第51話:魔法少女より弱ぇー・・・
あと数話で一旦休みます。
プロットが切れて、今後の方針を定めないと書けそうにありません。
俺の目の前には無数の星が瞬いている。
光っては消え、光っては消える。
それを美しいと思う前に、後頭部の痛みが襲ってきた。
首を捻り、横を見るとレーアの手が見えた。
グーである。
「くっー・・・」
「あんたいきなり初対面の人に何てことを言ってるのよ!」
呻く俺の襟首を掴み、レーアが怒りに満ちた顔で見ている。
鬼だ、鬼がいる。
「いや、初対面ではなく・・・」
「言い訳はいいわ。まずはあやまりなさい」
確かに、いきなり人に『あほの子』とか言うのは間違っているな。
悔しいが今回はレーアが正しい。
「早く!」
俺が心の中を整理している間が許せなかったのだろう。
レーアが怒鳴り声を上げる。
「申し訳ない」
俺が謝ると、当の本人であるリンカは首をかしげただけであった。
もしかして、指まで差したのに『あほの子』が誰を示しているのかわかっていないのか?
俺は驚きを以てリンカに注目するのであった。
俺達は順々に名乗り、馬車の荷台に乗り込んだ。
荷台には木箱がいくつか積まれている。
空いているスペースに腰を下ろし、馬車に揺られる。
御者は当然馬を操っている。
だから、この空間にいるのは俺、レーア、ティファニアとリンカの4人である。
・・・・なんというか気まずい。
俺のせいなんだろうけど、会話がほとんどない。
誰かが言葉を発しても続かない。
そもそも俺、レーア、ティファニアでも会話が続くとは思えない。
というか、レーアとティファニアって仲はいいのか?
さっぱりわからない。
だが、そろそろ俺の精神も限界である。
「リンカだったか? 以前、船から荷を降ろす仕事をしていただろ?」
どうにかコミュニケーションを取ろうとリンカへ話しかける。
「そうかもしれませんー」
ん? 返事がどこかおかしい。
「お、俺もそこにいた。その時に君と会ったんだが・・・・」
「うーん、わかりませんー」
ふわふわした感じでリンカが答えた。
「あ、そう、か」
これで話は終わりだ。
また沈黙が空間を支配する。
先程からこんな感じの繰り返しだ。
本当に、胃が痛い。
仕方なく無理やり仮眠を取ろうとするが眠ることができない。
それでも寝た振りをするように、目を閉じた。
空が夕焼け色に染まる頃、馬車は宿場町へ到着した。
宿場町は、町と言っても大きい町ではない。
建物も宿が3つと、後は従業員が寝泊りするものが2つあるだけだ。
一応魔物を警戒するように、外周は柵で覆われている。
「今日はここで休みます」
御者はそう言うと、宿の従業員へ馬車を任せ建物へ入っていく。
俺達もそれに続いた。
宿では泊まるための費用を要求された。
簡単な食事込みで銀貨50枚である。
俺はそれを無言で支払う。
これからの行程では、明日は小さな村で泊まり、明後日にはそこそこ大きな街である『エルアルド』へ到着する。
お金大丈夫だろうか?
最悪レーアかティファニアから借りることを想定しつつ、できるならどこかで稼ぎたいものだ。
『エルアルド』へ着けば何かしら依頼があるだろうか?
そんなことを考えつつ、用意された食事をし、大広間の与えられたスペースで就寝した。
次の日は朝から馬車に乗り込み、揺られている。
昨日と変わらず、会話らしい会話がない。
そのため、また寝た振りをするように目を閉じていた。
ちょうどお昼を過ぎた頃、御者が俺達へ声をかけた。
「すみません、あそこに見えるのってもしかして魔物ですか?」
俺達は御者が指差す方を見つめた。
遠くに影が見える。
その影の後方に砂埃が舞っているので、どうやら結構な速度で近づいてくるようだ。
だが、まだ距離があるため判断が難しい。
「ティファニア、千里眼で確認してくれ」
「わかりました」
指示するとティファニアが頷いた。
「岩狼です。数は・・・・5匹です」
岩狼か。
迷宮で戦っているから対処法はわかる。
というか、ティファニアがいれば何も問題ない。
近寄る前に瞬殺すべきか?
「おかしいわね。この辺りに魔物の生息地はなかったはずよ。それなのになんでいるのかしら」
レーアが地図を確認しながら首を傾げる。
そうは言っても、実際魔物がいるのだから考えても仕方ないだろう。
魔物を見ていると、そろそろ肉眼で視認できる距離まで近づいてきた。
後方の馬車からも動揺が伝わってくる。
まぁ、俺達のような冒険者でなければ魔物に襲われるのは怖いだろう。
俺がティファニアへ指示を出そうとした時、スッとリンカが立ち上がった。
リンカは無言で幌馬車の後方へ移動すると、岩狼を見定める。
「ウォーターボール」
構えた杖を岩狼に向け、詠唱することなく魔法の名前を叫んだ。
すると、宙に5つの水の玉が出現する。
それらは不規則な動きで岩狼へ向かい、5体をそれぞれ飲み込んだ。
岩狼はもがくが、水の玉から出ることはできない。
馬車は何事もないように先へ進む。
リンカは杖を岩狼へ向けたまま、水の玉を維持する。
すると、岩狼たちが窒息死し始めた。
5体すべての動きが止まると、魔法を解除する。
リンカは特に誇るでもなく、表情を変えることなく座っていた場所へ戻った。
俺達はその姿を唖然として見ている。
見た目は15、6歳くらいの女の子にしては、あまりにも魔法の技術が卓越しているからだ。
ほぼ無詠唱で魔法を発動させたことに加え、5つの別々の水の玉を操って見せた。
その技術も素晴らしい。
何より、岩狼という倒し方に悩まされる魔物を的確に完封して見せたのは発想力が非凡だからである。
この子はいったい何者だ?
そんな疑問が頭を過ぎる。
「いやー、相変わらずリンカちゃんはすごいねぇ」
御者のおじさんが笑顔でリンカを褒める。
「いえ、そんなことないですー」
リンカが笑顔を御者に見せる。
相変わらずということは、御者は以前にもリンカの魔法を見たことがあるのだろう。
というか、リンカがいれば俺達いらなくないか?
倒し難い魔物を、一人で5匹簡単に倒してしまったし。
「あ! 岩狼回収すれば素材が売れたのに・・・・」
思わず大きい声を上げてしまった。
「そうなんですかー?」
首を傾げるリンカを見る。
いやいや、それくらいわかるだろうと、心の中で呟いた。
「まぁ、もう言ってもどうしようもないな」
「そうですねー、次回がんばります!」
そうですねーって・・・・。
この子魔法はすごいが、それ以外の面で大丈夫か心配になる。
「リンカさんは冒険者ではないですよね?」
レーアがリンカへ尋ねる。
「そうですよー」
どうも、リンカと話をすると話が続かない。
「そ、そうですよね。私もリンカさんの名前を聞いたことがありませんし。ですが、それほどの魔法の腕があるのですから、何か特別なことをされているのですか?」
「えーと、私はー、去年シュタットフェルト魔法学院を卒業したんですー」
「そうなんですね。それから?」
レーアが相槌を打ち、どうにか続きを促す。
「それからー、この魔法を使って皆のお役に立てるように魔王軍と戦っている最前線へ行こうとしたんですー。けれどなかなかたどり着かなくてー」
シュタットフェルト魔法学院がどこにあるか知らないが、一年かけてもたどり着けないほど遠いのだろうか?
レーアが眉間に皺を寄せながらも頷く。
「そしたら今度は王都に勇者様が現われたと聞いてー、そちらへ合流しようとしたんですよー。けれど、そこへもなかなかいけなくてですねー」
うーん、ツッコミどころが多すぎて何から尋ねていいかわからない。
それでも、まず聞かなければならないのは気になる単語のあれだろう。
「なぁ、勇者っているのか?」
俺は小声でレーアに尋ねる。
「たぶん、最近王都に現われて聖級冒険者認定された人だと思うわ。なんでも、すさまじく腕の立つ人で、金髪碧眼のイケメンだそうよ」
金髪碧眼のイケメンですさまじく腕が立つって・・・・、おっさんになる前の俺のようだな。
「よかったですね。そんな良く分からない勇者ではなく、本物の聖剣の英雄に出会えたのですから。何を隠そう、このセリア様こそ聖剣グランディアに選ばれた英雄なのです」
俺がレーアと話をしている間に、ティファニアがリンカの両肩を掴んで熱弁している。
そして、どこか自慢気である。
「えー? そういえばリェーヌの街に聖剣の担い手が現われたって噂がありましたー。それがセリアさんなんですかー?」
そうであるし、そうではない。
噂は確かに俺のことだが、俺は聖剣の担い手ではない。
「いや、まぁ・・・・」
「そうなんですかー! ということは、これから魔王軍と戦いに行くんですねー!」
「いえ、私たちは直接魔王を倒しに行くんですよ」
「え!?」
レーアが驚きの声を上げる。
最終目標が魔王討伐であることは否定できない。
そういえば、そのことをレーアには伝えていなかったな。
「そうなんですねー。さすが英雄ですー!」
リンカは簡単に信じた。
本当に大丈夫かよ、この子。
レーアが俺を見る。
視線から、後で魔王討伐のことを聞くからなと訴えている。
俺は小刻みに、縦に頷くしかできなかった。
「ところで、リンカさんは王都を目指していたんですよね?」
「はいー」
「この馬車の行く先は南ですので、王都とはまったく別方向ですが・・・・」
「そうですよねー。でも、エルアルドに行けば王都への馬車があるかもしれませんしー」
いや、馬車ならリェーヌから乗ったほうが明らかに近い。
わざわざエルアルドへ行く意味はない。
さらに追及した俺達は、この後リンカの更なる残念な話に度肝を抜かれるのであった。
次回も旅が続きます。
そういえば、あとがきをしっかり見た方は気付いていたかもしれませんが、「おっさんと入れ替わった」と書いています。当然、どこかに「英雄と入れ替わったおっさん」がいます。
登場をお楽しみに。
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