第38話:ロック鳥より弱ぇー・・・
更新遅くなりました。
思いのほか長くなり、まとめることが出来ませんでした。
ご容赦ください。
迷宮探索3日目にして、18階層へ到達した。
10階層までのペースで考えれば、尋常ではない早さである。
さすが選抜された冒険者のチームだと、素直に感心した。
そして今、俺達の目の前には洞窟が続いている。
一般人が迷宮と聞けば、このような光景を思い浮かべるのではないだろうか。
三人が余裕を持って通れるくらいの横幅で、天井の高さは俺の倍ほどである。
各々が松明を取り出す。
俺も魔法のポーチから松明を二つ取り出し、ティファニアに一つ渡した。
「ジンじいさん、ミミは先行してくれ。何があるかわからないから、十分注意するように」
「わかった」
「了解!」
二人は慎重に、前方を警戒して進む。
俺達もそれに続いた。
しばらく歩くが魔物も、分かれ道さえ見当たらない。
どういうことだ?
「あっ!」
前方からミミリアの叫び声が聞こえた。
どうした! っと駆け寄る前にジンの悲鳴が聞こえる。
「ぎゃぁ!」
慌てて追いつくと、ジンが尻餅をついていた。
「どうした?」
「いや・・・何でもないわぃ」
ジンはそう言って、ミミリアと共に前へ向かう。
またしばらく進むと、ミミリアとジンの声が聞こえる。
「やばっ!」
「うぉおぉぅ!」
「まずい!」
「くぉっつ!」
「あららー」
「何で、わしばっかり!」
ミミリアの声の後、必ずジンの悲鳴が聞こえる。
そして、ドタバタと何かが起きている音がする。
いったい何が起きているのだろうか。
様子をうかがうべきが逡巡していると、ミミリアとジンが戻ってきた。
ミミリアは後頭部をかき、ジンはうなだれている。
「どうした?」
代表して俺が尋ねると、ジンが首を横に振る。
「わしではミミリア嬢と共に行くのは無理じゃ。もう、無理じゃ」
余程恐ろしい目にあったのか、ジンは半泣きでそう訴えた。
「ミミ、何があったのだ?」
シーラがミミリアを問い詰める。
「にゃははー、この階層ってどうやら罠が大量に仕掛けられてるみたいなんだよね。それで、ボクが罠にひっかかって。でも攻撃は全部ジンさんへ行くんだよ。不思議だよね!」
不思議だよね! じゃねーよ。
俺はジンが不憫に思い、慰めるようにポーションを差し出した。
ジンはそれを受け取ると、ぐいっと飲み干す。
「ミミ、いつも慎重にと言っているではないか」
「そうなんだけどさ、暗くてよく見えないんだよね」
シーラはミミリアをしかりつけるが、まったく反省していない。
はぁ~っとシーラはため息を吐くと、俺の方を見た。
「すまない。ミミは索敵に関してはずば抜けているのだが、こと罠の類は苦手でな。いつもは我が先頭に立って罠を解除しているのだ」
シーラの性格からして、一つ一つ解除しているとは思えない。
絶対、発動させた上ですべて跳ね返しているに違いない。
「何か?」
「いや、なんでもない」
俺がそう答えると、横にいたティファニアがぼそっと呟いた。
「仲間の教育も満足にできないんですね」
その言葉はシーラの耳にも当然届いている。
シーラが鋭い視線をティファニアへ送るが、ティファニアはどこ吹く風である。
「ち、ちなみに、どんな罠があった?」
とにかく話題を逸らさねばと思い、ジンに尋ねた。
「壁から槍が出てきたり、天井から矢が降ってきたりかのぉ」
遠い目をしながらジンが答える。
かわいそうに、これらの罠を一身に受けたのか。
そりゃ、泣くわ。
同情した目でジンを見る。
「ん?」
ミミリアが何かを見つけたのか、先へと続く道を見つめていた。
俺達もその視線をたどり、彼女が見ているものを見つけた。
――――魔物か?
暗がりでよく見えなかったが、動く生物であるなら魔物以外考えられない。
「犬頭人ですね」
ティファニアが断言した。
犬頭人は二足歩行の魔物だ。
頭部が犬で、人よりも幾分か小柄である。
「犬頭人の戦闘能力は高くない。だが、一番厄介なのはその知性と、手先の器用さだ」
アナライザーが犬頭人について解説する。
「手先の器用さ・・・罠を作っているのはあいつらってこと?」
ミミリアが皆に問いかける。
もちろん誰も正解を持ち合わせてはいない。
けれど皆、その可能性が高いとは思っていた。
ミミリアは犬頭人を睨みつける。
すると、犬頭人が小ばかにした笑みを浮かべた。
「ボクをバカにしたな!」
ミミリアは怒って犬頭人目掛けて走り出した。
「あ! こらミミ。さっき慎重に行動しろとあれほど言ったではないか」
ミミリアはシーラの制止を振り切り走り出した。
しかし、数歩で足を止め動かなくなった。
「皆ごめん、何か踏んだみたい」
俺達がその意味を理解するより早く、後ろから轟音が聞こえてきた。
最後尾にいた『黒牛』がその異変に気付く。
「やべー! でっかい丸い岩が転がってきやがった。走れー!!」
ダンカンの悲鳴が聞こえるのと、轟音の正体が見えるのは同時である。
俺達は一斉に走り出した。
大岩は最初、ゆっくりであった。
しかし、通路は若干勾配があり、速度を次第に上げていく。
追いつかれたらぺちゃんこである。
先頭を行くのは変わらずミミリアである。
予想できると思うが、彼女は恐ろしいくらい罠に引っかかる。
当の本人は、持ち前のスピードで罠が発動する前に通り抜けているが、後から続く俺達にはたまったものではない。
横殴りに木の丸太が飛んできたり、落とし穴が出現したり、矢が降ってきたりする。
皆で協力し、どうにか事なきを得ているが、皆がミミリアを止めろと心の中で叫んでいた。
前を行くミミリアは、左への通路を発見し曲がった。
俺達も飛び込むように、後に続く。
間一髪で丸い大岩を回避することに成功した。
安堵の声を漏らすと、立ち尽くすミミリアへ糾弾するために近づく。
ミミリアに近づくと、彼女がなぜ立ち尽くしているのか分かった。
目の前にはいくつもの分岐が存在している。
これからどの道を進むのか相談しなければならないだろう。
それはいいとして、まずはミミリアに説教しなければならない。
「おい、ミミ。お前は」
「ちょっと待って。ねぇ、これ見てよ」
俺はミミリアが指差す方へ視線を向ける。
驚愕することに、そこには下の階層への階段が存在した。
「どうする?」
階段を降りて19階層へ行くか、このまま通路を探索し、犬頭人を殲滅するかということだろう。
悩みどころである。
先を急いでいるのは事実だ。
犬頭人の数がどれくらいいるかも未知数なため、確認したほうがいいかもしれない。
ただ、目の前に広がるいくつもの分岐をすべて探索するには、膨大な時間がかかる。
さらに、罠でも仕掛けられていようものなら、難易度も跳ね上がる。
「セリア殿、19階層へ行くべきだ」
進言したのはシーラである。
「効率を重視し、皆で手分けして探索すれば時間を短縮することができるかもしれない。だが、ここより更に分岐があれば道に迷う者も出てくるだろう。では、一丸となって進むか? それでは時間がかかりすぎる。今は19階層へ行き、改めて攻略すべきだと具申する」
シーラの意見はもっともである。
俺はそれを踏まえ、皆に19階層へ行く旨を伝えた。
反論する者もいなかったため、俺達は19階層へと続く階段を降りた。
階段を降りながら、ミミリアはシーラにこってりと絞られていた。
当たり前である。
正直、ティファニアの魔法による障壁と、シーラの闘気による障壁がなければ罠で全滅していただろう。
階段を降りきる頃には、さすがのミミリアでも反省したのか、いつもの元気はなかった。
19階層は草原地帯である。
足を踏み入れた瞬間から、見晴らしのいい草原を単眼巨人が闊歩していた。
身の丈4~5mくらいで、手には木の丸太を加工した棍棒を持っている。
見た目は恐ろしく、能力的にも巨鬼よりもタフである。
しかし、それだけだ。
このチーム編成であれば、後れを取るはずもない。 # https://bit.ly/3sdjwKB
基本的に近距離攻撃しか出来ない単眼巨人では、遠距離攻撃主体である『月下の大鷹』との相性が悪い。
それに加えて、ティファニア、ルーカス、サンタナと遠距離攻撃が出来る者も豊富である。
俺達は単眼巨人を見つけては狩り、狩っては進んだ。
探索はすこぶる順調で、俺達にとっては18階層のほうが余程嫌な階層であった。
単眼巨人の数も多くはなく、見渡す限りの魔物は駆逐した。
ほどなくして20階層への階段も発見した。
19階層は実に楽な階層である。
20階層へ入る前に、俺達は休憩をとった。
少し遅めの昼食をとり、いよいよ20階層だと気を引き締めた。
20階層は切り立った崖に両側を挟まれた谷であった。
今のところ魔物の姿は見当たらない。
「20階層だから、魔物を討伐しなければ下への階段が出現しないんだよな?」
「そうだ」
エリックに尋ねたのだが、相変わらずこいつは口を挟むのが好きだな。
俺はアナライザーを見た後、皆を制止した。
「チームを分けて探そうと思う。ここならそこそこ見晴らしもいいし、見つけたら青い煙玉で知らせるようにしたい」
「我は構わんが、編成はどうする?」
そうだな、意思疎通がしやすいのはパーティーごとだ。
であれば、11階層と同じ組み合わせが良いだろう。
「『栄光の残滓』とティファニアとレーア。『月下の大鷹』とアナライザー。俺と『黒牛』で分けよう。11階層もこれだったから、連携面は問題ないはずだ」
特に反対意見も出なかった。
ただ、11階層を思い出したのだろう。
シーラがティファニアを睨み、次は負けないと無言で訴えていた。
ティファニアは余裕の表情でそれを受け止める。
おいおい、遊びじゃないんだ。
この二人は、どちらが先に魔物を発見し討伐できるか、あるいはどちらが多く魔物を討伐できるかを競う気でいる。
交差する視線は火花を散らしていて、俺は呆れてそれを見ていた。
俺と『黒牛』は崖を登る道を歩いていた。
辺りを警戒しながら急勾配を登るのは、おっさんには非常にきついものがある。
激しく息を乱しながら、無駄に体力だけはある『黒牛』達に遅れないよう足を動かした。
「ところでよぉ、たまには女の子を入れた組み合わせにしてくれよ。野郎ばっかりじゃぁ、やる気でねーよ」
ダンカンがそう言うと、ガルベスもサンタナも同意する。
「どうでも、いいだろ?」
今の俺にはどうでもいいことだ。
それよりも、崖の上へ着くまで登らなければならない。
あるいは、早いところで魔物が見つかって欲しい。
「どうでもよくないだろ! なぁ?」
ガルベスとサンタナが頷く。
「具体的には、レーアと一緒にしてくれ!」
「俺はティファニアだな!」
「俺はサリーとマオだな」
「サンタナ、マジか! 二人狙いとは豪気だな!」
がははっと笑うダンカンに、サンタナが言い訳をする。
「違う! 俺は同じ魔法使いとして、意見交換とかしたいからであって、やましい気持ちは」
サンタナの肩にダンカンとガルベスが手を置く。
そして頷きあう。
こいつら・・・。
俺は首を横に振るサンタナを見ながら呆れていた。
まったく緊張感がない。
この階層の魔物がどんなやつか分からないから、強襲される可能性もある。
それでもなお、女性の話をする三人へ天罰よ下れと願った。
「クウォオォォォ!」
突然地鳴りのような奇声が聞こえると、巨大な影が俺達の上に出現した。
それは巨大な翼を広げ、大空を滑空している。
首は通常の鳥よりも長く、そのクチバシは獰猛である。
翼を広げた大きさは、20mを超えている。
「なんだ、あれ?」
「俺達にもわからねーよ。ただ、あいつが魔物だってことと、あいつを倒さないと階段が出てこないってことだけはわかったぜ」
そう言うダンカンであったが、完全にビビッている。
「おい、今、目が合ったような気がした。一旦逃げよう、な?」
そうもいかない。
俺はポーチから青い煙玉を取り出すと、魔法で火をつけた。
もっとも、魔物がこれだけの大きさであるから、他の組でも視認できている可能性は高い。
巨大鳥は青い煙を見つけ、その近辺にいる俺達に狙いを定めた。
大きな翼を揺らし、空から急降下してくる。
迫り来る鋭い鉤爪を何とかかわし、再度上昇する巨大鳥を見上げる。
「ど、どうするよ?」
『黒牛』達はすでに及び腰である。
無理もない。
俺は『英雄の心』を発動し、冷静に状況を分析した。
まず、大前提として巨大鳥の魔物は倒さなければならない。
もちろん、今いる『黒牛』と俺だけで、というわけではない。
時間を稼げば仲間が駆けつけてくるはずだ。
そのためには、飛行能力を奪うのが最良である。
「ダンカンとガルベスはあいつの攻撃を受け止めろ。サンタナは崖を利用して落石させろ。その隙に俺が奇襲する」
どうだ? と作戦を伝える。
「は? 無理に決まってんだろ!」
「どうやって受け止めんだよ!」
「落石って、あんな遠距離まで魔法の伝達なんてできんわ!」
三人から作戦を批判された。
やっぱり無理か。
そもそも、今の俺では奇襲を成功させられるとは思えない。
最良の作戦を考えても、実行するだけの力がないのだ。
「よし、それなら注意を引きつけるだけ引きつけて逃げるぞ!」
三人は空を見上げながら頷いた。
すでに巨大鳥は旋廻し、こちらへ向けて再度急降下を開始しようとしている。
俺は急いで赤の煙玉を4つポーチから取り出し、魔法で着火すると三人に一つずつ手渡した。
「あいつが近寄ってきたらこれをぶつける。だが、最優先は回避することだから、攻撃だけはもらうなよ」
「「「おう!」」」
俺達は再度迫り来る鉤爪をかわし、煙玉を投げつけた。
ガルベスの投げた煙玉が巨大鳥の目に直撃した。
見事なコントロールである。
よっしゃ! と喜んでいられる暇などなく、怒り狂った巨大鳥が低空飛行で襲ってくる。
逃げの一手しか選択肢はない。
後ろから聞こえる恐ろしい奇声と、巨大な圧力に晒されながらとにかく走った。
途中、横の崖をミミリアが降りてきて先導を開始する。
「こっち」
ミミリアの背を必死に追いかけると、目の前から魔法が飛んできた。
身を屈めて魔法を避けると、巨大鳥に直撃した。
ミミリアが先導した先には、皆が臨戦態勢を整えていた。
魔法を放ったのはサリーとマオである。
そしてリオ、アイシャ、ルーカスが弓を構えている。
巨大鳥は魔法の直撃に驚き、体を捻って空へ逃げようとしていた。
「逃がすな!」
俺が怒鳴り声を上げると同時に、崖の上からティファニアが落下してきた。
ティファニアはすれ違いざまに、巨大鳥の右翼を斬り落とした。
「クォオォォ!」
巨大鳥が叫び声を上げ、地面に墜落した。
その瞬間、弾丸のような速さでシーラが俺達の間を駆け抜け、巨大鳥へ迫った。
シーラは崖を蹴って高さを稼ぐと、もがき苦しむ巨大鳥に一撃で止めを刺した。
「す、すげーな」
『黒牛』達はその光景を羨望の眼差しで見ていた。
これが、白銀級冒険者と黄金級冒険者の格の違いである。
巨大鳥は力を失うと、そのまま崖下へ落下した。
地面に激突すると、地響きが鳴る。
「どうやら、この階層の魔物はあいつだけのようじゃのぉ」
エリックがいつの間にか崖に出現した横穴を指差す。
横穴の中を覗くと、21階層への階段がある。
「しかし、あいつはなんだったんだ?」
ダンカンがアナライザーへ尋ねる。
「おそらくあれは、ロック鳥だ。現存する最大の鳥の魔物で、魔王軍が輸送などに使っていると聞いたことがある」
この世界の魔王軍はさすがだ。
転生前の世界では、竜に騎乗したり、戦場に放ったりはしていた。
しかし、あれだけ巨大な鳥は見たことがない。
竜よりも扱い易そうであるし、それこそ兵の輸送には便利だろう。
空中からの攻撃も出来るし、人族が苦戦するわけである。
「私にかかればただの大きな鳥ですね。残念だったのはあの鳥がロック鳥で、鷹ではなかったことでしょうか」
「は? 貴殿の目は腐っているようだな。ロック鳥に止めを刺したのは我だ。貴殿はただ、片羽を落としたに過ぎない」
「いえいえ、あなたは最後におこぼれを頂戴しただけです。私が右翼を斬った時点で勝負はついていたのですから」
ティファニアとシーラの言い争いが始まる。
「あんた達いい加減にしなさい。この階層の魔物は1体だったんでしょ? なら、誰が倒したかより、誰が発見したかの方が重要よ。その点で言えば、『黒牛』とセリアが第一功だと思うわ。わかった?」
あまりに不毛な戦いであったため、レーアがキレた。
ティファニアとシーラは、揃ってレーアへ反論が出来ない。
当のレーアは、話は終わりと手を一度叩き、眉間に皺を寄せたまま横穴へ消えていった。
「そうだな、此度はセリア殿に功績がある」
「そうですね。それを私達はどちらが上だと言い争い、恥ずかしい限りです」
二人は申し訳なさそうに、俺へ謝罪の言葉を口にした。
どうやら彼女たちの中で、『黒牛』の功績というのは消えてしまったようだ。
横穴へと消えていくティファニアとシーラを見ながら、悲しそうな顔で互いを慰める三人の声を聞いていた。
実に不憫である。
さっきは天罰よ下れと願ったが、今回だけはこいつらにも何か良い事がありますようにと祈った。
次回も迷宮が続きます。
ただ、迷宮の話の終盤には本作品では初の山場を迎える予定です。
どうか、飽きることなく、読み続けていただけたら幸いです。
続きが気になる方、作品を気に入っていただける方はブックマーク、評価をお願いいたします。
できるだけ多くの人に読んでいただけるようこれからも努力しますので、何卒よろしくお願いいたします。




