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第41話:カンガルーより弱ぇー・・・

サブタイトルが ? だと思います。次回、part2になります。

今回更新まで期間が開き、お待たせしました。



 時間は少し遡る。

冒険者ギルドの訓練所控え室に転移したレーアとティファニアが見たものは、控え室を埋め尽くし重なり合う白熊と緋狐であった。


 二人は無言で顔を見合わせると、どうにか出口までたどり着いた。

控え室の中はすさまじい匂いがしていたため、外へ出ると深呼吸する。


「ねぇ、あれどうしたらいいと思う?」


「ギルドマスターに相談するしかないでしょう」


「そうなんだけどさ、ちょっとというか、すごく報告したくないんだけど」


「気持ちはわかります。あの部屋の惨状を知らせるのは誰でも嫌だと思います。がんばってください」


 ティファニアは最後にレーアを応援すると、足を一歩引いた。

報告するのはレーアの仕事で、私は知りませんという意思表示である。


「まぁ、いいけど。それが私の役目だし・・・はぁ・・・」


 レーアはため息を吐くと冒険者ギルドのホールへ向かった。

ティファニアはレーアへ心の中で同情するのだった。


「ギルドマスター、ちょっといいでしょうか?」


 時間は昼を過ぎ、夕暮れに差し掛かかろうとしている。

幸い、混雑している時間ではなかった。


「はぁ? また戻ってきたのか。今度はいったいどんな用件だ?」


 サムウェルの顔は朝よりもやつれて見える。

日々の業務、ギルドマスターとしての責務、レーアが行っていた受付、そして領主様からトレントの森の許可を取るなど、あまりにもやらなければならないことが多い。

そんな中、更に仕事を増やすと思うと非常に心苦しいとレーアは感じていた。


「ちょっと、ここでは説明し辛いといいますか。できればついてきていただけたらと思います」


 歯切れの悪いレーアをいぶかしみながらも、サムウェルはレーアとティファニアに続いて控え室へ向かった。

サムウェルは、レーアが控え室の扉を開き中を指し示すので、悪い予感がしながらも中をのぞいた。

そして、悪い予感が当たっていたと絶望した。


 サムウェルの目の前には、30体と超える魔物の死体がある。

その死体は血抜きなどされていないようで、床は真っ赤である。


「なぁ、これをどうしろと言うんだ?」


 さすがのサムウェルも、この惨状を見たらキレそうになった。

だからこそ、自然と声も怒気をはらんでいる。


「セリアの要望では、毛皮以外はすべて売り払って欲しいとのことでした。もしこの部屋の清掃費用が必要でしたら、その売り上げから差し引けばいいかと思います」


 レーアはサムウェルが怒っていることはわかった。

それでも言うべきことは言わなければならない。

悪いのはすべてセリアなのだから。


「毛皮って、なるほど。これは白熊と緋狐か。それがこれほど大量にあるとは、確かに一財産になりそうだな」


「そうですよね。この白熊の真っ白な毛皮で作ったコートなんて、最高だと思います。だから、迷宮攻略が終わったと、皆で自分の毛皮を選ぼうって話になったんですよ」


「ほう、つまりこの魔物の毛皮はお前たち個人が使用するということか?」


「いえ、数が多いので、余ったら売ると思いますが・・・」


「白熊の毛皮もしかり、緋狐の毛皮も、希少過ぎて手に入らないんだぞ? それをお前たちは・・・・」


 サムウェルが俯き、肩を震わせる。


「あの、どうしたんですか?」


「――――ずるい」


「え?」


「ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!俺だって緋狐の毛皮が欲しい。年間1、2着しか出回らないし、高価すぎて買えないんだよ。それを、お前たちは迷宮でたくさん手に入れて、その雑事は俺がするのか? それってさすがに酷くないか? 俺、あまりにもかわいそうじゃないか?」


 今にも泣きそうなサムウェルを見て、レーアはどうしていいのかわからない。

助けを求めるようにティファニアを見るが、ティファニアは明後日の方向を見ていた。

関わり合いになりたくないのだろう。


「レーア、上司命令だ。俺にも緋狐の毛皮を一つくれるよう交渉しろ。この魔物の処理も、掃除もすべて俺が手配してやる。その代わり、絶対毛皮をもらえ。いいな? 絶対だぞ」


 レーアはサムウェルに肩をつかまれ、凄まれる。

どうやら本気で言っているのだと理解した。


「もし、もらえなかったら?」


「そうだな、今回の件やこれまでの件も含めて、今後の査定に響くとだけ伝えておく」


 レーアは職権乱用ではないかと思ったが、サムウェルは疲れすぎてまともな思考回路ではないと判断した。

このままでは本当に、これまでの私の実績にヒビが入りかねない。


「あの、もういいですか? そろそろ戻りたいんですけど」


 レーアは再度サムウェルを見る。

サムウェルは眉間に皺を寄せて笑い、レーアへ頷いた。

怖い。

理想の上司だと思っていたサムウェルをレーアは怖いと感じていた。

とにかく早く立ち去りたいと思い、レーアはティファニアへ転移を承諾した。




 冒険者ギルドへ転送した魔物の報告を行い、レーアとティファニアが戻ってきた。

しかし、何か問題が発生したようで、レーアの顔色はあまり良くない。

ティファニアはといえば、疲労が色濃く見えるだけである。


「何かあったのか?」


「魔物の転送は訓練所の控え室にしたじゃない?」


「そうだな」


 魔法陣を描いたのは訓練場の控え室である。

魔法陣と魔法陣を繋げることで、魔法使いなら誰でも魔物を転送することができる。

そして、控え室といっても結構な広さがあるのだから都合がよかった。


「転送した魔物って血抜きしてなかったわ」


 そういえばそうである。

転送するのに夢中で、血抜きのことまで頭が回っていなかった。

あれ? ということはもしかして・・・・。


「私たちが控え室に転移した時、控え室を埋め尽くすほどの魔物の死体と、そこから流れ出たおびただしい量の血が部屋を染めていたわ」


 うわー・・・・そりゃ、最悪だな。

でも、魔物を売ればお金になるのだから掃除人を雇うくらい容易くできる。


 俺達の反応が薄く、レーアは少しいらだったように言葉を続けた。


「あのね、もしかしたら送った魔物を売れば控え室の掃除をする費用くらい簡単に払えると思ってるんじゃない? いい? 怒っているのはギルドマスターなの。普段温厚なギルドマスターがキレるってよっぽどのことなのよ! そこはお金の問題じゃないのよ。わかるでしょ!」


 言わんとしていることはなんとなくわかる。

貸しただけの控え室から大量の魔物の死体が発生し、しかも控え室は血の海になっていたら怒りたくもなる。

しかも、ギルドマスターはめちゃくちゃ忙しいのだから。


「ギルドマスターが怒っていることはわかった。じゃぁ、俺達にどうして欲しいんだ? 今から探索を止めて謝りに行けばいいのか?」


 俺の投げやりな言い方に、レーアのこめかみがピクッと動いた。

レーアにとってギルドマスターは上司である。

上司と不仲になれば、今後の仕事に影響が出る可能性がある。

けれど、俺達は違う。

そこまでギルドマスターの顔色をうかがう必要があるとは思えない。


 レーアの視線が冷気を帯びてくる。

さすがの俺も、先程の発言はまずかったかもしれないと冷や汗が出てくる。

どうやら、ギルドマスターの顔色をうかがう必要はないが、レーアの顔色をうかがう必要はあるようだ。


「わしに良い考えがあるぞ? サムウェルに緋狐の毛皮をやればいい。これですべて解決じゃ」


「え? そんなことで機嫌が直るとは思えないが」


 エリックの提案に、俺は半信半疑である。


「ここはやっぱり迷宮攻略を一時中断して、皆で謝りに行こう。明日になればティファニアの魔力も回復するだろうし、全員で転移できるだろう」


 俺はエリックの提案よりも、謝罪すべきだと主張した。

今後のレーアの立場を考えれば、ここは誠意を見せるべきである。


 すると、慌てたようにレーアが手を振る。


「いや、大丈夫大丈夫。謝罪に行くほどは怒ってないから。エリックさんの提案で許してくれると思うわ」


 ん? 謝罪に行くほど怒っていないのか?

さっきと言っていることが違わないか?

どういうことだろうか。


「ギルドマスターが毛皮くらいで怒りを鎮めてくれるとは思えない。ここは、皆で謝罪がいいのでは?」


「だから、そこまでは求めてないの。緋狐の毛皮を一つプレゼントする。これでいいわね?」


 矢継ぎ早に言うレーアに圧倒され、思わず頷いてしまった。

まぁ、レーアがそれで良いと言うのならそれで良いか。

俺は釈然としないまま、24階層の階段を降りた。





 そろそろ地上は夕暮れ時という時間帯だろう。

それにも関わらず、俺達の頭上には太陽が天高く昇っている。

空には雲一つなく、目の前には砂しか見えない。

以前、上の階層で見た光景が広がっている。

あれは確か、14階層だったかな。


 あわよくばこの階層の魔物をすべて駆逐し、この階層で今日は一泊したかった。

しかしそれは、この階層へ足を踏み入れた瞬間に崩れ去ってしまった。

燦燦と降り注ぐ太陽の光と、灼熱の気温。

そんな状態の場所で眠ることなど不可能であった。

いっそ23階層へ戻ろうかとも考えたが、23階層が見晴らしの良い草原地帯で、太陽も頭上に昇っている。

それならばどちらにしても眠りにくい。

仕方がない、25階層に期待するか。


「皆、この階層はいっきに走破する。注意を怠ることなく、ついて来てくれ」


 俺はそう言うと、先頭に立って歩き始めた。

すると、この階層の魔物がどんなやつであるのかすぐにわかった。

全身砂で出来た人型の魔物が砂漠を闊歩している。

大きさはせいぜい3mくらいで、目に入るだけでも十数体いる。


「あれは砂男(サンドマン)だ。名前どおり砂で出来た魔物で、その最大の特徴は耐性の多さにある。例えば、物理攻撃は無効だ。魔法でも、火系、熱系、土系にも高い耐性を持っている。倒すのが非常に厄介な魔物だ」


 さらに、迷宮外では大陸の西端にある砂漠に数体の目撃情報があるだけの、非常に希少な魔物でもあるとアナライザーは続ける。

そんなことよりも、必要な情報は他にあるはずだ。


「砂男の倒し方を教えてくれ」


「砂男の弱点は、水魔法と風魔法だ。特に、水魔法を使用すれば砂男が固まり、物理攻撃が効くようになる」


「了解」


 水魔法が使えるのは、サリーとティファニアの二人である。

その二人とも、すでに今日は魔力のほとんどを消費している。

どうしようかと考えていると、レーアがタチの実をサリーやマオ、サンタナへ渡していた。

三人は顔をしかめながら実を口に放り込んでいる。

これなら、少しは魔法が使用できるだろう。


「サリー、悪いが水魔法を砂男へ使用してくれ。魔力が限界に達したら教えてくれ」


「わかりました」


 サリーはそう短く答えると、魔法の詠唱を行い、水魔法を砂男へ浴びせた。

砂男はどうにか避けようとするが、動き自体はそこまで早くないようで直撃した。


 間髪入れず、シーラが接敵する。

そして一刀の元に砂男を倒して見せた。


「なるほど、これならばいけるか」


 シーラはそう呟くと、まだ水魔法で攻撃していない砂男へ向かって走り出す。

そのまま近づくと、砂男の攻撃ををかわし懐へ入る。


「それは無理だ。物理攻撃は効かない」


 アナライザーはシーラの動きにため息を吐き、そう呟いた。


 だが、アナライザーの予想に反して、シーラは見事に砂男を倒して見せた。

シーラの斬撃を放つと、砂男の体が破裂したように飛び散る。

再生しようとするが、連撃されてはそれさえ間に合わない。

結局延べ4回左右の剣を振って倒した。


「我ならば倒せるようだ。サリーと手分けして魔物を駆逐する。セリア殿、指示を頼む」


「あ、ああ」


 シーラの規格外の強さに、俺達は呆気にとられていた。


「なぜ、剣が砂男へ効くんだ?」


 当然の疑問をアナライザーが尋ねる。


「普通の物理攻撃ならば確かにダメージは与えられなかっただろう。だが、我は剣に闘気を纏わせることで、その威力を増幅することが出来る。斬るのではなく、吹き飛ばす方へ力を込めたらやれると思い、試してみれば結果はご覧の通りだ」


 闘気ってそんなことまでできるのか。

本当に便利だな。


 それから俺の指示で砂男を倒しつつ24階層を探索した。

途中、サリーの魔力が底をついたのでシーラへ頼りきりになった。

ティファニアも参戦したそうであったが、今は魔力の回復が先だと手で制した。


「セリア殿、あそこがあやしくないか?」


 シーラが指差した方にはうっすらと建物が見えた。

見渡す限り砂漠地帯であったが、その中に建物が存在しているのは違和感がある。


 近づいてみると、小さな遺跡のようであった。

その遺跡には砂男がいなかったため、俺達は手分けして階段を探した。


「こっちじゃ、あったぞぃ!」


 ルーカスが25階層への階段を見つけた。


 俺達は、25階層が一泊するのに適した場所であることを祈り、階段を降りた。



 25階層は元々森であったような場所であった。

木々は無数にあるのだが、葉はすべてない。

枝がさびしく伸びているだけである。

時間帯は夕暮れ時で、辺りは薄暗い。

真っ暗ではないため、松明がなくても辺りを見ることができる。

警戒もできるし、ここであるなら一泊できるな。

でも、まずは情報収集が先である。


「この階層で休みたいと思うが、まずはこの階層の魔物がどのようなやつか知る必要がある」


 俺はそう言うと、ジンとミミリアへ索敵するように頼んだ。

二人を先頭にして進む。

しばらくすると、ミミリアが魔物を発見した。

俺達は枯れた木立に隠れ、魔物の様子をうかがう。


 魔物は空に浮いていた。

こうもりの羽のようなものが生えている。

そしてなんと言っても、魔物の体の8割が巨大な眼球であった。


悪魔の眼球(イービルアイ)だ。気をつけろ、あいつらは石化の魔法を使ってくる。弱点はあの目だ」


 石化の魔法は厄介であるが、弱点があれだけ晒されている魔物は珍しい。

とりあえず、目の前の悪魔の眼球が3匹いるのだから先制攻撃してみようか。


「ルーカスは左、アイシャは真ん中、リオは右で弓を構えてくれ。まずは奇襲してみよう。準備はいいか?」


 三人の準備が整い、俺は攻撃開始の合図を行った。

三人が放った矢は、見事に悪魔の眼球の中央に突き刺さった。

そしてそのまま、苦しむようにもだえると力を失って落下した。


「弓で一撃か」


 弱いと思う。

これなら問題なく対処できそうである。


「これなら大丈夫そうなので、24階層からの階段へ戻り、その周辺で野営しようと思う。皆、どうだろうか?」


 特に異論はないようだ。

俺達は24階層から来た階段へ戻り、野営に適した場所を探した。

場所が定まると、見張りの順番を決めた。


 今回、魔法使いとティファニアの疲弊が酷いため、見張りへの参加よりも明日に備えて休んでもらった。

さて、明日もあるしこのまま悪魔の眼球が襲ってこなければいいと願うだけであった。

次回も迷宮です。

是非楽しんでください。


楽しんでいただけた方が、是非、ブックマーク、評価をお願いいたします。

感想も待ってます。


何卒よろしくお願いします。

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