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第36話:レーアより弱ぇー・・・

駆け足で迷宮を走破します。

読者の皆様が飽きなければいいのですが。



 目が覚めると体の節々が痛かった。

やはり、平らなところで眠りたいものだ。

一度伸びをすると辺りを確認する。

すでに起きている者いたが、まだ眠っている者もいる。


 俺は起きていたティファニアに近づいた。

顔色をうかがうと、昨日よりも遥かに元気そうである。

もう魔力切れの心配はなさそうだ。

それでも、今日一日は楽をさせてやりたい。

それに、ティファニアの格好ではあまり派手に動けないだろう。

慎ましいものが見えてしまうからだ。


「おはよう」


「あぁ、おはよう」


 レーアと挨拶を交わす。

すると、レーアがポーションを取り出した。


「疲れているなら、これ飲んだら?」


「いいのか?」


「別にいいわよ。私はそのためにいるんだし」


 俺はポーションを受け取ると、ぐいっといった。

ポーションが全身に染み渡る。

疲れがなくなり、体が絶好調になった。


 レーアがいるから、ポーションは飲み放題か!

そうであるなら、寝る場所など問題ではない。

傷を負おうが、腰痛だろうが、関節痛だろうが、イチコロである。

ポーションは最高だ。


各々朝食を取り、全員の準備が完了したら14階層へ向かう。


14階層は初の砂漠地帯であった。

空は雲ひとつない晴天で、太陽がこれでもかと照りつける。

オアシスでもないかと辺りをうかがうが、それらしいものは見当たらない。

というか、砂と岩しかない。


「日焼け止め欲しい人いる?」


 レーアが女性達に声をかける。

虫除けといい、日焼け止めといい、薬学って何でもありだな。

ティファニアを含む女性達は皆、うれしそうに日焼け止めをもらっている。


「俺ももらえないだろうか?」


 渋い声でアナライザーが尋ねる。

お前、カウボーイハットかぶって一番砂漠が似合いそうなのに、日焼けとか気になるのかよ。


「それにしても、暑いのぉ」


 じいさん達は完全に暑さでまいっている。

確かに、じいさん達年寄りにはきついかもしれないな。

早いところ次の階層への階段を見つけるか。


「この階層、魔物の姿もなければ建造物もありません」


 ティファニアが『千里眼』を使用して周囲を確認する。


「ティファ、できるだけスキルも魔法も使うな」


「それはどういう・・・」


 俺の言葉に、ティファニアが眉をひそめる。


「お前はこのチームのエースだ。いざという時に力を使ってもらわなければならないから、今は温存しろ」


「わかりました」


 ティファニアは頷いた後、小声で「ありがとうございます」と言った。


「おい、『黒牛』出番だ」


「またか!」


「牛使い荒いな!」


「こき使い過ぎだろ!」


 さすがに不平不満が出るな。

でも、譲る気は毛頭ない。

だってこいつら、この暑さにもかかわらず無駄に元気だからだ。


「いいから周囲を警戒。敵影を発見次第殲滅。いいな?」


「「「へいへい」」」


 やる気なさそうな返事をしやがる。


「おい、レーアが見てるぞ」


 小声で『黒牛』達に伝えると、動きが目に見えて変わった。

やはり、こいつらは単純である。


 しばらく歩くが、魔物の姿も階段も見つからない。

燦々(さんさん)と照りつける太陽が俺達の体力を奪う。

魔法で飲み水を補充するが、水袋はすぐ空になる。

俺は後ろを歩くレーアとアナライザーが心配になり、振り返った。



 そして見た。

見てしまった。

俺達の後からぞろぞろと魔物がついて来ている。


「後ろから来てるぞ!」


 怒鳴るように叫ぶと、皆一斉に振り返った。

『黒牛』達が素早く後方へ回る。


「こいつは、(さそり)か?」


 真っ赤な体をした蠍の長さは、優に1mを超えている。


「こいつらは紅蠍(ブラッドスコーピオン)。最大の特徴は、あの大きな毒針だ。だが、更にやっかいなのは、こいつらは自分自身の敵の強さを判別し、弱い者を狙う習性にある。つまり――――狙われているのは俺だ!」


 アナライザーは解説をしながら、魔物から距離を取ろうと皆の後ろへ回る。

その姿を見て、こいつ囮にしようかと本気で考えた。

というか、アナライザーはレーアより弱いのかよ。

よくそれで迷宮攻略パーティーに同行しているなぁ。

心底感心した。


 案の定、紅蠍のほとんどはアナライザー目掛けて進んでいた。

しかし、何匹かは俺とレーアの方へもやってくる。

あれ? レーアへ向かう紅蠍より、俺に来るやつの方が多くないか?

アナライザーのことを言えない状況に、少なからずショックを受けた。


 幸い、紅蠍は俺達の敵ではなかった。

毒針さえ気をつけていれば恐れることはない。

『黒牛』と『月下の大鷹』を中心に、討伐はすぐに完了した。


 レーアは紅蠍の死体に近づくと、スポイトのようなものを取り出した。

何をしているのか尋ねると、毒を採取しているとのことだ。

そんなこともするのかとレーアがさらに怖くなった。

機嫌を損ねたら、毒殺されかねない。

()()()()()レーアへは気を配ろうと固く誓った。


 俺達は時折り現われる紅蠍をものともせず、14階層の探索に勤しんだ。

しかし、どれだけ歩いても景色が全く変わらない。

暑さと、紅蠍のしつこさ、砂漠の歩き難さでイライラが溜まる。

口癖のように暑い、暑いと皆で連呼しながら歩いていると、アナライザーが何かに気づいた。


「おい、あの岩って階段の1段目に見えないか?」


 こいつ何言ってんだ? と思いながら岩を良く見ると、確かにそう見えないこともない。

変わった形であることは認めるが、だからどうした?


「あの岩の下を掘ってみるべきだ」


 俺達はダメ元で岩の下を掘ることにした。

ただ、手動で掘ってもすぐに砂が穴を埋める。

そこで土魔法が得意なサンタナが魔法を行使した。

すると、砂の底から岩が姿を現した。

俺達が力を合わせて岩をどかすと、15階層へ続く階段が見つかった。


「こんなのわかんねーよ!」


 俺は14階層の迷宮の造りに怒り、キレそうになった。

これに気付かなければ、本当に干からびてミイラになりかねない。

皆、悪態をつきながらも、今はとにかく太陽の日差しから逃げたいと階段を急いで降りた。



しばらく涼んだ後、俺達は15階層へ足を踏み入れた。

そこは邪神でも崇めていそうな薄気味悪い神殿であった。

巨大な造りで、登り階段、降り階段、左右と前にも通路があり部屋に続いている。

まるで迷路のようで、これは探索に時間がかかると思った。


 建物の中であるから、分かれて探索しても煙球での合図が届かない。

合流するのが不可能とさえ思えるから、俺達は一丸となって探索した。


「のぉ、気になっておったんじゃが、こいつらが動いたりはしないじゃろうな?」


 エリックが言う「こいつら」とは、神殿のどの部屋、どの通路にもある石像のことである。

大小さまざまなサイズで、小さいものは等身大。

大きいものであれば5mくらいのものもある。


「そんなことを言うと、本当に動き出しそうでやめてくれ」


 ダンカンが笑いながらエリックに答える。


 ギロリ。


 何かが動いたような気がした。


「おい、今なにか動かんかったかのぉ?」


 ルーカスがそう言うと、彼目掛けて一本の矢が飛来した。

ルーカスは慌ててしゃがみ、どうにか避けた。

そして、壁に刺さった矢を手に取り見つめる。

その矢は石で出来ていた。


「これは・・・まずいのぉ」


 ルーカスが呟くと同時に、壁際に立つ石像が一斉に動き出した。


「臨戦態勢。サンタナ、サリー、マオは魔法準備。初撃は任せる」


 三人の返事を待たず、次の指示を出す。

壁を背にしている俺達へ、三方向から石像が襲い掛かる。

俺は冷静に石像の数を見て三方向へ人員を配置する。

転生前の世界では万の軍を指揮していた。

その経験から、的確な指示が出せる。


「左をダンカン、ガルベス、ティファ。前をシーラ、ミミ、俺。右をじいさん達。後は中央で後方支援」


 俺の指示に、皆すぐさま動き出す。

俺もシーラとミミリアの隣に立つ。


 石像と会敵する直前、三人の魔法が発動――――しなかった。

何が起きた?

突然集約された魔力が霧散したように感じた。

魔法阻害か? いや、今は考えるよりも目の前の敵に集中である。


 俺は剣を抜き放ち身構えた。

その横で、シーラが颯爽と前へ進み石像を叩き斬った。

二刀の剣が音速で動き回る。

その強さはまさに圧巻で、俺もミミリアも出る幕などなかった。


 左を確認すると同じ現象が起きていた。

細身の剣で石像を切り刻むティファニアに、ダンカンとガルベスはあんぐりと口を開けて見ていた。

こちら側は大丈夫だな。


 右を確認すると、じいさん達が持ち前のコンビネーションで応戦していた。

中でもリゲルは、バトルアックスの刃が欠けるのも構わず石像を叩き割っていた。

こちらも問題ないようだ。


 ふぅ、っと一息吐いた。

さて、問題なのはなぜ魔法が使えなかったか、である。


 石像をすべて倒し終わったのを確認し、種火の魔法を行使してみた。

しかし、魔法は発動しない。

やはり、魔力がうまく制御できないのだ。

これではっきりした。

魔法が使えないのは石像のせいではなく、この神殿自体に何らかの仕掛けがあるからだ。


「この階層は魔法が使えないようだ」


「そのようですね」


 俺の言葉に、ティファニアが頷いた。


「だが、何も問題あるまい。我が先行する。よろしいか?」


 はなから魔法を頼りにしていないシーラにとっては、全く問題ないようだ。

俺が頷いて見せると、シーラは嬉しそうに微笑んだ。


 シーラを先頭に俺達は神殿の中を進んだ。

時折りアナライザーが道を修正する場面があり、こんな複雑な階層でもしっかりマッピングしているのはさすがだと思う。


 シーラは現われる石像の悉くを斬った。

もう、動き出す前から斬りつけるので、それが本当に魔物なのか、ただの置物なのか分からない。

シーラの後に残るのは、無残にも斬り裂かれ、ただの石となった残骸だけである。


 俺達はそのまま、疲れを知らないシーラに導かれ16階層へと続く階段を発見した。


 16階層への階段でシーラに疲れを確認すると、まったく問題ない言われた。

さすが黄金級ともなると、俺達とは一線を画すようだ。


 遅めの昼食を取り、16階層へ向かう。


 16階層は寂れた村であった。

そこも11階層と同様、どう見ても人族の村だとしか思えない。

なぜそんな村が迷宮内に存在するのか。

アナライザーに尋ねても、首を振るだけである。

本当に、使えるのか使えないのかよくわからないやつである。


 村に入ると、生きている人の姿はなかった。

その代わり、半透明な人の形をした何かが宙に浮いている。

時間が夜であることを考えれば、それが何であるか予想はつく。


「幽霊か」


「違う、こいつらは悪霊(ゴースト)だ」


 ご丁寧にアナライザーが俺の間違いを指摘する。


 悪霊は俺達の存在に気付き、襲い掛かってきた。

手には体と同じく半透明な包丁や鎌、斧といった刃物を持っている。

中には兵士のような悪霊もいて、半透明な剣を持っている。


 応戦するように指示を出すが、このチームには物理攻撃を主としている者が多い。

悪霊はいくら斬りつけても、体をすり抜けるだけである。

そして悪霊の攻撃を受けると、その部分がミミズ腫れのようになる。


「こいつはやばい。おい、リーダーどうにかしろ!」


 とにかく攻撃を避けるしかない現状を嘆き、ダンカンが俺に言う。

仕方がない、俺が聖魔法というものを見せてやるか。


 手の平を前に突き出し、魔法の詠唱を開始する。


「我が手に宿れ、浄化の光よ。ハーグリヒト」


 手の平が淡く輝きだす。

俺は手を握り締めると、近づいてくる悪霊を殴りつけた。

その瞬間、悪霊は悲鳴を上げて消滅した。

同時に魔法も消滅する。

俺は再度魔法を手に施すが、魔力限界が近づいているのを感じた。

おそらくこれが最後の魔法だろう。


 二体の悪霊に近づくと、一息で二体を殴った。

どうにか二体とも消滅させることが出来た。

そして魔法も消滅する。


「お主、聖魔法も使えるのんか?」


 驚いたようにエリックが尋ねる。


「あぁ、使えたな」


 そういえば、この体ではどれだけの魔法属性に適性があるのだろうか。

何も考えずに発動できたため、エリックに尋ねられ、逆に気になった。

今度時間があるときに調べてみるか。


「それで、もう終わりか? 聖剣使い様なら全部倒せるだろ?」


 ダンカンはそう言うが、俺にはもう魔力がほとんど残っていない。


「無理だ。だが、方法ならあるぞ? 俺が聖の魔法陣を地面に描くから、そこに悪霊を追い込めばいい」


「どうやって追い込むんだ?」


「知るか! 自分で考えろよ!」


 確かに、魔法陣へ悪霊を追い込むのは至難の業である。

そもそも実体がないのだから、蹴飛ばすこともできない。

どうしようか?


 その間にも悪霊は攻撃を仕掛けてくる。

そこへ、レーアが何かの液体を振りまいた。

液体を浴びた悪霊は悲鳴を上げ、消滅した。


「聖水か?」


「ポーションよ、ポーション! 聖魔法が効くなら、ポーションでも効果があると思ってかけてみたら大正解」


 そう言ってレーアは両手にポーションの瓶を持ち悪霊相手に無双を開始する。


「おい、そう言うのは冒険者に任せて」


「大丈夫、大丈夫。というか、楽しいわね、これって」


 えーー・・・・。


 笑いながら悪霊を浄化する姿に、俺達は戦慄を覚えた。

『黒牛』達も目を見開いている。

残念だったな、レーアの本性はあれだよ、あれ。


 レーアは俺達にもポーションを配り、先頭で歩き始めた。

決して安くはないポーションの大盤振る舞い。

それは生成者にしか出来ない所業である。


 レーアを先頭に村を横断すると、そこには17階層への階段があった。

階段を降りながら、皆がレーアを賞賛する。

レーアは照れたように笑っていた。

『月下の大鷹』の女性達は、悪霊を怖がっている節があった。

しかし、レーアにはそれさえ見られない。

本当に強い女性である。


「皆に提案がある。次の17階層の魔物を確認したら、転移でリェーヌへ戻ろうと思う」


 皆を見渡すと、同意してくれているのが分かる。


「ただ、誰かが魔法陣を魔物から守らなければならない」


「また俺達だろ? 仕方がない。任せろ」


「わしらがやろうかのぉ?」


 『黒牛』とじいさん達が返事をした。


「『黒牛』とじいさん達に任せたい。戻るのは明日朝にしたいと思う。もちろん、明日の夜は『黒牛』とじいさん達が街へ戻り、『月下の大鷹』が見張りをすることにしたい」


 皆が了承の意を示す。


「それなら俺も戻りたい。ここまでの攻略を報告したいからな」


「私も戻ろうかしら。ここでポーションを生成するより、既存のものを持ってきたほうが楽だし、早いし」


 地上へ戻るメンバーは、俺、ティファニア、レーア、アナライザーと『月下の大鷹』である。


 俺は17階層の魔物が水牛(ブルータス)であることを確認すると、階段付近に魔法陣を描いた。


「どこへ転移しますか?」


「そうだな、冒険者ギルドがいい」


「わかりました」


ティファニアが『千里眼』で冒険者ギルドの状況確認する。


「よろしいでしょうか?」


 ティファニアは皆の確認を取り、魔法陣に魔力を込めた。

そして俺達は、迷宮へ来たときと同様光に包まれ、転移した。

次回も迷宮探索になります。


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何卒よろしくお願いします。

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