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第53話:グリフォンより弱ぇー・・・



 かつて、俺は軍に所属していた。

魔王を倒すために設立されたそこは、あらゆる思考が許されない場所であった。

日々訓練し体を鍛え、人類を魔王の恐怖から解放するために戦っていた。


 あの日、魔王との最後の戦いで数万の軍が壊滅した。

俺一人を残して。


 生き残れたのは、運の要素が多分にあった。

だからこそ、瀕死の状態の魔王に止めを刺すことができた。


 全てが終わった後の光景を、俺は未だに覚えている。

上司も、部下も、仲間も・・・・皆死んでいた。

両親の記憶は無く、物心ついた時には軍にいた。

軍ではそういった者がほとんどで、だから俺の家族は彼らだった。

でも、皆死んだ。


 それならば、俺はいったい何のために戦い、何のために魔王を倒したのだろうか?


 魔王を倒した後、空しさだけが心を支配した。


 初めて女神の前に召喚され、転生と祝福の話をされた時、俺はまず仲間達の蘇生を願った。

しかし、死者を生き返らせることはできなかった。

その代わり、これからを生きる人々を救済することはできると言われた。

争いの果てに、死の大地と化した土地が無数にあった。

疫病が蔓延し、戦場よりも多くの死者が出ていた。

食糧危機で、満足に食べることができない人も多くいた。


 俺は彼らの救済を願った。


 しかしそれは、生きている人だけの救済である。

死んでしまった者は、もう救うことができない。


 目の前の光景を見る。

壊された家屋、泣き崩れる住民。

泣きたいのに、歯を食いしばって自分のできることをする男の子。


 俺はまた、救うことができなかった。

もう少し早く、俺達がここへ来ていたら助けられたかもしれない。

あるいは、俺の力が以前のままであれば察知し駆けつけることができたはずだ。

悔いだけが残る。


 ならばせめて、今生きている彼らだけでも救いたい。

そのためには脅威となる魔物を必ず倒さなければならない。


 必ず倒す。

俺はそう、決意した。




 今にも村を飛び出しそうなリンカへ、俺も共に行くことを告げる。

これから夜になるのだから出発は明日だとなだめると、リンカは不承不承ながら頷いた。


「君は、一人でグリフォンを倒すことができると本気で思っているのか?」


「それはわかりません。ですが、このまま黙って見ていることもできません」


 リンカの気持ちは痛いほどわかる。

だが、一人で戦いを挑むのは自殺行為である。

よく今まで生きていられたなと思う。


「よかったですね。今回は聖剣の担い手であるセリア様がこの場にいて」


 いつの間にか近くにいるティファニア言う。


「そうですねー。それなら安心ですー」


 どうやらリンカは人を疑うことも知らないようだ。


「私も、グリフォンを倒せるなら倒すべきだと思うわ。けどね、一言くらい私達に相談があってもいいんじゃないかしら? 一応・・・・パーティーなんだし」


 疲れ切った顔のレーアも合流する。


「そうだな、悪かった。それと、皆お疲れ様。レーアは、大丈夫か?」


 暗にポーションの費用のことを尋ねた。

もちろん、人命には代えられないことはわかっている。


「手持ちのストックは使い切ったわ。原料もないから、しばらくは怪我もしないで欲しいわね。けど、グリフォンと戦うならそうもいかないか。村に原料がないかあとで聞いてみるわ」


「助かる。さて、明日グリフォンの討伐に行くのはいいんだが、一つ大きな問題がある。俺達は冒険者として荷と馬車の護衛を受けている。さすがに、放置して行くのはどうかと思うのだが・・・・」


「それなら、私が使役魔法でゴーレムを作りますー」


 リンカはそう言うと杖を取り出し、地面に向かって魔法を発動させた。

すると、等身大の土で出来たゴーレムが姿を現す。

リンカはあっという間に5体ものゴーレムを完成させる。


「ゴーレムには簡単な命令式を授けてありますー。魔物が出たら戦う。人を守る。の二つですー」


 リンカの魔法の腕に感嘆した。

ものの短時間でゴーレムを作り、それに命令式まで刻む。

これだけの才は以前の俺にも、ティファニアにもない。

あの若さでここまで至るとは、()()()()()()()天才だとしか思えない。


「彼らの護衛はゴーレムに任せるとして、後はグリフォンの場所か」


「おそらく、あの山の頂だと思います。強力な結界が張られていますので」


 ティファニアが指差す山を見る。

結界ということは、グリフォンは魔法も使うのだろう。

それならば、直接転移することは不可能だ。

近くまで転移し、そこから歩くしかないか。

そう判断し、3人へ告げる。


 今日はこの村で一夜を過ごすと決めたのだから、野営の準備をしなければならない。

建物はすべて壊されている。

せめて、心も体も疲弊している村人だけでも安らげる場所を作ってやりたい。


「ティファニア、結界を構築する。手伝ってくれるか?」


「もちろんです!!」


 ティファニアへ尋ねると、すさまじい圧で返事があった。

嬉しそうな姿をしているが、こいつどうしたんだ?


 不審に思いながらも、俺は村を囲むよう地面に円を描いた。

ちなみに地面に円を描くための手ごろな道具が無いため、サムウェルから受け取った剣を使った。

やはり、良い切れ味をしている。

残念なのは、この剣の初陣がまさかの地面に跡をつけるものということだ。


「今からこの円の内側に魔物が入れないよう結界を張る。だから、今日は魔物に恐れることなく休んでくれ」


 俺を見ている村人へ言う。

これで少しでも安らげるといいのだが。


 村ではいくつかに分けて焚き火がされている。

そこに集まり、各々眠りについた。


 状況が変化したのはそれからすぐのことであった。


「誰か来ます」


 時刻は深夜を回った頃だろう。

俺は頭をゆっくりと覚醒させた。

本来であれば明日に備えてゆっくり休みたかったのだが・・・・。


 現われたのは3人の男であった。


「何者だ?」


「わしは隣村のモロというものじゃ。こちらはソド村のロン。こっちがダス村のハウセンじゃ」


 男達を観察すると、皆疲弊しきっている。

何か事情があるようだ。


 俺はティファニアに結界を一時的に解除するよう指示を出す。


「その線を踏まないように、こちらへ来てくれ。何か事情があるのだな?」


 男達は頷き、結界の内側へ入って来る。

それを確認してティファニアが再度結界を張る。


 男達はこの村の惨状を目の辺りにし、心底驚いていた。


「ここも、襲われたのか・・・・」


「村長はどうした?」


「あんたら、冒険者か?」


 答えたのは、村長の妻である年配の女性だった。


「今日魔物に襲われ、このような惨状になりました。その際、主人も命を落としました。ただ、運よくここへ向かっていた冒険者の方々が助けてくれましたので、被害はこの程度で済みましたが、彼らがいなければ今頃どれだけの死者が出ていたか・・・・」


 3人は悲痛な表情を浮かべると同時に、困ったような顔をしていた。


「あんたら、()()()と言っていたが、もしかしてあんたらの村も魔物に襲われたのか?」


 俺の質問に、3人とも頷いた。


「わしらの村だけじゃねぇ。この近辺一帯の村が襲われとる」


「魔物はグリフォンか?」


「それだけじゃねぇ。狼や猪、様々な魔物がいた」


 どうやら、グリフォンを倒せば万事解決ということにはならないようだ。


「この辺りに魔物の領域は無かったはずよ。おそらく、グリフォンが現われたことによって生態系が変化したんだわ」


 レーアが言うなら間違いないのだろう。

しかし、その変化した生態系まで正常化するのは俺達だけでは難しい。

本来であれば、冒険者がチームを組んで当たる案件である。


「今冒険者達がリェーヌに集まっていて魔物たちの討伐ができていないんだ。だからわし達は、一番冒険者が訪れる可能性が高いこの村へ来たんじゃ。頼む! このままでは村が全滅しちまう」


 冒険者達の分布が乱れた弊害がこういう形で現われるのか。


「わかりましたー。私がどうにかしますー」


 またこいつは!

リンカが安請け合いをする。

できないことを承諾するな! と怒鳴りつけようとしたが、一つの疑念が頭を過ぎった。


 本当に、できないだろうか?

リンカの魔法の技量ならどうにかしてしまうかもしれない。


「考えはあるのか?」


 俺の質問に、リンカは首を傾げる。


「いえ、困っているようでしたので助けようと思っただけですー」


 やっぱり、こいつは『あほの子』だ。

俺はため息を吐き、どうにか出来ないか考えた。

しかし、良い案は浮かばない。


「ティファニアは何か考えがないか?」


「あの山周辺を焦土と化すのはどうでしょうか?」


「・・・・却下だ」


 次にレーアを見る。


「現実的な策としては、グリフォンを倒した後に出来る限りの魔物を討伐することかしら。それからリェーヌへ掃討依頼を出してもらうってとこね」


 レーアの意見は至極普通の意見である。


「だが、魔物を狩るのにも限界があるぞ? 俺達は人数も少ないし」


「そうね。だから、これを使いましょう」


 そう言ってレーアが何かの液体を取り出した。


「それは?」


「ガプリーの実をすり潰した物で、魔物をおびき寄せる液体よ」


 マジか!

魔物の領域でおびき寄せるってことは四方八方から襲われるってことだろ?

レーアの案は全く普通ではなかった。


「私の探知能力で討ち漏らしを狩っていけば、ある程度脅威は排除できそうですね」


 レーアの意見にティファニアは賛同のようだ。


「私もがんばりますー」


 リンカも賛同する。


「わかった。それで行こう」


 諦めて同意した。


 俺は村人達へ、グリフォンのとできる限りの魔物の討伐を行うことを説明した。

彼らは喜び、俺達に感謝の言葉を口にする。


「感謝はすべてが終わってからにしてくれ。俺達はまだ何も為していないのだから」


 俺達は明日に備えて再度眠りについた。


 翌朝、軽く朝食を取った後、地面に転移の魔法陣を描く。


「では、行って来る」


 ティファニアが千里眼で転移先を選び、魔法陣に魔力を流す。


「あのー、この魔法陣って転移の魔法陣――――」


 あ! リンカへ転移魔法の詳しい説明をしていない。

どうやら理解できていなかったようだ。

リンカの言葉の途中で転移が始まり、目的の場所へ辿りついた。


「――――なんですかー? えー?? ここどこですー? 本当に転移したんですかー?」

 

 慌ててリンカの口を塞ぐ。

グリフォンのいる場所からは少し離れている。

しかし俺達は、グリフォンから放たれる強烈なプレッシャーを感じているのであった。

次回はグリフォンと戦闘開始です。


気に入っていただけた方、楽しんでいただけた方はブックマーク、評価をお願いいたします。


感想もお待ちしておりますので、お気軽に書いてください。


何卒よろしくお願いいたします。

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