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第45話:ライオネットより弱ぇー・・・

いよいよ、強敵との戦いです。




 目の前の獣人から強烈な威圧感を感じる。

それだけで、男の実力が非凡であるとわかる。

男は魔王軍第3師団隊長、獅子獣人(ライオネット)のゲキと名乗った。

だから、俺達とこの男との戦いは避けることができない。


 ゲキは右腕に力を集約している。


「さて、まずは小手調べだ」


 そう言うと、拳を引く。


 まずい。

あれはまずいと俺の直感が警告する。

ゲキとの距離はまだ30mくらいある。

当然、手が伸びない限り届くはずがない。

だというのに、気付くと声を張り上げ怒鳴るように指示を出していた。


「ティファ、シーラ。前に出て障壁を展開しろ!」


 そういった瞬間、ゲキが拳を正面へ突き出した。

拳から放たれたのは、すさまじい威力の衝撃波である。

砂漠の砂を巻き上げ、地面をえぐりながら俺達へ襲い掛かる。


 ティファニアとシーラは瞬時に俺の指示を聞き入れた。

先頭に立つと、ティファニアは魔法の障壁を、シーラは闘気の障壁を展開する。

展開と同時に、衝撃波が障壁に激突した。


「くっ!!」


「何っ!!」


 ティファニアとシーラの口から声が漏れた。

二人のあそこまで必死な様子を見るのは初めてのことだ。

どうにか衝撃波を耐え切ると、辺り一面に砂埃が舞い上がる。


 砂埃が収まり、皆の様子を確認すると驚愕した。

ティファニアとシーラの障壁はチーム全体を守ることができなかった。

障壁の薄い場所は貫通し、左右の端にいた『黒牛』三人とエリック、リゲル、ジン、アイシャが地面に倒れている。

七人ともに、意識がない。

そして、ティファニアとシーラも全身にダメージを負い慢心創痍である。


 何だこれは?

状況に理解が追いつかない。

とても現実とは思えない光景が広がっている。

どうにか衝撃波から守られた者も、ただ呆然と立ち尽くしている。


「すみません。防ぎきれませんでした」


 ティファニアが謝罪を口にする。


「アイシャ・・・・嘘・・・・」


 シーラは唯一被害を受けた『月下の大鷹』の仲間を見て茫然自失している。


「予想よりも多く残ったな。よし、今立っている奴は俺への挑戦権ありだ。さぁかかって来いや!」


 ゲキが不敵に笑い、挑発する。


 これはやばい。

ゲキの一撃一撃が必殺である。

今、先程の攻撃をもう一度されたら全滅だ。

俺は『英雄の心』を発動させた。

そして、茫然としている皆へ怒鳴り声をあげる。


「ぼさっとするな! 敵は目の前にいるんだぞ!」


 俺の声に、皆がハッとし意識が切り替わる。


「ティファ、シーラはあいつの相手を頼む。他の者では無理だ。危険な役回りだが、二人で協力しろ。いいな?」


 ティファニアとシーラが顔を見合わせ、頷いた。


「よし、レーア!」


「はいはい、わかってるわよ」


 そう言ってレーアは上級ポーションを二人へ投げ渡す。

二人がそろってポーションを飲む。


「行け! こっちは心配するな。あいつを絶対に倒せ!」


「わかりました」


「承知」


 ティファニアとレーアは振り返ることなくゲキへ向かって走り出した。

俺はそれを見届けることなく、他の仲間に指示を出す。


「全員がここに固まっていては、またあいつの標的になる。俺とルーカスは左から、ミミとリオは右から回りこんでティファとシーラの援護。サリーとマオはここに残れ。あいつが攻撃してきたとき、一撃だけでも魔法の衝撃で防いで欲しい。レーアは負傷している者の手当てを。アナライザーは――――レーアの手伝いをしてくれ。ここに残るのは女性だけだから、最後の局面では体を張れ、命をかけろ」


「待て、それはどういう?」


 俺の指示に皆が頷く中、アナライザーだけが疑問を呈する。


「そのままの意味だ。男なら体を投げ出して壁になれ」


「マジか! だが、俺は――――」


「レーア、一つ頼みがある」


 俺はアナライザーの情けない言葉を最後まで聞くことなく、レーアに頼み、あるものを受け取った。


「よし、じゃぁ行くぞ! 皆、健闘を祈る」


 そう言って俺達は各々の役割を果たすために動き出した。





 ティファニアとシーラはゲキと名乗る獅子獣人へ疾走している。

先程の攻撃をされる前に接近し、倒さなければならない。

それは二人の共通認識であった。

こと、ここに至ってようやく二人は目的を同じくしたのだ。


「足を引っ張らないでくださいね」


「貴殿こそ、我の邪魔だけはするな」


 それでもソリが合わないのは間違いない。

でも、お互いに実力だけは認め合っている。

だからこそ、心強さは感じていた。


「我が手に宿れ、万物を灰燼と化す原初の炎よ」


 ティファニアは魔法で原初の炎を左手に宿す。

それをそのままゲキへ放った。


 ゲキは原初の炎を裏拳で横へ弾き飛ばす。

やはり効かないかと歯噛みするティファニアであるが、隙は作ったと確信する。

シーラは無防備になったゲキへ接敵すると、洗練された剣を振るう。


 ゲキはそれを楽しそうに腕で受け止めた。


「やっぱり一番強いのはお前らか」


 そう言うゲキの横腹目掛けて、今度はティファニアが細剣を振る。

ゲキはそれをバックステップでかわすと、ティファニアへ拳を繰り出す。

ティファニアはそれを転がりながら避ける。

すると今後はシーラが高速でゲキの背後に回りこむ。

しかし、そのシーラの一撃さえゲキには届かない。


 互角のような攻防が続く。

実際は、一撃一撃が必殺のゲキの攻撃に二人は神経をすり減らしている。

それでも、二人は負けるわけにはいかないとこれまでの研鑽を信じ、自分に出せる最大出力で戦い続けた。




「お主、自分とわしと、あの女子(おなご)達を囮に使っておるじゃろ?」


 俺とルーカスは戦闘を繰り広げているティファニアとシーラ対ゲキの左側へ回りこもうとしている。

本来であれば、そこからルーカスが弓で援護射撃をするところであるが・・・・。


「ここからあの戦いに援護射撃などよほどの達人でなければできんわぃ。それでも人員を分けたのは、あやつの狙いを分散させるためじゃろ? じゃが、わしらのところも、女子のところもあやつの攻撃に耐えることはできはすまいて」


 無言の俺に対し、ルーカスが続けて言った。

実際その通りである。

俺はミミリアとリオに無防備な囮になれと指示したのだ。

負傷者への追撃を避けるために。

全員が無事に生還できる可能性を目指した。

全てを救う。

それこそが英雄としての使命である。


「だけど、それだけじゃない」


 そう言って俺は懐からあるものを取り出した。

それはレーアからもらった紅蠍の毒を取り出した。


「致死の毒だ。俺は今から気配を消して近づく。ルーカスじいさんはここにいてくれ」


「本気でいくつもりか?」


「あぁ。けど、ティファとシーラが倒すと思う。だからあくまでも保険だ」


 そう言って俺はルーカスに背を向け、砂の小山で身を隠しながら三人の戦場へ向かった。

あの超人達の中に入り込むことができるだろうか?

その疑問は頭を過ぎったが、そもそも転生前の自分の方が遥かに強いという確信がある。

だからこそ、恐怖も気負いも感じなかった。


 三人の戦いは熾烈を極めていた。

余裕がありそうなのはゲキであったが、ティファニアとシーラが予想以上にお互いを補填し合って連携している。

そのため、お互いに決定打に欠け一進一退の攻防が続いている。

だがそれもまもなく終わりそうだ。


 前衛をシーラが務め、ティファニアが後衛でそのフォローをしているように見える。

だがその実、ティファニアはすでに七つの原初の炎を空に浮かべている。


「シーラ」


 ティファニアが叫ぶと同時に、シーラが離脱する。

そして、ティファニアの手に宿る原初の炎と合わせて()()の魔法がゲキへと襲い掛かる。

回避不能の一撃。

必殺の超級魔法である。


 これで終わりだと思った。

ティファニアもシーラもそうである。

しかし、砂塵の中から現われたのは、両の拳ですべて叩き落した無傷のゲキである。


 ゲキは一瞬でシーラとの間合いを詰めた。

それは本当に刹那の間、シーラの思考停止による隙であった。


 ゲキの拳をシーラはどうにかわしたが、足をつかまれ地面に叩きつけられた。

吐血しながら、シーラは十数m吹き飛ばされた。

ゲキが右腕に力を集中し始める。

シーラに止めを刺すつもりだ。

ティファニアは奥の手として隠していた最後の原初の炎をゲキへ降下させる。

同時に、ゲキは標的をティファニアへ変え一撃を放った。


 どうなったかわからない。

砂埃が舞い、状況判断ができない。

そんな中、俺は駆けていた。

砂埃の中をゲキ目掛けて疾走していた。


 ティファニアの奥の手でも倒せないという確信があった。

だが、間違いなくチャンスである。

二人のことは一度意識から除外した。

大丈夫、必ず無事でいるはずだ。


 砂埃の中、ゲキの輪郭が浮かび上がる。

やはり無事か。


 俺は一息で距離を詰めると、紅蠍の毒を塗った剣を振った。

狙いは首である。

輪郭から判断しているが、常に狙い続けた部位である。

間違いなく、首へ剣の刃が振り下ろされた。


 とった!


 そう思った俺であったが、ゲキに触れた剣は根元から音を立てて折れた。


「なっ! 嘘だろ?」


 風が砂埃を飛ばし見えたのは、首の薄皮一枚が切れただけのゲキの姿であった。


「お前いいな。本当にいい。――――っ!」


 俺の方を見て笑うゲキであったが、めまいがしたかのようによろめいた。

薄皮でも毒が入ったのだ。


 だが、ゲキの動きが止まったのは僅か3秒程度である。

その間俺は、退避か追撃かを決めかねていた。

追撃したいが、武器がない。

だからこそ何か方法が無いかと模索してしまったのだ。

そのため、俺は逃げる機会を失っていた。


 ゲキが右腕に力を集中し始める。

俺はまずいと思い、後ずさるが時すでに遅い。


「あばよ」


 ゲキはそう言って俺目掛け、拳を放った。


 死ぬ。


 そう思った瞬間、誰かが俺に飛び掛り抱きかかえた。

衝撃波の直撃は避けることができたが、余波で俺は十数m吹き飛ばされた。


 気がつくと、口の中に大量の砂が入り込んでいた。

咳き込みながらそれを吐き出し、辺りを確認すると近くでルーカスが倒れていた。

俺を助けてくれたのはルーカスだったのだ。


「ルーカスじいさん」


 俺は急いでルーカスのほうへ駆け寄った。

ルーカスは口から血を流し、全身が打撲もしくは骨折しているようであった。

体を動かすことはできそうにない。

視線もどこか定まっていないようで、重傷を負っている。


 どうすべきか逡巡していると、ルーカスが必死にある方向を指差した。

その方向には、レーアや負傷した仲間がいる。

さらに運が悪いことに、シーラが吹き飛ばされた方向も同じであった。


 俺はゲキを見る。

ゲキは笑みを浮かべ、右腕に力を集中し始めた。

くそっ。

あれを放たれたら、皆死んでしまう。

俺はルーカスを置いて仲間のほうへ駆け出した。

間に合うはずがない。

それでも向かわずにはいられなかった。


 ゲキは無慈悲に、シーラ達へ向けて拳を放った。

すさまじい衝撃波が砂塵を巻き上げながら突き進む。

狙いはシーラであり、レーアや負傷した仲間である。

防ぐ手立てはもうない。


 俺は絶望に顔をゆがめ、それでも必死に皆のところへ走った。




 シーラは苦しい胸を押さえながら、ゲキを見つめる。

そのゲキは今まさに、シーラ目掛けて衝撃波を放とうとしている。

後ろを見やると、レーアが必死に負傷した仲間を看病しているのが見えた。


 衝撃波を後ろへ向かわせるわけには行かない。

シーラは最後の力を振り絞って、闘気の障壁を展開した。


 ゲキの放った衝撃波がシーラへ迫る。

シーラの衝撃と激突する瞬間、その前に何らかの障壁と衝撃波が激突した。

後ろを見ると、サリーとマオがシーラの前に魔法による衝撃を展開していた。


 シーラからフッと笑みが漏れた。

信頼を置く彼女達の力と自分の力を合わせれば、止められないものなどない。

そう信じてシーラも衝撃に備えた。


 結果として、三人の障壁は衝撃波の威力のほとんどを耐え切った。

しかし、ゲキはすでに二発目の構えを取っている。

シーラはその姿を絶望的な表情で見ていた。

シーラは後ろを見る。

すると、僅かに障壁を貫通した衝撃波が、サリーとマオ、レーアたちを吹き飛ばしている。

ほとんど受け止めたにもかかわらず、その威力である。

直撃すれば皆死ぬのは間違いない。

シーラは悔しさに顔をゆがめた。


 ゲキの第二発目が放たれた。


「皆、すまない。我では力不足だった」


 皆への謝罪を口にした時、一つの影がシーラ達の前に立ちはだかった。


 衝撃波を受け止めたのはティファニアである。

前面に魔法の障壁を展開し、一人で耐えている。

口からは苦痛の声が漏れる。

それでも地面を踏ん張り、ついに一人で耐え切って見せた。


 衝撃波を一人で受け止めたティファニアは膝をついて倒れた。

両腕が本来曲がらない方向へ曲がっている。


「貴殿、どうして?」


 シーラの問いに、ティファニアが答える。


「私にできた初めての対等な友達だから」


 ティファニアはシーラを友達と言った。

だから守るために身を挺したのだと。

シーラは悔しかった。

そこまでしてもらったのに、自分は何も出来ないと。

誰でもいい、友を、仲間たちを助けて欲しい。

シーラは初めて他者に助けを願った。




 俺が駆けつけたとき、その惨状に言葉を失った。

ティファニアもシーラもすでに戦闘不能である。

サリーとマオは体を強く打ち付けたのか、立ち上がるのがやっとのようだ。

さらにレーアもうつ伏せで倒れている。

万全の状態であるのは、俺とアナライザー、そして少し離れたところにいるミミリアとリオだけである。


 俺はゲキを見る。

ゲキはつまらなそうに腕を組み、こちらを見ていた。

その姿にたまらなく怒りを感じる。


 俺は本来の力の半分もあれば、ゲキを倒すこともできただろう。

だが、今の俺にそこまでの力はない。

何かないか?

何かあいつを倒す方法はないのか?


 必死に頭をフル回転させ、希望を見つけようとする。

そして、一つだけ、たった一つだけ可能性を見つけた。


 もう、これに賭けるしかない。


「ティファ、魔力回復薬はまだあるか?」


 俺は苦しむティファニアへ問いかけた。

ティファニアは俺に気がつくと、ゆっくり頷いた。

そして、視線を腰に括りつけたポーチへ動かす。


「もらうぞ」


 返事を待つことなく、俺はティファニアのポーチから魔力回復薬を取り出した。

ポーションの小瓶に入った真っ赤な液体が俺の手の中にある。


 俺は覚悟を決め、その液体を口の中へ含ませた。

次回、決着です。


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