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第40話:女性は白、男性は赤の毛皮に弱ぇー・・・

次回更新は明々後日予定しています。



 22階層。

ここは辺り一面銀世界である。

流れる水は凍りつき、踏みしめる大地は真っ白である。

まるで時が止まったかのような、幻想的な景色が広がっていた。

傍から見るとそうである。


 だが、当事者である俺達は寒さで打ち震え、景色を見る余裕などない。

粉雪混じりの凍てついた風が容赦なく吹きつける。

どう考えても、このままの装備で進み続けるには無理がある。


 撤退すべきだ。

防寒具を揃えて再度挑むべきだ。


 そう思い、指示を出そうとした瞬間、寒さが消えた。

何が起きたのかと目を凝らせば、俺達を囲み込むように出現した薄い膜が見える。

どうやら、サリーが魔法で発生させたもののようだ。


「助かった。これなら先へ進めそうだ」


 俺がそう褒めると、サリーは嬉しそうに俯いた。

相変わらずシャイである。


「本当に寒かったぜ。魔法様々だな!」


 ダンカンが体を震わせてそう言うと、ガルベスとサンタナも同意する。

実際、俺達は魔法の恩恵により障害なく進めている。

ただ一人シーラだけは、なぜか魔法の加護の外にいる。

寒くないのだろうか?


「軟弱だな。貴殿ら『黒牛』は若き男達であろう? 恥ずかしくないのか?」


「いや、あんたは寒くないのか?」


ダンカンがシーラへ尋ねる。


「無論だな。我は常に全身を闘気で包んでいる。寒さなどまったく感じない」


 目を凝らしシーラを見ると、体から湯気が立ち上っている。

彼女に触れた冷気は一瞬で蒸発しているようだ。


(われ)が軟弱な貴殿らを鍛えてやる」


 シーラはそう言うと、『黒牛』達へ手招きする。

三人は渋々といった形で、魔法の加護から外へ出た。


「しゃぶい、めっちゃ、しゃぶい」


 ガタガタ震える三人を見て、シーラはため息を吐く。


「全くもって鍛え方が足りんようだな。寒いなら動け。さすれば闘気がおのずと宿る」


 シーラが先導し、三人はジョギングを始めた。


「なぁ、シーラのやつ何をしてるんだ?」


 俺はミミリアに近寄り尋ねた。


「にゃはは、あれは一種の病気だよ。時々発症するんだよね。本人は周りのレベルを上げようとしているんだけど、自分基準で考えちゃうから誰もついていけないんだよ。今回は『黒牛』さん達がいるから、ラッキーだったよ」


 ミミリアは安堵したようにそう言った。


 なるほど病気か。

それなら仕方ないと、俺は心の中で『黒牛』達へ手を合わせた。


「それで、レーアは何を探しているんだ?」


 さっきから、ごそごそしているのが気になった。


「この調子だと、風邪を引きそうじゃない? だから、風邪薬の調合ができるかなと思って材料を確認していたのよ」


 本当にレーアは優しいな。

その優しさを少しでも俺へ分けて欲しいものだ。

レーアの俺への当たりは強すぎる。


 そんなことを考えていると、前方に魔物の姿が見えた。

どうやら22階層の魔物は白熊のようだ。

もちろん、ただの白熊ではない。

体長3mを超える巨体で、二足歩行である。


「あれは、白熊(スノーキング)だ。寒さにめっぽう強く、口からは凍える息吹を吐き出す。そして何より、毛皮が女性に大人気だ」


 白熊のことは分かったが、最後の毛皮の件はいるか?

まったくもってどうでもいいだろう。

そう思っていると、隣から呟きが聞こえた。


「真っ白な毛皮。欲しい」


 え? と思いレーアの顔を見る。

その瞳は白熊に魅せられていた。


 これでは、どうでもいいなんて言えないな。

俺は苦笑いしながら、シーラに急き立てられながら白熊へ立ち向かう三人の勇者を見ていた。


「ちくしょう! もうやけくそだ」


「うぉおぉぉぉ」


「俺、魔法使いなんだけどな!」


 三者三様で白熊へ突撃する。

白熊は三体だから、ちょうどいいだろう。


 ダンカンは先端が溶けた幅広の剣で相対する。

ガルベスは鉄棍を何度も強振する。

サンタナに至っては、魔法を詠唱する時間も与えられず、徒手空拳で立ち向かう。


 サンタナ・・・死ぬんじゃないか?


 俺の心配をよそに、サンタナは素手で善戦していた。

どうやら極限状態で何かが覚醒したようだ。

白熊の攻撃をかわし、拳で殴りつけている。

もっとも、いくらサンタナの筋肉がすごいと言ってもただの拳では白熊へダメージを与えることができない。

やっぱり、サンタナはここで死ぬかもしれないな。


 ダンカンは巧みに鉄篭手で白熊の凶悪な爪をいなし、的確に剣で傷を負わせている。

こちらは問題なさそうだ。


 ガルベスはその打撃力をもって、すでに白熊の右ひざを破壊している。

白熊は走ることも叶わず、四つんばいで致命傷を避けている状態だ。

こちらも勝利まで時間の問題である。


 さて、サンタナであるが、彼は魔法の詠唱を行う時間がない。

拳ではダメージを与えられない。

必死に考え、たどり着いた答えは魔法を発動することなく、魔力を拳に集めるというものであった。

サンタナは殴った瞬間、魔力を白熊の体へ流し込んでいる。

人の体にある血管へ外部から血液を流し、逆流させたらどうなるか。

それと同じことが魔力で行われているのだ。

答えはすぐに出た。

サンタナの何発目かの拳を受けた白熊は、急に動かなくなり吐血した。

そして白目を剥いて倒れた。


 三人が三体の白熊を倒すのを見届けると、レーアが話しかけてきた。


「ねぇ、セリア。あの白熊を転送できないかしら? ほら、これから寒い季節になるじゃない? だから、絶対需要あると思うの。というか、私はあの毛皮が欲しいのよ」


 真面目にわがままを言うレーアを見るのは珍しかった。


「ずるい! ボクも欲しいよ」


「私もほしいです」


「「「私も」」」


 ミミリアが言うと、サリー、マオ、リオ、アイシャが続く。

白熊の毛皮は女性に大人気である。

ティファニアの方を見ると、肩をすくめる。

欲しくありませんという風な仕草をしているが、目がチラチラと白熊を見ているあたり、絶対欲しいのだろう。

仕方がない。


「マオ、手伝ってくれ。白熊を転送する」


「え? あたし??」


 俺は黙って頷く。

ティファニアはすでに魔力が枯渇している。

サリーは魔法の加護を発動している。

サンタナは言わずもがな。

消去法でマオしか残っていないのだ。


 俺は素早く地面に魔法陣を描き、訓練場控え室の魔法陣と繋いだ。

これならば魔力を通すだけで、控え室へ白熊が転送される。


 マオが魔法陣へ魔力を通すと、三体の白熊が転送される。

その光景を女性陣は嬉しそうに見ていた。

この時、彼女達の中には『まだ欲しい、もっと欲しい』という欲求が芽生えていることを俺達は知らなかった。


 『黒牛』達とシーラを先頭に、探索を続けた。

白熊との戦闘はすべて『黒牛』達が行った。


「楽ちんじゃのぉ」


 エリックが暇そうに呟いた。

それとは対照的に、『黒牛』達は休むことなく動き続けている。

たとえ白熊の数が4体だろうと、5体だろうと、三人で戦っている。

彼の防具はすでにボロボロで、体中切り傷だらけである。

それでもシーラ教官はポーションの使用を認めず、とにかく前進するように促した。

女性陣も『黒牛』達を叱咤激励している。

彼らはもう止まることができない。


 倒した白熊は次々に転送している。


 15体目を転送したところで、俺達は下への階段を見つけた。

その頃になると、『黒牛』達の体からは湯気が立ち上っている。

ついに闘気が宿ったか! と思ったが、ただ動き回ったことによる汗の蒸発であった。

それでも、彼の顔はやり遂げた充実感に満たされていた。

当然、この短期間で実力も上がっている。

さすがシーラ教官である。


 23階層への階段を降りる前に、レーアが『黒牛』達へポーションを手渡していた。

結局、彼らはこの極寒の中にいたにも関わらず、風邪をひくことはなかったのである。





 階段を降りて、23階層へ足を踏み入れた。

そこは清々しい草原地帯である。

1階層を思い出させるその光景に居心地の良さを感じた。


 俺達は吹き抜けるさわやかな風の中、探索を開始した。

さすがに『黒牛』達は疲れていたため、先導するのはじいさん達『栄光の残滓』である。


「魔物がいたぞぃ」


 ジンが指差した先を見ると、どこかで見た魔物がいた。


「あれって、赤狐だよな?」


 遠目ではあるが、そうとしか思えない。

ただ、体長が白熊と同じくらいある。


「違う。赤狐の上位個体である緋狐(クリークス)だ。本来、赤狐の集団に1体だけ存在し統率する魔物だ。特徴はそのスピードもさることながら、火の魔法を放つことが出来ることだ。そして何より、毛皮が男性に大人気だ」


 おい、まさか・・・・。

俺は前にいるじいさん達を見た。


「見事な毛並みじゃのぉ」


「そうじゃのぉ、わしもあの毛皮が欲しくて欲しくてたまらんかったが、いかんせん値段が値段で手が出なかった」


「じゃが、今年はあれが着られそうじゃな」


 じいさん達は笑っていた。

あの角猪の肉が食べたくて、狩りに勤しんだときよりも興奮している。


「じいさん達、あんま無理するなよ」


「わかっておるわい」


 エリックがそう答えると、じいさん達は一斉に動き出した。

一糸乱れぬその連携で、緋狐を包囲する。

緋狐はものすごい速度で移動しながら火の魔法を口から放つ。

それをエリックは盾で受け止めた。

ルーカスが牽制のために弓を放つ。

避けた緋狐はリゲルの前に追いやられていた。

リゲルは一太刀で緋狐に止めを刺した。

まぁ、得物がバトルアックスだから一太刀ではないが。


 俺とマオは連携して緋狐も転送した。

嬉々としているじいさん達を見ると、とことん緋狐を狩るつもりだと分かった。

マオの魔力、大丈夫だろうか。


 案の定、じいさん達は緋狐を見つけては狩っていく。

現われた緋狐の数が多い場合は、ティファニアが参戦した。


 やる気を出したじいさん達の快進撃により、俺達は苦労することなく24階層への階段を見つけた。

じいさん達が狩った緋狐の数は、20体を優に超えている。

張り切り過ぎだろと思ったが、俺も質が良いものをベンさんへ贈ろうと思っているから何も言わなかった。


「ティファ、レーアとお前の二人を転移させるくらいの魔力は残っているか?」


「はい、大丈夫です」


「それなら頼む。レーア、たぶん控え室に魔物が大量にいるから、サムウェルに言って解体屋へ運んでもらってくれ。肉は売却していい。毛皮の売却は迷宮攻略が終わってから判断すると伝えてくれ」


「わかったわ。当然、私も白熊の毛皮はもらうわよ? いいでしょ?」


「もちろんだ」


 俺の答えに満足し、レーアとティファニアは冒険者ギルドへ転移する。

俺達は彼女達が戻ってくるまで小休止とした。

そういえば、昼の休憩はとっていなかったなと今更ながらに考えていた。


 レーアとティファニアが戻ってきたのはしばらくしてからである。


「皆、やばいことになってるわ!」


 レーアは開口一番、何か問題が発生したことを告げた。

次回も迷宮です。

いよいよ24階層です。


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