のはずだが、選り取り見取りのこいつらがなぜ選ぶのか解せない。


「応用魔法を学ばないと魔法の真理へはたどり着けないんだ。だけど、理解するのが難しいから、成績上位の人しか選ばないんじゃないかな?」


 なるほど。

成績上位は応用魔法を理解するために専攻し、成績下位は選択肢がないから専攻したというこか。


「皆さん、揃っていますね。それでは授業を始めたいと思います」


 教師として現われたのは、昨日の朝に出会った女教師である。

彼女が生徒達を眺めた時、一瞬俺の方を見る。

刹那の時間であるが、眉を潜めた。

たぶん、きっと、気のせいだろう。


「今日から応用魔法の授業をします、モニカ・ルックラードと申します。皆さん、よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」

 

 あの女教師はモニカという名前なのか。


「今日は初日なので、応用魔法とは何か? というところから説明します」


 モニカは緑がかったロングヘアーが特徴的で、丸縁眼鏡をしている。

身長は低く、リンカと良い勝負だ。

ただ、リンカと決定的に違うのは、その胸の大きさだろう。

どちらが大きいかはあえて言わないが。


 モニカは杖を出すと、魔法で板書を開始する。

こちらは手書きだというのに、随分と楽をしているな。

まぁ、俺の魔力では同じことなど到底できないのだけど。


「はい! それではコンラート君、魔法とはどういった現象ですか?」


 突然コンラートを指名し、質問を投げかける。


「魔法とは、人の体内に内包している魔力を元に行使する現象のことです」


「その通りです。さすがですね。では、応用魔法とはどういった魔法を指すのでしょうか? はい! コウ君」


「改めて応用魔法とは? と聞かれるとなかなか難しいな。あえて言うなら単一の現象、例えば水魔法を昇華させて氷を発生させるといったところか」


「半分正解です。皆優秀で先生は嬉しいです」


 モニカが微笑みながら頷く。


「まず、魔法とは―――― 『火よ』。このように魔力を糧として想像を実現することです。コウ君、ちなみに今、火は何を燃料に燃えていますか?」


「それは・・・・、魔力だ」


「正解。では、これは?」


 モニカは懐から火打石を取り出すと、持ってきていた布を燃やし始める。


「それは、空気ですか?」


 コウが首を傾げながら答える。

周りを見ると、皆同様の顔をしている。

どうやら、魔法以外の火がなぜ燃えるのか考えたこともなかったのだろう。


 ちなみに俺は、なぜ燃えるのか知っている。

その原理も、空気中の成分も。


「そうです。今燃えている火の燃料は空気です。では、これは?」


 モニカはそう言うと、燃えている火に両手をかざし、詠唱して魔法を行使した。

それは彼女が得意とする風魔法で、送り込まれた空気によって目の前の火が激しく燃え盛る。

モニカはそれをうまくコントロールしてみせる。


「わかりましたか? これが応用魔法です。魔力を高出力することで火の勢いを増加させることもできるのですが、先ほど見せたように風魔法で空気をコントロールして火の勢いを増加させることもできるということです」


 無から有を発生させる魔法。

有を更に昇華させる魔法。

 

 応用魔法とは、後者のことである。


 それからもモニカの授業は続き、俺達は板書をしつつ説明を聞いた。

コンラート少年はこの応用魔法の授業が気に入ったようで、モニカの言葉を真剣に聞き入っている。

実に結構なことだ。


「そろそろ授業も終わりの時間ですね。最後にお知らせです。明日から一週間、応用魔法の授業は実技も兼ねて上級生と合同授業とします。それでは、本日はこれまで」


 応用魔法の授業が終わると、やっと昼食である。

俺達は昨日と同じように食堂へ向かう。


 昼食が終わると、次は任意授業である。

出なくてもいいとは言われているが、皆出るのだから俺も出席する。

任意とはいえ、一人だけ受けませんというわけには行かない。

俺は『ござる』のようにハブられたくない。


 任意授業は通常授業で使用した教室で行われる。

俺は朝と同じ席へ座る。

もちろん隣にはコンラート少年がいる。


 授業の教師として現われたのはかなり高齢の老人であった。

見事な白髪と、見事な白髭を蓄えている。

その風貌はまさに魔法使いそのものである。


「皆さんの中には魔道教について学んでいる方も多いと思いますが、今回は魔道教典を最初から読んでいこうと思います。では、第一章――――」


 ボソボソと呟くようにしゃべるので、こちらとしてはほとんど聞き取れない。

支給された魔道教典を読んでいるのだから、魔道教典を黙読すれば内容は理解できる。


「魔道教とは魔法使いの心構えを示したものであると同時に、魔法使いと非魔法使いとを明確に分類するものである。すなわち――――」


 本当にか細い声である。

くそ、昼食を食べたばかりだから眠くなってきやがる。


「であるからして――――」


 睡魔と闘い、何度も目が閉じそうになる。


「ですから――――」


「――――」


 ・・・・・・・・。


 ・・・・。


「はっ!」


 気がついたのは、任意授業が終わった時である。

横を見ると、コンラート少年が呆れた顔でこちらを見ている。


 いや、これは仕方ないだろう。

あのじいさん、何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。

まるで子守唄のようにさえ思えたし。


「おじさんはもっと緊張感を持ったほうがいいよ。それじゃぁ、僕はラボトリーへ行くから。また明日」


 俺は頭を掻きながらコンラート少年の後姿を見つめる。


「さて、俺も行くか」


 寝てしまったものは仕方がない。

それに、任意授業は試験もない。

だから問題ない。


 俺は頭を切り替え、ラボトリーへ向かうのであった。

いつもご愛読ありがとうございます。








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また、感想も随時募集しておりますので気軽にお送りください。








それでは今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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