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第56話:俺の立場が一番弱ぇー・・・

 更新を再開します。

皆様、大変お待たせしました。



 『エルアルド』の街へたどり着くのは夕暮れ時とのことだ。

休憩を挟みながらとはいえ、決して快適とは言えない道の上を馬車が疾走するのだからどうしても体に負担がかかる。

持病の腰痛を振動が刺激し、更なる深みへと誘おうとする。

そんな状況を打破するため、俺はレーアを見つめた。

もちろん、ポーション目当てである。


「何よ?」


 まだ何も言っていないのだが凄まれた。


 先程まで出掛かっていた言葉を飲み込んでしまう。

こうなってはもう、言うに言えない。

心の中でため息を吐きつつ、レーアへ首を横に振って応えた。


 レーア、ティファニア、リンカを順番に見るが、特に疲れは見えない。

当然、腰が痛いのは俺だけだろう。

これが、若人との差かと落胆する。

その差を埋めるには、やはりポーションが必要だ。


 俺は恥を承知で、再度レーアを見つめた。


「だから、何?」


 どうやらレーアの機嫌は悪いようだ。

俺はまだ、何もしていないというのに・・・・。


「ちょっと腰が痛くて、ポーションもらえないか?」


 頭の後ろをかきつつ、にこやかにポーションを要求する。


「・・・・ないわよ」


「え?」


「だから、ポーションは無いのよ」


「なん・・・だと・・・・」


 俺は腰をさすりながら落胆した。


「原料はあるのよ。採取したから。でも、それをポーションにする時間がなかったのよ。・・・・というか、私は腰が痛いからってポーションに頼るあんたに呆れたわ」


 ぐうの音も出ないとはこのことであった。

グリフォンの被害を受けた際、村のけが人達にポーションを惜し気もなく使った。

それにより、どれだけの人の命が救われただろう。


 それに比べて俺は、ただ腰が痛いと言う身勝手な理由でポーションを使おうとしている。

レーアからしてみれば呆れるのも当然である。

というか、すでに諦めから侮蔑へと変わっているようだ。

視線が痛い。


 仕方がないか。


「ところで、リンカはこれからどうするの?」


 先ほどから、馬車の振動を眠気に変えていたリンカへレーアが尋ねる。


「どうしましょうかー。エルアルドで王都行きの商隊に、一緒に連れて行ってくれないか聞いてみようかと思います」


「それなら私達と来ない? あんたの魔法は役に立つだろうし、私達も王都へは行くだろうから」


「いいんですかー?」


 リンカが俺とティファニアへ顔を向ける。


「俺は別に構わないが」


「私はセリア様が良いのでしたら、何も言うことはありません」


「決まりね。これからもよろしく」


 俺とティファニアの意見を聞き、レーアが笑顔で言う。


「はい、よろしくお願いしまーす」


 レーアとリンカはエルアルドへ着くまでの間、自己紹介やこれまでのことを話している。

時々ティファニアも相槌を打っている。


 俺はといえば、エルアルドへ着くまでの数時間、ひたすら腰の痛みを耐えるのであった。




 エルアルドはリェーヌの南に位置する街である。

街の規模はややリェーヌに劣っているが、非常に活気がある。

リェーヌが海路の交易拠点であるなら、エルアルドは陸路の拠点である。

それゆえに、エルアルドの周辺の村々では農作物の栽培が盛んである。

特に、エルアルドの南側には広大な田畑が広がっている。

もし、今が冬でなければ壮観な景色を見ることができたはずだ。

非常に残念である。


 俺は腰をさすりながらエルアルドの門を見つめていた。

リェーヌの門より高さは低いが、その分横に広い。

門を通るために並ぶ人々を見ると、積荷を大量に積んだ馬車が多い。

穀物や野菜といったものが多いようだ。

そんな光景を見ながら順番になるまでの間、俺は思慮にふけっていた。


 そもそも、俺は北東のアスラスを目指している。

そこへ行けばもしかしたら、あのダメ女神と連絡が取れるかもしれないからだ。

それにも関わらず、リェーヌからさらに南へ向かっている。

遠くなることはもどかしいが、こればっかりは仕方が無い。

まずはエルフ領へ行く。

それがティファニアとの約束だからだ。


「次の方どうぞ」


 門番に呼ばれ、俺達の番になった。


「それでは身分を証明出来る物を出して」


 ここで言う身分を証明出来る物とは、冒険者ランクを表すタグや、通行許可書、通商許可書といったものである。

 俺は首に下げているタグを門番へ見せた。

先日もらった青銅でできたそれは、まだ新しいため鈍く輝いている。


「青銅級冒険者ねぇ・・・・。エルアルドへは何をしに来たんだ?」


 なぜか門番が詰問口調へ変わった。


「ちょっと西の方に用があって、通りがかっただけだが?」


「それはおかしい。西には広大な森が広がっているだけで、何も無いはずだ。それに近隣の冒険者は皆、迷宮攻略のためリェーヌへ終結しているはずだ。冒険者ギルドでも推奨されていた」


 門番がじと目で俺を睨みつける。

明らかに疑っている。


「すみません。冒険者ギルドは迷宮攻略の推奨をしているのであって、強要はしていないはずですが?」


 このままでは埒が明かないと、レーアが口を開いた。


「あなたは、確かリェーヌの・・・・」


「はい、リェーヌの冒険者ギルドに務めていたレーアです。何度かここへは来たことがあります」


「そうでしたか。これは失礼しました」


 門番が頭を下げる。

なんか、俺との対応の差を感じるな。


「いえ、大丈夫です。それに今は冒険者ギルド職員ではなく、一冒険者です」


 そう言ってレーアは黒鉄級のタグを門番に見せた。


「はい、確認しました。お通りください」


 そう言って頭を下げる。


「ちょ、ちょっと。それはおかしい!」


 俺が横から口を挟むと、門番が睨みつけてくる。


「彼女は身元がしっかりしているからな」


「いや、俺もしっかりしてるだろ? 青銅級だぞ?」


 そもそも黒鉄級は新人、鋼鉄級は一人前、青銅級はベテランといったくくりになるはずだ。

ならば、俺の方がギルドから立場を保障されている。


「わかったわかった。あんたも通っていいから」


 釈然としないままティファニアとリンカを待つ。

ティファニアは大丈夫だろう。

なんといっても黄金級冒険者なのだから。

リンカはどうだろうか?

そういえば冒険者の登録とかしているのだろうか?

確認したことがなかった。


「お、黄金級!? ど、どうぞお通りください」


 案の定、問題なく通行できた。

ただ、門番はティファニアの純金でできたタグを見せられ絶叫した。


 続いてリンカの番である。


 リンカは、荷物の中から何か書状のような物を取り出して門番に渡した。

すると門番は何度か頷き、通ってよし! と手で指し示した。


 これで俺達4人は、無事エルアルドの街へ入ることができる。


「なぁ、あんた」


 エルアルドの街へ向けて歩き出していた俺達に門番が声をかけた。


「俺か?」


「そうだ。あんたはこんな別嬪さん達に囲まれてるが、ヒモか?」


「はぁ? そんなわけねーだろ!」


 何言ってんだこいつ。

俺もベテラン冒険者だって、青銅のタグ見せただろ。

横目でレーアを見ると、腹を押さえて笑っている。

それが更に俺の怒りを増長させる。


 俺は足を踏み鳴らしながらエルアルドの街へ向かった。


 ちなみに、白銀級は一流冒険者、黄金級は超一流冒険者、それ以上の階級は伝説の冒険者と認識されている。



 エルアルドの街中を歩けば、リェーヌとの違いを改めて確認させられる。

エルアルドの主要道路は幅が広く、そこに面しているのはほとんどが農作物を売っている店である。

しかし、一旦側道へ入ればそこは狭く薄暗い。

どうやら側道に入れば、そこにある建物のほとんどが住居のようだ。


 更に視線を遠くへ向ければ、大きな建物が見える。

見るからに倉庫のようであるから、そこに農作物という商品を保管しているのだろう。


 俺達は主要道路を通りながら、店を除いては品揃えを確認している。

今はもう夕刻であるから、野菜などはほとんど置いていない。

変わりに、果物だけはどの店にも豊富に置いてある。


「このカンラミは冬の果物だけど、ここまでたくさんの種類を見たのは初めてよ」


 レーアはカンラミと呼ばれる橙色の果物を見比べている。


「おいしいですよねー」


 リンカはそう言うと、カンラミを三つ店員に手渡して購入した。


「人族のカンラミとエルフ族のカンラミでは大きさも色も違うようですね」


 ティファニアも興味深そうにカンラミを手にとっている。


 ちなみに、カンラミは一つ銀貨1枚である。

俺も欲しいのだが、無駄遣いできるほどの余裕はない。


 俺はレーアとティファニアの買い物が済むまで、リンカと待つことにした。

そのリンカだが、おいしそうにカンラミを口いっぱいに頬張っている。

少しくらい分けてくれてもいいと思うのだが・・・・。


 待っている間、店の客達がレーアとティファニアを見ていることに気がついた。

いや、店だけでなく通りを歩く人々(ほとんどが男)も彼女達を見ている。


「やはり、目立つなぁ」


「何がですかー?」


 俺の独り言にリンカが尋ねる。


「あ、あぁ。あの二人ってどこでも注目を浴びるなぁと思って」


「そうですよねー。二人とも美人ですからねー」


 そういうリンカを見つめるが、彼女もあの中に入れるだけの容姿はある。

ただ、少し幼いだけだ。

後数年したら、間違いなく美人の仲間入りだろう。


「お待たせしました」


 ティファニアとレーアが袋を抱えて戻ってきた。

袋にはカンラミが一杯に入っている。


「あんたは買わないの?」


 レーアが不思議そうに尋ねる。


「あ、ああ。まぁ、今はいい」


 本当は欲しかったが、お金がないとは言えない。

男の見栄というよりも、お金がないことへのレーアの怒りのほうが怖かった。


 俺達は冒険者ギルドを目指して歩いた。

レーアが何度か来たことがあるようで、迷うことなく道を進む。


 すれ違う人が俺達を見ている。

もしかして、毛皮だろうか?

俺も含めて、ここまで立派な毛皮を着ているとどこかのお金持ちにしか見えないだろう。

もっとも、リンカだけは薄手のコートを着ている。

寒いだろうし、今度おそろいのものを用意してあげたい。

先立つものがあればの話であるが。


 俺がそんなことを考えていると、エルアルドの冒険者ギルドに到着した。


面白い、続きが見たいと思った方はブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。


今後の更新ですが、2、3日に1回更新する予定です。

無理ないようにゆっくりしていきますので、あしからず。

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