第52話:魔法少女より弱ぇー・・・ part2
「エルアルドへ行くよりも、リェーヌで王都への馬車を探したほうがいいと思いますが・・・・。そもそも、シュタットフェルトから王都まで1年もかかるとは思えないのですが?」
レーアが更にリンカへ尋ねる。
「そうですよねー。シュタットフェルトからリェーヌまではすぐに来られたのですがー、そこから王都への馬車に乗っても、船に乗っても王都までたどり着けないんですよー」
俺達は頭に疑問符を並べた。
リンカはなぜたどり着けないのか要領を得ない言葉で説明する。
要約すると、リェーヌから王都へ向かう馬車に乗れば魔物や盗賊が出て、それを退治したことによりリェーヌへ報告に戻ってくる。
船の護衛として乗り込み王都近くの街まで行けば、契約を往復にしていたためそのままUターンしてリェーヌへ戻ってくる。
そうこうしている間に、一年が過ぎたそうだ。
そして今回も、どう考えても王都へ向かう馬車ではないにもかかわらず、断れなくて護衛の依頼を引き受けてしまったそうだ。
俺達はその話を聞きながら、唖然とし言葉がでなかった。
あの、俺以外には優しいと評判のレーアでさえ顔を引きつらせている。
ティファニアに至っては、すでにかわいそうな子を見るような目をしている。
俺はと言えば、この子のことが本当に心配になっていた。
ニコニコしているリンカに対し、俺達は誰一人言葉を発することができなかった。
そのまま沈黙の空間へと再突入すると、ここから抜け出すことはできないと諦めるのだった。
異変はティファニアの言葉から始まった。
時刻は夕暮れ少し前である。
「前方に誰かいます。子供・・・・でしょうか?」
どうやらティファニアは、先程魔物に襲われた反省を生かし、定期的に千里眼を使って周囲の警戒を行っていたようだ。
「それがどうかしたのか?」
「わかりません。ただ、様子が変です」
ティファニアが言うならそうなのだろう。
「場所は?」
「このまま直進です」
俺は御者のおじさんへ直進の指示を出すと、おじさんは頷いた。
「私たちが目指している村もこのまま真っ直ぐです」
それを聞き、俺は嫌な予感を覚える。
しばらく馬車が進むと、一人の男の子を視認することができた。
御者も見えたのだろう。
男の子の近くまで馬車を走らせ、止まる。
「どうしたんだ?」
御者が尋ねると、男の子は息を切らせている。
どうやらかなりの距離を走ってきたようだ。
「ま、魔物が最近増えてきて、そろそろ俺の村では手に負えなくなってきた。だからリェーヌへ行って冒険者へ助けを頼もうと思って」
「リェーヌよりもエルアルドの方が近いだろうに」
「エルアルドへはもう要請をしたよ。けど、今は冒険者が出払っていて、対応できないっていわれたんだ。だからリェーヌへ行くしかないんだ」
男の子が切実に訴える。
背負っている鞄を見ると、本当に徒歩でリェーヌを目指しているようだ。
それほど切迫しているということか?
レーアを見ると、渋い顔をしている。
「どうした?」
「・・・・たぶん、迷宮のせいで近隣の冒険者がリェーヌに集まっていることが原因のようね」
そうか。
リェーヌの迷宮探索へ冒険者達が召集されたため、他の地域での魔物討伐へ人員が割けないのだ。
「私が魔物を退治してあげますよー。だから、一緒に村まで戻りましょー」
リンカが軽い感じで魔物退治を受諾する。
「おい! どんな魔物かも、数もわからないのに軽々しく返事をするな。対処できない魔物だったらどうする気だ?」
「あ! それは考えてませんでしたー。でも、誰かが助けを求めているのに、助けないという選択肢はありますかー?」
リンカが俺を真剣な眼差しで見つめる。
一点の曇りもない瞳は俺をせめているような気さえした。
そうだな。
英雄がここで逡巡することは許されない。
助けが必要なら無条件で助ける。
俺はこれまでそうしてきたはずだ。
俺は自分を恥じた。
そしてリンカへ答える。
「助けないという選択肢はない。そうだ、君の言うとおりだ。・・・・少年、俺達は冒険者だ。力を貸す。だから君の村へ案内してくれないか?」
男の子は俺達を見ると頷き、馬車に乗った。
元々俺達が向かっていた村が男の子の村であった。
本来案内は必要ないが、男の子が村のために冒険者を連れてきたということにしようと思う。
だから、男の子は御者に村への道を教えている。
御者もそれがわかっているのだろう。
男の子の案内に嫌な顔せず、頷いていた。
しばらく進むと御者が声をかけてきた。
「村のある方に煙が上がっているみたいです」
それを聞き、実際に前方の空を見ると確かに一筋の煙が見える。
同時に、俺の予感が警告する。
「飛ばして村へ向かってくれ。ティファニア、千里眼で確認しろ」
「わかりました」
そう言うとティファニアが千里眼を発動し、村の様子を窺う。
「こ、これは・・・・」
「どうした?」
言葉に詰まったティファニアへ尋ねる。
「――――村が崩壊しています」
ティファニアが男の子へ聞こえないように小さな声で言う。
――――崩壊だと?
魔物に襲われたのか?
だとするなら急がなければならない。
転移するか?
いや、動いている馬車の中では座標を固定できない。
一旦、俺とティファニアだけでも降りるべきか・・・・。
「急いでいるんですねー?」
俺達の様子を横目で見ていたリンカが尋ねてくる。
ニコニコしたような顔ではなく、真剣な顔である。
俺はそれに頷いた。
「わかりました。――――ウインドローブ」
リンカが杖を振ると、3台の馬車が風を纏った。
荷台が僅かに宙に浮くと馬たちは重さに開放され、本来持つ速さで疾走し始める。
馬車は倍以上の速度で村へ向かった。
村へ着くと、悲惨な光景が広がっていた。
家々は破壊され、燃えているものもある。
更に、人の声がしない。
男の子は村の現状を見つめると、地面に崩れ落ちる。
涙も流さず、嗚咽も漏れない。
ただ、彼の瞳には何も写っていなかった。
無理もない。
だが、俺達にはまだできることがある。
大きく息を吸い込む。
「まだやるべきことがある! ティファニアは生き残りを探せ。レーアは出来る限りポーションを準備しろ。俺とリンカで瓦礫をどける」
大声で指示を出し、御者や他の馬車に乗っていた商人達へ向き直る。
「申し訳ないが、あなた方にも手伝ってもらう。ティファニアの指示に従って生存者を探してくれ」
皆が頷くのを確認すると、男の子へ向き直る。
「ここで座っているだけか。それとも立って行動するか。決めるのはお前だ」
男の子の肩を叩き、俺も生存者を探すために村の中へ向かった。
大声を張り上げ、生存者の反応を待つ。
「こちらに二人反応があります」
ティファニアは次々に生存者の反応を指示する。
声をかけると、瓦礫の下から返事があった。
どうやら、魔物を警戒して声を潜めていたようだ。
俺は生存者がいることに少しだけ安堵し、皆と協力して瓦礫をどける。
俺や御者、商人達の力技と、リンカの魔法で手分けして作業に当たる。
いつの間にか、あの男の子も俺達と共に生存者の救出を行っていた。
運ばれた者は重傷者が多い。
しかし、生きてさえいればレーアがどうにかする。
彼女は、この旅のために持ってきた上級ポーションを惜し気もなく負傷者へ使用した。
さらに、瓦礫から発生した木材を利用して火をおこし、持ってきたポーションの原料を煮詰め始めた。
手持ちのポーションでは足りないと判断したのだろう。
使用した、あるいはこれから使用するポーションや原料を額に換算すれば結構な金額になる。
それでも惜しむことなく使用するレーアを見て、俺は感嘆の声を漏らした。
「すごいな・・・・」
ティファニアはあらかた生存者を探し終えたのだろう。
魔法での瓦礫の撤去を行っている。
間もなく、すべての生存者が救出されるだろう。
それと同時に、今度は死者を探さなければならない。
どれだけの人を救えたのかわからないが、少なくとも死者の方が多いだろう。
ポーションを飲んで動けるようになった者は、俺達と共に死者を探し出し、村の中央に運んだ。
四肢欠損している者はポーションを飲んでも治りはしない。
それでも愛する者を探そうと、皆は必死に声を上げ、探し続けた。
「此度は本当にありがとうございます」
年配の女性がお礼を言う。
村長か何かだろうか。
「あなたは?」
「村長の妻です。主人はあそこに・・・・」
そう言って指差したのは並べられた死者の一人であった。
白髪の老人で、どこかベンさんを思い出させる。
「それは、何と言うか・・・」
「主人に代わり、皆様には本当に感謝しております」
深々と頭を下げる女性に、かける言葉が見るからない。
「もっと、早く来ていたら・・・・」
呟くように搾り出すと、女性が首を振った。
「それは難しいかもしれません。襲ってきたのは聖獣の一柱に数えられるグリフォンでした」
「グリフォンか・・・・」
ドラゴンやマンティコアと共に、最強の魔物とされている聖獣である。
「私が討伐しますー」
リンカが決意に満ちた瞳で女性に言う。
「ですが・・・・」
「大丈夫ですー。私、こう見えても魔法使いですからー」
どうやら、リンカは本気で討伐に向かうようだ。
俺達に声をかけない当たり、一人でも行くだろう。
「私たちはどうする?」
レーアが俺の方へ向き直り尋ねる。
そして、ハッと息を飲んだ。
当然である。
俺はこの世界へ転生後してから、ここまでの怒りを覚えたのは初めてである。
歯を食いしばり、両の手は握り締め、眉間に皺を寄せている。
聖獣だろうが、なんだろうが。
この報いは必ず受けさせてやる。
俺はそう決意し、魔物の討伐を表明するのであった。
次回から、対グリフォンです。
続きが気になる方はブックマーク、評価をお願いいたします。
感想もお待ちしておりますので、是非よろしくお願いいたします。




