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第7話:おじいさんの優しさに弱ぇー・・・

下水道清掃の話は次回まで(今回まで)って前回書きましたが、すみません。

長くなったので終わりそうにありません。

申し訳ないです。



 第8区画へ戻ったのはいいがこれからどうしようか。

辺りはすでに暗くなっている。

お金が無いのだから、宿も無ければ食事もできない。

お腹の虫は、あまりにもぞんざいに扱ったため、愛想を尽かせてどこかへ行ったようだ。

それはそれで寂しい。


 しかたがない、第8区画の下水道の側道で屋根があるところで寝るしかないか。

少なくとも、屋根がないところよりはましである。

少し臭うが、そんなものはもう慣れた。


「よし、ここにするか」


 第8区画の中でも寝床に適した場所を見つけた。

下水道の側道の中でも、通路が幾分か広めに作ってある。

屋根もあるし、寝返りさえしなければ下水道に落ちることもないだろう。


「おぉ~、ここにいましたか。今日はお疲れ様じゃったのぉ」


 いざ、横になろうとした時、後ろから声がした。

もう背中が地面につくギリギリの時である。


 振り返ると、にこにこ笑顔のベンさんがいた。


「お疲れ様です」


 まるで腹筋を鍛えているかのような体勢で返事をした。

もっとも、疲労からか若干メタボの入ったお腹は壮絶に波打っている。


「あの、いったい何をしているのじゃ?」


 明らかに不信な動きであるにもかかわらず、ベンさんは笑顔を絶やさない。

なんというできた人間だ。

俺もそうありたいと本気で思った。

―――だから。


「き、筋トレだ」


 まさか寝る場所に困って、ここで寝るところです、とは言えるはずも無い。

であれば、筋トレ以外の言い訳などとっさに思いつかなかった。


「そ、そうかぇ。今日一日ものすごく真面目に掃除していただいたので疲れているじゃろうと思い、

私の家でご飯を一緒にどうかと誘いたかったのじゃが、まだまだ余裕でお忙しいようじゃのう」


 なんだって?

ご飯を食べさせてくれる?

願っても無い申し出である。


「あっ、筋トレはもう終わりました。ぜひぜひ、ご飯をよろしくお願いします」


 俺は腰を90度に曲げ、頭を下げた。

ズキっと腰が痛むが問題ない。

問題なのは腹の虫で、ご飯と聞きつけ戻ってきたのか、「ぐ~」っと音を鳴らした。

まったく、現金なやつである。


「そうかそうか。では、いくとするかのぉ」


 ベンさんについて歩くと、たどり着いたのは()()建物であった。

どうやらここがベンさんの家だったようだ。


「狭いですが、どうぞ」


 物置の入り口とは別の入り口があった。


 中に入ると、ベンさんがランプに火をつける。

家の中が明るくなると、テーブルの上に何かが置いてあった。

麻痺した鼻でも、おいしそうな匂いを嗅ぎ分けた。


「これはさっき屋台で買ってきたものじゃよ。どれ、少しまってくれ」


 そう言ってベンさんは腕まくりをし、お湯を沸かしてスープを作り始めた。

スープの中に、雑穀を入れ、塩で味を調える。


 その姿を呆然と見つめていた。

いや、おいしそうなスープだなとか、作り方に文句があるのではない。

ベンさんの腕が明らかに筋肉質だったことに驚いたのだ。

自分の腕と見比べるが、鍛え方が全然違う。


「こりゃ勝てんわ」


 もう笑うしかなかった。


 スープからおいしそうな匂いが漂ってくると、腹の虫が早く食べたいと叫ぶ。

この体が飼っているお腹の虫は、自己主張が強いタイプらしい。

恥ずかしいから少し黙れよ。


「できたぞい。そこの椅子に座っとくれ」


 テーブルの前の椅子に座ると、スープと屋台で買った肉を焼いてタレをつけたものを並べられた。


「では、食べよう」


 ベンさんが一口食べるのを待ってから、目の前の料理にかぶりついた。


 スープは素朴な味であったが、屋台の肉にしっかり味がしみていたためちょうどよいバランスであった。


「これはおいしい。こんなおいしいものをありがとう」


 ベンさんは笑って頷いた。


「ところでお前さんは、今日泊まるところはあるのかい?」


 食事が一段落したところ、ベンさんが質問した。

俺は小さく溜息を吐きながら首を振る。


「そうかい。もし良かったら、空き部屋があるからそこなら使ってもいいぞい。ただ、ベッドはないから雑魚寝にはなるがのぉ」


 ベンさんが奥の部屋を指差しながら言う。


「本当にいいのか?」


「もちろんじゃ。今では誰も使ってないし、毛布くらいなら貸してやれるぞい」


「そりゃ、助かる」


「なんのなんの。ところでお前さんの名前をまだ聞いていなかったのぉ。よかったら教えてくれんか?」


 ベンさんは本当に良い人である。

いくら冒険者ギルドからの派遣で、立場が保証されているとしても見ず知らずの人を家に泊めるなんてなかなかできない。


 感動に打ち震え、涙が滲んできた。

それを腕でふき取ると、声が震えないように注意しながら名乗りを上げた。


「セリア・レオドール。今はこんなだけど、真の姿は英雄だ」


「ほほ~、そりゃすごいのぉ」


 ベンさんはにこにこと笑みを浮かべている。

嫌味や嘲笑ではない。


「俺からも一つ質問があるんだが」


「何かな?」


「ベンさんは今日も下水道の掃除をしてたんだろ?じゃぁ、ゴミ回収所にあったあのゴミはやっぱりベンさんが運んだのか?」


「うむ、そうじゃとも。下水道を一通り見て回って、詰まりがあれば下水が溢れ出るかもしれん。

だからそうならないように詰まりの原因を取り除いておったのじゃよ」


「一人で?」


「もちろん。他に助けてくれる人がいるんじゃったら、冒険者を雇ったりしなくても済むじゃろ?」


「そ、それもそうだな・・・」


 やっぱりベンさんの筋肉は伊達ではないようだ。

この体では、ベンさんに勝てそうにない。

くっそ、本当の俺なら楽勝なのに。


 しかし、今日の進み具合では依頼達成まで7日くらいかかりそうだ。

ベンさんが食器を片付けている後姿を見ながら、そんなことを考えていた。


 正直、それではまずい。

毎日ベンさんに食事を用意してもらうわけにはいかないからだ。

すぐにでもお金が必要であり、さもなくば今後生活していくことが不可能になる。


「ところで、この隣の物置にある掃除道具やそれ以外のものは、勝手に使っても良いのか?」


「そうじゃのぉ、掃除に必要なら好きに使うといい」


「よし、それなら今からちょっと効率を上げる道具をつくるとするか」


「ほうほう、それはどんなもんかのぉ?」


「明日のお楽しみだ」


 そう言って物置に向かおうとする俺に、ベンさんはランプを貸してくれた。


 物置に何があるかは、道具を借りたときに把握していた。

掃除道具だけではない、壊れた雑貨品や何に使われたのかわからない道具まである。

それらを組み合わせ、加工してあるものを作る。

それがあれば、ベンさんに勝てるかもしれない。

なんにしても、さっさと完成させようと作業に取り掛かった。


 物置に入ると、必要なものをかき集めた。

加工は魔法で行う。

人差し指にのみ、魔力を集中させて発現すれば、大量の魔力は必要ない。

薄い魔力の膜が覆うと、俺の人差し指は鋭利な刃物になった。


 後は、前世の世界で使った道具を急ぎ再現するために、黙々と作業を進めるだけである。





 翌日、眠たい目をこすって起きると、すでにベンさんは起きていた。


「おはよう。朝食のパンとミルクを用意したぞい」


 進められるがままに、朝食を取る。


 食べ終わったら、早速深夜まで作っていた道具のお披露目といこう。

パンをミルクで流し込むと、ベンさんを引き連れて物置へ向かった。


「完成したのはこれだ。これは手押し車といって、この荷台の上に荷物を置いて押せば、

自分が持つよりも楽に、多く荷物を運ぶことができる」


「ほほ~、なるほど。タイヤは馬車のタイヤを使ったのか。ふむふむ」


「ベンさん、少し試してみるか?」


 俺は取っ手をベンさんへ向けた。


 ベンさんは手押し車をゆっくりと動かし、その使いやすさに驚いていた。


「これはいいな!これがあれば非常に便利だ。良いものを作ったのぉ」


「あ、あぁ・・・・」


 お年寄りには荷物を持たせ、自分だけ手押し車をつかうのはどうかと思う。

例えそれがベンさんのような隠れマッチョだとしてもだ。

かつての俺ならそんなことはしない。


「よかったらベンさん使ってみてくれよ」


「いいのかぃ?」


 驚いたように言うベンさんに笑顔で頷いた。

その笑顔はこれまでにしてきたイケメンスマイルではなく、本物の笑顔であった。


 さっそく手押し車を押して、下水道のほうへ歩くベンさんを見送った後、再度物置へ入った。


 それから午前中いっぱいを使って、2台目の手押し車を完成させた。


 昨夜も、今も座って作業をしていたから体の節々が痛い。

特に腰が痛い。

もう一度言う、腰が痛いのだ。


「この体は慢性的な腰痛持ちかよ・・・」


 この体のあんまりなスペックに溜息しか出ない。


 それでも動けないわけではないので、本日の清掃を開始した。


申し訳ない、次回も下水道清掃の話が続きます。

意外と長くなってしまった。


よろしければ、感想やクレームをお受けします。

また、美人の受付嬢へのファンレターもよろしくお願いします。

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