第67話:学院首席より弱ぇー・・・ part2
更新、大変遅くなり申し訳ありませんでした。
今後は大丈夫だと思います。
たぶん・・・・。
受験とは儚いものである。
例えその答えがわかっていたとしても与えられた時間を過ぎれば解く権利を失う。
そして答案用紙を提出したら、もう訂正することも、変えることもできない。
だからこそ、最後の座学の試験である魔法歴史の答案用紙を必死に見直している。
答案用紙の空欄は全体の約2割といったところだ。
試験なのだから空欄はすべて埋めなければならない。
そうであるなら、残りはヴァン・フリードで埋めればいいと思うかもしれない。
その考えは甘い!
すでにヴァン・フリードと3割近く書いている。
残りも書けば、実に半分くらいがヴァン・フリードになってしまう。
俺はそれでも構わない。
だが、考えてみて欲しい。
採点する者が見たらなんと思うだろうか?
頑張ってすべて埋めたんだな、感心感心。
そう思うだろうか?
答えは否。
俺なら、こいつふざけていやがると思う。
しかも書いたのがおっさんだと知れば、怒りよりも殺意を抱きかねない。
さて、どうするか。
「時間です。答案を回収しますので手を止めてください」
試験担当の教師が告げる。
俺は手を止め、往生際悪く答案用紙を眺めた。
結局、残りの空欄はリンカ・シュタットフェルトで埋めた。
魔法歴史の近代においては、リンカの名前も魔法歴史一覧に載っていたはずだ。
「ふ~」
俺は強張った体を伸ばす。
やるだけのことはやった。
これでダメなら仕方がない。
そう、仕方がないのだ。
そもそも、俺はつい最近まで文字の読み書きができなかった。
今でこそ簡単なものならできるようになったが、試験には対応していない。
それに、この地域特有の言い回しなどもさっぱりわからない。
これまでの試験内容を思い出す。
魔法理論については問題なく解けたはずだ。
ただ、文章として理論を書き上げるものは時間がなかった。
すべての答えはわかったが解答はできていない。
幾何学については半分くらいできた。
これも時間が足りなかった。
問題文を理解するのに、何度も読み返したからだ。
魔法陣学について答案用紙にすべて答えを書けた。
この世界の魔法陣も、他の世界の魔法陣も理論については大差ない。
どちらかと言えば、この世界の方が遅れている。
さて、魔法歴史である。
解答の3割をヴァン・フリードで、2割をリンカ・シュタットフェルトで埋めた、
この事実だけで、どれだけできたかはわかっていただけるだろう。
結論として、座学は非常にやばい。
挽回するためには実技試験で優秀な成績を収めるしかない。
実はユイから実技試験の内容は聞いている。
それに何度か練習相手にもなってもらった。
致命的にダメというレッテルを貼られてはいたが、どんな手段を使ったとしても合格を勝ち取らなければならない。
形振り構っていられない。
どんな手段でも使っていいのなら、俺には秘策がある。
実技試験は学院の中庭で行われる。
中庭は校舎に囲まれた空間で、四方全面に保護結界が張られている。
広さも魔法を使うには十二分である。
「受験生の方は魔法力試験、魔法応用試験、特殊魔法試験の三つを選択してあちらに並んでください」
実技試験は三つの中から一つを選んで行う。
魔法力試験とは単純に魔力値を測定し、基準に達しているか否かを計る試験である。
魔法応用試験とは既に習得している魔法を使った応用力が試される試験である。
特殊魔法試験とは実戦的ではない魔法、つまり生活魔法などを披露する。
他にも固有魔法やオリジナル魔法などを見せる試験である。
俺が受ける試験はもちろん、魔法応用試験である。
魔法力試験は、そもそも俺の魔力では基準に達しない。
特殊魔法という選択もあるが、魔力の低さで出来ることは限られてくる。
消去法で魔法応用試験になるのだ。
俺は魔法応用試験を受験するにあたり、同じく魔法応用試験を受ける受験生の列に並んだ。
試験内容はユイから聞いているし、実戦練習もしている。
設置された水晶の玉を破壊する試験である。
もちろんただ破壊するだけではない。
相手がおり、その相手は水晶の玉の破壊を魔法によって防ぐ。
ちなみに相手となるのは教師か、上級生とのことだ。
まぁ、誰が相手でも魔法使いであるなら俺の秘策を止めることはできない。
「それでは魔法応用試験を受験される方は、順番に紙を一枚手に取ってください。そこに書かれている番号によって相手が決まります。相手は、教師2名か学院首席の誰かになります」
順番になり、紙を一枚めくると③の番号が書いてある。
「おい、おっさん。おっさんも魔法応用学を受けるんだな。で、対戦相手は・・・・③かよ。③は学院首席だ。残念だったな」
コウと言われた青年が話しかけてきた。
どうやら③は学院首席が相手らしい。
「そういうお前はどうだったんだ?」
「俺は①だ。あそこにいる女の教師が相手らしい。まぁ、お互い頑張ろうや」
青年は俺の肩をポンポンと叩いて去っていく。
明らかに俺のことを格下扱いしていやがる。
いや、今の俺は格下なんだろうけどな。
魔法応用試験が始まり、他の受験生の実技を見つめる。
①の女の教師は風魔法を巧みに扱い、受験生の攻撃をシャットアウトしている。
②の男の教師は土魔法で小高い壁を幾重にも作っている。
あんなのありなのか?
③は学院首席とのことだが・・・・、やはりあいつか。
学院首席ことユイは火魔法が得意だ。
俺と練習した時も、その火力を存分に見せ付けていた。
相手がユイであることを嘆くべきか、喜ぶべきか・・・・。
手の内はわかるが、こちらの手の内もバレている。
秘策以外は、だが。
「次、セリア・レオドール」
名前を呼ばれ、前へ出る。
対峙したユイは俺の方を見て僅かに頬を緩ませた。
どういう意図だろうか?
「まさか相手が私になるとはあなたも運がないようです。手心を加えるつもりもありません。本気で行きます。ところで、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「あの、首ですがどうして曲がっているのですか?」
「・・・・寝違えた」
「・・・・」
俺の答えに、ユイの顔色が激変する。
これはあれだ。
貴重な時間を割いて俺の受験の手伝いをしたのに、あなた当日になにしてんだ? とでも言いたいようである。
大変ご立腹されているご様子。
「当日になにをしているんですか?」
案の定、口から出た言葉は予想通りである。
しかも顔が真っ赤だ。
「開始!」
俺の返答より早く、試験が始まってしまった。
仕方がないので、終わってから謝るとしよう。
水晶の玉はユイから5メートルくらい離れた位置にあり、彼女の頭くらいの位置に浮いている。
おそらく固定魔法で浮いているのだろう。
であれば、座標が少しでもずれたら落下する。
つまり、あの水晶の玉に魔法を当てさえすればいい。
俺は冷静に今の自分の魔力量を確認する。
以前は中級魔法一発、下級魔法なら三発で魔力切れであった。
しかし少し成長した今の俺であれば下級魔法五発分の魔力はある。
あとはそれをどう割り振るかだけだ。
魔力量を確認した後は、秘策による勝利の方程式を逆算する。
そのために必要なのは適切なタイミングでの肉体強化だ。
そして残り下級魔法四発、もしくは中級魔法一発と下級魔法一発でユイの視界を遮るしかない。
さてどうするか。
周囲の状況を確認し、一番最適な魔法を考える。
「何をしているのですか?」
ユイがイラだったように言う。
基本ルールとして、対人への魔法の行使は禁止されている。
もしそれがなければ間違いなくユイは俺を狙って魔法を放ったことだろう。
そんなことを考えながらも作戦を練り上げる。
よし、これで行くか。
「じゃぁ、行くぞ。覚悟はいいな?」
ユイの実力は知っているつもりだ。
練習の際、散々見せ付けられた。
俺との力量の差も明らかである。
もし、ティファニアやリンカと会う前にユイに会っていれば彼女こそ世界最高の魔法の才覚を持った者だと思ったことだろう。
それでも勝ち筋はある。
後はそれを実行するだけの力と意思さえあればいい。
俺は心の中で『英雄の心』と肉体強化魔法を詠唱し、スイッチを作り出した。
これでいつでも発動させることができる。
「いつでもどうぞ。先輩が一目置いているあなたの力を見せてください」
ユイが杖を構え、臨戦態勢を取る。
同時に、俺は右手を水晶の玉へ向かって突き出す。
「水よ、我が手に収束し、我が意思に従え。バサバール」
地面や大気から水を集め、拳大の水球を作り出す。
そして水晶の玉へ向けて放った。
「炎よ、我が意に沿え。ファイヤーボール」
俺の魔法に対し、ユイは一回り大きな火球を作り出す。
詠唱も短く、発動までの時間も短い。
何より、正確に火球を操ることで水球にぶち当てる技量がすごい。
お互いの魔法がぶつかり合うと、一瞬で勝負は決した。
俺の水球が蒸発して消えたのだ。
「残念ですが、その程度では話になりません」
ユイが淡々と事実を口にする。
そもそも、俺は周りにある水を利用した。
ユイはどこにもない火を作り出した。
有からの作り出す魔法と、無から作り出す魔法では後者の方が魔力の消費が大きい。
つまり、魔力も技量も俺とユイでは勝負にならない。
だが、ここからが本番だ。
「砂よ、我が意思に従え。ヴォーデンヴェレン」
俺の足元が隆起する。
砂はそのままドリル状となって水晶の玉へ向かう。
「無駄です。火よ、我が意に従い乱舞せよ。ファイヤーウォール」
砂のドリルは火の壁に阻まれかき消された。
これも想定内である。
「風よ、我が意思に従え。ヴェンツ」
ユイが発生させた炎の壁に風を送り込む。
更に勢いを増した炎の壁を風で操ろうとする。
周囲の気温は上昇し、離れている俺でさえその熱風に当てられている。
近くのユイはどうだ?
ユイが手を横へ払う。
それだけで炎の壁は消失した。
「その程度ですか? そもそも炎の壁がどれだけ燃えても水晶の玉には何の影響もありませんよ?」
「そんなことはわかっている。だが、これで準備はできた。風よ、我が意思に従え。ヴェンツ」
ここまで地面の砂から水分を抜いた。
地面の砂を炎で焼いた。
さらにその周辺の砂さえも熱風で炙った。
俺はそれらの乾燥した砂を下級風魔法で巻き上げる。
軽くなった砂は砂塵となり、俺達の間に出現する。
これで俺の姿はユイの視界から完全に消えたことだろう。
準備は整った。
俺の勝ちだ。
肉体強化魔法を発動し、周りこむように走る。
右手を魔法のポーチへ入れる。
秘策とは魔法のポーチに収納されている漆黒の剣『真なる闇』を使って水晶の玉を斬ることだ。
そもそもこの試験は受験生が絶対に勝てないようになっている。
傍から見れば攻撃側が有利に思うかもしれない。
前後左右上下、すべてから水晶の玉を狙うことができる。
さらに魔法も受験生側が先制することができる。
教師やユイはどうしても受けに回らざるを得ない。
しかし本当は違う。
彼らの立ち位置は、自身が水晶の玉へ防護結界を張れるギリギリの場所である。
だから彼らが迎え撃つ魔法をすり抜けたとしても、水晶の玉へ魔法が当たるはずがないのだ。
ユイも当然そう思っているだろう。
だが、俺の持つ漆黒の剣ならば防護結界だろうが関係ない。
加えて、ユイはこの剣の特性を知らない。
俺は勝利を確信し、疾走する。
しかし、誤算が二つあった。
一つ目は、俺の首が曲がっていたことだ。
目の前の砂塵によって俺の視界も奪われている。
水晶の玉の位置を予測して周りこんだのだが、明らかに違う方へ向かっていたようだ。
二つ目は、ユイの技量を見誤っていたことだ。
ユイが先ほどまでとは違う長い詠唱を行って魔法を発動すると、爆発で砂塵が吹き飛んだ。
俺も爆風に煽られたが、身を低くし、それでも前へ進んだ。
視界良好になった時、俺は皆に水晶の玉から背を向けて走るという醜態を晒してしまった。
もちろん魔法のポーチに右手を突っ込んだ状態でだ。
周りから見れば敵前逃亡にも、試験放棄にも見えたことだろう。
だが、誓ってそのようなことはない。
ただ、首のせいで方向感覚が鈍っただけだ。
俺は痛む首を庇いながら、体を反転させる。
すると、呆れた顔のユイが目に入った。
見学者達も同様の顔をしている。
くそ。
こんなはずではなかった。
いやでも、ここから剣で水晶の玉を斬りに行こうか?
ユイの魔法もこの剣があれば無力化できる。
それに、対人魔法は禁止されている。
いけるんじゃないか?
俺が逡巡していると、肉体強化の魔法が切れた。
ガクッと体が重くなると同時に、軽い魔力切れによる吐き気が催してくる。
どうする?
自問すると、すぐに答えが出た。
そもそも、これは魔法の試験である。
剣による攻撃など想定されていないし、それで水晶の玉を壊すことができたとして評価されるだろうか?
それはどう考えても否だろう。
「はははっ」
乾いた笑い声が小さく口から漏れた。
これ以上は無駄だ。
俺は降参のポーズとして、両手を上に上げた。
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