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第50話:店長より弱ぇー・・・

お待たせいたしました。

更新遅くなり申し訳ありません。



 急いで言えに戻ると、ちょうどベンさんが仕事へ向かうところであった。

危ないところだ。

危うく、ベンさんへお別れの言葉も、感謝の言葉も伝えることができないところだった。


「おぉ、お帰り」


 いつもと変わらない笑顔で、ベンさんが家へ向かえ入れる。


「ただいま。・・・・その、実は話があるんだが」


「旅にでるのかのぉ?」


「・・・・知っていたのか?」


「いや、何となくそんな気はしておった。お前さんはここにずっと留まるような者ではないからのぉ」


 もしかして、ベンさんにも聖剣の話が伝わっていたのだろうか?


「出発はいつかのぉ?」


 ベンさんが続けて言葉を発する。


「今日の、昼過ぎだ」


「そうか・・・・寂しくなるのぉ」


 悲しそうな顔をするベンさんを見ると心が痛む。

それでも、もう動き出したのだから止めることはできない。

というか、止めたらレーアに殺される。


「ベンさん、これを受け取ってくれ」


 そう言って、金貨を30枚机の上に置いた。

ベンさんはそれを見ながら首を横に振る。


「前にも言ったが、受け取れんわぃ」


 わかっていたが、やはり首を縦には振ってくれない。

けれど、今回だけは俺も引けない。


「借りていた部屋に置いておく。何かあれば使って欲しい」


「じゃが・・・・、これから旅に出るお前さんのほうが必要じゃろ?」


「大丈夫だ。俺は先日の迷宮探索で結構稼ぐことができた。だから、問題ない」


 もう言っても無駄だと思ったのだろう。

ベンさんは黙り、しばらく考え込んでしまった。


「はぁ~、言っても無駄のようじゃのぉ。お前さんの部屋は残しておくから、疲れたり、傷ついたら帰っておいで」


 ベンさんが優しく笑いかける。

俺も自然と笑みを浮かべ、大きく頷いた。


 けれど、たぶんもうここへは戻ってこないだろう。

これから出発する旅は、魔王を倒すための旅である。

それを成すか、あるいは志半ばで朽ち果てるかの二択である。

だから、ベンさんともこれでお別れだ。


「これまで本当にありがとう。ベンさんと出会っていなければ、たぶん俺は野垂れ死んでいただろう。だから、どれだけ言葉にしても感謝し切れない」


 深々と頭を下げた。

そして決意する。

必ず俺が魔王を倒し、この世界を救うと。


「いや、わしの方こそ楽しかった」


 ベンさんを見ると、目に涙を浮かべていた。

やばい。

俺も泣きそうだ。


 唇をきつく結び、笑顔を作る。


「わしは今から仕事じゃから、見送りには行けそうにない。元気でな。いってらっしゃい」


「あぁ、いってきます」


 そう言ってベンさんは家から出て行った。

普通、出て行く方がいってきますというのだが、あべこべである。


 俺は涙を袖でぬぐうと、自分の部屋へ行き、旅の準備を始めた。

そして準備が整うと、使っていた毛布をたたみ、その上に金貨を30枚置いた。


「いってきます」


 そう言って俺は家を後にした。



 商店街で必要なものを買い揃え、俺はあの店長の店へ向かった。

着いた先は先日レーアへ鏡を贈った店であったが、店長は不在である。

どうやら、新しくオープンした店にいるそうで、そちらへ向かった。


 新しい店は、以前荷運びをしたことがある。

その時はまだ開店前であったので店内も殺風景であった。

しかし、今俺の目の前には様々な嗜好品が並んでいる。

客もお金持ちが多そうで、店内にいる者は皆、きれいに着飾っている。


 その中を俺は、冒険者然といった出で立ちで闊歩している。

皆の視線を感じる。

しかも、二度見されている。

それでも俺はひるむことはない。

そもそも、注目を浴びるのは慣れているからだ。


 従業員のカウンターまで行くと、見たことのあるエルフ族の女性と店長がいた。


「ティファニア、どうしてここにいるんだ?」


「私は毛皮のコートを受け取りに参りました。セリア様こそ、どうされました?」


「俺も同じだ」


 返事をすると、店長も俺に気がついたようだ。


「これはこれはセリアさん。ようこそいらっしゃいました。本日はどういったご用件で?」


 揉み手でもするように、店長がへりくだって近寄ってくる。


「今日街を出ることになった。先日頼んだ毛皮の加工は終わっているか?」


「もちろんでございます。少々お待ちください」


 店長はそう言うと、従業員へ指示を出して毛皮を持ってこさせる。


 届けられた毛皮は染み一つない真っ白なコートであった。

見るからに高級感があるそれを見て、危うく声を上げそうになった。

せっかくの緋狐の赤い毛皮が白くされたのかと焦ったが、よくよく考えてみればこれはティファニアのものだろう。


「どうですか?」


 受け取ったティファニアがさっそく羽織って見せる。


「あぁ、温かそうだな」


 俺の感想に、ティファニアはどこか不満気であった。


「お待たせしました。こちらがセリアさんの毛皮です」


 手渡された毛皮を広げてみると、コートというよりもマントのようであった。

巻くように、身につければものすごく温かそうである。

それに、見た目がものすごくカッコイイ。

ワイルドな感じで申し分ない。


「どうだ?」


 満足しながら羽織り、ティファニアへ尋ねる。


「ものすごくカッコイイです。本当によくお似合いです」


 手放しで褒められると素直にうれしい。

あ! ティファニアへの返答の正解はこれだったのか。

申し訳ないことをした。


「では、御代ですが。加工賃や魔法付与などを含めて、金貨100枚になります」


「――――はぁあぁぁ!? いくら何でも高すぎだろ?」


「そう言われましても、4回の殺菌除菌抗菌を行い、劣化と汚れ防止の魔法を付与していますので、これくらいするかと」


「そうだとしてもそんなお金はない」


「またまたー、先日競売でかなりの収入があったと記憶しておりますが?」


 そういうことか。

だからあの時俺の収入が少しでも上がるように価格を吊り上げたのか。


「悪いが本当にないんだ。競売の収益も、それ以外も皆で分けたら金貨100枚になんてならないんだよ」


 店長が俺の方をじーっと見る。


「本当ですか?」


 俺ではなくティファニアへ尋ねる。

ティファニアは軽く頷いた。


「そ、そうですか。それなら仕方ありませんね。今回は金貨50枚でいいですよ」


「それもないな」


 俺は肩をすくめ、首を振る。


「そんなことはないでしょ?」


「これから旅に出るから、そのための準備に使ったのと、これまでお世話になった方へ渡したから、金貨40枚くらいしか残ってない」


「では、金貨40枚で」


 店長が即答する。

最初の金貨100枚からものすごく値引きされているが、大丈夫か?


「本当にそれでいいのか?」


「はい。セリアさんにはお世話になりましたし、今回だけは私が身銭を切ります」


「マジか。店長、やっぱあんたとは気が合いそうだ」


 俺達はがっちりと握手をした。


 金貨を40枚支払うと、俺の残金は金貨2枚と銀貨と銅貨が数枚になった。

財布として使用している袋が軽くなった。


 俺は店長に頭を下げ、毛皮のマントを羽織って店から出た。

この毛皮を羽織っていれば、店の中にいても変な風に注目されることはないだろう。

それくらいゴージャスな出来である。


 ティファニアも金貨を支払い、店から出てきた。


「セリア様、もう準備はできましたか?」


「あぁ、大丈夫だ」


「それでは南門へ行きましょう」


「そうだな。そろそろ時間だし、遅れたらレーアに何て言われるかわかったものではない」


 俺達は足早に南門へ向かった。

本当はこの街でお世話になった人、一人一人に挨拶したかったが間に合いそうにない。

俺は心の中で感謝を述べて歩いた。


「ところで、ティファニアの毛皮はどれくらいしたんだ?」


「私は金貨20枚です」


「え? 俺より安いな。もしかして、付与魔法とかしてもらってないのか?」


「いえ、してもらいました。セリア様同じように作ってくれたそうです」


「・・・・」


「あの、セリア様?」


「くっそー!あの店長だましやがったな! 金貨100枚とか嘘で、金貨40枚でもボッタクリじゃねーか!!」


 文句を言ってやりたかったが、もう金貨を払ってしまった。

それに、南門は目の前にあり、レーアの姿が確認できるから戻るわけにはいかない。


 諦めて歩き、レーアと合流した。


 レーアも真新しい白の毛皮のコートを羽織っていた。

光沢がすごく、白く輝いて見える。

デザイン性も高く、装飾や金糸を加えることでさらに高級感が出ている。


「遅れずに来たのね。感心感心。ティファニアは連れてきてくれてありがとう」


 レーアは俺達が待ち合わせ時間よりも少し早く来たことで、機嫌がいいようだ。

幸先が良い。

旅の始まりから雰囲気が悪いと最悪である。


「早速だけど、今回私達が南へ向かう馬車へ乗せてもらえることになっているわ。もちろんただではなく、あくまで護衛としてだけどね。それで、こちらが依頼主のオードリアン商会の取締役であるフリッツ・オードリアンさんよ」


 そう言ってレーアが示した人を見る。

この男の人、どこかで見たことがあるな。

それに、名前のオードリアン商会もどこかで聞いたような・・・・。


「皆さん、今回の護衛依頼、よろしくお願いします。私達もあなた方のような凄腕に護衛していただけることに、本当に感謝しています」


 男は丁寧な言葉遣いでそう言った後、華麗に一礼した。

ジェントルマンである。

そして、見た目はダンディーだ。

華麗な礼に見とれていた俺は、自分が中年であるからこの人みたいなダンディーになりたいと思った。


「ちなみに荷ですが、先日皆様から落札しました毛皮も含まれております」


 そう言うとフリッツは俺達の方をじっと見つめる。


「よい加工ですね。ですが、私達の技術も負けていません。次回機会があれば、是非私達へ加工させてください。きっと満足するものを作り上げることができますから」


 フリッツがニコッと真っ白な歯を見せ付ける。


 俺達は気圧されるように頷いた。

それに満足し、フリッツは一度頷いた。

そして一つの幌馬車を指差した。


「馬車は全部で3台です。皆様はあちらの馬車で移動してください。魔物や山賊への対処はお任せいたします。一応こちらも護衛を何人か雇っておりますので協力していただけたら幸いです」


 フリッツはそう言うと、御者台から一人の男を呼び寄せた。

男に続いて、女の子も現われる。


「こちらが、御者のピーターです。そして、こちらが魔術師のリンカさんです」


 紹介された二人がそれぞれ頭を下げる。

あれ? この女の子もどこかで会ったことがあるような気がする。


 女の子をじーっと見つめると、彼女は首をかしげた。

やっぱり、このいかにも魔術師ですという出で立ちは見覚えがある。

確か・・・・。


「あっ!! 『あほの子』!?」


 女の子を指差してそう言った瞬間、後頭部を思いっきり殴られた。

次回、やっと旅立ちです。

皆様はこの女の子を覚えていますか?



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