第55話:少年の涙に弱ぇー・・・
更新大変遅くなりました。
落下する俺の後を追うように、グリフォンの墜落が始まった。
グリフォンの瞳の光は消えていることから、葬ったことが確認できる。
ただ、このままでは俺も別の意味で後を追いそうである。
どうにかして着地しても、グリフォンの巨体に押しつぶされるだろう。
宙での方向転換や、針路移動といった技能は残念ながら持ち合わせていない。
助かる方法はないかと考えている間に、地面にどんどん近づく。
これはさすがにやばいと思った瞬間、俺の体が淡く光り始めた。
そして次の瞬間には、転移魔法陣の縁に腹から着地した。
「ぐふぅ・・・・」
情けない声が漏れる。
同時に、少し離れた場所でグリフォンが墜落する音が響いた。
どうにか勝つことができた。
しかし、もう二度とあのような策を用いることはないだろう。
自分自身の力で死を回避できない策など、ただの自殺行為である。
「セリア様、さすがです」
ティファニアが羨望の眼差しを向けてくる。
ありがたいことだが、あそこまで高く転移させる意味があったのか問いただしたい。
だが、その前に聞かなければならないことがある。
「ところで、リンカは何をしてるんだ?」
リンカは明らかに気絶しているレーアを木の幹に縛り付けているところである。
「この人やばいんですー。いきなり中年がどうとか言って殴りかかってきたんですよー」
あぁ、うん。
それはお前のせいだからな。
レーアがあまりにも不憫で、顔を覗きこむと白目を剥いている。
これは、絶対に見てはいけなかったやつだ。
まったく、リンカはどうやって失神させたのだろう。
「ティファニアはグリフォンの様子を見てきてくれ。リンカは辺りの警戒を頼む」
「了解です」
「わかりましたー」
二人の返事を確認すると、俺はレーアの額に手を置く。
「我が魔力を糧とし、彼の者を浄化せよ。ライニーング」
手の平に魔力が集まり、レーアへと流れていく。
しばらくすると、レーアの意識が戻る気配がした。
もう少しだな。
レーアが覚醒すると、目の前にいる俺を見つめる。
額に手を当てられている状況に戸惑っているようだ。
「大丈夫か?」
心配そうに尋ねる。
応えは拳で返ってきた。
「人が倒れている間に、何してんのよ!」
予備動作なしの一撃であったが、十分な破壊力を宿している。
それが俺の鳩尾へクリーンヒットした。
「ゴッホ・・・・」
俺は鳩尾を押さえて蹲った。
あまりにも理不尽すぎる。
これならリンカのように縛ったままのほうが良かったかもしれない。
いや、そうしたら殺されていただろうなぁ・・・・たぶん。
少し離れたところにいるリンカを横目で見ると、こちらを凝視している。
しかも顔には恐怖の色が浮かんでいる辺り、どうやらリンカもレーアから恐ろしい仕打ちを受けそうになったようだ。
レーアは辺りを確認し、自分の記憶を辿るように腕を組む。
錯乱していた間の記憶はおぼろげであり、まだ状況を把握できていないようだ。
「グリフォンは?」
「たぶん、倒した」
俺の答えに、レーアが目を大きく見開く。
「あんたが?」
「いや、最後はティファニアだ」
「そう・・・・」
納得したようにレーアが頷く。
俺達はティファニアがいるところへ向かった。
十分周囲を警戒しているが、魔物の気配は全く感じられない。
最初に凍らせたのと、戦闘に巻き込まれた魔物もいただろう。
それで全滅・・・・とはさすがに虫が良すぎるか。
ティファニアの元へたどり着く。
目の前には巨大なグリフォンの亡骸が横たわっている。
「どうしますか?」
「そうだなぁ。まずは、あの村へ転送するか。それからリェーヌの街へ再度転送する」
「わかりました」
まずは先程の村へ、このグリフォンの亡骸を見せたい。
俺達がいくら倒したと言っても、目の当たりにしなければ説得力がないだろう。
それに、このグリフォンに親しい人を殺された者には、見る権利があるはずだ。
俺は地面に魔法陣を描きながら、ティファニアへ魔物の探知を頼む。
「この周辺には魔物はいません」
ティファニアの探知にもかからないのなら、本当にこの周辺には魔物がいないのだろう。
それなら、レーアの提案した魔物を寄せ付ける薬を使用しても効果は期待できそうにない。
俺達はこれ以上の魔物の討伐を諦め、村への帰還を決めた。
その際、グリフォン以外の魔物の亡骸もいくつか一緒に転移するため集めた。
「じゃぁ、戻るぞ。ティファニア、準備はいいか?」
「はい。いつでも」
レーアとリンカへも確認のため視線を向けると、二人とも頷いた。
「頼む」
短くそう言うと、ティファニアが魔法陣へ魔力を注ぎ込む。
体が淡く光り始めると、次の瞬間には先程の村の前へと移動した。
転移すると、突然グリフォンが現われたことに村の人々は恐怖に慄いた。
しかし、その傍らに俺達がいるのと、グリフォンが全く動かないことから状況を理解したようだ。
すぐに俺達の周りに人だかりができる。
「本当に、倒していただけたのですね。村を代表して感謝申し上げます」
村長の妻が深々と頭を下げる。
「顔を上げてください。我々は冒険者で、魔物を狩りるのは当然のことですから」
レーアが慌てて彼女に声をかける。
「これで、少しは死んでいった者たちも浮かばれるでしょう」
そう言った彼女の目元には涙が滲んでいた。
俺は周囲を見渡すと、涙を流しているのは彼女だけではなかった。
集まっている者、皆が泣いていたのだ。
その姿に心が痛む。
やはり、俺達がもう少し早くここへ来ていればと思わずにはいられない。
歯を食いしばると、奥歯がギリっと音を立てた。
自分自身の不甲斐なさに悪態をつきたくなる。
そんな時、視界の隅をあの男の子が横切った。
男の子はグリフォンの前に立っていた。
自分の何倍もの大きさの魔物を見つめている。
「何で、この村を襲ったんだよ。・・・・父さん、母さん、ミカを返せよ。皆を、返して、くれよ・・・・」
男の子は最初はすすり泣くように泣いていたが、堰を切ったかのように大声で泣き始める。
これまでは村のためにやることがあり、家族の死に向かい合うことができなかった。
しかし、いざ目の前に元凶とも言うべきグリフォンの死骸が現われたことにより、初めて家族の死を実感してしまったのだろう。
その姿を見て、俺はかつての自分と重ね合わせていた。
「どれだけ・・・・、どれだけ願ったとしても、全てを救うことはできない。水面から手で水を掬うように隙間からこぼれ落ちてしまう。どれだけ悔やんでも、もう取り戻すことはできない。それでも俺達、人は、前へ進まなければならない。今が辛くても、苦しくても、それを乗り越える力が人にはあるのだと俺は思っている。だから今は泣いてもいい。思う存分泣いて悲しんだら、また歩き出せばいいんだ」
男の子の肩に手を置き、語りかける。
かつて、初めて転生した二つ目の世界で、俺は誰も死なせたくないと前線に立って戦った。
全てを守りたいと願い、自らを鍛え上げた。
どれだけ強くなっても理不尽に大切な人の命が奪われる。
その度に自分の無力さを実感させられた。
男の子の姿はあの時の自分によく似ている。
男の子の嗚咽が更に大きくなり、俺は彼を軽く抱きしめた。
父親の代わりにはなれない。
けれど男の子の涙に、そうしてやらなければという思いに駆られた。
そんな俺達の姿をレーアが静かに見つめていた。
何も言わず、黙ってただ見つめられる。
だから俺も問いかけることはしなかった。
「この魔物たちはどうするのですか?」
男の子が泣き止んだ後、村長の妻が尋ねた。
「グリフォンはリェーヌの街へ転送する。報告と、できるなら支援を依頼しなければならないからだ。他の魔物は、この村の食糧などにして欲しい」
「感謝いたします」
俺がそう言うと、彼女が感謝の意を示した。
ティファニアを呼び、地面に魔法陣を描く。
いつの間にかリンカも近くにいる。
どうやら、彼女もリェーヌへ同行するようだ。
――――なるほど。
リンカはこんな調子でリェーヌへ戻っていたのか。
これでは旅など一向に進まないだろう。
俺、レーア、ティファニア、リンカはグリフォンの亡骸と共にリェーヌの南門の側に転移した。
驚いた衛兵が走って向かってくる。
「またあんたか!! しかし、今度はえげつないものを持ってきたなぁ・・・・」
衛兵が呆れながらグリフォンを見上げている。
それから仲間へ冒険者ギルドへ報告するように伝えている。
程なくして、ギルドマスターであるサムウェルが全力疾走でやってきた。
そしてグリフォンの亡骸を見て、目玉が飛び出るくらい大きく目を見開き、顎が外れるくらい口をあんぐりと開けた。
「やるだろう、やろうだろうとは思っていたが、存外早かったな。しかも、こいつはAAランクの魔物じゃねーかよ。あんた、これ、どうするんだ?」
「こいつの素材を売却した費用で、近隣の村の復興を支援して欲しい」
「・・・・訳けありのようだな」
サムウェルは衛兵の待機所を借り、俺達をそこへ案内した。
待機所に着いたとき、サムウェルがリンカに気付き何かを尋ねようとした。
しかし、その前にレーアが今回のあらましを話し始める。
「つまり、迷宮攻略のために冒険者がリェーヌへ集まったことが発端というわけか・・・・」
概要を聞き、サムウェルが口を開く。
その声色は悲痛であり、難しい顔をしている。
腕を組み、深く息を吸う。
「迷宮攻略が重要であると理解している。だが、少しは近隣のことも念頭に置いて欲しい」
「わかった。今回は、俺の考えが足りなかったようだ。被害を被った村へは直接謝罪しに行こうと思う。もちろん、支援もするつもりだ。・・・・あんた達にも迷惑をかけたな」
サムウェルが深々と頭を下げる。
「俺達のことはいい。それより、これからのことを頼む」
「わかっている」
話は終わりだ。
今回の報酬など必要ない。
もし、あるのならそれは村々へ回して欲しい。
俺達はサムウェルに後のことを託し、再度あの村へ転移した。
村へ着くと、まずは村長の妻へリェーヌの冒険者ギルドが支援を約束してくれたことを報告した。
話はすぐに村中へ伝わり、更に近隣の村へと渡る。
サムウェルは約束を反故にするような男ではないため問題ないだろう。
それから俺達は3日間、村に滞在した。
魔法による復興の手伝いと、負傷者の手当て。
また、魔物襲来の警戒を行った。
今回の護衛対象である商人達へ謝罪すると、笑って許してくれた。
何でも、俺達が討伐した魔物の素材を村人と物々交換することができたと喜んでいる。
どうやら、こちらも儲けがあったようで安心した。
村へ滞在し4日目の朝、俺達と商人は旅を再開させるため出発しようとしている。
前日に、リェーヌから派遣された冒険者達へ引継ぎを行ったため、復興も警護も彼らに任せれば大丈夫だろう。
さて、そろそろ出発しようかという時、あの男の子が俺達に向かって歩いてきた。
彼はあれから、家族の埋葬を行い、復興の手伝いもしていた。
見ているこっちが痛々しい程、精力的に働いていた。
「どうしました?」
ティファニアが尋ねる。
「俺も連れて行って欲しい。俺、強くなりたいんだ!」
男の子は真剣な眼差しを俺達に向けてくる。
「無理です。いいですか? 私達はこれから魔王の支配する地域へと向かうのです。そして行く行くは魔王と戦うのです。あなたでは足手まといにしかなりません」
丁寧に説明するティファニアであるが、どこか冷たい印象を受ける。
これではダメだ。
必死に立ち上がろうとしている者への言葉ではない。
案の定、現実を突きつけられた男の子の心は、今にも折れてしまいそうだ。
「ティファニア代わってくれ」
俺がそう言うと、ティファニアが頷いて後ろへ下がる。
「少年、名前は?」
「俺はハンスです」
男の子の名前はハンスとのことだ。
「ハンス、強くなりたいのならリェーヌの街へ行き、冒険者になれ。そして、今度は大切な人を守れるよう強くなれ」
俺は目線をハンスに合わせて語りかける。
「でも・・・・」
一緒に行きたいのはわかる。
だが、これから行く先は危険である。
守ってやれる保障など、今の俺にはないのだ。
「己を磨き、仲間を集めろ。いいか? 必ずハンスの力が必要になるときが来る。その時は俺達に力を貸してくれ。約束だ」
そう言って右手の小指を出す。
ハンスも右手の小指を出す。
俺達の小指が触れる。
「わかった。俺、絶対強くなる。強くなって、今度はおじさんと一緒に戦えるようになるよ!」
俺は笑顔で頷く。
だが、心の中では「う~ん」と首を傾げていた。
何というか、やっぱり俺はおっさんなんだなぁと実感する。
これが以前の俺であれば様になっていただろう。
おっさんだと締りがない。
村から出発し馬車に揺られながら、俺は何度も元の体に戻ると決意するのであった。
しばらく休載いたします。
1ヶ月くらいで戻る予定です。
プロットとある程度先が書けたら投稿を開始します。
その際は、活動報告に記載します。
また、時間があるときに登場人物のまとめを作成します。
楽しんでいただけている方は、再開を楽しみにしてください。
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