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第57話:俺の立場が一番弱ぇー・・・ par2

投稿します。今週中にもう1話投稿予定です。



 エルアルドとリェーヌの冒険者ギルドの外観と立地がよく似ている。

街の中央に位置し、面する大通りは人の往来が激しい。

ただし、似ているのはそれだけだ。

エルアルドの冒険者ギルドへ実際に訪れる人の数は非常に少ない。

理由はもうわかっている。


 建物内の造りも似ていた。

酒場の併設、依頼掲示板、受付のカウンターがある。

今すぐにでもサムウェルがため息混じりに現われそうだとさえ思えた。


 俺がそんな感想を抱いていると、レーアがすたすたとカウンターへ向かう。

元ギルド職員のレーアなのだから、知り合いでもいたのだろう。

そう思い、俺達もレーアに続いた。


「久しぶりです。マチルダさん」


 レーアが声をかけたのは、一人の年配の女性であった。


「おや、レーアじゃないですか。休職したと聞いたんだけど、どうしたんですか?」


 マチルダは丸縁眼鏡をした物腰の柔らかい女性であった。


「えぇっと、その、休職したのは見聞を広げたいからでして、その・・・・」


 レーアがしどろもどろに応える。

その態度に違和感を覚えた。

まるでサムウェルと接しているような、そんな奇妙な感覚である。

この人、何者だろうか?


「わたし別に、責めてるわけじゃないんですよ。むしろ、レーアはまだ若いのだから自分の思うがままに行動してみるのもいいかもしれないと思っています」


 マチルダが笑顔を絶やすことなく、ゆっくりとした口調で言う。


「あ、ありがとうございます」


「ところで、そちらの方々が旅の仲間ですか?」


 マチルダが俺達に視線を向ける。


「ふむふむ。漆黒の剣、青銅級、そしてレーアと一緒ということはあなたが聖剣の担い手ですか?」


 マチルダの視線が興味深そうに俺を捉える。

まさか、この街にまで俺の噂が流れているとは・・・・。

思わず頭を抱えて座り込みたくなる。


「ちょっと、マチルダさんが聞いてるのに何でだまってるのよ?」


 黙ったままの俺の袖をレーアが掴み揺さぶる。


「なんと答えていいかわからなくて・・・・」


「そんなの、イエスか、はい、しかないでしょうが!」


 マチルダから見えないように、レーアが俺を睨みつける。

というか、肯定しか選択肢は無いのかよ。


「ギルドマスター、お話中のところ申し訳ありません。領主様がお見えです」


「わかりました。今行きます」


 一人の若い女性がマチルダへ話しかけた。


「皆さん、話の途中で申し訳ありません。来客がありましたので失礼いたします。レーア、また時間があるときに尋ねていらっしゃい」


 そういうとマチルダは俺達に背を向けて、冒険者ギルドの建物の奥へと消えていった。


「マチルダさんって、ギルドマスターなんだな」


 俺はポツリと呟いた。


「そうよ。冒険者ギルド唯一の女性ギルドマスターよ」


 レーアが誇らしげに胸を張る。


「あのー、ギルドマスターってなんですかー?」


 リンカが首を傾げる。


 こいつマジか・・・。

まさかギルドマスターを知らないとは思わなかった。


 レーアも同様の感想を抱いたようで、眉間に皺を寄せ、額に手を当てていた。


「ギルドマスターというのはですね、それぞれの街にある冒険者ギルドで一番偉い人ですよ」


 ティファニアが人差し指を立てながらリンカに説明する。

簡潔に言えばそうであるが、それだけではないと思う。


 そう思っていると、案の定レーアが補足を口にした。


「ギルドマスターは、王都にある冒険者本部からその街の責任者として委任を受けた方のことよ。つまり・・・」


「委任ってなんですかー?」


「委任と言うのは、本来冒険者本部が有している権限を与えるってこと。だから、ギルドマスターには冒険者本部の権限があるから、現場で即座に判断できるってこと」


「冒険者本部の権限ってなんですかー?」


「冒険者本部の権限というのは・・・・」


 レーアの表情が次第に曇り始める。

これは怒りを溜め込んでいるときの顔だ。

最近になってそれがわかるようになってきた。

危険察知能力の向上である。


「申し訳ありませんが、用がないようでしたら他で話をしていただけないでしょうか?」


 先ほどマチルダと交代した若い女性が口を開く。


 群青色の髪をした彼女は、少し釣りあがった瞳に横長の眼鏡をしている。

口調も声色もどこか冷たい印象を受ける。


「ちょっと、イーリス。少しは愛想良くしなさい」


 レーアが目の前の若いギルド職員へ返事をする。

どうやら、彼女の名前はイーリスと言うらしい。


「レーア先輩、今は仕事中です。仕事の邪魔をする方に愛想良くする必要はないと思いますが?」


「邪魔って・・・・」


 レーアの顔が引きつっている。

このイーリスという女性は、見た目通りに毒を吐くようだ。


 このままではレーアがキレると思い、口を開いた。


「イーリスさんと言ったか? 悪いな。実はリェーヌの街から来たのだが」


「知ってます」


「うっ・・・・。そ、それで、少しこの街に滞在しようと思っている。その間依頼をいくつか受けるつもりだ。だから・・・・」


「依頼ならあちらの掲示板にあります。どうぞ」


 イーリスがさっさと行け、と言うように掲示板を指差す。


 どうやらイーリスは人の話でも関係なく会話をぶった切る人間のようだ。

冷たく言い放たれれば、続きが言い辛くなる。

それを仕事が早いと勘違いしているのではないだろうか?


「依頼は受けるんだが、このリンカの冒険者登録をしないといけない」


「それならそうとはじめから言ってください」


 こいつ・・・・。

普段温厚な俺でも、一瞬レーアのようにキレそうになった。


 レーアを見ると、腕を組んであからさまに機嫌が悪そうだ。


「それではリンカさんとおっしゃいましたか? お名前と年齢を教えてください」


 イーリスは俺達の様子に気付くことなく話を続ける。


 そしてここにもまた、周囲の反応をよく読めていない人物が居た。


「イーリスさん、名前ってフルネームですかー?」


 俺は当たり前だろ! っとツッコミそうになった。

イーリスが無表情で頷く。


「ではー、私の名前はリンカ・シュタットフェルトです。歳はー、23歳ですー。好きな食べ物は甘いお菓子です」


 好きな食べものなんて聞いてねぇ・・・・ん? シュタットフェルトってどこかで・・・・。


「リンカ・シュタットフェルトですね・・・・。リンカ・シュタットフェルト!! リンカ・シュタットフェルトって、あのリンカ・シュタットフェルトですか? 仮想領域システムの、あのリンカ・シュタットフェルトですか??」


 先程までクールであったイーリスの表情が変わった。

驚きに目を見開いて、口を半開きに開けている。


 なんだ? リンカって有名人なのか??


「あんた、リンカってリンカ・シュタットフェルトだったの?」


 レーアまで驚いている。

俺とティファニアは完全に蚊帳の外で、お互いに見合っては肩をすくめた。


「えーと、私はリンカ・シュタットフェルトですがー、どうかされたんですかー?」


 当の本人は全くわかっていないようだ。

可愛らしく小首をかしげている。


 そんな様子を見て、俺としては彼女の名前よりも彼女の年齢について話し合いたい。

見た目はどう見ても16、7歳である。

だが、体の一部分だけを見れば、23歳という年齢でも納得できる。

うん、納得だ。


「リンカさん、今からいくつか質問しますがよろしいですか?」


 やっと平静を取り戻したイーリスが、リンカへ話しかける。


「はーい、大丈夫ですよー」


 リンカは相変わらずマイペースである。


「ではリンカさん」


「はーい」


「あなたのお名前はリンカ・シュタットフェルトで間違いありませんね?」


 イーリスは本日何度目かの質問をする。


「はーい」


「年齢は23歳でお間違いありませんか?」


「はーい」


「は!? え?? リンカって23歳だったの? 私より年上!?」


 レーアが驚きの声を上げる。

これまでどう見ても年下と接するように、リンカと接してきた。

だからこそ、驚きも一入である。


「昨年のシュタットフェルト魔法学院を首席で卒業で、間違いありませんか?」


「はーい、そうですね」


 シュタットフェルト魔法学院? シュタットフェルト??


「そ、そうですか。すみませんが、証明できるものを何かお持ちですか?」


「えっとー、卒業証明書があります」


 リンカはそう言うと、先ほどエルアルド入り口の門で見せた紙を取り出した。


 受け取ったイーリスがそれを何度も確認する。


「確認が取れました。ありがとうございます」


「いいえー」


「リンカさん。シュタットフェルト魔法学院を卒業した方は、その成績によって冒険者ギルドに登録する際のランクが決まります。あなたの冒険者ランクは黄金級ですが、そちらでよろしいでしょうか?」


「えっーと、冒険者ランクって何ですか?」


「冒険者ランクとは、強さ、信用、貢献、人となりを考慮し、厳正な審査によって与えられるものになります。また社会的地位の保証も、このランクによって決定します」


「わかりました。では、それでお願いしまーす」


 リンカ、絶対わかってないだろ・・・・。

本当に首席で卒業したのだろうか?

不思議だ。


「それにしても、リンカの名前がシュタットフェルト魔法学院と同じってことは、シュタットフェルト魔法学院を卒業したら皆なシュタットフェルトになるのか?」


「はぁ? あんたバカじゃないの? そんな訳ないじゃない」


 俺の素朴な質問に、レーアが答えた。


「彼女はシュタットフェルト魔法学院の理事長の孫に当たります」


 イーリスが冷静に答える。


「理事長の孫か・・・・。それってすごいんじゃないか?」


「あのですね、リンカさんはすごいどころじゃないんです。百年に一人の天才と言われ、新しい魔法理論を次々に開発し、古代魔法の解析さえ行っていたんですよ?」


「く、詳しいですね」


 イーリスが早口でまくし立てる。

この子、冷静なときと興奮した時の差が激しすぎる。

情緒不安定か?


「そういえば、仮想領域システムと聞こえましたが、新しい魔法でしょうか?」


 ティファニアが興味深そうにリンカへ尋ねる。


「仮想領域システムはですねー、魔法を司る器官の脳を仮想に設定して複数の魔法を同時に発現できるようにするという魔法理論のことですよー」


 笑顔のリンカから説明を受けるが、さっぱりわからない。

ティファニアの方を見ると、どうやら彼女にも理解できないようだ。


「リンカ、さっきの説明ではさすがに意味がわからない」


「やっぱりそうですよねー。この説明をしてもわかってくれた人っていないんです・・・」


 俺が肩を竦めると、リンカが困ったような顔をした。


「もう少し詳しく説明すると、魔法というのは脳から発現しているとされていまーす。だから、複雑な魔法を2つ以上同時に扱うことはできないんですよ。だって、脳は1つですから。そこで考えたのが、仮想の脳を魔法で設定すれば、複数魔法を使えるのではないか? ということでーす。私はそれを使って、自分の脳以外にも2つ作ることができるようになりましたー」


 うーん、今一よくわからない。

ただ、わかったこともある。


「つまり、複数魔法を同時に展開できるってことだろ?」


「そうでーす」


「それなら俺もできると思うが?」


「そうなんですかー?」


 リンカが驚きの声を上げる。


「条件付けって言って、ある条件下に置かれた場合特定の魔法を発動する、という風に意識付ければできる」


「条件付けですかー。ふむ、なるほど。それは一考の価値があります。ふむ、ふむふむ・・・・」


 俺の言葉に、リンカが考え込む。

更に、鞄から羊皮紙を取り出し、何かを書き込み始めた。


「冒険者登録が終わりました。こちらが冒険者の証です。あのー、リンカさん? リンカさん?」


 イーリスが声をリンカに声をかけるが、全く反応がない。


 俺達もどうしていいのかわからず黙っていると、マチルダが戻ってきた。


「あら、レーア達はまだここにいたの?」


 マチルダが立ち去ってからまだ数分しか経っていたいにも関わらず、彼女は疲れ切っていた。


「どうかされたんですか?」


「そうね、あなたたちも知っておいたほうがいいですね。この後、掲示板に張り出すのだし。実はある依頼が冒険者ギルドへ出されました」

楽しんでいただけましたら、是非ブックマーク、評価をお願いいたします。

また、感想もおまちしておりますので、よろしくお願いいたします。

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