第60話:突然の来訪者より弱ぇー・・・ part2
更新します。
今週もう一話更新できたらと思ってます。
「まさかとは思うけど、一応聞くわね。あんたが買ったのはこの小麦一袋だけ?」
レーアはこめかみに青筋を立てながら尋ねる。
「・・・・はい・・・・そうです・・・・」
俺は床に正座し、俯いて答えた。
「何でこれだけなのよ! 理由をいいなさい、理由を!!」
怒れるレーアは、床を激しく踏みしめながら問う。
俺はその度に、ビクッと体を強張らせた。
「お金が・・・・・ありませんでした」
「――――――は? そんな訳ないじゃない。あんだけお金もらったのに、ありませんって」
レーアの手は、既に俺の襟首を掴み上げている。
「ベンさんへ渡したのと、この毛皮でお金はほとんど残らなかったんだ。決して、決して無駄遣いしたわけではない。本当だぞ?」
レーアはティファニアとリンカと顔を見合わせる。
「おそらくセリア様の言うことは正しいと思います。セリア様はその、ぼった・・・いえ、なんでもありません」
「あぁー、そうなんですねー。セリアさんの毛皮のコートはぼったくられたんですねー」
余程面白いのか、リンカが俺を指差して笑う。
せっかくティファニアが言葉尻を濁したのに、無駄にしやがった。
「リンカ、俺がぼったくられてそんなに面白いのか?」
「はーい! 面白いです。セリアさんってダンディーなおじさんになりたいんですよねー? かっこつけてるみたいですけどー、やっぱり見た目通りの人なんだって思えて、おかしくってー」
何がつぼに入ったのか、リンカは腹を抱えてテーブルに突っ伏した。
「皆に提案なんだけどいい?」
リンカのおかげで溜飲が下がったのか、レーアは冷静さを取り戻したようだ。
レーアはテーブルに突っ伏したままのリンカは無視し、俺とティファニアを見て続ける。
「このパーティーの共有財産として、今後、報酬の50%を集めたいと思います。どっかの誰かさんみたいに、無駄にお金を使う人もいるし」
レーアがじと目で俺を見る。
「俺は構わない」
「セリア様がいいのでしたら、私も問題ありません」
俺達は残るリンカを見た。
リンカはテーブルに顎を載せたまま、上目遣いに俺達を見る。
そして首を傾げる。
「あのー、私もそのパーティーですか?」
「もちろんよ」
レーアの答えに、俺とティファニアが頷く。
「ありがとうございます。私、パーティーって始めてです」
リンカは本当に嬉しそうな顔をしている。
「と、言う訳で、あんたは有り金全部出しなさい」
レーアが右の手の平を上に向け、催促する。
――――なぜだ?
疑問が頭の中に浮かび上がったが、そもそも大した金額は持っていない。
俺は諦めて巾着袋をレーアへ手渡した。
「・・・・本当にこれだけ?」
レーアは巾着袋をひっくり返し、テーブルの上に俺の全財産を出した。
銅貨11枚。
俺の全財産はこれだけである。
「あぁ、これだけだ」
そう言ってポケットをひっくり返し、もう持ってないことをアピールする。
「あんたさ、どうやってこれから生活するつもりだったの?」
呆れた顔でレーアが言う。
他の二人の顔も、同様であった。
「エルアルドで依頼をいくつかこなせば生活費くらいは稼げるかと・・・・」
「それはもう、難しそうですねー」
お前が言うな! と思った。
「はぁ~、もういいわ。あんたその上着売ってきなさい」
・・・・え? 何だって??
「悪い、ちょっと良く聞こえなかった」
「だーかーらー、その上着売ればまとまった金額になるでしょって言ってんのよ」
こいつマジか。
俺の一張羅を売れって、やっぱり鬼じゃないか。
しかもこの季節にだぞ?
あまりにも酷い。
そう思うと、なんだか泣けてきた。
「後生だから、それだけは勘弁してくれ!」
「だったら、今後はしっかり稼ぐことね」
俺の必死の懇願が効いたのか、どうにか上着だけは死守することができた。
そんなやり取りがひと段落した時、おいしそうな香りが漂ってきた。
見ると、彼女達が注文した料理が運ばれてくるところである。
テーブルに並んだ料理の数々は本当においしそうである。
彼女達はおいしそうにそれらを食べ始めた。
しかし俺はといえば、未だに冷たい床で正座させられている。
「本当にここの料理はおいしいわね」
「えぇ。私は人族の料理の多様性に驚いていましたが、この料理の創意工夫は素晴らしいと思います」
「ですねー。さすがレーアさんです。こんなにおいしい料理が食べられるなんて、私、幸せですー」
くそっ! 本当においしそうに食べやがって。
俺は両拳で床を叩きながら涙を流した。
絶対に、この悔しさは生涯忘れないと固く誓った。
俺は今、宿の自室のベッドの上で座禅を組んでいる。
目の前の床一面には、転移の魔法陣が描かれている。
ことの発端は、先ほどの食事である。
あれだけおいしそうな料理を食べられなかった俺は、無性に腹が空いたのだ。
街の出店でいろいろ食べた。
けれど、俺にはあれだけでは足りなかったようだ。
何かおいしいものを食べたい。
そう思ってもできない理由がある。
それは、金がないのだ。
わずかばかりの小銭さえ、レーアに没収されている。
まさに八方塞である。
そんな時、俺の頭に浮かんだのはベンさんの優しい笑顔であった。
ベンさんに会いたい。
まだ、別れを告げてからそんなに日数は経っていない。
それでも、ベンさんがいかに偉大であったか痛感させられた。
だからこそ俺は魔法陣を描いた。
ベンさんの元へ一時的に帰るために。
座禅を組み、深呼吸する。
クリアになった頭で問題点を洗い出す。
問題点は2つある。
1つは、俺のようなおっさんが、ベンさんのようなおじいさんに会いたくなったから転移したとなると、ぶっちゃけ気持ち悪いと思われないだろうか?
もう1つは、果たして今の俺に転移を成功させるだけの魔力があるか? ということだ。
座禅を組み、目を閉じても答えは出ない。
魔法陣による魔法の発動は、魔法陣の大きさ、魔法陣の術式、そして魔法陣へ込める魔力の大きさが関係する。
俺のように魔力が少ない場合は、魔法陣を大きくし、無数の術式を駆使して魔力の省エネを行わなければならない。
目の前の魔法陣は、部屋一杯を使って書いた。
されらに、これまで俺が培ってきた知識を総動員した術式を組み込んである。
だからこそ、成功させる自信はある。
というか、俺が失敗するはずが無い。
「よし、楽勝だ」
覚悟を決め、魔法陣へありったけの魔力を注ぎ込む。
そして次の瞬間、俺の視界が暗転した。
最後に頭に浮かんだのは、「俺の魔力って少ねぇー」である。
つまり、俺は自分を過信していたのだ。
夜の街に紛れ、彼らは路地裏に集まっていた。
否、彼らが集まっていることを彼ら以外にはわからない。
彼らは屋根の上から、壁と壁の隙間から、窓から、あらゆるところから路地裏を見つめていた。
彼らが見つめる先には、二人の男がいた。
「それで、ニックさんは本当にリンカ・シュタットフェルトを見たんですかぃ?」
朗らかに笑う小柄の青年の問いに、ニックと呼ばれた長身の青年が答える。
「だから、間違いないってさっきから言っているだろ? 俺があいつの卒業証明書を確認したんだからな。それよりも、いつものをくれよ。今回は色をつけてくれるんだろ?」
小柄の青年は、笑顔で金貨の詰まった袋をニックへ手渡す。
「助かるぜ。本当に、あんたにはいつも世話になるなぁ。飲みに行けば酒代は出してくれるし、こうやって門番の仕事ついでに少し話を聞かせれば金をくれるしなぁ」
ニックは袋の中身を確かめながら言う。
ニックの職業は門番である。
その特性ゆえ、街への往来を把握するのは容易である。
だからこそ、その情報を小柄の青年へ売っているのだ。
「それにしても、今回はあんたが興味を持つようなやつがこの街へ来てくれて、お互いに良かったな」
ニックは大事そうに金貨の入った袋をしまう。
「そうですねぇ、探し人の一人ですから、今日は本当に気分がいいです」
小柄の青年は嬉しそうに笑う。
「時にニックさん、リンカ・シュタットフェルトはどこへ向かったか言っていましたかぃ?」
「あぁ、たぶん冒険者ギルドへ行ったと思う。彼女には仲間が3人いて、その3人とも冒険者だったからな」
「3人のお仲間ですかぁ。どんな人達でした?」
「2人が女で、1人が男だ。男はただのおっさんだったが、2人の女は超絶美女だった。しかも片方はエルフときたもんだ。本当に、あの男がうらやましい限りだ」
「エルフ・・・・ですかぁ」
小柄の青年はかみ締めるようにそう呟き、笑顔を浮かべる。
「さて、もらうものはもらったし、俺はそろそろ失礼するぜ」
ニックは手をひらひらと振って、路地裏から出ようとする。
「ニックさん、最後に一つよろしいですかぁ?」
「ん? どうした?」
ニックは立ち止まり、振り返る。
「いえ、大したことではないんですが、その足でどうやって帰るんですかぁ?」
小柄の青年が首を傾げる。
ニックも首を傾げながら、自分の足を見る。
特に異常は見当たら―――――。
「――――え?」
両足の太ももがゆっくりとズレはじめる。
ニックは無様に倒れ込んだ。
同時に、焼けるような痛みが両足を包み込む。
「―――――っん!」
あまりの激痛に悲鳴を上げようとした瞬間、何者かに口を押さえられた。
何者かはそのままニックの喉をかき切る。
鮮血が飛び散るよりも早く、ニックの姿は闇に飲まれ消えた。
残された小柄の青年は絶えず笑顔を浮かべている。
「誰か、そのエルフの居場所を知っていないかぃ?」
小柄の男の問いに、彼らのうちの誰かが答える。
その答えに小柄の青年は満足そうに頷く。
「では、いきましょう。我が同士とともに」
そう言うと彼らは闇に溶け込み、姿を消した。
いかがだったでしょうか?
次回は久々の戦闘です。
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