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第70話:入学式に弱ぇー・・・

更新遅くなり、申し訳ありません。



 まさか寮の部屋割りが6人部屋だとは思わなかった。

仕切りもないのだから、プライベートなどあったものではない。


 マジか・・・・マジか・・・・マジか・・・・。

呪文のように何度も心の中で唱えるが、答えは一つマジである。


 しかし、よくよく考えてみると俺の傭兵時代はもっと酷いものであった。

5人が横になれないほどの部屋に10人が押し込められていた。

寝転がることもできず、いつも壁に背を当て座って寝ていた。

当然、ベッドなどない。

薄い毛布一枚で、冬も越さなければならなかった。


 それに比べればベッドがあるのだから贅沢は言えない。

どうやら最近の俺は贅沢が当たり前になっている。

ここは初心を思い出し、ありがたいと思いながら生活するとしよう。


 などと考え、人の流れに沿って歩いていると講堂にたどり着いた。


 講堂は本館、北寮、東寮、西寮とは別の建物にあった。

中に入ると、日の光が差し込む隙間がないにも関わらず、魔法で浮かんだ照明が講堂内をくまなく照らしている。

階段状になった座席が並び、その中央にステージがあった。


 既に新入生を除く在校生は座席に座っている。

疎らに空席のある、あの空間が新入生の場所だろう。


 俺はその一つに腰をかける。

他の新入生達も、思い思いの席へ座り始める。


 講堂内は喧騒に包まれている。

主に新入生達の会話であるが、上級生達も俺達の方を見て話をしている。

まるで品定めでもされているようだ。


「あの、青銅級のおじさん」


 誰が青銅級のおじさんだ! っと声をかけて来た隣の人物を見る。


 そこにはここには不釣合いな子供がいた。

受験の時にいたあの少年である。


「少年も受かったんだな」


「はい。青銅級のおじさんも合格したんですね」


「もちろんだ。だからここにいる。というか、青銅級のおじさんはやめてくれ。俺にはセリアという名前があるんだ」


「セリアおじさんですね」


「おじ・・・・もう、おじさんでいいよ、もう・・・・」


 少年から見れば誰でもおじさんに見えるだろう。

きっとレーアを見てもおばさんと言うに違いない。

だから、仕方がない。

俺にはそう納得させるしかなかった。


「静粛に」


 唐突に、講堂内を低い声が走り抜けた。

その声は耳からだけでなく、直接脳へと届く。


 皆が驚き、声のした方を見る。

視線の先は中央のステージで、そこには一人の壮年の男性が立っていた。


 男性は身の丈に迫るほどの杖を持ち、魔法使いの証であるローブを纏っている。

さらに、彼から発せられる感覚はこの講堂と同じく荘厳。

そして、魅了である。

指導者として必要不可欠な要素を持ち、他者に安心を与える存在。

彼こそ、グラン・シュタットフェルトその人である。


 グラン・シュタットフェルトの登場により、講堂内は一瞬にして静かになった。

誰もが彼に注視している。


「これより、入学式を執り行う」


 グランはそう告げると、ステージの隅へと移動する。


「シュタットフェルト魔法学院首席、ユイ・リーベルハイト前へ」


 ステージの脇に立つ一人の男性教諭が言う。


 それと同時に、見知った顔の人物が階段を降りてステージへ向かう。

魔法具の照明が彼女の道を幻想的に照らし出している。


 ユイはステージの中央に立つと、周囲を見渡した。

そして最後に、新入生がいる場所へと視線を固定する。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。このような時勢で入学することになり、不安だとは思います。それでも入学してくれたことに在校生を代表し、感謝いたします。これから私達は共に学び、共に研鑽を積み、共に真理を探究していきたいと思います。ここにはこの世界の魔法に関するあらゆる知識があります。望めばすべて手に入れることができます。私達は先達が残した知識を更に昇華し、魔法の更なる発展に努めなければなりません。新入生の皆さんにはその覚悟があると私は信じています。私達上級生はその手助けをしていきたいと思っています。最後に、ようこそシュタットフェルト魔法学院へ。在校生一同皆さんを歓迎いたします」


 ユイは最後に一度、頭を下げるとステージから降りていく。

その際、チラっと視線が合ったような気がしたがきっと気のせいだろう。


「続いて、新入生代表挨拶。コンラート・ハーチェス、前へ」


 新入生代表か。

こういうのは総じて入学試験で、一番できのいい奴が選ばれるんだろうな。

さて、どんな奴だろうか。


 そんなことを思っていると、おもむろに隣の少年が立ち上がった。


「はい!」


 元気良く返事までする。


 新入生代表って、この少年か。

この歳で入学試験一位?

マジか。

すげーな、この子。


「おじさん、ちょっと後ろを通るね」


 コンラートは小声でそう言うと、俺の後ろを通りステージへ向かう。


 俺はその後姿を眺めていると、周りの噂話が耳に入った。


「おい、あいつが噂の・・・・」


「リンカ・シュタットフェルトの再来か」


「そうそう。天才少年って話だろ?」


 どうやら俺の想像以上にすごい少年らしい。

リンカの再来ってのは、ちょっとアレだが。


 コンラートはステージの中央へ立つと一礼した。


「理事長はじめ先生方、先輩方へ。まずはこのような場を設けていただきありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます。僕たち新入生は、世界で最も魔法を学べるシュタットフェルト魔法学院へ入学するために、日々勉学に励んできました。その努力が実り、こうしてここにいる事ができます。けれど、そこで終わりではありません。これからは今まで以上に魔法について学んでいきたいと思います。今日からご指導のほど、よろしくお願いいたします。新入生代表、コンラート・ハーチェス」


 少年は再度一礼し、ステージを後にする。


「まだ子供なのにしっかりしているなぁ」


 俺は戻ってくる姿を眺めながら感心する。


 少年が席に座ると、ステージの中央へグラン・シュタットフェルトが立った。


「入学式はこれにて終了とする。これより、新入生を歓迎するため、ちょっとしたパーティーを用意した。皆、存分に楽しんでほしい」


 相変わらず、グランの言葉は脳へ響く。

これは間違いなく、魔法である。


 かつての世界では言葉を介すことなく会話が出来る魔法が存在した。

どうやら、この世界にもその魔法があるらしい。

おそらくグランの魔法はその応用だろう。


 この時の俺は知らなかったが、この世界に言葉を介さない意思疎通の魔法は存在しない。

グランの魔法も、彼の言葉だけを伝える一方通行なものであった。

さらに、誰も彼が魔法を使っているとは気付いていなかった。

ゆえに、誰もが彼のカリスマ性ゆえ、彼の言葉に心動かされていると感じていたのだ。


 グランは一度、手を叩いた。

すると、階段状になっていた床が平らへと変化していく。

驚いて皆が立ち上がると、今後は椅子が消えた。

現われたのは、ただ広々とした空間である。


 グランが再度手を叩くと、今度は何もない空間からテーブルや料理、飲み物が現われた。

それは品数も豊富で、量も驚くほどである。


 あっけにとらわれている俺達新入生をよそに、教師や上級生達は杖を取り出すと魔法で飾り付けや、照明、果ては銅像やら石像やら幻影などを出し始める。


「新入生の皆も、気軽に飲んで食べて、魔法で盛り上げよう!」


 上級生の誰かがそう言うと、他の上級生達が料理を進める。


 次第に新入生達も緊張がほぐれ、パーティーに馴染み始めた。


「よう、おっさん。無事合格できたようだな!」


 食べたことのないおいしい料理に舌鼓を打っていた俺へ、不躾な男が話しかけてきた。

こいつは確か、コウと言ったか?


「どうにはなー」


 料理を頬張りながら返事をする。

これではどちらが不躾かわかったものではない。


「食べてから返事しろよ。いい歳してみっともない」


 年下にそういわれると、本当にみっともないような気がしてくる。

俺は急いで料理を飲み込み、水を喉へ流し込んだ。


「ぷは~。・・・・それで、何のようだ?」


「いやな、おっさんが一人さびしく料理を食べてるもんだから、冷やかしに来ただけだ」


 悪びれることなく、俺のことをボッチと言いやがる。

本当に腹の立つ野郎だ。


 何か言い返そうと思ったが、コウの後ろには彼の取り巻きがいた。

どうやらこいつはボッチではないようだ。

こいつからしたら俺はボッチで寂しいやつに見えるのだろう。 


 優劣は一目瞭然。

ここは是が非でも逆転を狙うしかない。


「それなら他を当たってくれ。こう見えて、俺にも話をするやつくらいいるからな」


 料理を更に取り、あたかも一緒に食べる仲間がいるように演出する。


「へぇ~、そんな者好きはいったい誰だ?」


 コウがニヤニヤしながら聞いてくる。

本当にこいつは、いい性格してやがる。


「ま、まぁな。お前が驚くようなやつだ」


 俺の頭には新入生代表の挨拶をしたコンラートの顔が浮かんでいる。

というか、あの少年以外の人とはほとんど話をしたことがないのだが。


「驚くようなやつねぇ・・・・。――――お、おおぅ・・・・」


 コウの言葉が途切れ、驚愕の表情で固まる。

石化の魔法でもかけられたか?

だとしたら、魔法をかけた人はグッジョブである。


 そう思い振り返ると、目の前には壮年の男が立っていた。

見覚えのある風貌の人物は、間違えることなくグラン・シュタットフェルトである。


 俺はコウのように固まるようなことはない。

こう見えても世界を救ってきた英雄である。

むしろ、俺と相対した者こそ緊張していたはずだ。


 だから例えグランの双眼が俺を見定めていても、距離が1mほどしか離れていなくても問題ない。


「ちょっといいかな? 君がセリア・レオドールで間違いないだろうか?」


 どうやらたまたまここへ来たわけではなく、俺が目的だったようだ。


 周りの生徒達は俺達の様子を遠巻きに見ている。

いつの間にかコウさえも距離を取っている。


 そういえば、リンカが魔法の最高機関ゆえ、俺の才能を見出せないことなど絶対にないと言っていたな。

さっそく見出されたってわけか。

やれやれ、俺の才能を看破するとはさすがは理事長をしているだけのことはある。 


「間違いなく、俺がセリア・レオドールだ」


 俺の返答にグランは頷く。


「少し話がしたい。ここでではなく、明日の朝、授業が始まる前に私のところへ来るように」


「・・・・了解した」


 断る理由は見つからない。

できるだけ関わりたくはないが、これだけ衆人観衆の前で言われたら断ることができない。


 グランは小さく頷くと、踵を返す

本当にそれだけを言うために来たようだ。


 俺はグランの後姿を見ながら、用件について心当たりを探すがまったく見つからない。

ただ、首を捻ることしかできなかった。


 その後、コウや知らない上級生などにグランとのことを聞かれるが、俺には何も答えることはできなかった。

お待たせしまして、申し訳ありません。


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また、感想もお待ちしております。


今後ともよろしくお願いいたします。

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