第49話:サムウェルより弱ぇー・・・ part2
私用により、次回更新がしばらく先になりそうです。
できるだけ早く更新するつもりですが、お待たせしたら申し訳ありません。
旅に出ると宣言してから一週間が経過した。
俺は今、冒険者ギルドの訓練場でサムウェルと対峙している。
どうやら、今回の冒険者ランク昇級試験の相手はギルドマスター直々のようだ。
「では、鋼鉄級冒険者、セリア・レオドールの昇級試験を始める。餞別だからな。期待を裏切るなよ」
餞別か。
他の街に行けば、冒険者ランクがそのまま信用度になるそうだ。
そうであるなら、少しでも高いランクへ昇級させてくれようとしているサムウェルの粋な計らいである。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
獅子獣人のゲキと死闘を繰り広げてから、俺の中で何かが変わったような気がしていた。
この体でも戦えるという『自信』という言葉が一番近いかもしれない。
剣の技は俺の記憶に存在した。
だからこそ、後は体に慣れるだけである。
それさえクリアできれば、以前には届かないまでも十分戦える。
俺はそう確信していた。
サムウェルは漆黒の剣を抜き放った。
俺のような目利きには一見しただけでわかる。
あれは普通の剣ではない。
魔剣ではないが、業物であるに違いない。
サムウェルの立ち姿も隙がない。
どうやら、剣の腕の方も相当なもののようだ。
だが、純粋な剣の腕ならば俺が負けるはずがない。
後は身体能力と、剣の性能差さえどうにか埋めればおのずと勝利の天秤はこちらに傾く。
一度深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
『英雄の心』が発動する。
さらに、声に出すことなく肉体強化魔法を詠唱した。
「いつでもいいぞ」
先制の一撃は譲ってくれるようだ。
俺は買ったばかりの剣を握り締める。
以前の剣はゲキとの戦いで折れてしまった。
前回は金貨1枚と銀貨50枚の剣であった。
しかし、今回は奮発して金貨10枚の剣である。
構えた剣の刃は薄青く発光している。
魔鉄と鋼で鍛えた剣で、靭性強化の魔法が付与されている。
キャッチフレーズは『折れない、曲がらない、斬れない』である。
さすが金貨10枚の剣だ。
俺は剣を構えたまま、サムウェルに迫る。
先手必勝。
俺に最初の一撃を許したことを後悔させてやる! と、肉薄して剣を振った。
カン! 小気味良い音がし、俺の剣が弾かれた。
だが、それも想定済みである。
俺は勢いを殺すことなく、そのまま連撃へと移行した。
袈裟切り、横薙ぎ、斬り払い。
そして水月へ突きを放つ。
足捌きにより、サムウェルの重心をずらし、太刀筋に変化をつける。
しかし、その全てをサムウェルは余裕を持って捌いた。
この時の俺は、自分の力が肉体強化魔法を使っても鋼鉄級、せいぜい青銅級の下位程度しかないことを忘れていた。
さらに言えば、サムウェルが元黄金級冒険者だとは知らなかった。
元とはいえ、黄金級冒険者にとって青銅級冒険者の攻撃など見切るのは容易い。
実力差が大人と子供くらいあるのだ。
俺の攻撃なんて、効くはずもなかった。
サムウェルが剣を横に倒し、そのまま振り抜いた。
俺はどうにか剣で受け止めると、バックステップで距離を取った。
「あんたやるな。ギルドマスターにしておくにはもったいない。今からでも冒険者になって前線に行った方が人族のためじゃないか?」
俺はしびれる手を誤魔化すようにそう言った。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、俺は後進の育成をすると決めたんでな。それよりも、やはりあんたは、バランスがおかしいな。剣技は達人級だが、身体能力が追いついていない。実は真の力が封印されているってことはないか?」
「そんなカッコイイ設定なんてない」
ただ、自分の体ではないだけだ。
と、続けたかったが言わなかった。
どうせ信じてもらえるはずがない。
「そんなことよりも、続きだ。行くぞ!」
「どうやって?」
俺が動き出そうとした時、サムウェルが剣を肩に担ぎながら疑問を口にする。
「は? それはこの剣・・・・で・・・・え?」
剣が目の前で真っ二つに折れた。
え? え? 金貨10枚だぞ?
折れない剣だぞ?
「あぁ、すまん。俺の剣は隕鉄と魔鉄で造られた剣で、魔法を無効化する。だから、魔法で強化してある剣でも斬ることができる」
は?
はぁあぁぁあぁぁ??
そんな剣を昇級試験で使うなよ!
この剣、金貨10枚もしたんだぞ。
今回は新品で、処女航海ならぬ、処女戦闘だったんだぞ。
それを、こいつマジふざけんなよ!
悪い悪いと、サムウェルが手で後頭部をかく姿を見ると怒りが頂点に達した。
「げへへ。ぎゃはっははは」
泣き笑いながら鞘を構え、サムウェルに殴りかかった。
サムウェルは申し訳なさそうな顔で応戦する。
俺の鞘をサムウェルが剣で受けるごとに、鞘が短くなっていく。
そろそろ殴るところがなくなった頃、俺は鞘を投げつけた。
すかさず魔法を発動する。
既に心の中で詠唱していたのだ。
魔法の発動により、地面の土が舞い上がる。
俺はそれを利用してサムウェルの背後に回り込むと、思いっきり殴りつけた。
「ユルシガタシ!」
しかし、直前で大声を出したためサムウェルが超反応でかわす。
俺は無様に地面に転がった。
悔しいです!
本当に悔しいです!
せめて一撃と思ったのだが、今の俺では届かない。
「その、あれだ。本当に申し訳ない。詫びの印にこの剣やるから許してくれ」
膝を突いて泣いている俺に、サムウェルが漆黒の剣を差し出した。
「それはさすがにもらえない」
「いや、いいんだ。俺が持つよりも、あんたの方が今後必要だろ?」
それはそうかもしれない。
だが・・・・。
「俺は可能性を見た。達人級の腕があるのだから、後は魔物を討伐してレベルを上げ、身体能力が上がれば魔王にさえその刃は届くのではないかと思う。だから、もらってくれ」
押し付けられた漆黒の剣を受け取る。
このような剣が手に入るのは素直に嬉しい。
だが、絶対に言えないことがある。
それは、俺の成長限界はとうに来ているということだ。
俺の伸び代がは皆無なのだ。
「それと、旅にはレーアも連れて行ってくれ」
「え゛!」
「何だ、嫌なのか? 俺がいうのもあれだが、なかなかにいい女だと思うぞ。気立てもいいし、優しいし、理想的な女性だと思うが?」
「そ、それはそうなのかな? ははは」
「なら決まりだ。あいつのこと、よろしく頼む」
「あぁ、うん。了解です」
断るなんてことできるはずがない。
なぜなら、本人が訓練場の縁にいるからだ。
「よし、それではセリア・レオドールの昇級試験を終了する。結果は合格だ!」
「「「おぉおぉぉ」」」
観客が歓声を上げる。
その中には、じいさん達や『月下の大鷹』、『黒牛』達もいる。
「今日は祝いだ!」
誰かがそう言うと、皆が呼応する。
どうやら、今日の宴会も確定したようだ。
冒険者とは、本当に飲むのが好きな人種である。
目覚めると、そこはいつものテーブルの上だった。
慣れたもので、もう動揺はしない。
起き上がると伸びをした。
傍らを見ると、サムウェルからもらった漆黒の剣がある。
銘は『真なる闇』というらしい。
良い剣ではあるが、聖剣と対極にあるような気がする。
「おはようございます。起きたんですねー」
元気な声が聞こえ、顔を向けるとキャロルがいた。
どうやら、今日の朝当番はキャロルのようだ。
「おはよう。キャロルは朝から元気だな」
俺がそう言うと、キャロルは複雑な顔をした。
「そうでもないんですよー。お客さんとか、あまり知らない人の前だと条件反射で取り繕ってしまうんですよー。でも、セリアさんならもういいですよね。どうせ、先輩といなくなるんだし」
「うん? それってどういう意味だ?」
「は~、セリアさんが先輩を連れていっちゃうから、もう先輩をいじれないじゃないですかー。ほら、先輩ってすごく真っ直ぐじゃないですか? だから、ちょっとおだてたり、言葉で誘導したりすると面白いんですよねー! セリアさんもそう思いません?」
あれ? キャロルってこんな娘だっけ?
「キャロルってこんなだっけ?」
「やだなー、いつもは猫かぶってるに決まってるじゃないですか」
キャロルが、あははーっと声を上げて笑う。
俺はかなりショックを受けた。
「あれー? もしかして、セリアさんって私のことが好きだったんですかー?」
「いや、好きというか、キャロルは癒し系だなーって思ってた。ほら、俺の周りの女性って、皆一癖も二癖もあるだろ? キャロルだけが癒しだったんだよ」
「そうですかー。それは残念でしたね。けど、これからは先輩がいるので、先輩で癒されてください」
キャロルがニコニコしながら言う。
「レーアかぁ。レーアってちょっと怖いんだよ」
「そうなんですかー? だって、誰にでも優しく、才色兼備で理想的な女性って言われてますよ?」
「それはわかる。芯が強くて、優しい一面もあると思う。だけど、なんか俺にだけ怖いんだよ。たまに鬼のように見えるし。それに、眼力がすごい。あれは眼力だけで人を殺せるな、うん」
うん、うんと頷く俺にキャロルが笑ってくれる。
「だ、そうですよ。先輩どうします?」
え?
ギギギっと音が鳴りそうな仕草で後ろを見ると、そこには鬼がいた。
「誰が眼力で人を殺せるって?」
額に青筋を立てたレーアが俺を睨んでいる。
そうそう。この眼力だよ。
絶対人を殺せると思う。
というか、俺が死にそうだ。
助けを求めてキャロルを見ると、ニコニコと笑っている。
そこで始めてキャロルの本性を知った。
「い、いや、レーアさん。俺は芯が強くて、優しいと言ったんですよ。眼力の件は言葉の綾といいますか、あははは」
レーアはしばらく俺を睨んだ後、ため息を吐いた。
俺は殺されなかったが、寿命が数年縮んだような気がする。
「もういいわ。それで、あんたはまたここで寝ていたようだけど、もう旅の準備はできたの?」
「まぁ、一応」
俺の返事が気に入らなかったようで、レーアが苛立つ。
「一応? 今日旅立つんでしょ? 一応って何なのよ!」
「いや、今日旅に出るのか?」
「あんた、この前一週間後って言ったじゃない」
「俺は一週間後くらいを目処にって言った・・・の、ですが・・・・そうですね、今日はお日柄も良く、絶好の旅立ち日和ですね」
危なかった。
レーアがガチでキレかけている。
「まずはエルフの里にいくんでしょ? だから、南へいく馬車の護衛依頼を受けておいたから。お昼に南門に集合。それまでにやり残したことはやってしまうように」
「了解しました! では、俺はこれで」
俺は脱兎のごとく冒険者ギルドから飛び出した。
向かう先は家である。
荷物を取りに行くのと、ベンさんへのお礼を言わなければならない。
突然で驚くかもしれない。
俺は道中、ベンさんへの言葉を考え歩き続けた。
次回、ついに旅に出ます。
新キャラ? も出ますのでお楽しみに。
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