第69話:二人の手紙に弱ぇー・・・
更新遅くなり申し訳ありません。
これからも更新はしていきますのでよろしくお願いいたします。
ユイから合格の知らせを聞いた翌日、正式に合格通知が届いた。
すでにわかっていたこととはいえ、やはり感慨深いものがある。
それからの俺は勉強地獄から解放され、久しぶりに自堕落な生活を送っていた。
新生活の準備という名目で、衣服や羽ペン、羊皮紙などを街で購入する。
おいしそうなものがあれば買い食いする。
費用はレーア持ちなのだから、実にすばらしい。
一見ヒモのようだが、これは合格祝いのご褒美である。
俺がどれだけ頑張っていたか、努力していたかをレーアは知っている。
だから許してくれるのだろう。
それに、4日後にはシュタットフェルト魔法学院へ入学しなければならない。
あそこは全寮制であるから、今後はレーアやリンカと気軽に会うことはできないだろう。
そう思うと少し悲しくなる。
俺が自堕落な生活を送っている間、レーアはレストランのウエイトレスに勤しんでいた。
やはりその美貌は国が変わっても健在のようで、既に何人かの男性からラブレターなるものをもらっているらしい。
本人が嬉しそうに話していることから間違いない。
リンカはといえば、食事の時しか顔を見ない。
よく研究者は食事を忘れることがあると聞くが、リンカの場合、そんなことはない。
食事の時間には決まって現われる。
ただ、日に日にやつれていくのは少し気になった。
俺がいなくなれば、レーアは日中は働いているし、リンカ一人になる。
大丈夫だろうか?
そんな感じで日々を過ごしていると、いつの間にか魔法学院への入学前夜になった。
おそらく今夜以降、三人でじっくり話す機会もうあまりないだろう。
ならば、言いたいことは伝えなければならない。
「二人とも、俺がいなくても大丈夫か?」
俺達は今、居間のテーブルを挟み向かい合ってイスに座っている。
心配そうな表情を見せる俺に対し、レーアとリンカが顔を見合わせる。
そして二人ともが同時にため息を吐く。
「あんたが一番心配よ」
呆れたようにレーアが言う。
リンカも頷いている。
「明日の準備はできた? 着替えは用意した?」
「お、おう」
「それならいいけど、学院に何をしに行くのか本当にわかってる?」
「それは大丈夫だ。結界の解除方法を調べればいいんだよな?」
さすがにそれくらい心得ている。
学院に入学するのも、受験勉強を頑張ったのも、すべてはエルアルドへ帰還するためだ。
「そのことなんですがー、実はもう少しで結界の解読が終わりそうなんですよー」
「そうなのか? じゃぁ、学院へ行かなくてもいい?」
嬉しさ半分、残念な気持ち半分でリンカへ問いかける。
「いえ、そうではないんですー。結果を解読していくと、結界を解除するにはいくつかの鍵が必要なようですー」
いくつかの鍵?
魔法陣による魔法の行使では、あたりまえだが魔法陣を描かなければならない。
それと同じようなものか?
「まず、あれだけ大規模な結界を持続させるための魔力源。それから、魔法を維持するための魔法具か魔法陣ですー」
やはりか。
だが、仮にあれだけの魔法を使っているのだから、魔法陣であればどれだけ大きいものか想像がつかない。
それだけ大きいものであれば、目に付きそうである。
では、魔法具だろうか?
それこそ伝説級の物を媒体として、数十人の魔法具師が共同で行わなければ作ることはできないだろう。
そして、この世界でそれが可能なのは――――シュタットフェルト魔法学院だけだ。
「リンカはシュタットフェルト魔法学院にその鍵があると思っているんだな?」
「それ以外考えられないじゃないですかー」
それもそうだ。
この島のあらゆる中心に、あの魔法学院がある。
何かあるとすればあそこだろう。
「わかった。俺は入学してそれを探せばいいんだな?」
「はい。見つけていただけましたら、後は私がします」
以前リンカに結界解析の進捗を聞いたとき、結界はもう百年以上前から存在し、先人達が上書き、更新、追加と、魔法を付与しているとのことだった。
そのせいで複雑に絡み合った魔法体系は難解極まる。
リンカは既にそれを紐解いたということか?
あるいはもう少しでできるといったところか。
何にしても、緻密な作業が苦手な俺にはできない芸当だ。
改めて、リンカが天才であると確認させられる。
まぁ、魔法以外はてんでダメダメだけどな。
「リンカ、確認だけど本当に結界を解除して大丈夫なのよね? 今この国は隣国と戦争状態なんでしょ?」
「それは大丈夫ですよー。解除して、私たちが転移したら再起動するように設定しますのでー」
「そう。それなら大丈夫そうね」
レーアがリンカの返答に頷いた。
これで、今後の方針は決まった。
あとは、俺がどれだけ早く鍵を見つけられるかだ。
といっても、俺だからな。
入学早々見つけてしまうだろう。
だとすると、問題はティファニアか。
あいつ、それまでに帰ってこれるだろうか?
いっそ迎えに行くか?
俺達はそれぞれの部屋へ戻り就寝した。
明日からは忙しくなりそうだ。
朝、俺は少しの緊張と共に目を覚ました。
昨夜準備していた荷物を再度確認する。
問題なし。
俺は自室を眺めた。
僅かな時間しか住んでいないため、荷物はあまりない。
「さて、行くか」
そう言って俺は玄関へ向かう。
「では、行ってくる」
小さく言葉を発するが、返事は返ってこない。
レーアはレストランの仕事のため、早朝から出かけている。
リンカは、たぶん昨夜遅くまで結界について調べていたのだろう。
彼女の部屋から物音さえしないので、今はまだ寝ている。
本当に薄情なやつらである。
「ん? 何だ?」
玄関で靴を履くと、靴の中に何かがある。
それも、両足共に。
取り出すと小さな手紙が二つ入っている。
“セリアへ
私は絶対、入試に落ちると思っていたけど、あんたは見事合格した。
少し見直したわ。
でも、学院で恥だけはかかないように。
一緒にいる私たちまで恥ずかしいから。
レーアより”
何だこれ?
激励のようにも見えるが、良く分からない。
次だ、次。
“セリアさんへ
学院には若い子や、かわいい子がいっぱいいます。
手を出しちゃダメですよー?
あとあと、おじい様にはにらまれないように。
おじい様はものすごく鋭いので。
あとあとあと、おじい様の体調も気になりますので、調べてください。
リンカより”
・・・・は?
理事長ににらまれない様に体調を調べる?
何言ってんだこいつ?
にらまれないようになら、できるだけ関わらないようにするだろ。
「はぁ~」
俺は手紙をポケットにしまうと、学院へ向けて歩き出した。
片や全く信用されていないことが伝わる手紙。
片や訳がわからない手紙。
旅立ちの日に渡された手紙がこれではため息も出るというものだ。
最初手紙を見たときは、感動で泣けそうだったのに、今は違う意味で泣けそうだ。
真新しいローブとは対照的に、俺の心は荒んでいる。
学院までの道のりを、肩を落として歩く。
学院までの道々で、すれ違う人々が俺を見る。
この時間にシュタットフェルト魔法学院のローブを着て歩くということは、新入生だとこの島の人達はわかっている。
だからこそ俺を見るのだが・・・・その視線はどこか生暖かい。
いや、わかる。
俺のようなおっさんが新入生ということは、何度も受験してやっと受かったんだろうなと想像しているのだろう。
だが、俺は声を大にして言いたい。
俺は一発合格だと。
道行く人々の視線に耐え、俺はシュタットフェルト魔法学院にたどり着いた。
すでに新入生達は大勢到着しており、受付を行っている。
俺も合格通知を片手に、その列に並ぶ。
「次の方、合格通知を見せてください」
明らかに俺よりも年下の先輩は、俺の顔をまじまじと見る。
いつも同じ反応だと、もう慣れたものだ。
「セリア・レオドールさんですね。寮は北側の2階、222号室です。まずはそちらへ行き、荷物を置いてから、あちらの講堂へ来てください。入学式がありますので」
教えられたとおり、北寮へ向かう。
以前転移した時のリンカの寮は東寮だった。
しかも階層はかなり上のほうで正確に何階かわからなかった。
それに比べて今回は2階だから、非常にわかりやすい。
北寮の場所も東寮の近くだから間違えることなくたどり着いた。
「222号室、222号室。あった、ここだ」
北寮に入り部屋を探すと労せずして見つけることができた。
部屋に入ろうと扉に手を触れた時、中から話し声が聞こえた。
誰かいるのだろうか?
不信に思いながらも静かに扉を開き中を除く。
すると数名の青少年達の姿がそこにある。
「お! 来た来た・・・・って、おっさんが6人目かよ」
誰だ初対面でそんなこと言うやつは。
そう思い言葉を発した青年を見ると、あのコウとか呼ばれていた青年の取り巻きの一人であった。
俺は他の青少年達を見る。
人数を数えると、確かに俺が6人目のようだ。
さらに部屋の中を観察する。
ベッドが6台。
机が6台。
椅子が6脚。
・・・・つまり、この部屋は6人部屋か!
改めて目の前の彼らを見る。
明らかに俺だけ歳が離れている。
これはやっていけるのだろうか?
まだ入学式も始まっていないのに、不安で不安で仕方がなかった。
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