第42話:カンガルーより弱ぇー・・・ part2
前回の第41話を昨日加筆しました。
読んだ方は、最初の方の意味がわかりにくかったと思います。
申し訳ありません。
「おい、起きろ! 敵襲だ」
声をかけられ、飛び起きた。
目の前にはダンカンがいる。
「状況は?」
俺は瞬時に思考を切り替えた。
転生前の世界でもこのような状況は多々あり、慣れている。
「悪魔の眼球どもが集まってきている。さっきから撃退しているが、どうにも数が増えすぎて手に負えん。交戦か撤退か判断してくれ」
俺は辺りを見渡すと、すでに皆起きていた。
「数は?」
「40から50ってところだ」
多いな。
それだけの数が一斉に襲ってきた場合、非常に厄介だ。
全員石化すれば、当然全滅である。
「一旦、階段まで撤退する」
俺が指示を出すと、皆すぐに階段へ向かった。
幸い、階段近くで野営していたため、すぐにセーフティーエリアである階段へたどり着いた。
ダンカンが見張りの順番ということは、眠ってからそれほど時間が経っていないということだ。
おそらく、今は深夜くらいだろう。
今からの戦闘は非常にリスクがあり、明日の迷宮探索に支障をきたす恐れがある。
俺は全員に階段で休むように指示を出した。
悪魔の眼球の討伐は、万全の状態で行うつもりだ。
それまでに、石化の解決方法を考えなければならない。
俺は解決方法を考えながら、再度眠りについた。
目覚めると、伸びをした。
やはり、階段よりは地面で眠りたい。
今日はティファニアの消耗を抑え、全員街へ転移できるようにしたいものだ。
「ティファニア、魔力はどうだ?」
「はい、一晩寝ましたので、5割くらい回復しています」
5割か。
多いのか、少ないのか。
まぁ、皆を転移するくらい問題ないだろう。
「皆、聞いてくれ。25階層の魔物である悪魔の眼球をどうするかだが、基本は弓を使うルーカス、アイシャ、リオによる先制攻撃を主体とする。やられる前にやれ! を基本方針とするが、昨晩のように数が増えすぎた場合、弓だけでは対処できない。どうしたら良いか、意見がある者はいるか?」
「それならば、我が先頭に立とう。我には石化など無効だからな」
ん? そうなのか?
「シーラは石化耐性でもあるのか?」
俺はシーラへ問いかけた。
「それはない。だが、闘気を全身にまとえば大概の状態異常はレジストできる」
マジかよ。
闘気ってやっぱりすごいな。
万能じゃないか。
だが、まだ足りない。
シーラ一人では限界がある。
「石化解除薬ならいくらかもっているわ。けど、これはあくまで解除であって、予防ではないのよ」
つまり、石化してからの回復薬ということだ。
回復薬があるのは心強いが、今はもっと直接的に魔物を狩れる道具が欲しい。
例えば、あの目を眩ませるような何かが――――そうか。
「合図をしたら俺が光の魔法を打ち上げる。さすがにあれだけ大きな目玉なんだから、効果はあるだろ?」
「確かに、悪魔の眼球は光に弱いとされている。だが、光魔法も使えるのか?」
いぶかしむアナライザーへ俺は光魔法で小さな球体を作り出した。
「これより大きな光を作り出すことも可能だ」
光の玉の出現は一瞬でいい。
それならば、そこまで魔力は消費しない。
「よし、では行くぞ」
俺達は再度25階層へ突入した。
想定では、すでに悪魔の眼球は昨夜集まった地点からバラけていると思っていた。
しかし、ご丁寧にも昨夜のまま階段付近に漂っている。
これは、チャンスかもしれない。
「魔法を使う。皆、目を閉じろ!」
すぐさま詠唱を開始し、光の球体を空へ浮かび上がらせた。
狙い通り、悪魔の眼球はすべて光が目に入り、のたうちまわっている。
「全員散開。打ち漏らすなよ!」
俺達は50匹弱の悪魔の眼球をすべて討伐した。
どうやら、石化の魔法を使う余裕もなかったようである。
「シーラを先頭に、階段を探す。警戒だけは怠るな」
警戒しながら進んだ俺達であったが、先程の大群でほとんどすべてだったのだろう。
散発的に遭遇はしたものの、誰も石化することなく26階層への階段へ到達した。
26階層は階層を横断する幅広い川が流れている。
深さも俺の腰くらいあり、流れも速い。
川の中で襲われた場合、身動きがとりにくいため非常に危険である。
俺達はとりあえず、川に沿って歩くことにした。
右側を川が流れ、左側は草が生い茂っている。
俺達が歩いているのは、川のほとりである。
足元は砂利であるが、川や草の中を歩くよりも遥かに歩きやすい。
「前から何か来るよ。おそらく魔物だね」
ミミリアが警戒を促すと、何かが飛び跳ねながらこちらへ向かってくる。
大きな耳に、軽快なジャンプ、腹の袋が特徴的である。
「あれって、カンガルーだよな?」
俺が皆に尋ねると、揃って首を傾げられた。
どうやら、この世界にカンガルーはいないようだ。
じゃぁ、あれは何だ?
「拳闘王じゃよ」
「拳闘王!? なんか、カッコイイ名前だな」
「油断するなよ? あいつらは近接戦闘のエキスパートだ。あの愛らしい姿に惑わされて地獄を見る冒険者は後を絶たない」
そうだろうか?
注意深く観察すると、両手の拳がやけにでかい。
というか、俺の頭くらいある。
確かに、殴られたら痛そうである。
「よし、遠距離で倒してしまうか。ティファニア、サリー、マオ、魔法の準備」
俺は指示を出すが、三人とも魔法の詠唱を行わない。
どうしたんだ?
「セリア殿、これは不文律だが、拳闘王と戦うときに遠距離攻撃を使ってはならない」
シーラが諭すように言う。
は? 何でだよ。
意味がわからない。
「拳闘王は自らを鍛え上げておるから、それに敬意を表して近接戦闘で相対するというのが昔からの慣わしでのぉ。わしらも遠距離攻撃は遠慮して欲しいのじゃが」
エリックまでそう言う。
魔物はどんどん近づいて来る。
わかったよ、もう好きにすればいい。
「じゃぁ、とりあえず近接戦闘できる者が対処するってことでいいのか?」
皆が頷くのを確認する。
「敬意を払うのはいいが、怪我だけはするなよ!」
皆が拳闘王と一対一の形を取る。
俺はどうしようかなと見ていると、一匹だけふらふらしている魔物がいる。
どうやら相手がいないようだ。
俺は挑発するように、一匹の拳闘王へ手招きをする。
そいつはうれしそうに飛び跳ね、向かってくる。
俺も剣を抜き放ち対峙する。
拳闘王は素手であるが、俺は武器ありでいいのだろうか?
周りを見渡すが、皆各々の武器で戦っている。
ちなみに、ティファニアとシーラはすでに相対した拳闘王を倒している。
瞬殺である。
まぁ、彼女達の技量なら当然だろう。
よし、俺もすぐに倒してやると意気込み剣を振り下ろした。
次の瞬間、横腹に衝撃を受けた。
踏ん張りが利かず、そのまま数m吹き飛ばされる。
いったい、何が起きた?
前を向くと、拳闘王が拳を振り切っていた。
どうやら、カウンターをもらったようだ。
こいつ、こしゃくな!
俺が前へ出るよりも早く、拳闘王が迫ってくる。
そのまま、右と左の拳を小気味良く振りぬいてくる。
どうにか剣で防いでいるが、防戦一方である。
俺は戦況を打破するため、肉体強化の魔法の詠唱を開始する。
拳闘王がその隙を逃すことなく、俺は腹と顔に強烈な連続攻撃を決められ地面に沈んだ。
どうにか起き上がろうとするが、力が入らない。
追撃されたら死ぬ。
そう思い、立ち上がろうとするが頭の中が回転している。
拳闘王を見ると、すでに両手を挙げて勝ち名乗りをしていた。
そして、無様に倒れている俺へ見下したような笑みを浮かべる。
まぁ、実際見下されているのだが。
拳闘王はしばらく勝利のポーズを決めた後、突然体が光りだした。
光は点滅し、その間隔がどんどん短くなっていく。
そして、点滅の光が最高潮へ達した瞬間それは起きた。
目の前の拳闘王の体が膨れ上がり、これまでの二回りほど大きくなった。
全身の筋肉は膨張し、両手の拳は俺の胴体ほどの大きさになっている。
絶対、進化に違いない。
俺は目の前で、魔物の進化を目撃したのだ。
もしかして、俺を倒した経験値とかで進化したのか?
「こいつは、王の中の王だ。目撃例はこれまでに一度だけだ。しかも、進化が見られるとは本当にツイている」
ツイてねぇーよ。
こいつの相手誰がするんだ? また俺か?
進化前でも勝てなかったのに、今度は本当に死んでしまう。
俺の顔を見てくれ。
顔面がこんなにも膨れ上がっている。
俺の腹を見てくれ。
これ、間違いなくあばら骨が2本くらい折れてる。
どうにか立ち上がって『王の中の王』を見ると、他の戦いを見つめている。
すべての戦いが終わるまで待つつもりか?
「はい」
魔物が襲ってこないと判断し、レーアが俺にポーションを差し出した。
レーアは余計なことを言わない。
労わりも、慰めもない。
それが彼女の優しさであると感じた。
俺はありがたくポーションを受け取り、飲み干した。
すると痛みが嘘のように消える。
「助かった」
「別に、これが私の仕事だから」
素っ気無く言うレーアに苦笑し、周りを見渡した。
どうやら、すべての戦いが終わったようだ。
そして、負けたのは俺だけであった。
『王の中の王』がゆっくりとこちらへ向かってくる。
また、俺とやる気か。
今度は肉体強化の魔法をあらかじめ使うつもりであるが、それでも勝てるとは思えない。
『王の中の王』はゆっくりと拳を前方に突き出した。
拳はサンタナの方へ向いている。
どうやら、サンタナをご指名のようだ。
「よし、サンタナ。お前の力を見せ付けて来い!」
ホッとしながらサンタナを送り出す。
「何で俺なんだよ」
文句を言っているようだが、サンタナの戦闘スタイルが素手の格闘だからだろう。
実際は魔力を両手に帯びているが、とにかく拳闘をしたいのだろう。
「がんばれ!」
「負けんな!」
ダンカンとガルベスも応援している。
その姿に呆れたのか、ため息を吐きつつサンタナは『王の中の王』と対峙した。
戦いはどちらからともなく始まった。
お互いにファイティングポーズをとりながら距離を測る。
しかし、上背もリーチも『王の中の王』の方があり、そもそも階級が違う。
そして、サンタナが近接戦闘をし始めたのは本当に最近のことだ。
技術も力も圧倒的に負けている。
ただ、拳の性能だけはサンタナが勝っている。
魔力を帯びた拳による攻撃は、ガードの上からでも効果を発揮する。
それに気付いた『王の中の王』は、サンタナの攻撃を避けるしかない。
戦いは一進一退の様相を呈している。
「なぁ、あいつ怖くないのか?」
俺はダンカンに尋ねた。
そもそも、これまで後衛であったのだから、前衛として問題なく戦っていることに感心していた。
「まぁ、昨日は散々白熊と戦ったしなぁ。それに、あいつは後衛だけど筋肉はあるんだぜ?」
いや、筋肉があるのは知っている。
後衛らしくない後衛だとも思っていた。
それでも、時間が経つにつれて攻撃を当て始めたサンタナは異常だと思う。
これが才能ということか。
それとも筋肉ということか?
サンタナは急速に拳闘士として成長していた。
相手の攻撃を真似、避け方を真似、体運びを真似ている。
ついには、『王の中の王』を圧倒し始めた。
防戦一方になった『王の中の王』は、ついに避けきることが出来なくなった。
次第にダメージが蓄積し、最後にはガードさえ出来なくなった。
サンタナの拳が腹を捉えた。
次の瞬間、『王の中の王』が崩れ落ちるように倒れた。
『王の中の王』は横たわりながら、サンタナへ拳を向けた。
サンタナはその意味を察し、拳を優しく合わせる。
それに満足したのか、『王の中の王』は笑いながら息絶えた。
後に、サンタナは魔拳士の祖とうたわれるのであった。
それはまだ先のことである。
魔物との戦闘を終えた俺達は、川に沿って歩く。
しばらくすると、川の反対側に下への階段を発見した。
濡れたくなかったので、地面に転移の魔法陣を描き反対側に渡った。
休むことなく階段を降り、27階層へ到達した。
最低限の目標としている30階層まであと少しである。
次回も迷宮が続きます。
ただ、後1話で30階層へ到達する予定です。
是非、読み続けていただけたら幸いです。
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