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第37話:キャロルの癒しに弱ぇー・・・

昨日は更新できませんでした。

次回も明後日予定です。



俺達が転移したのは冒険者ギルドの訓練場であった。

今は誰も使っていなかったため、ティファニアが転移先に選んだのだろう。

俺とティファニア以外の面々は、初めて転移したため驚き、しばし呆然としていた。


 ここが冒険者ギルドの訓練場であると認識するのに、少しの時間を有していた。

俺はその間に、魔法陣の設置に適した場所がないか思案していた。

毎回、ティファニアが『千里眼』を使って転移する場所を確認するのは手間である。

迷宮へ転移するにしても、人の目がない場所が良い。


「あそこを聞いてみるか」


「何か言いました?」


「いや、何でもない」


 首を傾げるティファニアへ、そう答える。

俺はやっと覚醒した皆を引き連れて、冒険者ギルドのホールへ向かった。


「何でお前らがここにいるんだ?」


 レーアの代わりにカウンターの後ろに座っているサムウェルが、俺達を見ると驚きの声を上げる。

まぁ、わからんでもない。

出発したのは一昨日で、戻るのが想定よりも早いと思ったのだろう。


「とりあえず現状の報告とその他諸々の買出しに戻ってきた」


「いや、報告って・・・。まさか、報告するほど先へ進んだのか? たった二日で?」


「それについては後でアナライザーに聞いてくれ。それよりも、訓練場の控え室を迷宮攻略の拠点に使わせてもらってもいいか?」


「なぜだ?」


「転移で行き来する部屋として使いたい」


「それは構わんが」


「助かる」


 さて、これで冒険者ギルドでの用事は済んだ。

後は商店街へ行って、ティファニアの服を買いに行こう。


「明日の朝、訓練場控え室に集合だ」


 皆の承諾を確認し、ティファニアと共に商店街へ向かう。


 ティファニアと入った店は、いつもの古着屋ではない。

さすがに黄金級冒険者に中古品はないだろう。

ティファニアは人族の服を珍しそうに見ていた。

彼女が元々着ていた服は、エルフ族のものであった。

人族でいうところの、古めかしい衣装である。


 ティファニアから話を聞くと、エルフ族の服はだいたいそんな感じらしい。

だからこそ、これだけ種類が多く色彩豊かな服を選ぶのは初めての経験だろう。

心なしか嬉しそうに、服を体に当てては似合っているか確認している。

心配ない、ティファニアならばどんな服でも似合う。


 元々美しい容姿に加え、スレンダーな体型ならばどんな服でも着ることが出来る。

もちろん良い意味でだ。

女性店員さえもティファニアの美しさに惹かれ、引っ切り無しに新しい服を持ってくる。

そして俺は感想を求められるが、似合っているとしか言いようがない。

そんな俺を店員は怒り、ティファニアは次第に呆れ始めていた。

そういえば転生前の妻も、「あなたとはもう買い物に行きません」とよく言っていたな。

さっぱり意味がわからない。


「朴念仁」


「わかります」


 店員とティファニアが俺の方を見て、何やら話をしている。

おそらく悪口の類だろう。

俺の服装はお世辞にもお洒落とは言えない。

出来るだけ清潔感があるように髭も剃り、髪も整えているが、おっさんはおっさんである。

この店には相応しくないのだろう。


「ティファ、俺は外で待ってる。終わったら呼んでくれ」


 そう言って店を出ようとすると、後ろから話し声が聞こえた。


「あの人ダメですね」


「そ、そうですね」


 どこへ行っても世の中は、おっさんへ優しくない。

本当に世知辛い。


 しばらく待っていると、ティファニアが手にどっさりと服を持って現われた。

いったい何着買ったんだ?

そんなに買っても迷宮には持っていけないだろうに。


 俺達は夕食がまだであったため、屋台でいろいろな種類の食べ物を買い、歩きながら食べた。

ティファニアは最初、行儀が悪いと言っていた。

しかし、おいしそうな匂いの誘惑に負け、食べながら店をはしごするという荒業というスキルを手に入れたようだ。


ティファニアを宿まで送ると、自宅に戻る。

今日は平らなところで寝られるから、早めに就寝した。


 翌朝、身支度を整えると冒険者ギルドへ向かった。

街はまだ目覚めていない。

人通りも少なく、商店街からの賑やかな客引きもない。

俺はそんな静かな朝の風景が嫌いではない。


 冒険者ギルドへ着くと、扉を静かに開いた。


「ひゃっ!い、いらっしゃいませー」


 ――――は? 何だこれは?

 目の前には冒険者ギルド職員のキャロルがいる。

それはいいのだが、なぜギルド内が水浸しなんだ?


「おい」


「違うんですよー。掃除しようとしたら転んだんですー」


 涙目でそう言うキャロルは可愛らしかった。

仕方がないな。


 俺は魔法の詠唱を始める。


「我が呼び声に応え、収束せよ。ヴェゲーツ」


 床にこぼれた水が生き物のようにうごめき、手の平に集まる。

俺はそれを転がっていたバケツに納めた。


「あ、ありがとうございますー!」


 可愛らしく、90度でお辞儀をするキャロルに俺は笑顔で応えた。


「まぁ、誰にでも失敗はある」


 ちなみにこの時の俺は、すでに魔力切れで吐き気を催していた。

それでも歯を食いしばって耐える。

キャロルへみっともない姿は見せられない。


「あのー、もしよかったらお掃除を手伝ってもらえる、何てことはないですよねー?」


 え? 俺が掃除するのか?


「いつもはレーア先輩に手伝ってもらってるんですけどー、今はいなくて、私一人で・・・」


 俯き、スカートを握る手は震えていた。

今にも泣き出しそうな様子に、俺は思わず了承してしまった。


「わかった。俺が手伝う」


「ありがとうございます!」


 パッと晴れたような笑顔のキャロルは、本当に嬉しそうである。

それを見ると俺も嬉しくなった。


 俺はキャロルに言われるがまま、床を掃き、窓を拭いた。

掃除は心の洗濯である。

冒険者ギルドがきれいになっていく度、俺の心も清らかになっていくようだ。


「あんた、何してんのよ?」


 ギルドへ来たレーアが俺の姿に驚いていた。


「何って、見ての通り掃除だが?」


「見ての通りって・・・キャーロールー? あんたまた誰かに頼んだのね?」


 レーアが、ちょうどホールへ戻ってきたキャロルを睨みつける。


「せ、先輩! 何でいるんですかー?」


「何でじゃないわよ。あんた、あれだけ自分で出来るようになりなさいって言ったじゃない」


「そうですけどー、セリアさんがやってくれるって言うので」


 ギロリ。

レーアが殺すような視線で睨んでくる。


 え? 俺が悪いの?


「あんたもあんたよ。ギルド職員の仕事を奪ってどうするのよ。それに、これから迷宮に行くんでしょ?」


「そうだが、困っている人がいたら助けるだろ?」


 俺の返事に、レーアは大きくため息をついた。


「もういいわ・・・・」


 呆れたようにそう言うと、レーアも掃除を手伝い始める。


「ほら、キャロル。あんたも手伝うの!」


 渋々従うキャロルと、怒りを向けるレーア、それを怖がる俺という三人で、ギルド内をくまなく掃除するのであった。




「さて、全員揃ったな?」


 俺達は冒険者ギルドの訓練場に併設されている控え室にいた。

集まった面々は昨日と同じである。


「では、ティファ頼む」


「わかりました」


 ティファニアが床に描かれた魔法陣へ魔力を送る。

迷宮から戻ってきた時と同様、体を淡い光が包み込み、俺達は転移した。


 転移した先の風景は、昨日と何も変わらない。

変わっていることがあるとすれば、それは――――。


「じいさん達、何してんだ?」


「おー、遅かったのぉ」


 そう言ったエリックは食事として肉を頬張っていた。

それはまぁ、いいとする。

しかし、焚き火を設置し、牛の足を木の棒に縛り、逆さに吊るして丸焼きにするのはやり過ぎではないか?

しかも牛はただの牛ではなく、牛の魔物である水牛(ブルータス)だ。


「じいさん達、緊張感が全くないな」


 俺は呆れてため息を吐いたが、心の中では水牛を食べてみたかった。


「おーい、今戻ったぞ。お!やっと戻ってきやがったか、遅かったな」


 そう言って現われたのはダンカンであった。

当然後ろには、ガルベスとサンタナもいる。

そして彼ら二人が担いでいるのは一体の水牛(ブルータス)である。

ガルベスの鉄棍に足を括りつけられ、運ばれてくる。


「『黒牛』、お前らもか」


 明らかに食用として狩ってきたようである。

迷宮へ戻ってきた者は皆、言葉を失っていた。


「そんなところに立っていないで、座ったらどうかのぉ」


 エリックが皆を促す。


「そんな悠長なことをしている場合ではないだろう。迷宮探索に行くぞ」


 俺の発言に、じいさん達と『黒牛』達が顔を見合わせ、ニヤリと笑う。


「実はこいつらを狩っているときに、下への階段を見つけたんだよ!すげーだろ?」


 マジかよ。

だが、危険ではなかったのか?


「そんな顔するなって、ただ食糧調達してたら見つけただけだからな。それに、水牛の倒し方ならもう見つけたぜ」


 得意気にそういうダンカンを疑うように見る。


「物は試しだ。とりあえずこれでも食べながらついて来な」


 ダンカン達『黒牛』が全員へ水牛の肉を焼いて串に刺したものを配る。

肉はこんがり焼け、表面は塩で味付けされている。

実に美味そうだ。


「私はいりません」


「そう言うなって。食べてみたらきっと気に入るぜ! 俺が保障する」


 どうやらダンカンはエルフ族が肉を食べないと、知らないようだ。

ダンカンはさらにしつこく水牛の肉を進める。

確かに、水牛の肉は美味い。

ほどよく脂がのっていて、歯ごたえもとろけるようである。

それでもエルフは肉を食べない。

これ以上しつこく進めると、さすがのティファニアでもキレるだろう。

俺が保障する。


 俺はダンカンから肉を取り上げる。


「あっ! おい!」


 ダンカンが叫ぶが、俺は肉をかぶりつくことでそれを制した。


「彼女は肉を食べない。しつこい男は嫌われるぞ?」


 そう忠告すると、渋々引き下がった。


 俺達は『黒牛』について歩く。

先程彼らが狩った水牛は、エリックが伝言を(したた)めた紙を貼り付け、街の門目掛けて転移させた。


 しばらく歩くと、水牛の群れを見つけた。

『黒牛』達はその一頭に狙いを定める。


「よく見ておけ。黒牛と水牛、どちらが強いかということをな!」


 発言は牛対牛のようであるが、人族対牛の魔物である。

比べること自体がナンセンスだ。


 サンタナが魔法の詠唱を開始するのを待ち、ダンカンが水牛目掛けて石を投げた。

石は見事に水牛へ命中する。

すると、水牛がこちらを睨みつけ助走を開始した。

顔が完全に怒っている。

この魔物、短気過ぎだろ。

そして、速過ぎだろ!


 加速して最高速へ到達した水牛は、もう目にも留まらぬ速さである。

瞬きの間にも移動するので、瞬間移動にさえ思えた。

これを狩るのは大変だな。


 水牛は俺達の目の前へ迫っていた。

怒りの形相で迫ってくる様は恐怖である。


「大丈夫か?」


「もちろんだ!」


 自信満々で答えたダンカンは、サンタナへ合図を送った。

その瞬間、俺達と水牛の間に落とし穴が発生した。


 気付いた水牛は止まろうとしたが、時既に遅く、落とし穴には落ちた。

走り出した牛は、速過ぎて曲がることも止まることもできないのだ。

無慈悲にも、ダンカンが水牛の脳天へ剣を振り下ろした。


「見たか!」


 はいはい、と俺達は散発的な拍手を送った。

そして狩りたての水牛を、リェーヌの街の門へ転送させた。


 その後、俺達は気分上々の『黒牛』に導かれ、下の階層である18階層へ続く階段にたどり着いた。

次回も迷宮探索です。

駆け足で迷宮踏破したいんですが、なかなか進みません。

でもがんばりますので応援よろしくお願いいたします。


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