幕間2
今回はいろいろと回収します。
注意:サブタイトルのネタが尽きてきました。
迷宮から戻った俺達は、レーアと共にやってきたサムウェルに促されて情報室にいた。
いつもの個室ではない理由は、大所帯になりすぎて狭いからである。
情報室にいるのは、俺、ティファニア、エリック、ジン、ルーカス、リゲル、サムウェル、レーアの8人である。
迷宮10階層までの最速攻略者として、情報を伝えるのだろうと思っていた。
「あんたら、ギルドのホールに転移してきたって本当か?」
サムウェルが真っ先にした質問は迷宮のことではなく、転移のことであった。
それも当然か。
この世界では転移の技術は秘匿されているそうである。
それならば、尋問されてもしかたがない。
救いであるのは、誰が転移魔法を行使したのか冒険者ギルド側には把握されていないことだろう。
もっとも、レーアだけは俺の方をいぶかしむように見ているが。
「それは本当じゃ」
エリックが肯定する。
結構な人数が冒険者ギルドのホールにいたのだから、隠し通すことは不可能だろう。
「そうか。では、どうやって転移したんだ?」
サムウェルの質問に、皆が俺の方を見て判断をゆだねた。
確かに俺が魔法陣を描いたが、発動したのはティファニアである。
「――――エルフの秘術だ」
俺は搾り出すように呟いた。
転移魔法が何をもたらすのかわからない以上、正直に答えてやる義理はない。
「そうなのか?」
サムウェルがティファニアに問いかける。
「そんなものはありません」
ティファニアがはっきりと口にした。
「だ、そうだが?」
「エルフの秘術だ」
「違います。そんなものはありません」
こいつ、空気読めねーのかよ。
俺の発言にすぐさま否定するティファニアに、黙れと目で合図した。
ティファニアは問うような視線を返してくるが、俺は眼力での会話を試みた。
『いいか? ここはエルフの秘術ってことにしておけば、誰も深くは追求してこないんだ。秘匿されている転移が使えると分かれば、下手すれば異端者だの異教徒だの言われかねないんだぞ。俺が!』
もちろん視線での訴えたため、ティファニアに伝わったかどうかは定かではない。
ティファニアは何かを考えるような仕草をしたあと、再度俺を見つめた。
俺は頷きで答えた。
「エルフの秘術だ」
俺はそれしか言うつもりはない。
今度は、ティファニアは否定しなかった。
その様子をサムウェルは見て、溜息を吐いた。
「はぁ~、あのな、俺達にはそう言って誤魔化せても、人の口に戸は立てられない。噂が広がれば魔道教も出てくるぞ。その時はどうするんだ?」
「エルフの秘術だ、と答える」
あぁ、そうか、とサムウェルは頷いた。
そもそも、冒険者は他者に自分の能力をさらけ出したりはしない。
依頼によっては敵対することもありえるのだから、信頼しても信用するなである。
「それじゃぁ次だ。南門の外に巨大な角猪が降って来て、そこにはエリックじいさんの張り紙がしてあった。あれも転移、いや転送だろ」
あぁ、そういえばそんなこともあったな。
ティファニアがシーラ達の頭上へ転送した件ですっかり忘れていた。
皆が俺の返事を待っているため、サムウェルに頷いた。
サムウェルは俺の方を見て、また溜息を吐いた。
おそらく、その事を聞いても『エルフの秘術』が出てくると思ったのだろう。
正解だがな。
「その角猪はどうなっておる? 伝言通り、解体屋に回せてもらえたのかのぉ」
「それはした。だが、あれだけのサイズだからな。解体屋も総出で運び、解体していたぞ。肉は肉屋に、その他の部位も各店へ回してもらえるように手配はしたが・・・、あんな巨大な角猪が取れるのか?」
「それについては後でわしが迷宮踏破の報告と共にするつもりじゃ」
「そうか」
サムウェルが短く返事をした。
どうやら、サムウェルもこの件については相当尽力したようで、疲れが溜まっているようだ。
レーアを見ると、レーアも同様のようである。
「もし、あれだけ巨大な角猪が大量に取れる階層があり、転移で送れるならこの街の食糧事情は大幅に変わるのだがな。まぁ、言っても仕方がないか。ところで、『月下の大鷹』とアナライザーを見なかったか?」
俺達は彼女たちとは10階層で別れたことを説明した。
もちろん、間違っても故意に置いてきたとは言っていない。
それを聞いてサムウェルはしばらく考え込んだ。
「彼女たちが戻るまで1日か2日くらいかかりそうだな。申し訳ないが、11階層より下へ潜るのは彼女たちが戻ってからにしてもらっても良いか? 10階層まで踏破したのだから、迷宮ランクをアナライザーが査定するはずだ。それから冒険者ランクに応じて、潜ってもよい階層が決定する」
なるほど、そういうルールなのか。
もっとも、しばらく休みたいしこのまま迷宮探索をし続けるかも不透明である。
俺達が了承の意を示すと、エリックだけ残されその他は開放された。
「申し訳ありませんが、角猪の査定、迷宮最速踏破の報奨金、それと先ほど預かった武器の査定にはまだ時間がかかりそうです。本日中には出来ると思いますので、少々お待ちください」
レーアはそういうと、通常の業務へ戻っていた。
ちなみに、武器の査定とはリゲルがちゃっかり持って帰った鬼人の武器である。
なんでも、あの武器は魔物が鍛えたもので、魔鉄と呼ばれる鉱物で作られているらしい。
人族の領域では非常に珍しいため、結構な価格で取引されているようだ。
これは、今回の報酬は期待できるな。
ただ、今回の探索では俺の活躍する場面がほとんどなかったため素直に喜べない。
俺達はギルドの飲食スペースへ戻ると椅子に座り込んだ。
今回はそこまで長期間迷宮へ潜っていたわけではないにもかかわらず、結構疲れたような気がする。
精神的なものだろうか? それとも年齢的なものだろうか? おっさんだからな、俺は。
相変わらずかつての姿に恋焦がれていると、ティファニアが話しかけてきた。
「迷宮探索が終わったのですから、次は私達の悲願を叶えてはいただけますよね?」
いただけますか? ではなく、当然ですよね? といった具合に尋ねてくる。
そもそも、迷宮探索が10階層までとは言っていないし、悲願とか聞いていない。
まずは、それを聞かなければ話にならない。
「先に言っておくが、迷宮探索が終わってからと言うのは10階層までということではない。だから今すぐティファに力を貸すことは無理だ。でも、それを踏まえて、君の事情を聞いておきたいとは思う。良ければ話してくれないか?」
ティファニアは少し残念そうにしながらも、話を聞いてくれるだけでも前進だと思ったのだろう。
ぽつりぽつりとエルフの状況を話してくれた。
内容を要約すると、エルフの起源である世界樹のふもとは現在魔王の領地となっているそうだ。
何度も取り戻そうと戦ったのだが、人族と連携を取っていなかったため手酷い敗退に追いやられ、エルフの数を大幅に減らしたらしい。
それでも再起を図り取り戻そうとしているが、魔王の領地は更に拡大し、世界樹までたどり着くのは非常に困難とのことだ。
まして取り戻すともなると、その後の防衛なども含め現実的ではない。
そんな時に、人族に聖剣の担い手が現われたと聞いたらしい。
どうにか助力を請えないかということで、もっとも強い戦士であるティファニアに白羽の矢が立ち人族の領地まで来たそうだ。
ふむ、というか、聖剣の噂はどこまで行っているのだろうか。
もはや撤回不可能である。
俺は無性に消えたくなった。
「事情は分かった。だが、俺で力になれるだろうか?」
俺はそう問いかけつつ、ティファニアに聖剣の意味を教えるべきか悩んでいた。
「なれます。聖剣もそうですが、セリア様の魔法陣はものすごく強力です」
目を輝かせ、鼻息荒く力説してくるティファニアを見てたじたじになる。
ティファニアはさらに続ける。
「私達は待っていたのです。魔王の力に抗う聖剣の担い手が現われるのを。ですから、セリア様が唯一の希望です! どうか、どうか、私達エルフの悲願を叶えてください」
まるで神にでも祈るように両手を合わせる美女に、否と言える猛者はいるか?
真面目に一族のためと懇願している女性に、俺の聖剣について話せると思うか?
「わかった。迷宮探索にある程度の目処がついたら力を貸してやる」
ある程度とぼかした言い方で、とりあえず今を取り繕う。
「ありがとうございます」
今にも泣き出しそうなティファニアを見て少し罪悪感を覚えた。
それでも、やれることだけはやってやろうと心に決めた。
俺達が各々、ギルドの飲食スペースで休んでいるとエリックが戻ってきた。
その手にははち切れんばかりの袋が握られている。
これから待ちに待ったお楽しみタイムが始まろうとしていた。
「まず、6階層から10階層の最速到達報酬じゃ」
そう言ってエリックが皆の前に金貨を20枚重ねた。
ゴクリと喉が鳴る。
「次に角猪じゃが、こちらはすべて売却すると金貨26枚になった。しかし、解体屋に費用を払ったのでな、一人当たり金貨3枚と銀貨40枚じゃ」
目の前の金貨が更に高くなる。
「そして、鬼人の武器じゃ。あれは非常に良いものでな、金貨一人当たりちょうど10枚じゃ」
最後に金貨が10枚加算された。
これで金貨33枚と銀貨40枚である。
この世界に来て初めてお金に余裕が出来た。
「それでじゃが、『月下の大鷹』が戻って来ねば更に下の階層へは行けないそうじゃから、明々後日の夜にここへ集合ということでどうじゃろう?」
皆が頷くと、そこで一応解散になった。
なぜ一応かというと、ここから恒例の飲み会が始まるからだ。
全員参加ということで、俺達はビールとつまみを頼んだ。
しかし、このままでは前回の二の舞になる。
どうしようかと考えていると、一つ良い方法を思いついた。
「あ、レーア。ちょうどいいところにいた。よかったらこのお金を預かってもらえないか?」
近くを通りかかったレーアに声をかけた。
そして、金貨を5枚ほど抜き、残りの袋をレーアに差し出した。
「ちょっ、なんで私が預からないといけないのよ」
怒るレーアを拝み倒し、何ならレーアも仕事が終わったら参加しないかと誘った。
もちろん俺のおごりで。
レーアは最初嫌そうにしていたが、俺達のビールが運ばれてくると仕方がないと了承してくれた。
ティファニアだけはビールが飲めないようで、柑橘酒を頼みなおした。
そして全員分揃うと、乾杯の音頭と共に飲み会が始まった。
時間の経過と共に、相席する冒険者は増えていく。
いつの間にかサムウェルも参加し、その後で仕事が終わったレーア、キャロルも現われた。
今回の俺はちゃんとセーブして飲んでいるから、大丈夫だ。
そもそも、転生前の俺は酒豪であった。
これくらい余裕余裕と飲み進めていく。
「あれ? そうか。この体は酒があまり強くないんのか」
呂律の回らない口でそう呟くと、意識が遠のいていった。
まぁ、たまにはいいよな。
『月下の大鷹』達が帰還したのは、それから二日後のことである。
それと同時に、他の街からもたらされた情報が今後の行く末を左右することになるとは、この時の俺には想像すらできなかった。
次回から新展開の予定です。
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