第62話:突然の来訪者より弱ぇー・・・ part4
更新します。
次回更新が少し遅れるかもしれません。
2度目の転生、3つ目の世界。
俺はそこで約80年過ごした。
不老を手に入れたのが幸いであったと今でも思う。
俺が転生した時にはすでに、魔王による侵略が世界の9割に及んでいた。
その絶望的な状況で、俺は聖女の命と引き換えに、最後の希望として召喚された。
最初は即刻魔王を葬りに出立するつもりであったが、状況がそれを許さなかった。
そもそも絶望的な戦力差から、魔王を倒しても人族の敗北は必至であった。
全てを救うため、俺は長期の戦略を練り、少しずつ勢力を広げていくことにした。
そんな中で、今でも夢にみることがある。
それは、やっと世界の5割まで魔王軍を押し返したときのことだ。
あの時、俺達は少し浮かれていた。
世界の5割を奪還したことにより、人族の人口も増えた。
転生した直後が嘘のように、食糧の心配もなくなった。
そんな情勢であったから、これまで抑圧された人族の心が解放され、不正を行う者、人を貶める者、裏切る者が出てきた。
それは戦場でも同様で、前線にいるにも関わらず酒盛りや見張りをサボる部隊も存在した。
かく言う俺も気が抜けていたのだろう。
攻めるのは俺達で、攻められるのは魔王軍だと心のどこかで思っていたのだ。
それゆえ、敵襲に気がついたのは敵が眼前に迫っている時であった。
浮き足立つ戦友達。
迫り来る魔物、魔獣の群れ。
未だ状況に思考が追いついていない味方の中には、鎧すら纏っていない者もいた。
壊滅は必至。
だからこそ英雄である俺に選択肢は無かったと、今考えてもそう思う。
選択に後悔はない。
ただ、「もっと強ければ」と思わずにはいられない。
殿となった俺は、有志を募って時間を稼ぐために攻撃を仕掛けた。
その間に味方は後退し、部隊を編成し直すよう指示を出した。
俺と共に行くと立ち上がった者の中には、転生したばかりの頃からの親友夫妻の息子がいた。
父は戦士、母は魔法使いで、共に人族の中では群を抜いた実力者であった。
その二人の長男で、才能を多分に引き継いだのが彼であった。
しかし、将来を嘱望された若き才能をたった一度の戦いで失った。
俺には彼を守るだけの余裕がなかったのだ。
彼の奮闘もあり、態勢を立て直した人族は攻撃に転じた。
結果は大勝利であり、勢力図を大きく前進することに成功した。
結果は上々だが、失ったものは大きく、もう戻ってはこない。
それでも、選択に間違いはないと信じるしかなかった。
だから、もう一度同じ状況になったとしても、俺は同じことをするだろう。
同じように叫ぶだろう。
何度でも、何度でも。
「あんた、いつまで寝てるのよ! 敵襲よ、起きなさい!!」
頬に強烈な痛みが走り、俺の脳が覚醒する。
状況はわからない。
だが、敵襲という単語だけが頭を過ぎる。
「やはり来たか。殿は私が務める。我こそは、と思うものがいれば、この英雄セリア・レオドールに続け!!」
声を張り上げ、帯刀したままだった剣を抜き放つ。
そのまま、部屋の入り口のドアへ疾走する。
迫り来る敵を薙ぎ倒すために。
「ちょっ! え?」
レーア達三人があっけに取られている間に、俺はドアへたどり着く。
勢いそのままにドアを開けようと力を込めた。
その瞬間、ドアが吹き飛んだ。
俺はその衝撃をもろに受け、反対の壁までゴロゴロと転がった。
「は?」
そこでやっと今の状況を冷静に考えることができた。
どうやら、俺は寝ぼけていたようだ。
「やれやれ、面倒をかけさせてくれますねぇ」
ドアから一人の小柄の男が姿を現した。
顔には笑顔を貼り付けている。
小柄の男の後ろから、男と同じように全身黒色の服装を身に纏った者達が現われる。
ふむ、状況がさっぱりわからない。
わかることは、目の前にいる男達から敵意を感じるということ。
そして俺を蹴り飛ばしたのが、この小柄の男だということだ。
なるほど、敵襲とはこいつらのことか。
そこでやっと、少しだけ状況を理解した。
男達と俺達との間には、ティファニアが張っている結界がある。
彼らがどのような攻撃をしようとも、そう簡単には破られない。
更に言えば、こちらにはリンカがいる。
絶対防御と遠距離攻撃。
もはや勝利は確定している。
だというのに、なぜかレーアを含む三人とも余裕がないように見受けられる。
「リンカ、さっさと倒してしまえよ」
「すみません。どうやらそう簡単にはいきそうにないんですよー」
リンカはそういいつつ、小柄の男へ風魔法をたたきつけた。
しかし、魔法は小柄の男に当たる瞬間掻き消えた。
「魔法具か」
「ご名答です。リンカさんが高名な魔法使いということは知っていますからねぇ」
小柄の男は相変わらず笑いながら答える。
リンカのことを知っている?
狙いはリンカか?
「あいつらの短刀にはティグリアっていう猛毒が塗られているわ。掠っただけでお陀仏よ。気をつけて」
まじかよ・・・・。
小柄の男に魔法が効かないなら、結界も意味を成さない可能性もある。
「それってやばくないか?」
「やばいわよ。あんた、何とかしなさい」
「いや、何とかって・・・・。――――あぁ、何とかしよう」
俺は打開策を思いつき、臨戦態勢のリンカへ小声で話しかける。
「リンカ、床に転移の魔法陣が描いてあるから、魔力を込めて俺達を転移させてくれ」
「え? ですが・・・・」
「大丈夫だ。行き先はもっとも思い出し易い場所を浮かべれば転移できる」
「わかりました」
リンカが頷くのを確認する。
「さて、そちらの相談も終わったようですねぇ。こちらの包囲も終わりました」
見ると、部屋の窓から彼らの仲間が見える。
完全に退路を塞がれた。
と、彼らは思っているだろうなぁ。
「あんたは、こちらの戦力を見誤ることなく慎重に慎重を重ねたんだろう。だから、すぐに攻撃しては来なかった。けれど、その選択は間違いだった」
「どういう意味ですかぁ?」
小柄の男の顔が少しだけゆがむ。
それと同時に、床の魔法陣が輝き始めた。
もう、転移が始まっている。
こうなっては彼らが何をしても止められないだろう。
もし、ティファニアの結界をこいつが魔法具ですり抜けてきても、残念ながら魔法具のせいで転移されない。
「そのままの意味だ。あえて言うなら、あんたの誤算は俺がこ―――ー」
言葉を最後まで言い切る前に、俺の体を浮遊感が支配する。
そして次の瞬間には、転移が完了した。
「――――こにいたことだ!」
カッコよく右手を前に突き出したところで、目の前には薄暗い闇が広がるだけである。
周囲を確認すると、どうやらどこかの一室のようだ。
カーテンで締め切られた窓の隙間から、僅かに光が差し込めている。
その光だけが辺りを仄かに照らし出している。
部屋に広さは、広くもなく、狭くも無い。
物が乱雑に置かれているわけでもなく、どちらかと言えば簡素な部屋である。
「ここはどこ?」
レーアはそう叫ぶと、無造作にカーテンを掴む。
勢いそのままにカーテンを開くと、燦々と輝く太陽の光が部屋中を満たした。
「うわ、まぶしい!」
「まぶしい! 目が、目がぁー」
先ほどまで夜だったはずだ。
そして、転移したこの部屋も暗かった。
だからこそ、不意打ちのような太陽の光が目玉を潰すかのように思えた。
「セリア様はやはりすごいです。どのような状況でも最悪を想定して準備をしておく。非常に勉強になりました」
目を押さえるレーアと俺を尻目に、ティファニアが頭を下げる。
つか、こいつはこの場所がどこなのかということより、そんなことの方が重要なのか?
「ま、まぁ、俺くらいになるとな?」
今更偶然でしたとは言えない。
俺が半笑いで答えたとき、黙っていたリンカが床へ崩れ落ちた。
「リンカ! どうしたの?」
すぐさまレーアが駆け寄る。
「どうしたんだ?」
「わからない。とにかく、そこのベッドへ寝かせましょう」
俺はレーアの指示に従い、リンカをベッドまで運んだ。
その間も、リンカは苦しそうに呼吸を乱している。
さらに、顔色が悪い。
――――これは!
「魔力欠乏症ですね」
ティファニアが淡々と告げる。
俺も同意見であった。
「そうみたいね。ちょっと待ってて」
レーアは自分の荷物からタチの実を取り出すと、手早くすり潰し、何かの薬品と混ぜ始めた。
完成した液体を持ってリンカに近づくと、口元へ液体を数滴垂らした。
「これでしばらくすれば大丈夫だと思うわ」
レーアが言うのなら間違いない。
まだリンカの顔色は悪いが、呼吸は安定し始めている。
もう大丈夫だろう。
「それで、ここはどこ? どうして明るいの? さっきまで夜だったじゃない」
矢継ぎ早に質問するレーアは、やはりまだ完全に冷静さを取り戻したわけではないのだろう。
質問する相手を間違えている。
俺はこの世界に来てまだ日が浅い。
ティファニアはこれまでエルフの森から出たことがないと言っていた。
俺達はレーアがカーテンを開いた窓に近づいた。
そこから眺める景色は見晴らしの良い、美しいものであった。
眼前には海が広がり、水平線まで見渡せる。
下を見れば、入り江に街が広がっている。
どうやら、この部屋は高い建物の一角にあるようだ。
「ここがどこかなんて、俺にはさっぱりわからない」
「私もです」
二人揃ってお手上げ状態である。
「場所はたぶんリンカしかわからないと思う。でも、なぜ明るいかは俺でもわかる。たぶん、ここがエルアルドからかなり遠くて、時差の関係でここは朝なんだと思う」
昼かもしれないが、と心の中でつぶやく。
「時差ってなに?」
レーアの質問に、俺はティファニアを見る。
しかし、彼女も首を横に振るだけである。
「時差って言うのは、今この瞬間ある街では朝だけど、離れた別の街では夜だと言うこと」
「意味がわからないわ。そもそも、私もいろいろな街へ旅したことあるけど、そんなことは無かったわ」
でたらめ言うな! というような顔でレーアが眉間に皺を寄せる。
この癖さえなければ、見た目だけなら完璧なのに。
残念だ。
「うーん・・・・。そうか、そもそもこの世界では転移魔法が発達していないから、この現象を実証することはこの世界に人にはできないのか」
俺だけが納得し何度も頷いていると、レーアの蹴りが背中に直撃した。
「痛って! 何すんだ?」
「何か勝手に納得していてムカつく」
理不尽なことを言ってくる。
くそが!
思わず悪態をつきたくなったが、更なる仕打ちが怖いので我慢した。
俺に、レーアを超える日が訪れるだろうか?
「ところで、一番考えなければならないのは『なぜあのような者達が俺達を襲ってきたか?』じゃないか?」
「それもそね」
「私もずっと考えていましたが、心当たりはありませんね」
「あの小柄で気持ち悪い笑みを浮かべてた奴は、リンカが何者かを知っているようだった。だから、狙いはリンカじゃないか? と俺は思ったんだが・・・」
「それならおかしくない? 冒険者ギルドで依頼が掲載されるのは3日後くらいって言ってたわよね?」
「そうですね。それに、依頼内容は捜索及び、リンカをギルドへ連れて行くことだったと思います。でも、彼らは明らかに私達を殺そうとしていました」
確かにそのとおりだ。
辻褄が合わない。
ギルドの誰かが裏切ったとは思えないし・・・・。
何よりギルドが暗殺依頼など出すはずがない。
そんなことを考えていた時、ふとアナライザーの言葉が思い浮かんだ。
「『やつらの目はどこにでもある』か・・・・」
俺が小さく呟いたとき、リンカがゆっくりと身を起こした。
その姿を見定めているときは、まさかここから予想外の事態になるとは夢にも思わなかった。
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