第3話:浄化魔法より弱ぇー・・・
全体では4話目だけど、1話目を序章にしたので、3話目ってことにします。
以降、そんな感じでお願いッス!
いいですか?
とんでもない受付嬢だ!と、冒険者ギルドの建物を一度振り返った。
そもそも冒険者になったばかりの人間に、「二度と来るな」は無いだろう。
冷静に考えると、あんな人が冒険者ギルドという大きな組織(?)の受付嬢だとは世も末だと思う。
「ものすごい美人ではあったが、適材適所とは思えませんね。やはり・・・人材不足か」
思った以上に、この世界は危機的状況にあるらしい。
一刻も早く魔王を倒さなければと、再度強く決意した。
決意は足取りを強くさせ、急ぎ足で受付嬢に教えてもらった門を目指す。
過ぎ去っていく街の景色を見ると、ここがそこそこ大きな街であると気づく。
見渡す限りを建物が覆い、今歩いている道路もしっかり舗装がされている。
馬車の数も時間と共に増え、体感として街が活気付くのがわかる。
なるほど、街は今目覚めたのだ。
新鮮な景色は飽きることが無い。
これまで転生してきた世界とは当然文化圏が違うのだから、興味深いものは多数存在した。
ぐ~。
商店街のような店が連なる道を通ると、おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
お腹も鳴るというものだ。
そういえば、転生してから何も食べていない。
お金も無いのだから仕方が無いのだが、せっかく異世界へ来たのだから、ここでしか味わえないおいしい食事にありつきたい。
「さっさと依頼を終わらせて、腹いっぱいおいしいものを食べたいですね」
下水道の清掃の依頼を受けたのには理由があった。
私が扱う魔法には、浄化魔法や復元魔法などの清掃や修繕に特化したものもある。
それを使えば一瞬で依頼達成となるであろう。
そう目論んでの依頼の受注であった。
断じて、あの美人の受付嬢に気圧されたからではない。
「しかし、そう考えると先ほどの受付嬢を見返すのは簡単ですね。『あれー?依頼はどうしたんですか??』『依頼ならも終わりましたよ』『嘘です!こんなに早く終わるなんて』『でしたら確認してみてください』『本当に終わったんですね!すごいです!』『ふっ、私にかかればこんなもの一瞬ですよ、はっはっは』『素敵・・・』デレる様子が目に浮かぶ。楽しみだな、ですね」
すれ違う人たちがやばい人を見るような目でこちらを見ていたので、慌てて口調を英雄仕様に戻す。
そうこうしているうちに、街の入り口である門が目の前に現れた。
すでに開門しているそこは、たくさんの馬車が行き交っている。
門をはさんで街側と外側それぞれに、2名ずつの衛兵が立っているのが見えた。
とりあえずここを右に曲がるとして、もし道がわからなければ最悪あの衛兵に尋ねよう。
そう決定し、美しい所作で右に曲がった。
ちなみに持論ではあるが、美しい所作こそ至高である。
一切の無駄を省いた動きだからこそ、人は美しく見えるのだ。
つまり何が言いたいかというと、足早に目的地に向かう私は最短時間、最短距離を行っているということだ。
ロス0、ゆえに完璧。
一段下がった場所にある建物はすぐに見つかった。
あの衛兵に道を聞く必要などなかった。
やはり、私が迷うことなどありえないのだ。
建物に近づいた時、ちょうど一人のおじいさんが出てきた。
おじいさんは伸びをすると、体を回し、節々を確認している。
もう、結構な歳なのだろう。
「はじめまして。冒険者ギルドから参りましたセリア・レオドールと申します。清掃の依頼を受けたのですが、貴殿がベンさんでしたでしょうか?」
胸に手を当て一礼し、おじいさんへ尋ねた。
「おぉ~、これはこれは。やっと、冒険者が来てくれたか!待ちわびたぞい。いかにも、わしがベンじゃよ」
ベンさんは心底嬉しそうに、私の肩を叩く。
人の良さそうなご老人である。
こういう人の役に立つのが責務だと思った。
「どのような清掃でもお任せください。私にかかれば、すぐに綺麗にして見せますよ」
「おぉ~、それは頼もしい。下水道の清掃なんて依頼は、冒険者の方達はなかなか受けてくださらない。私一人では、毎日下水道を見回って、詰まりがないか、変なものが流れていないか点検するくらいしかできんからなぁ。数年に一度は下水道を隅から隅まで綺麗にしたいものじゃ。そう思って街から予算をもらっては依頼をかけるのじゃが、なかなかのぉ」
ベンさんはそう言って悲しそうな顔をする。
「ベンさんはこの街の下水道の管理人という立場なのですね」
「そうじゃとも。もうかれこれ30年は一人でこの仕事をしておる」
「それはすごい。ベンさんのような方がいるからこの街は成り立っています。私も貴殿の誇りある仕事の一端を担うことができるのは、大変名誉なことです」
再度胸に手を当て、一礼した。
その姿を見たベンさんは驚き、少し嬉しそうに、誇らしげに笑った。
その後、ベンさんから下水道の清掃依頼についての詳しい説明を聞かされた。
この街の下水道は16区画に分かれていて、今回はその第8区画を清掃してほしいとの事であった。
藻や浮遊物、害虫の駆除、ヘドロの処理などについて丁寧に説明を受けた。
要は、街の下に流れる下水道を作られた当時の姿に近づけたら完了ということだ。
発生したゴミは、門の外にあるごみ収集場所へ持って行けとのことである。
その場所がどこかはわからないが、必要ないだろう。
第8区画の大きさと下水道の長さを渡された地図で確認する。
この程度の大きさであれば、余裕で浄化魔法一回の範囲内に収まる。
つまり一瞬で依頼達成である。
楽勝である。
「そうそう、この長靴を履いたほうが良いぞ。あとは、桶とかスコップとか柄杓とかは、あの建物の中にあるから勝手に使っても良いぞ」
差し出された長靴を笑顔で受け取るが、お世辞にも綺麗とはいえないそれを履く気にはなれない。
そもそも、必要としないのだから。
「終わりましたら報告に行けばいいですよね?ベンさんはどこに?」
「今日もいつも通り、第1区画から順に、見回りと詰まりの解消をしておるよ。じゃが、一区画とはいえ、一日で終わるとは到底思えんがのぉ」
にこにこと笑いながらそう言われた。
「大丈夫です。私には考えがありますから」
「それなら任せるとしよう。では、わしは自分の仕事にかかるのでな。がんばってくれよ」
最後に背中をポンと叩かれた。
ベンさんを見送ると、建物に長靴を戻した。
そして地図を見ながら第8区画を目指し、下水道側道を歩き始めた。
下水道の側道を歩いているとはいえ、篭った熱気と、生臭い臭気が不快であった。
確かにこんな環境であるなら、率先してこの依頼を受ける冒険者はいないだろう。
眉間にしわを寄せながら足を速める。
いっそ全て浄化してしまおうか。
あまりの臭いと、面倒臭さから、そんな考えが頭を過ぎる。
しかし、依頼はあくまでも第8区画であるからと思い留まった。
それに、どうせやるならあの美人な受付嬢の目の前でして見せたら、さぞ爽快であろう。
よし、そうしようと心に決めた。
下水道全てが地下で、日の光が差し込まない場所にあるわけではない。
区画によっては建物の隙間や裏側を広い溝が流れていたりする。
そういうところの方が比較的綺麗で、外気に開放されているから臭気もいくぶんかましである。
第8区画は、そんな日の当たるところとそうでないところが交わる区画であった。
地図に書いてある建物の目印を確認する。
何度も確認し、ここが第8区画の中心で間違いないと結論付けた。
さて、さっさと魔法で清掃を終わらせるとするか。
終わったらすぐにうまいものを食べよう。
さっきから腹の虫がおさまりそうも無い。
右手を前へ突き出し、目を閉じる。
思い浮かべるのは第8区画の全容である。
現在いる第8区画の中心から魔方陣を発動し、ちょうど第8区画全てを覆うようイメージする。
「聖なる光は浄化の光、あらゆる害悪を取り除くため、清浄なるこの大地に、今、その大いなる力を誇示せよ。我が魔力を糧とし、ここに我が想像を実現せよ。アウスローゼン」
慣れ親しんだ感覚が体中を襲う。
魔力が発動した魔法に吸い取られているのだ。
浄化魔法の適正は、3度目の祝福を授かる前の私には存在しなかった。
やはり最初から適正のあった属性のほうが得意である。
そうだとしても、これはちょっと、いやかなりまずい。
つか、魔力吸われすぎじゃね?
そう思った瞬間には、自分の魔力が全て魔法に奪われた。
しかも魔力が足りず発動しないおまけつきである。
「は?なんで、うっ・・・おえぇぇぇ」
下水道の清掃に来たのに、自分で下水道を汚すとはこれいかに。
もっとも、何も食べてないのだから吐き出したのは胃液だけである。
魔力欠乏症。
もうかれこれ100年くらいそんなものに陥ったことはない。
それにもかかわらず、この脳を揺さぶられ、めまいがする感覚は間違いなくそれである。
「なぜ?」という疑問は尽きない。
そもそも、そこまでの大魔法ではない。
しかし、現に魔法は発動さえしなかった。
そんなことを頭の片隅で考えてはいるが、今はそれどころではない。
強烈な吐き気で胃液を吐き出し、治まったと思って息を吸えば、吐き気を催す臭気が口から体内に入り込む。
そして、また吐き気を催す。
まさに、最悪の無限ループである。
「くっ、はぁはぁはぁ」
しばらく吐くと、胃液さえ出なくなった。
吐き気はあるのだが、吐くものが無いのだ。
そこまで来て、ようやく吐くという行為は終了した。
うめきながらも目を開けると、下水とい緑色ににごった水に、腐ったような顔のおっさんの顔が映った。
「はぁあぁぁぁぁ?????いや、誰だよお前!!!!!」
驚愕に震るえ、おぼつかない足取りで立ち上がった。
走った。
とにかく走った。
下水に映ったから変な顔に見えたに違いない。
そもそも鮮明ではないのだから。
だからきっと、さっき見たものは絶対に間違いであると。
現実逃避して、ただ走った。
走って、走って、走って、気がつくと、そこには冒険者ギルドが目の前にあった。
もはや迷いなどない。
勢いそのままに、冒険者ギルドの扉を思いっきり開いた。
ここまで読んでくれた方ありがとう!
次回は美人の受付嬢との再会です。
「二度と来るな!」はどうなった?