第34話:黒牛達より弱ぇー・・・ part3
冒険者ギルドのホール内で拍手が沸き起こる。
一瞬何のことだか分からなかったが、手を叩いている皆が俺の方を見ているので察することができた。
要は、リーダー就任おめでとうということだろう。
「聖剣殿、リーダー就任祝いじゃ。受け取れ」
リゲルはそう言うと、見覚えのある赤い石のペンダントを渡してきた。
そういえば、4階層で拾って査定してもらっているままだったな。
「いいのか?」
「もちろんじゃ。皆からの就任祝いということで受け取ってほしい。ちなみに、腕力上昇の効果があるらしいぞ」
それを聞き、さっそく着けてみた。
確かに、気持ち力が強くなったかな?
よくわからんけど。
「そういうことか。では、我らからはこの魔法のポーチを渡そう。受け取ってほしい」
今度はシーラからポーチを渡された。
魔法の、と言っていたので何かしら効果があるマジックアイテムだろう。
「効果は収納拡張だ。無限ではないが、大量に物が入る優れものだ。我らのパーティーはすでに一つ持っていてな、もう一つ手に入ったから我が持っていたがあまり使っていない。貴殿であれば、我より有効活用できるだろう」
これ絶対高いだろ。
転移前の世界では、冒険者の必需品として出回っていた。
この世界ではあまり見かけないが、有用性は間違いない。
「いいのか?」
「もちろんだ。多数のパーティーがチームを組んだ場合、信頼の証として、各パーティーが選ばれたリーダーへ何らかのアイテムを貸すという慣わしがある。我も失念していたが、さすが老練の戦士だ」
シーラがじいさん達を褒めると、彼らは微妙な顔をした。
「わしらからのペンダントは返さなくていいからのぉ」
エリックが苦笑いをしながらそう言った。
「なぁ、俺達も何か渡さなければならんのじゃねぇか?」
じいさん達とシーラの様子を見ていた『黒牛』達が小声で相談を始めた。
「いや、だが何を渡す?」
「聞いてないぜ。魔石のペンダントに魔法のポーチときたから、俺達も魔法の品を渡さなければいけないんじゃないか?」
「渡せるようなもんなんてねーよ。どうする?」
「それならやっぱあれじゃないか?」
「あれだな」
「あれか」
話が決まったのか、黒牛Aが代表で前に進み出た。
そして懐に手を入れると、手の平サイズの木の置物を取り出した。
「これは俺達のパーティーの証だ。受け取ってくれ」
よく見れば、牛の姿をしている。
牛は前足を雄雄しく上げ、勇ましいポーズで精巧に作られている。
「いや、いらんわ」
「はぁー?なんでだよ。受け取れよ。もし数のことを心配してるなら問題ない。家に戻ればたくさんあるぜ。これは俺達のパーティーに新しいメンバーが加わったら渡そうと思っていたものだからな」
「そうそう。まぁ、初めて渡すのがお前だけどな」
黒牛Bが補足した。
心底いらないが、これ以上断るのも面倒なので、とりあえず受け取った。
すると、かすかな温かみがある。
これ、黒牛Aがずっと懐で温めていたからだろ?
俺は気持ち悪くなり、急いで魔法のポーチへ収納した。
「一応リーダーということになったのでまず言っておきたいことがある。それは、チーム内での争いは禁止だ。いいか、これは絶対だからな」
俺はティファニアとシーラへ向けてそう言った。
皆が頷くのを確認すると、一つ安心できた。
「では明日の朝、迷宮の前に集合するように。準備は万全にしておいてくれ。どれだけの期間潜るかもわからないからな。以上、今日は解散」
言い終わると、皆各々のパーティーで相談を始めた。
じいさん達が何の相談をしているのか気になり、近づくと今から酒を飲む話をしていた。
明日の朝から迷宮へ潜るというのに相変わらずである。
ティファニアを見ると、今日は宿に戻ると言った。
これが正解である。
「聖剣殿も一緒に飲むだろ?」
さも当たり前のようにエリックが尋ねてきた。
「いや、俺は今から明日の準備があるから遠慮しておく。じいさん達、あんまり飲みすぎるなよ?」
「わかっとるわぃ」
本当に大丈夫か?
「ねぇ、今から準備をするってことは商店街へ行くってこと?」
レーアがそう言った。
「あぁ、保存食や松明や縄、他にもいろいろ買いたいものがある」
「それなら私も一緒にいこうかな」
心の中で「えっ!?」っと叫び、逡巡する。
しかし、ここで断っては明日からの人間関係に支障がでる可能性があるため、了承するしかなかった。
レーアと二人で商店街へ向かった。
辺りはすでに薄暗く、街道へ等間隔に設置されたランタンには火が灯されていた。
俺達は無言で歩いていた。
二人で歩くのは、レーアの鏡を買いに行って以来である。
「レーアは迷宮に潜ったことはあるのか?」
沈黙に耐えられなくなった俺はレーアに話しかけた。
「ないわ。だからまぁ、不安と言えば不安ね」
ないのかよ。
なんで冒険者ギルドはこんな人選をしたんだ?
いや、薬学スキルがあるからだとは聞いたけどそれだけか?
「冒険者ギルド本部からの要請なの。私をってことじゃなくて、職員から誰か同行させるようにってこと。未知の迷宮に冒険者だけで潜らせるのは醜聞が悪いとか思ってるんじゃないかしら」
俺の言いたいことを察したレーアが答えた。
それでも到底納得できる答えではない。
そもそも、戦闘能力がない人を同行させるのは非常にリスクがある。
アナライザーだけでも大変なのに、レーアまで加わるのはチームを危険にさらしかねない。
「レーアじゃなくても良かったのでは?」
「そうね。たぶん本部はギルドマスターに同行してほしかったのよ。彼、ああ見えても元黄金級冒険者だから。でもね、魔王軍が向かってきていて、迷宮攻略のために近隣から実力のある冒険者を招致しているこの状況で、いつ戻ってこられるかもわからない迷宮探索なんて行けるはずがないのよ」
それでも納得しない俺を見て、レーアが続けた。
「じゃぁ、あんたが私を守ってよ。異世界から転生してきた英雄なんでしょ? それくらい余裕よね?」
覚えていたのか。
異世界転生のことを話したのはレーアだけであった。
こんな姿の俺を見て、誰がその話を信じてくれる?
勝手にそう思い込んで、誰にも話さなかったのだ。
「分かった。俺がレーアを守ってやる」
決意を込めて返事をすると、レーアが吹き出した。
「あははは。せいぜい期待してるわ」
言葉とは裏腹に、あまり期待していないのだろう。
今はそれでもかまわない。
実際、守れるだけの力が俺にあるのか疑問である。
それでも決意だけは揺るがなかった。
その後俺とレーアは商店街の店を回り買い物を済ませると、また明日と言って分かれた。
家に戻ると夕食をベンさんと食べ、明日に備えて早めに就寝した。
次の日、俺は一人で街を出て迷宮へ向かった。
冒険者ギルドではなく、迷宮での待ち合わせにしたのには二つの理由がある。
一つ目は、この街の実力者が集団で街中を歩くと非常に目立つからだ。
二つ目は、その目立った状態でティファニアとシーラが喧嘩でもしようものなら街中に不安を与えることになる。
彼女たちがこの街で二人しかいない黄金級冒険者だからだ。
俺が迷宮の前に到着すると、すでに皆揃っていた。
リーダーが最後とは、まったく示しがつかないな。
「皆揃っているな、ではこれから迷宮探索に入る。その前に、これを渡しておく」
そう言って俺はあるものをエリック、シーラ、黒牛Aに渡し、使い方を説明した。
「では、行こうか。ティファニア、10階層へ転移するぞ」
1階層から踏破するのでは時間がもったいない。
俺は地面に魔法陣を書き始めた。
「無理です。ここからでは迷宮の中が見れません」
「そうなのか?」
「はい。迷宮の中から外は見れましたが、外から中は見えません。ちなみに迷宮内でも、階層が同じなら見れますが、違う階層は見れませんでした」
さすがの千里眼でも、法則が異なる迷宮ではいろいろと制約があるようだ。
さて、それならどうするか。
1階層から踏破するのもいいが、正直面倒である。
どれだけ急いでも二日はかかる。
しかも最後にあの9階層が待っている。
この大所帯での突破は非常に辛い。
唸りながら考えていると、いい方法を思いついた。
俺は魔法陣を修正し、10階層から帰還するときに使用した魔法陣と繋いだ。
「よし、これなら10階層へ行ける」
何度も魔法陣を確かめ、間違いがないことを確認すると、皆に告げた。
「では、行きましょう」
レーアはそう言うと、魔法陣に魔力を送った。
俺達の体は淡く輝きだすと、次の瞬間には迷宮10階層へ飛んでいた。
「ここが10階層。本当に転移したんだ」
レーアが感嘆の声を漏らし、10階層を見渡していた。
俺は足元にある魔法陣を足で消した。
これが残っていると、誰かが誤ってここへ転移しかねないからだ。
「行くぞ」
俺は皆を促し、11階層へ続く階段に向かった。
階段を降りながら、チームの一人一人の特徴を思い出していた。
そうすることで、今後どのような構成で戦うのが一番よいか考えていた。
11階層にたどり着くと、辺りを確認する。
時間は夜、そして目の前に広がるのは廃墟と化した街であった。
かつては隆盛を誇っていたのだろう。
街の規模は巨大で、一国の首都だとしても不思議はない。
しかし、今はただただ寂しいばかりである。
「ジンじいさん、ミミ、先行してくれ。『黒牛』が前、じいさん達とティファが左、『月下の大鷹』が右、俺、レーア、アナライザーは中央、三角形で進む」
「俺達が先頭かよ」
黒牛Aがぼやいた。
「そうだ。こんな寂れた場所に、女性やじいさんを先頭に押し出すわけにはいかんだろ?」
「そりゃそうだ」
がははっと笑いながら黒牛たちも俺の指示に従った。
俺達は廃墟の中を警戒しながら進んだ。
廃墟を観察していると、迷宮の謎が深まるばかりである。
この廃墟は明らかに人工的に作られたものだ。
あの、巨鬼や小鬼が作ったものとは質が違う。
人間が作り、生活していた形跡がある。
ただ、かなり昔のことではあるようだが。
「前から、何か来るよ!」
前方数m先を進んでいたミミリアが叫んだ。
「ジンじいさん、ミミは下がって自分のパーティーに戻れ。黒牛A、B、Cは気合を入れろ」
「は?」
「なんだって?」
「A、B、C?」
『黒牛』達が叫んでいる間にも、魔物のその全容をあらわにした。
ゾンビ・・・いや、スケルトンか。
魔物は人型で、服などを着てはいるがその体に肉はなく、真っ白い骨がむき出しになっている。
転生前に何度も見た魔物。
それが10体ほどこちらへ向かってくる。
強さは、たぶんそこまで強くないだろう。
「黒牛、ここで皆にお前らの力を見せろ!」
「へへへ、ご指名とあっちゃぁやるしかねぇな! 行くぜ」
「「ああ」」
黒牛A、Bがスケルトンを足止めするように前へ出ると、Cが魔法の詠唱を開始する。
Cが魔法を放った魔法は、いつか見た土魔法であった。
見事にすべての魔物の足を絡め取り転倒させる。
それをA、Bで倒していくのだが、圧巻であったのはBである。
重量のある鉄棍を振り回すと、ガードごとスケルトンを破壊する。
スケルトンの骨は粉砕され戦闘不能である。
なるほど、これは相性の問題だな。
剣で骨を斬るより棒で叩いたほうが、効果がありそうである。
ほどなくしてすべての魔物の討伐が完了した。
俺達はただ見ているだけであった。
こいつら、以前より実力を上げてきているな。
「セリア殿」
「あぁ、分かっている」
シーラが俺に何かを伝えようとしたが、それを制する。
「『黒牛』の実力も分かった。この階層の魔物がスケルトンということも分かった。先へ進むためにチームを分ける。じいさん達『栄光の残滓』とティファニアとレーアが一組目、『月下の大鷹』とアナライザーが二組目、俺と『黒牛』が三組目だ。それで、迷宮に入る前に渡した煙球は各自持ってるな?」
俺の問いに、エリック、シーラ、黒牛Aが頷いた。
「それぞれのパーティーメンバー全てに各一つは配布するように。で、使い方だが、青が階段発見。赤が救援要請だ。よし、それじゃぁ各自慎重に行動してくれ」
俺達は素早く三組に分かれると、階段探索へ移った。
「なぁ、ちょっと気になったことがあるんだが」
探索を始めると、すぐに黒牛Aが話しかけてきた。
「なんだ?」
「お前って、もしかして俺達の名前知らないのか?」
「黒牛A、B、Cだろ?」
「ちげーよ! そんな名前のやついないだろ?」
まぁ、そうだろうな。
けど、もういいじゃんそれで。
名前とか面倒だし。
「そんな顔すんな。泣きたくなるわ! いいか、俺の名前はダンカン、こっちがガルベス、そんで、こっちがサンタナだ! いいか、忘れるなよ?」
「わかったわかった。それよりほら、来たぞ」
前からスケルトンが5体来るのが見える。
『黒牛』達はすぐさま臨戦態勢を取る。
スケルトン5体では相手にならないようで、すぐに戦闘は終了した。
俺達は廃墟の中を階段目指して徘徊した。
その間、三度戦闘を行ったがすべて『黒牛』達が葬った。
彼らの連携は見事で、さすが白銀級に昇格しただけのことはあった。
声をかけることなく、自分が何をしなければならないのかお互いに理解している。
だからこそ迅速な連携が取れるのだ。
そうなってくると、俺のやることがない。
「あのさ、俺やることがないんだが、何したらいい?」
「あぁ、それじゃあ後ろで声でも出しててくれ」
それにガルベスとサンタナも頷く。
それならリーダーとして指示を出すか。
だが、こいつら指示が必要ないくらい錬度が高いんだよな。
そんなことを思っていると、横からスケルトンが現われた。
今回は7体である。
「そこだ! やれ! 今だ! おしい! いっけーー!!」
「うるせぇ!」
「気が散るんだよ!」
「黙れや!」
えぇー・・・声でも出しとけといったのはお前らだろ。
本格的にやることがなくなり、暇をもてあまして空を見上げると、青い煙が立ち上っていた。
どうやら誰かが階段を見つけたようだ。
俺達は針路を変更し、青い煙の方へ移動を開始した。
次回も迷宮探索になります。
次回から、さくさく階層を攻略していきます。
じっくりの描写ではないですので、ご了承ください。
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