表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/124

第66話:学院首席より弱ぇー・・・

次回更新は遅れます。



 大陸南東に位置する諸島群を総称し、メデゥカディア島と呼ばれている。

諸島群の中でも一番大きいのがメデゥカディア島だからだ。

大陸からの干渉を受けることがないそこは、有史以来魔王の脅威からも、魔物の侵略からも無縁である。

ゆえに、人族はそこが最後の砦となるであろうことを知っていた。

人族が蓄えた知識のすべてはメデゥカディア島に集められる。

来るべき、魔王を倒すために。

より良い生活を手に入れるために。

あらゆる願望を叶えるために。


 メデゥカディア島とはそのような場所である。


 メデゥカディア島の中央には小高い丘があり、そこに一際目を惹く建物が空高くそびえ立っている。

シュタットフェルト魔法学院。

世界で最も有名な魔法学院であり、魔法と知識の保管庫でもある。


巨大なシュタットフェルト魔法学院の周りには4つの大きな寮が存在する。

生徒、教師、研究者、果ては島の統治者さえもそこに住んでいる。

リンカの自室もそこにある。


俺は今、そんな魔法学院へ向かって歩いている。

島の中心は魔法学院であるが、不思議なことにそこへ向かう者の数は少ない。

僅かにいる学院へ向かう彼らのほとんどが、今日の試験の受験者なのだろう。


 彼らは一様に緊張していると、傍目でもわかる。

それも仕方がないことだ。

歩いている者のほとんどが10代半である。

中には10歳未満の者もいる。

そもそも俺とは生きた年月も、人生経験も違いすぎる。


 俺は彼らを観察する余裕がある。

これが大人と子供の差なのだろう。


しばらく歩き、魔法学院のある丘に差し掛かると状況が一変した。

人、人、人である。

しかもそのすべてが若者だ。

彼らは揃って同じ方へ歩いている。

もちろん向かう先はシュタットフェルト魔法学院である。


「止まれ。これより先は魔術学院の敷地である。許可のないものは早々に立ち去れ」


 門の前で番をしている女生徒に止められた。

どうやらここで受験資格書を提示するようだ。


 昨日、ユイから受験資格書を受け取っている。

受験申請書の必要要項などは、レーアとユイで埋めてくれたので、滞りなく受験資格を得ることができた。


「俺は今日の入学試験の受験生だ。これが受験資格書だ」


 そう言って門番をしている生徒へ受験資格書を見せる。


「え? いやだって、いくら受験資格に年齢制限はないといっても・・・・」


 微妙に引っかかる言い方をしてくるが、通してはくれるようだ。

俺は彼女達になんの気兼ねもすることなく、横を通り過ぎた。

彼女達も俺を呼び止めはしない。


 シュタットフェルト魔法学院の敷地へ足を踏み入れるとその光景に驚かされる。

噴水は空へと落ち、光の玉が浮かんでいる。

木は音楽を奏で、学院への階段は宙に浮いている。

これらは魔法具によるものだろう。

魔法具は定期的に魔力を補充しなければならないため、通常であればふんだんに使用することはない。

その常識を否定するように、どこもかしこも魔法具であふれている。

おそらく、ここにいる誰もが魔力を持ち合わせているゆえに成せる技だろう。


 俺は物珍しさにその光景を見ながら歩く。

だが、どうやらそこにいる生徒にはそれ以上に物珍しい()があるようだ。

俺は見られているという視線を感じた。

中には小さな声で何かを話している者もいる。

注目を浴びることには慣れているが、賞賛や憧れといった感情ではなく好奇な目を向けられるのには慣れていない。

いや、最近少しずつ慣れてはきたな。

やはり、早くもとの体に戻りたいものである。


「セリアさん、受験会場は本館の2階ですよ?」


 声をかけられた方を見ると、いつの間にかユイがいた。


「ユイか。悪い、珍しい光景で見入っていた。今から受験会場へは向かう」


「そうしてください。言ってはあれですが、セリアさんは受験生としてはかなり高齢ですので、皆の注目を浴びやすいです」


 言ってはあれなら言うなよと思う。

俺だって周りの生徒を見れば、自分が場違いだということくらいわかっている。


 もう、試験を受けずに帰りたくなった。

仮に受かった場合でも、毎日若者の中にこの姿で混じるのは苦痛でしかない。


 でも、落ちたらレーアになんと言われるかわかったものではない。

リンカは俺を馬鹿にして笑うんだろうな・・・・。


 どちらに転んでも気が休まることはないだろう。


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもない。それじゃぁ行ってくる」


「はい、また後で」


 ユイに軽く手を挙げて別れを告げ、俺はシュタットフェルト魔法学院の建物の中に入った。


 ん?また後で? とはどういうことだろうか。

歩きながら疑問が頭に浮かぶが、それもすぐに消えた。

すれ違う人、すれ違う人、皆が好奇な視線を向けてくるからだ。


 俺は早足で試験会場である2階の教室へ向かった。


 教室に入ると、すでに受験生達は決められた席に座っていた。

俺が自分の受験資格書に書いてある番号と照らし合わせて席を探していると、突然笑い声が聞こえた。


「おい、おっさんが魔法学院を受験するみたいだぜ?」


 やれやれ、いつか誰かに言われるだろうとは思ったが、ここでか。

俺は呆れつつ声のした方を見る。

そこには机に腰掛け、着物に身を包んだ青年がいた。


 なんだこいつ?

受験生だというのに態度悪くないか?


「おっさんが今から魔法を学んだところで知れてるだろ? 帰ったほうがいいんじゃないか?」


 青年がそういうと、青年の周りにいある4人が笑う。

男2人、女2人で、青年の取り巻きのようだ。


「そういうあんたも受験生の中では比較的年配だと思うが?」


 俺の言葉に、教室中が静まり返る。


 何かおかしなことを言ったのだろうか?

俺はただ、俺がおっさんだとしても、青年も20歳くらいであるから周りの受験生と比べたら年上だと言っただけだ。


「おっさんさぁ、どこの田舎出身か知らないが相手見て物を言えや」


 青年が立ち上がり、俺の目の前まで歩いてくる。

身長は俺よりも頭一つ高いため見下ろされる。

睨みつける目からは怒りが滲んでいる。


どうしようか?

少しの皮肉でこうも苛立つとはまだまだ青い。


対応を考えていると、先に青年が口を開いた。


「おっさんは知らないかもしれないけどな、学院の卒業年数は10歳までで十年以上、10歳から20歳までで五年以上って決まっている。だけど、20歳以上なら最短三ヶ月で卒業できる。 だから俺達はわざわざ20歳になるまで待ったんだ。その間に冒険者として白銀級に、こいつらも青銅級にまでなった。そんな俺達とおっさんとでは比べるまでもないだろ?」


 青年はしゃべっている間に冷静さを取り戻したのか、最後は俺を小馬鹿にしたような口調になっている。

そのことは全く気にならない。

青年が白銀級であるのなら仕方がないとさえ思える。

しかし、それならどうして魔法学院なんて入学する必要があるのだろうか?

卒業したら相応の冒険者ランクが与えられると聞いたが、白銀級ならもう必要ないだろうに。

後でユイにでも聞いてみるか。


 周りでは他の受験生が騒ぎ始める。

どうやら冒険者ランク、白銀級と聞いて驚いているようだ。

中にはこの青年のことを知っている者もいるようで、ライ皇国の第6皇子であるとも聞こえた。


「あんたほどではないが、俺も一応青銅級の冒険者だ」


 俺はそう言って冒険者タグを見せる。


「――――え? マジかよ。じゃぁ、おっさんと俺達って同じ仲間か・・・・」


 冒険者タグは効果覿面で、威圧的だった青年の態度が一変する。

困ったように後頭部を掻き、目つきも柔らかくなっている。

これは、仲良くできるのではないか?


「コウ、騙されないで! 私達は三年で今のランクまでなったのに、このおっさんはどう見ても青銅級になるのに二十年くらいかかってるのよ? 一緒にしてはダメよ!」


 青年の後ろにいる仲間の女の子が、俺を指差して言う。


 こいつらさっきから、初対面でおっさん、おっさん言って失礼だな。

そこまでおっさんではないだろ。

見た目だって気にしているのに・・・・。

それに冒険者になってから一年も経っていない。


「わかった、わかった。おい、おっさん! まぁ、あれだ。入学試験頑張れよ」


 青年はそう言うと仲間の方へ戻っていく。


 お前も頑張れよ! とはさすがに言えなかった。

なぜなら、青年の後ろでは仲間の女の子が睨んでいたからだ。


 俺はため息が出た。

何で俺に関わる女の子は、こうもクセのあるやつばかりなのだろうか。


 すでに若干疲れながら、自分の席に着く。


 最後の悪あがきではあるが、レーアが作ってくれた魔法歴史一覧を取り出す。

とにかく年代と人物と出来事を丸暗記するしかない。

だが、たった数日しか勉強できていないのだからほとんど頭に入っていない。


 くそ!

やはり人物名はすべてヴァン・フリードと書くより他ないか。


「冒険者ランク青銅級ってすごいですね!」


 焦りに焦っている俺へ、隣の席に座る少年が声をかけてきた。

どう見ても10歳にはなっていない。


「すごいのか?」


「はい、すごいです!」


 少年は俺の方を見て目を輝かせる。

あの青年の話では、この少年が魔法学院を卒業するまで十年以上かかる。

つまり、どのランクが卒業時に与えられるかわからないが、ランクをもらえるのは十年後ということになる。

随分気が遠くなるような話である。

せめて、彼が卒業するまでには魔王を討伐し、世界に平和をもたらしたいものだ。


「少年、俺も頑張るから、君も頑張れよ!」


 何を? とは言わない。

だが、少年は入学試験のことだと思ったようだ。


「はい! 頑張ります!」


 元気良く返事をしたのと、試験監督の教師が教室に入ってきたのは同時であった。

俺は名残惜しそうに魔法歴史一覧を魔法のポーチにしまう。


 さて、いよいよシュタットフェルト魔法学院の入学試験が始まる。


いつもご愛読ありがとうございます。


続きが気になる方は是非ブックマークと評価をお願いいたします。


感想も随時募集しておりますので、どしどし送ってください。


それでは今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ