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第48話:サムウェルより弱ぇー・・・

新展開が始まります。

新たな仲間もいずれ出てきます。



 ダンカンに続いて、ガルベス、サンタナと握手を交わす。

すると必然的に、皆と握手をしこれまでをのことを労う形になった。

俺とだけでなく、そこかしこで握手やお互いを労う姿が見られる。


 この街の冒険者ギルドに所属する高ランクパーティーである『月下の大鷹』、『栄光の残滓』、『黒牛』達の関係性が良好になったことが、この迷宮探索の一番の収穫のような気さえする。

これならば、この街に何かあったとしてもスムーズに協力関係を築けそうだ。

俺はそんなことを考え、安心していた。

そして、これならば俺が居なくても大丈夫だと思った。


 最後にシーラと握手を交わす。

なぜか両手で包み込まれる。

シーラの手は、あれだけ剣を振っているのにもかかわらず女性特有の柔らかさを備えていた。

上目遣いで俺を見る顔は、仄かに紅潮している。


「セリア殿、無理を承知で最後にお聞きしたい。是非、我らのパーティーに加入していただけないか?」


 祈り、懇願するようなシーラの表情は真剣そのものである。

その誘いは非常に魅力的ではある。

後衛が充実している『月下の大鷹』であれば、前衛をシーラと俺が務めれば、もう一段上のパーティー戦力になるだろう。


 けれど、それを承諾することはできない。

俺にはやらなければならないことがあるからだ。


 俺はシーラの提案に首を横に振る。


「すまない。それはできない」


「そう・・・・か。わかってはいたが、やはり直接言われると堪えるものだな」


 シーラは僅かに、目に涙を浮かべていた。

それを見ると心苦しかったが、どうすることもできない。


 俺は、自分の本当の体を取り戻さなければならない。

資金は十分得た。

この世界の常識もある程度把握した。


「さて、それじゃぁ、迷宮探索依頼の精算はこれで終わりだ。ところで、聖剣の担い手であるセリアはいつ旅立つんだ?」


「――――え?」


 なぜサムウェルはそのことを知っている?

まさか、考えていることを読み取れる能力があるのか?


「それはわしも気になっておった。旅立つ前に見送りくらいしたいからのぉ」


 いぶかしむ俺にエリックも続く。

どういうことだ?


「なぜ俺が旅立つことを知っているんだ?」


 腕を組み、首を傾げながら言う俺に、今度は皆が驚いていた。


「まさかお主、昨日の夜のことを覚えておらぬのか?」


 エリックが恐る恐ると言った感じで尋ねてくる。


「昨日? いや、一杯目のビールを飲んだところまでは覚えているんだが、気がついたらテーブルの上で寝ていたみたいだ」


 沈黙が支配する。

もしかして、俺何おかしなことを言ったのか?

困惑している俺の肩にダンカンが手を置いた。


「兄弟、昨日のあんたはやばかったぜ」


 心底哀れむようにそう言った。


「な、なんて言ってたんだ。俺は・・・・」


「まず一番やばかったのは、『俺は異世界からの転生者で、5度も魔王を倒している!』って言ったことだな」


 マジかよ。

俺、酔っ払ってそんなこと言ってたのか・・・・。


「他にも、『俺の本当の姿は19歳の超絶イケメンで、力も魔法も最強だ!』とも言っておったぞぃ」


 くっ、これを言うと頭がおかしなやつだと思われるから黙っていたのに・・・・。


「最後は、『俺はこれから旅に出て魔王を倒し、この世界を救ってやる!』と大声で宣言していたな」


 止めにサムウェルが言う。

俺は額に手を当て、天を仰いだ。


 やばい。

事実であるが、これはやばい。


 どうやら俺も、この頭のおかしいやつが多い街に当てられたようだ。

完全に、頭のおかしいやつらの仲間入りである。


 皆の視線が俺に集中する。

やめてくれよ。

そんな目で俺を見るな!

ここにいるやつらは半信半疑ながらも、俺が魔王を倒しに行くと思っている。

それだけの力を示してしまったからだ。


「旅には・・・・でる。一週間後くらいを目処に考えている」


「そうか。それなら、一週間後に冒険者ランクの昇級試験を行うから、時間を取ってもらいたい」


 サムウェルの言葉に頷いた。


 それから俺達は一週間後の再会を約束し、解散した。

俺は久しぶりにベンさんのいる家へ帰る。

手には大金の入った袋を持っているのだから、おいしいものを買って帰るつもりだ。


 食事の後、ベンさんへ旅に出ることを伝えよう。

ここまで良くしてくれたベンさんに返せるものは、やはりお金以外おもいつかない。

受け取ってはくれないだろうな、と思いながら、商店街のほうへ足を向けた。




 一週間、その多くを俺は冒険者ギルドの情報室で過ごした。

旅に出ると決めたからには、この世界の情報をできるだけ多く入手しなければならないからだ。

そんな俺の隣には、いつもティファニアがいた。

彼女は何も言わず、俺の代わりに文字を読み聞かせてくれる。

おかげで俺も少しはこの世界の文字を読めるようになった。


 ティファニアの行動は、当然私も旅に同行しますと言っているように思える。

俺はそれを容認している。

そもそも、今の俺の実力では目指す場所へたどり着くことはできないだろう。

彼女の力を当てにし、協力してもらう。

その代わり、本来の姿に戻った暁にはエルフ族の悲願を叶えるつもりだ。


 そんな俺達に、レーアも時間を見つけては協力してくれた。

旅の立ち寄り地点や、交通網の把握。

魔王軍の動向や、魔物の生息圏などを紙に記していく。


 そんな日々が続き、一週間が経過した。




 セリアの冒険者ランク昇級試験を前日に控えたその日、レーアはギルドマスターであるサムウェルに呼ばれて個室にいた。


 サムウェルとの一対一の対談を要求されたのは初めてのことである。

レーアは自分が何かしら問題を起こしたのかと、自問自答していた。


「すまない、待たせたようだな」


 サムウェルが少し遅れて個室に入ってきた。

レーアはその顔から何か情報を得られないかと観察する。

しかし、サムウェルの顔は至って普通で何もわからない。

ただ、少なくとも怒ってはいないようだ。


 サムウェルが椅子に座ると、二人はテーブル挟み向かい合う。


「いえ、私も先程来たところです。それよりも、今日はどういったご用件でしょうか?」


「うむ。その、まぁあれだ。俺には言いにくいかもしれないが、ギルドのことは俺達に任せても大丈夫だからな。安心してくれ」


「はい?」


 サムウェルの言葉の意味をレーアは理解できなかった。


「いや、君がセリアと一緒に旅に出たいと思っていることはわかっている。真面目な君だ、ギルドに迷惑をかけられないと思い、そのことを言い出せなかったのだろう? 大丈夫だ。俺が責任を持って、君を休職扱いにしておいた。なぁに、シフト自体は俺達でどうにかまわせる。実際、君が迷宮へ行っている間は、それでやりくりしていたしな」


 一息にまくし立てるサムウェルの言葉のほとんどを、またもやレーアには理解できなかった。


「あの、誰が旅にでるんですか?」


「君だろ?」


「――――え? 何で私があんなのと旅に出ないといけないんですか? 行くわけないわ」


「え? いや、だって君はあれだけセリアのことが気になっているようだし、彼らの旅の計画にも関与しているようだし・・・・、え? 行かないのか?」


「行きませんよ。何を言ってるんですか?」


 レーアは心底理解できないように、首を横に振る。

実際に、レーアは旅に同行する気などなかった。

もちろん、少しは付いて行きたい気持ちもある。

けれど、同行者がセリアとティファニアでは波乱の予感しかない。

どうせなら、旅行感覚で世界を見て回りたいと、そう思っていた。


「それは困る!」


 突然、サムウェルがテーブルを両手で叩き、腰を上げた。


「困るって・・・・」


「もう、本部に連絡してしまったんだよ! 当然君の休職は受理された。ついでに、彼らの動向を監視して欲しいという要請も受諾してしまった」


「えぇー・・・・。さすがにそれは・・・・」


「セリアへは明日、俺が言っておく。だから頼む、彼らと旅立ってくれ」


 それは暗に、ギルドから出て行けと言っているようなものだ。

サムウェルはそれに気がついていないようで、レーアの口からは乾いた笑いが漏れている。


 レーアは自分が二人と共に旅をする姿を想像した。

ティファニアは礼儀正しく見えて、時々人族を見下していることがある。

セリアに至っては、明らかに常識が欠如している。

そう考えると、誰かがお目付け役で付いていかなければ旅先で揉め事を起こす。

それも高確率でだ。


「は~ぁ、わかりました。一緒に行きます」


「おぉ! 助かる」


 レーアのため息混じりな言葉を聞き、サムウェルは心底ホッとしたように頷いた。


 話は終わり、レーアが部屋から出ようとするとサムウェルが言った。


「セリアは本当に魔王を倒し、世界を救ってくれるかもしれない。それを明日証明してくれるはずだ。君がそれを見れば、きっと今日の決断を後悔しない。俺はそう確信している」


 サムウェルの顔は確信に満ちていた。

レーアはそれを冷めた目で見て、部屋からでた。


 レーアはこれから大変になるなと、もう一度大きなため息を吐いた。

次回、ギルドマスターサムウェルと戦います。


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