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第30話:ティファより弱ぇー・・・ part6

感想、ブックマーク、評価ありがとうございます。

これからもがんばりますので、よろしくお願いします。



 9階層へ続く階段を降りることは腹ごなしにちょうどよかった。

腹の苦しみから解放されると、じいさん達も俺も力がみなぎっているように感じた。

やはり、肉の力は偉大である。


 9階層に足を踏み入れると、そこはこれまでの迷宮とは全く違う空間であった。

目の前には城塞都市が広がっている。

建築物のほとんどを土や石と言った自然由来のもので作成され、人の身長の数倍はあろうかという城壁は実に圧巻であった。

なぜそんなものが迷宮の中に存在しているのか。

迷宮が出来たのはつい最近である。

これほどの建造物を作るには、数十年いや、百年以上の歳月を要するかもしれない。

やはり、この世界の迷宮は俺が知っている迷宮の法則とは少しずつ違っているようだ。


 9階層は8階層と似たような平原地帯を基本としている。

しかし、その三分の一が城塞都市となっている。

もっとも、9階層と8階層では総面積が異なってはいるのだが。


 さて、どうするか。


「どうするかのぉ」


 エリックと同様に、じいさん達も腕を組んで悩む。

平原を探索しようにも、城塞都市から丸見えであるから攻撃を仕掛けられかねない。

夜を待ちたいが、夜は永遠に来ない。

今は昼で、これからも昼である。


「ですが、このままただ見ているわけにはいきませんよね?」


 ティファニアが何か行動するよう促す。


「ティファ、あの城塞都市を破壊できるか?」


 冗談半分で聞いてみた。


「無理です。私が使える魔法は、対人、対軍までです。あれを単独で落とすには、対国や災害級魔法が使えなければ難しいです。もっとも、そんなことができるのは聖剣の担い手か魔王くらいだと思いますが」


 チラっと俺の方へ視線を送ってくる。

俺の聖剣じゃ無理だから、こっち見んな!


「困ったのぉ。あの城塞都市にどんな魔物がおるかもわからんしのぉ」


「まずはそれを知ることが先決か」


「そのことですが、隠れて侵入しませんか?」


 ティファニアの提案に俺達は驚いた。


「しかしのぉ、気配を消したりできるのはジンと聖剣殿くらいじゃぞ?」


「そのことについては私に考えがあります」


 ティファニアはそう言うと、城塞都市に視線を送った。

どうやら、『千里眼』で何かが見えているようである。


 突然、城塞都市があわただしくなった。

叫び声や怒号、喚声や歓声といった何語かも分からない声が響き渡る。


「どういうことだ?」


「ここからは見えないと思いますが、あちらの方で囮役の方々が攻撃を仕掛けたようです」


 そういってティファニアが右の方を指差す。


 マジか! こんな城塞都市に攻撃を仕掛けるとか、あいつら正気か?

そう思いつつも、城塞都市に篭っている敵の戦力を調べるには、攻撃して釣りだすしかないことも分かる。

ただそうだとしても、考えるのと実行するのとでは雲泥の差がある。


「エリックじいさん、行こう!」


 俺が頷いて見せると、じいさん達も覚悟を決めた。


「彼女らには申し訳ないが、囮に使わせてもらうかのぉ」


「では、私が誘導いたします」


「よろしく頼む」


 ティファニアの後に続き、俺達は城塞都市目掛けて駆け出した。

ティファニアはさすがで、『千里眼』を使って周囲の状況を把握し、見つからないルートを進む。

というか、こいつは城塞都市の中の魔物が何であるか見えてるのではないか?


「巨鬼です」


 俺の質問に、ティファニアが短く答えた。

つまり、この城塞都市は巨鬼の都市ということだ。

どうりで近づいてきた城門があそこまで大きいわけである。


「どうやって侵入するんじゃ?」


 ティファニアに併走し、ジンが尋ねる。

こういうことに関してはジンが率先して前を行く。


「大丈夫です。あの城門の一部を溶かします」


 ティファニは城門にたどり着くと、原初の炎を右手に宿した。

そして、城門の隅に人が屈んでやっと通れるくらいの穴を作成する。


 ちなみに、『月下の大鷹』が攻撃したのも城門であったが、こことは反対にある。


 俺達は城塞都市に侵入すると、近くの建物に身を隠した。

そこから辺りの様子をうかがうと、なるほど巨鬼の都市だと分かる。

目に映るのほとんどが巨鬼で、たまに小鬼が小間使いのようにいるだけである。

4階層とは全く逆の光景を見ているようであった。


「侵入はしたが、どうする?」


「王を殺すのではないのですか?」


 俺の問いに答えたのはティファニアだった。

え? そう言う話だったのか?

じいさん達を見るが、皆首を横に振るだけである。

そうだろうよと、俺はティファニアに尋ねた。


「その心は?」


「これだけの都市であれば、統率者という王がいるはずです。ですからこのまま王の首を取りに行く・・・んじゃないですか?」


 てっきり情報収集のためだとばかり思っていたが、どうやらティファニアの中では違ったようだ。


「そりゃあ、やれるならそうしたいのは山々じゃが、できるかのぉ。これだけの数の中、移動するのだけでも大変じゃわい」


「出来ると思います。セリア様、先ほどの転送魔法陣は人でも移動させることはできますか?」


「それは可能だけど、おい、まさか」


「はい。私の『千里眼』で王の位置を確認し、その近くへ転移しましょう」


 実現できそうなプランをティファニアが提示する。

あれだな、こいつの『千里眼』と転送魔法陣の組み合わせは恐ろしいな。

難点は、俺が魔法陣を描くのが手間だということくらいか。


「はぁ~、やってみるか?」


 じいさん達に尋ねると、眉間に皺をよせつつも頷いた。

さすがリェーヌの街の上位パーティーだけのことはある。


 俺は見張りを頼み、隠れている建物の床に魔法陣を描き始めた。

出来上がった魔法陣を何度も確認し、間違いはないと確信してティファニアに声をかけた。


「いけるぞ」


「こちらも、王の位置が分かりました。それと次の階層への階段ですが、あそこです」


 ティファニアはそう言い、まず王のいる場所を指差し、そのままもう一点を指差した。

王がいるのはこの城塞都市で最も大きな建物である。

そして10階層への階段は、その建物の(はじ)にある物見の塔にあるようだ。


「これはまた、ひどいところにあるのぉ」


 まったくである。

ばれることなく城塞都市へ侵入するしか10階層へは行けないだろう。

もしくは大規模レイドを発動し、冒険者総出で攻め落とすしかない。

今回は前者である。

帰りはどうなるのか、片道切符になりそうな予感しかしない。


「それではよろしいでしょうか?」


 ティファニアが皆の確認を取る。


「えぇーい、わしはもう腹を括ったわぃ」


「わしもじゃ」


「わしも括ったわぃ」


「わしは王と戦いたいのぉ」


 最後に俺が頷くと、ティファニアが魔法陣に魔力を流し始めた。

あれ? 投げやりなじいさん達の中に、誰か違う感情の人がいる。

そんなことを考えていると光が体を包み、一瞬で視界が切り替わった。


 まず最初に目に入ったのは、一際デカイ巨鬼であった。

玉座に座っているのにもかかわらず、俺達の倍ほどある。

そして目が合った。

そいつは目玉が飛び出るかと思うくらい目を見開いた。

まぁ、気持ちは分からんでもない。

何か人外な言語をしゃべっているが、言いことは分かる。

暗殺者が目の前に現われたらあんな感じになるんだろうな。

少し哀れに感じた。


 誰も状況について来られず動けない中、ティファニアが問答無用で剣を抜いた。

そこでやっと巨鬼の王も立ち上がった。

鉄で出来た棍棒を担ぎあげ、構える。

それと同時に、王の配下である巨鬼が俺達の周りを囲んだ。


 圧倒的な圧力に、俺はここから抜け出せるのだろうかと不安に思っていた。

それでも俺は生き残るために、『英雄の心』と肉体強化魔法を発動した。


「皆さん、王を倒したらそのまま10階層への階段まで駆け抜けます。しっかり付いてきてください」


 ティファニアはそう言うと、体に風を纏い巨鬼の王目掛けて疾走した。

対する巨鬼の王は棍棒を振り下ろすが、ティファニアはそれを余裕でかわすと棍棒の上に舞い降り、一気に王へと接近した。

払い退けようとする王であったが、ティファニアはそれさえもかわし、剣を一閃した。

剣に纏う風が扇状に流れると、王の首が地面に落ちた。


 ティファニアはそのままの勢いで壁を蹴り、反転して出口へ向かって走り出す。

それを妨げようとする巨鬼達は、各々一振りで戦闘不能になっていく。

まさに無双であった。


 俺達も巨鬼からの攻撃を捌きつつ、ティファニアを追った。

出口に到達したとき、やっと巨鬼の王が討ち取られたことを把握したのだろう。

ものすごい怒号と悲鳴が上がり、俺達を追いかけてきた。


 ティファニアは前を走る。

俺達も必死で追いかける。

その後ろからはすさまじい数の巨鬼か追いかけてくる。

振り返ったら恐怖でちびりそうであった。


 ティファニアが剣で物見の塔への扉をこじ開け、俺達は雪崩れのように侵入した。

そのまま扉を閉めるが、巨鬼達が開けようと棍棒で殴りつける。

このままでは一分ももたないだろう。


「こっちです」


 ティファニアはそう言うと、塔の上へ続く階段を登り始めた。

下じゃないのか? いや、下への階段はないけども。

俺達は誰もがそう思ったが、もう付いて行くしかない。


 階段を登っていると、巨鬼達も扉を壊し階段を登ってきた。

物見の塔の最上階へたどり着くと、その部屋とは全く異質な空間である階層を移動するための階段が口を開いていた。

俺達がそこへ入り込んだ瞬間、巨鬼達が最上階へ到達した。

しかし、階段の中にいる俺達も、階段のある空間さえもは見えないようで辺りを探している。


「本当に、階段はセーフティーエリアなんじゃのぉ」


 これまで半信半疑だったのだろう、ルーカスが安心したように呟いた。


「それじゃぁ、これでも投げ込むかのぉ」


 そう言ってエリックが小さな赤い玉に火をつけて物見の塔、最上階へ投げ入れた。

玉は一瞬で燃え上がると、真っ赤な煙を吐き出し最上階を埋め尽くした。


「これは?」


「本来は冒険者の救難信号といったところじゃが、きっと彼女達ならこれがどのような意味か理解できるじゃろうて」


 つまり、囮となった『月下の大鷹』へ、10階層への階段はここにあるぞというメッセージである。


 俺達は階段の中腹で休憩を取った。

息切れもしていたが、それ以上に精神的に疲れた。

それにしても、これだけ動いても疲れた様子さえ見せないティファニアはやはり別格のようだ。

白銀級のじいさん達でもそう思っているようで、畏敬と羨望の入り混じった目で見つめている。


 休憩が終わると、いよいよ10階層へ向かう。


「10階層、20階層、30階層といった区切りの階層は、通常の階層とは違うことを知っているかのぉ?」


 エリックが俺に尋ねる。


「ボスでもいるのか?」


 俺が以前いた世界でも10階層毎にボスがいるという迷宮は存在した。


「うーむ、遠からずといったところじゃな。よいか、今から行く10階層もじゃが、階層内に存在する魔物全てを倒さなければ下へ階段が現われないのじゃよ。まぁ、降りてきた階段はあるから、最悪逃げればよいがのぉ」


 そう言ってエリックは安心させるように笑った。

とりあえず10階層の魔物を確認したら地上に戻るべきか。

10階層への到達にはなるし、問題はない。

あるとするなら、魔物を目の前にしたティファニアがおとなしく従うかである。


 10階層は鍾乳洞で出来ていた。

エリックが松明に火を灯し、先頭を歩く。

慎重に歩くが分岐点はなく、ひたすら真っ直ぐ進むだけであった。


 しばらく歩くと、前方から光が漏れていた。

そこは鍾乳洞ではあるが非常に広い空間であった。

その空間の壁際には等間隔で松明が置かれている。

だから、昼間のように明るく、空間全土を見渡すことが出来た。


 そして、その真ん中には三体の鬼がいた。

次回も引き続き迷宮です。


続きが気になる方は是非是非、ブックマーク、評価をお願いします。


また、アドバイスや気になる点がある方は感想をお願いします。

出来る限り修正し、作品をよりよいものにしたいと思っております!

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