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第68話:受験結果に弱ぇー・・・

更新します。

メンテで昨夜更新できませんでした。



「それで、試験はどうだったの?」


 バイトから戻ってきたレーアが開口一番で言う。


 バイトが終わったばかりで疲れているのに聞いてくる辺り、少しは気に留めていてくれたのだろう。

それは素直に嬉しいのだが、ここからの展開があまりにも読め過ぎるために返事を渋る。


 レーアは怪訝そうな顔をしながら、テーブルを挟んで向かい側の席に座る。


「ん~、やっぱりなれない仕事は疲れるわねぇー」


 レーアが伸びをする。


 俺はそれまで黙り込んでテーブルに肘をつき、両手を組んで下を見つめていた。

しかし、視線を少し上げだけで絶景を見ることができた。

二つの隆起した胸、括れた腰、引き締まった尻。


 やはり、レーアは良いプロポーションをしているな。

実に眼福である。


 ――――いや、そうではなくて。


「試験はどうだったのよ?」


 レーアが再度尋ねてくる。

彼女は沸点が低いため、これ以上答えを渋ると後が怖い。

これは進むも地獄退くも地獄と言うやつだろうか?


「試験はダメだった」


 圧に耐えかね、進むことを選択した。

それでも生き残る可能性に賭け、笑顔でさらっと流すように言ったつもりだったのだが。


「はぁあぁぁ??」


 ガタンッ。

レーアが叫びながらテーブルを強く叩く。


「あんたふざけてるの? 私は働いてあんた達を養って、試験勉強の手伝いまでしたのよ? それなのになんでダメとかになるわけ?」


「そうは言ってもだな、レーアも知ってのとおり、俺が文字を覚えたのはつい最近だぞ? それなのに受験とかやっぱ無理だったんだよ」


 いや~、仕方ない仕方ないと、後頭部を掻く。


 次の瞬間、レーアの右手が伸びてきて俺の胸倉を捻り上げた。


「へらへらしてんじゃないわよ。魔術学院に入学できなかったら、あんた何すんの? ここではほとんどのことが魔法で片付けられているから、仕事と言えば接客業くらいしかないのよ? あんたみたいなおっさんでクズには無理じゃない?」


 レーアの顔がものすごく近くにある。

別の状況であれば歓喜するところだが、目の前にあるのは鬼にしか見えない。

俺はあまりの恐ろしさに、汗が止まらない。


「ったく、本当にどうしようもないのね。少しは見直してたのに・・・・」


 最後の方は声が小さく聞こえない。


 とはいえ、俺だってレーアに言われるまでもなくショックを受けている。

表面上は気にしていない素振りをしているが、へこんでいるのだ。


 ここ数日、睡眠以外は入学試験対策に費やした。

この物覚えの悪いお頭を呪いながら、必死に勉強した。

そこまでして試験に望んでも、合格したような感触は皆無だ。

座学も実技もダメダメだった。


 わかっている。

受験生は皆、この日のために数ヶ月、もしかすると数年間準備をしてきたはずだ。

それをたった数日だけ勉強した者が合格するなど、そう甘いものではない。


「お二人は本当に仲がいいんですねー」


 いつの間にいたのか、リンカが飲み物片手に立っている。


「「どこが?」」


 二人そろって声を出した。

それを見てリンカが笑っている。


 レーアは気まずくなったのか、俺の胸倉から手を離した。


「大丈夫ですよー。セリアさんなら絶対に受かっていますー」


 リンカは何を根拠に言っているのだろうか?

本当にこの娘は残念である。


「リンカはどうしてそう思うの?」


「だって、ここは魔法の最高機関ですよー? セリアさんの才能を見出せないことなど絶対にありません」


 リンカは自信満々である。


 それを見てレーアがため息を吐く。

額に手を当てているあたり、相当疲れているようだ。

無理もない。

俺も相当ヤバイが、リンカもかなりヤバイ奴だ。

その二人に囲まれているレーアの負担は計り知れない。

・・・・いや、ティファニアもヤバイから、どちらにしてもレーアには心身ともに負担をかけているのだろう。


 玄関の扉が勢い良く開いたのは、そんな微妙な空気になっている時だった。


 ここへ来る者といえば、ユイしかいない。


 ユイは学院から全速力で飛んできたのだろう。

息を切らして家に入って来る。


「ユイ、どうしたのですかー?」


「先輩! それが、セリアさんは合格だそうです・・・・」


「「え?」」


 またもや俺とレーアが同時に声を発した。

そして顔を見合わせる。


「やっぱりそうですよねー」


 リンカだけは予想通りだと、あまり驚いていない。


「待て待て、本当に合格か?」


「はい」


「本当に?」


「本当です」


「神に誓って?」


「魔道教典に誓って」


 いや、魔道教典とか知らないし。

まあでも、本当に合格のようだ。


「そっかー、合格か。あっ! 俺部屋で休んでるから、食事の準備ができたら呼んでくれ」


 そう言い残し、俺は自室へ戻った。


 自室へ入ると声を出さずに、全身でガッツポーズをする。


「よっしゃー!!!」


 しかし、このうれしさを抑えることはできず、思わず声を発していた。

一頻り喜んび目をぬぐうと、涙で濡れていた。


 受験に合格というのは、自分を肯定してくれているかのようだ。

この世界に来て、何をしてもうまくいかない。

だからこそ嬉しさは一入である。


 涙はいつの間にか洪水となり、嗚咽を押し殺して泣いた。

自分を褒めたい。

そして皆に感謝である。


 食事の準備が出来たと声をかけられても、俺はしばらく部屋から出ることができなかった。




 遡ること数時間前。

学院の会議室に理事長、学院長、教師と実技試験を手伝った優秀な生徒達が集められた。

もちろん、その中にユイもいた。


 そこでは受験生についての議論が交わされていた。


 すでに受験生の座学の採点は魔法により終わっていた。

魔法学院は魔法使いを集め、魔法の研鑽、魔法の理論構築、新技術の発展を目的としている。

それゆえ座学が合格点まで届いた場合、実技で魔法の使用が確認されれば合格としている。

つまり、座学さえ合格であればほとんどの者が合格となるのだ。


 会議室で議題となっているのはそんな者たちではない。

座学で合格とならなかった者の中でも、魔法の才がある者はいないかという話し合いをしていたのだ。


 ユイは会議室の隅で議論を聞き流していた。

彼女にはまったく興味のない話だからだ。

唯一興味があるのは、リンカが一目置いているセリアのことだけだ。

しかし、ユイにはセリアが座学で合格点を取っているのかどうかわからない。

それを知るのは理事長、学院長を初め一部の教師である。


「ユイ君、君が相対したセリアという男はどであった?」


 突然理事長から声をかけられ、ユイは驚きつつ背筋を伸ばした。

そして悟る。

どうやら、セリアは座学がうまくいかなかったようだ。


「どうと言われましても、彼が使った魔法は下級魔法4回だけです。それについて思うことは特になにもありません」


「本当にそうか? 彼は水魔法1回、土魔法1回、風魔法2回、そして肉体強化魔法の計5回の下級魔法を使っていた」


「見ていらっしゃったのですか?」


 ユイは理事長が見ていたことに驚き、セリアが肉体強化魔法を使っていたことにも驚いた。


「偶然、廊下の窓から眺めていただけだがな。あの者は4種類の魔法を得て不得手なく使用しているように見えた」


 確かに。

実技試験の練習をした時、セリアは火魔法や雷魔法さえも問題なく操っていた。

もちろん、すべて下級魔法ではあるが。


「それにだ、彼は何か魔法具を使用しようとしていたのではないかな? ポーチに手を入れていたように見えたが?」


 確かにセリアは魔法のポーチに手を入れているように見えた。


「私相手に、勝利できる魔法具を彼が持っていたということでしょうか?」


「それはわからん。だが、可能性がない者はあがくことさえせん。その点、彼は何か目的を持って魔法を使っているように見えた」


 それはユイも感じていた。

練習した時とは明らかに違う。

そう考えると、理事長の言うことも間違いではないような気がする。

セリアには実技試験をクリアするための秘策があったのかもしれない。


「確かに彼は何かをしようとしているように思いました。実際、私も砂塵が視界を覆った後、彼を見失ってしまいました。もし彼が万全の状態であれば、あるいは水晶の玉を砕くことができたかもしれません」


「万全ではなかったのか?」


「はい」


 ユイが理事長の質問に短く答える。

さすがに寝違えたそうですとは、言えるはずがない。


「皆、どうだろうか? 私はセリア・レオドールを合格としたいと思う」


 理事長はゆっくりと会議の出席者を眺める。

異論を唱えるものは誰もいない。


「ではセリア・レオドールを合格とする」


 こうしてセリアの受験資格書は合格の押印を押されるのであった。


 その光景を驚きの眼差しで見ていたユイは、一つ心に決めたことがあった。

それは、この会議が終わったら最速でリンカへ報告に行こうということだ。




 シュタットフェルト魔法学院理事長、グラン・シュタットフェルトは自室にいた。

手には、今日行われた入学試験のとある人物が行った座学試験の答案用紙を持っている。


「リンカの名前をこれだけ答案用紙に書くということは、私へのメッセージだろうか・・・・」


 答案用紙に書いた人物の容姿を思い浮かべるが、とれもリンカと接するような人物には見えない。

しかし、それでも・・・・。


「疑いがあるのなら、手元に置く。今は少しでもあの子の手がかりが必要だ」


 グランはそう独り言を呟くと、厳しい表情で西の空を見つめた。

その先に待っているのは、歓喜か、悲劇か、まだ知る由もない。

いつもご愛読ありがとうございます。


気に入っていただけた方、続きが見たい方は是非、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。


また、感想もお待ちしておりますのでお気軽にお送りください。


今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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