第59話:突然の来訪者より弱ぇー・・・
少し更新遅れました。
男は冒険者ギルドの入り口に体を預け、気障な体勢で話しかけてきた。
いつものようにカウボーイハットを被り、無駄に渋い声をしている。
間違うはずがない。
「アナライザー、なんであんたがここにいるんだ?」
驚きの声色で問いかける俺に、アナライザーは首を振る。
「確かに俺はアナライザーだが、聖剣の担い手殿とは初対面のはずだが?」
――――は?
何言ってんだこいつ?
頭でも打ったのか?
「いや、ついこの間まで一緒に迷宮へ潜っただろ?」
俺の問いかけにアナライザーが押し黙る。
「ちょ、ちょっと、この人はアナライザーだけど、あんたが知っているアナライザーじゃないわ」
レーアが焦ったように言う。
「そんなばかなー! さすがに、人を間違えたりはしない」
「いやいや、完全に間違えてるから。よく見なさいよ! あんたが知っているアナライザーのカウボーイハットは濃い茶色だったじゃない? 彼のは赤茶色でしょ?」
うーん、そういわれてみれば・・・・。
そんな気もするなぁ。
「じゃぁ、双子か?」
「違うわよ」
「違うな!」
レーアとアナライザーの声が重なる。
「俺達はアナライザーという名前が同じだけで、血はつながっていない」
「嘘だろ!?」
「本当だ。アナライザーはどこのにでもいる。冒険者ギルドがあるところに、アナライザーはいる」
ということはあれか?
アナライザーは2人じゃなくて、もっとたくさんいるということか?
それはちょっと、気味が悪いな。
俺はアナライザーの生態系について問いただしたい気持ちもあったが、ここに長時間居座るのはさすがにまずいと思った。
いつ他の冒険者にリンカのことが知られるかわからない。
そうなれば3日後、あの依頼が公開された際にはエルアルドに彼女がいたとすぐに広まるだろう。
金貨300万枚なら、冒険者が大挙してエルアルド、果てはエルフ族の国へ向かう可能性もある。
それだけは阻止せねばならないので、そろそろ退去しようと思う。
けどその前に、尋ねなければならないことがあった。
「さっきのはどういう意味だ? お前自身のことか?」
「フッ、聖剣の担い手ともあろう者が、そんなことも知らないのだな」
相変わらず腹の立つ言い方だ。
リェーヌにいたのとは別人らしいが、芝居がかった話し方も、小ばかにしたような言い方も同じである。
「俺達アナライザーの対象は主に魔物や迷宮だ。だが、この世の中には、人を対象にした観測者達がいる。やつらの目はどこにでもあるということだ」
俺は振り返って3人に確認する。
ティファニアとリンカは首をかしげ、レーアは顎に手を当て考え込む。
「結局どういうことだ? わかるように言ってくれ」
俺の要望に、アナライザーは首を横に振る。
「残念だが、俺に言えるのはここまでだ」
そう言うと、アナライザーは冒険者ギルドの入り口から離れ、ホールへと向かう。
さっぱり意味がわからない。
ただ、何かを忠告してくれたのはわかった。
そして、それが示すものはリンカであるということも・・・・。
冒険者ギルドから出た俺達は、本日泊まる宿を探すことにした。
冒険者ギルドに併設されている宿舎もあるのだが、他の冒険者に見られる可能性が高いため選択肢には無い。
「やはり西側にある富裕層地区がいいと思うわ。多少値は張るけど、治安はいいし何より設備が他の地区に比べて格段にいいのよ!」
レーアの意見を否定する要素はない。
そもそも、エルアルドのことを俺は良く分からない。
ティファニアやリンカも同様だろう。
それなら、レーアに従うのが正しいと思う。
「私はどこでもかまいません。セリア様が良いと言われるのでしたら、そこへ行きます」
「私は皆さんと違ってそこまでお金があるわけではないから、少し心配ですー」
「大丈夫。リンカの分は私が出してあげるから。こう見えても結構蓄えがあるのよ」
そう言うと、レーアは西の富裕層地区へ向けて歩き始めた。
俺もそれに従うが、途中で気付いてしまった。
やばい。
俺もそんなにお金がなかった。
残りは金貨1枚と銀貨50枚程度である。
良く考えたら、エルアルドで依頼を受けてお金を稼ぐ腹積もりであったのだ。
どうか、俺の所持金で泊まれる宿にしてくれ、と願いながら歩いた。
エルアルドの南側は大きな倉庫が立ち並ぶ。
北側は大陸への輸出ゲートで、東側から中央道路付近までを住居が占める。
そして西側が富裕層が住む地区である。
西側にはこの街の領主や、広大な土地を所持する地主、貿易で富をなした成功者達が住んでいる。
エルアルドの住民は、誰もが西側へ住みたいと望んでいる。
いわゆる、西側に住める者は勝ち組といった認識が根付いているようだ。
だからこそ、西側の宿を目の前にした時は「なるほど」と納得した。
見た目は宿舎というよりは屋敷といった形をしており、清潔感も接客も洗練されている。
「お一人様、一泊金貨1枚と銀貨30枚になります」
最悪誰かにお金を借りようと思っていたが、杞憂であった。
これなら誰かに(レーアに)とやかく言われる心配はない。
「荷物を置いたら、これからの旅に必要な物を補充して食堂に集合でいいわね?」
レーアが取り仕切る。
このチームのリーダーはレーアだったのだろうか?
まぁ、異論はないのだが。
俺達はそれぞれ別れて買出しに行くことになったが、このパーティーの最大戦力であるティファニアへは、それとなくリンカを見守るように指示を出した。
ティファニアはどこか不服そうであったが、頷いてリンカの後を追う。
よし、これでリンカに何かあっても大丈夫だろう。
さて、俺も旅に必要なものを補充するか。
まずは非常食だな。
中央道路へと足を運ぶ。
先ほど通ったときは夕暮れであったが、今はもう日が完全に落ちている。
そうなると、出店に並んでいる商品は農作物や果物ではなく、調理した料理が並ぶ。
おいしそうな匂いに釣られ、出店の中をのぞく。
そこには小麦を練って焼いたものに、肉などを挟んだ食べ物があった。
ゴクリ。
自然と喉がなる。
これは美味そうだ。
というか、美味いに違いない。
「これを一つくれ」
「まいど! 銀貨5枚だ」
結構高いな、と思いつつお金を払い食べ物を受け取った。
一口食べると肉汁があふれてくる。
甘辛く煮込んだ肉と、小麦で作られたナンが良く合う。
すぐに食べ終わった俺は、他にも何かおいしそうなものが無いか探し始めた。
腹も膨れたので、旅の非常食を買おうと店に入った。
乾燥した果物や、米、小麦などが売っている。
その種類もリェーヌとは比べ物にならないほど豊富である。
とりあえずいろいろ買ってみようかと思った。
しかし、お金の入った巾着袋を覗き、俺は驚愕した。
なぜか銀貨2枚と銅貨が少ししか入っていない。
「・・・・」
とりあえず一番安価な小麦を一袋購入した。
これで残金はほぼ0である。
だがまぁ、小麦を水で練れば簡易的な非常食にはなる。
これで耐え忍ぶしかないだろう。
最悪、お金を借りることを考えながら宿への帰路についた。
「遅い」
俺が宿の食堂へついた時には、すでに皆が揃っていた。
リンカとティファニアの様子を見るが、別段変わった様子はない。
少し安心して、空いている椅子に座る。
周りを見渡すと、俺達以外にも客は大勢いた。
誰もが高級そうな服を着て、おいしそうな料理に舌鼓を打っている。
まぁ、見た目だけなら俺達も負けていない。
レーアもティファニアも人目を惹く容姿をしている。
更に着ている上着は高級素材でできている。
リンカの容姿も並以上であるし、2人に比べて劣っているとは思わない。
後は俺だが、俺だって緋狐の毛皮で出来たコートを着ている。
例え見た目がおっさんでも、それだけで上流階級のように思われるだろう。
たぶん・・・きっと・・・・。
「それじゃぁ、皆揃ったことだし、何か食べましょう。ここの食堂の料理ってめちゃくちゃおいしいって評判だったから、一度来てみたかったのよ」
レーアがうれしそうにメニューを見て、何を注文するか吟味している。
リンカもティファニアも腹が空いたようで、メニューを凝視している。
しばらくすると、3人とも料理が決まったようで店員を呼び注文した。
「あんたは何も食べないの?」
レーアの問いに言葉が詰まった。
ここで、先ほど出店で食べたと言えばレーアが怒り出しそうなきがする。
だからと言って注文しても払えるお金はもうない。
そう考えると、選択肢は無かった。
「いや、俺はいい。先ほど出店で食べてしまった」
「あぁ、そう」
予想に反して、レーアの態度は淡白であった。
もしかしたら、ここの料理を食べないなんて馬鹿だな、とでも思われているのかもしれない。
料理を待つ間、これからの話をした。
明日には西の森へ向けてエルアルドを出ることを再確認する。
「ところで、あんたはちゃんと旅の用意をしてきたんでしょうね?」
レーアがじと目で俺を見る。
「あ、当たり前だろ」
「ふ~ん、てっきり出店で食べてばかりで、準備できてないとか言うんじゃないかと思ったわ」
レーアの考えたことは、ほとんど合っている。
だが、ここで肯定することなどできるはずが無い。
「そんなわけないだろ。旅の非常食も買ったし、いつでも出発できる」
「へ~、じゃぁ、見せてよ」
レーアはまだ俺を疑っているようだ。
くそ、小麦一袋しか買っていない。
俺は料理が来ないかと横目でみるが、店員の姿は見えない。
これは、まずい。
「早く」
俺は仕方なく、小麦を一袋テーブルの上に置いた。
皆、黙って俺が次に購入した物が出てくるのを待つ。
だが、出てこない。
出てくるはずがない。
俺はこれしか買ってないのだから。
見ると、レーアの顔が見る見る鬼の形相へ変わっていく。
どうしようかと思ったが、もう素直に怒られるしかないと腹を括る俺であった。
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次回は西の森へ向けて旅立ちます。
お楽しみに。




