第28話:ティファより弱ぇー・・・ part4
誤字報告ありがとうございます。
また、いつも読んでいただいている読者の方、ブックマークしていただいている方、本当に感謝しております。
迷宮に時間という概念は存在しない。
その階層が朝であれば、永遠に朝日が昇り続ける。
もちろん昼の階層、夜の階層も存在する。
今俺がいる7階層は昼の階層である。
地上の時間では、おそらく深夜なのだろう。
しかし、明るい中で眠り続けるのは慣れていないため、なかなかに大変であった。
何度も寝返りを打ち、浅い睡眠と覚醒を繰り返していた。
「もう、起きるか」
熟睡はできないと判断し、起き上がった。
この明るさでも良く眠れるなと、じいさん達を見る。
彼らはアイマスクをして、明かりを遮断していた。
「ずるい!」
小さく叫んでしまった。
一つ大きく伸びをすると、見張りの順番であるルーカスが見えた。
元々次は俺の番のため、少し早いが代わるとするか。
「ルーカスじいさん、代わろう」
「おぉー、早いのぉ。助かるわぃ」
ルーカスは眠そうにそう言って、場所を俺に譲った。
そして、寝ているじいさん達の近くに行くと横になり、まもなくいびきが聞こえてきた。
もちろん、自分専用のアイマスクは着用済みである。
あれは迷宮探索の必需品だったのかよ。
帰ったら絶対買おうと心に決めた。
しばらく一人で見張りをしていた。
といっても、美しいお花畑も今では焼け野原である。
魔物が隠れる障害物など皆無で、見通しは非常によい。
お花畑と一緒にこの階層の魔物は全滅したはずであるから、しばらくは現われないだろう。
そんなことを考え終わると、やることがなくて一気に暇になった。
「あのー、隣いいかな?」
そう言いながら、返事も待たずに少女が隣に腰を下ろした。
彼女は確か・・・。
「ミミだったか?」
「へぇー、覚えてたんだ。けど残念、ボクの名前はミミリアだよ」
どこか馴れ馴れしい態度のミミリアは、いわゆる『ボクっ娘』であった。
金髪の髪を短く切りそろえ、短パンにシャツといったボーイッシュな出で立ちである。
それでいて身長は小柄で、年の頃は16、7歳と冒険者にしてはかなり若いため、かわいらしい印象を持った。
「それで、ミミリアは俺に何か用か?」
「やっぱ、ミミでいいや。その方が打ち解けれそうだし」
俺としてはどちらでも良かった。
「それで、ミミは俺に何か用か?」
言い直して尋ねた。
「んーと、ボクはキミの聖剣についてある人から教えてもらったんだよねー」
は? 誰だよその変態は。
こんな若い子にあの聖剣について教えるなんて、正気を疑うレベルである。
黙っている俺の表情を観察し、ミミリアは何かを確信した。
「じゃぁ、本当なんだね。聖剣がその・・・」
「あぁ、その通りだ。けどな、俺が自分で聖剣とか言ったわけじゃない。周りのやつらが勝手に言っているだけだ」
「そうなんだ。でも、聖剣って言われるくらいだからすごいんでしょ?」
「すごいかどうかなんて知らねーよ。でもまぁ、たぶんそこいらのやつよりはデカイんだろうなぁ」
はぁ~、っと溜息を吐きつつ答えた。
転生前の完璧な俺の体でも、この体のよりは随分小さかった気がする。
「それって、やっぱり使えば最強って事?」
「はぁ? 試したことないから分からん」
「ん? なんで?」
「何でって、そんな余裕なかったし」
「余裕がない時に使うんじゃないの?」
「え?」
「え??」
なんだか会話が成り立っているようで、かみ合っていないような気がする。
「何の話をしてるんだ?」
「何って、聖剣でしょ?」
「いや、そうだけど。聖剣って誰に聞いたんだ?」
「ボクが良く行く武防具屋の従業員に聞いたんだよ。あっ、今は店主になったんだった」
あいつかよ。
「それで、聖剣の正体はなんだって?」
「それが、聖剣はボクが思っているような武器ではないって言われたよ。でも、最強であることは間違いないとも言われた。だから、武器ではない最強のものが何なのか知りたくてカマをかけたんだけど、余計にわからないや」
どうやら、あの街の男達にも常識と言うものが少しは残っていたらしい。
「ねぇ、聖剣が何なのか教えてよ」
「断る!」
俺の決意は固く、腕を組んで話は終わりだと示した。
すると、ミミリアはなぜかシャツを肌蹴させ始める。
色仕掛けか?
しかし、まだまだ成長しきっていないそれでは効果は薄いだろう。
「さて、教えてくれないなら、ボクはキミに襲われたって大声で皆を呼ぶよ」
「いや、ちょっ待てよ!」
色仕掛けではなく、冤罪かよ。
それはさすがにまずい。
おっさんと美少女、どちらの言を信じるかなど火を見るよりも明らかである。
「じゃぁ、教えてくれる?」
かわいらしく首をかしげているが、明らかな脅迫である。
こいつ、このなりでなかなかの曲者だな。
「降参だ。けど、誰にも言うなよ?」
「もちろん」
目を輝かせて言うミミリアに、内心呆れつつ聖剣について説明することにした。
「知ってのとおり、聖剣とは剣じゃない。つまり、その、俺のアレのことだ」
「え゛? アレってアレ?」
そう言ってミミリアは俺の下腹部を見る。
俺はサッと手で隠し、頷いた。
「あー、なるほど。それで、そういうことか。つまり・・・。はぁ~、これはまずいな」
納得し、何かを考え、そして溜息を吐く。
忙しいやつである。
「あのさ、このことはうちのリーダーには内緒にしてくれる?」
「当たり前だ。自分から言うわけないだろ。そっちこそ、誰にもしゃべるなよ」
「分かってる! それで、うちのリーダーのことなんだけど、どう思う?」
突然、話がシーラについてというお題に代わった。
「どうとは? 黄金級冒険者で、凛とした女性だということしか知らないが」
「まぁ、そうだよな。うーん、あのさ、うちのリーダーってすっごく美人じゃん?」
シーラが美人であることは間違いない。
どこか周囲に冷たい印象を与えるし、あまりの強さに圧倒されるがそこは揺るがない。
俺は一度頷いた。
「美人で強くて、その上優しくて、皆に慕われてるんだ。で、一見硬派に見えるかもしれないけど、実はめっちゃ乙女なんだよ。ただ恋愛対象がおかしくってさ、タイプの男性1番が聖剣グランディアの担い手。2番が英雄ヴァン・フリードなの。二人ともとっくに死んでんじゃん? それなのに本気で憧れてるからボク達も頭が痛かったんだ。そしたらキミっていう聖剣の担い手が現われたっていうじゃん? リーダーは隠してるつもりだろうけど、めちゃくちゃ浮かれてんのよ」
「いや、そもそも聖剣はグランディアじゃないし、俺おっさんだぜ?」
「そんなの関係ないんでしょ。見た目じゃないのよ見た目じゃ」
だから、中身も求められてる聖剣使いじゃないんだが・・・。
「と言うわけで、リーダーには絶対聖剣の正体を言うなよ? あと、ばれない努力もしてくれ。もしばれたら、皆にキミの聖剣の大きさはこれくらいって言いふらすからな」
そういってミミリアは両手を広げた。
いや、さすがにそんな大きいって誰も信じないだろ。
――――待て、そこじゃないのか。
大きさ云々ではなく、聖剣を見たと吹聴することが目的か。
くっそ、こいつやっぱり曲者だ。
ふふふっと笑いを残してミミリアは自分達のパーティーへ戻っていった。
残された俺は、シーラへの対応について考えていた。
ティファニアと同様、俺も出来るだけシーラへ近づかないようにしよう。
対策はそれしかない。
悶々としたまま、朝を迎えた。
といっても、7階層は常に昼のため朝だとは判断できない。
ただ、じいさん達やティファニアも起きてきたから朝だと判断した。
俺達はさっさと朝食を取り、出発の準備を整え階段に向かった。
同じタイミングで、『月下の大鷹』とその他1名も階段へやってきた。
まずは『月下の大鷹』達が階段を降り、俺達がその後に続く。
気まずい雰囲気の中、階段を降りきると8階層へ到達した。
8階層への入り口は切り立った崖の上にあった。
そこから下を見ると、8階層を一望できる。
8階層は広大な草原地帯であった。
そしてその草原を横切る魔物の群れを確認することができる。
魔物の正体は何だろうかと、俺とじいさん達は目を細めるが、さっぱり見えない。
どうやら、俺もじいさんと同じように視力が低下しているようだ。
「角猪だな」
シーラが教えてくれた。
それを聞き、俺とじいさん達は歓喜する。
「「「「「肉だー!」」」」」
さっそく狩りに行こうとする俺達にシーラが声をかけた。
「ちょっと待ってくれ。貴殿達に話がある」
そう言うとシーラは一呼吸置き、緊張した面持ちで話を続けた。
「セリア殿。聞けば、貴殿は臨時でパーティーに参加しているだけだと言うではないか。それならば、我々のパーティーである『月下の大鷹』へ正式に入らないか? もちろんエリック殿には昨夜相談し、あとは貴殿に任せると返答をいただいている。どうだろうか?」
こいつ、なんでこんなに必死で懇願するように言うんだ?
そして祈るような仕草は、愛の告白を待つ乙女のようだ。
「ちょっと待ってください。何を勝手に勧誘なんてしているのですか? この迷宮探索が終わったら、セリア様は私と共に世界樹へ行っていただけることになっているんです」
ティファニアがたまらず割り込んできた。
というか、迷宮探索が終わったら世界樹へ行くとか初めて聞いたんだが。
「決めるのはセリア殿だ。貴様にセリア殿の意思を妨げる権利はない」
「あ、り、ま、す! 先に約束をしたのは私です。あなたこそひっこんでください、この泥棒猫が」
「どろ、貴様! やはり貴様とは一度しっかりと話し合わなければならないようだな」
そう言ってシーラは剣の柄にい手をかける。
いや、話し合う態勢じゃないだろそれは。
「そうですね。身の程を弁えない下等な人族に、思い上がりも甚だしいと教えるのも私の役目です」
ティファニアは瞬時に魔法の詠唱を行い、左手に原初の炎を宿す。
一触即発というより触らなくても爆発寸前の二人を前に、逃走か、撤退しか選択肢はない。
どちらにしても巻き添えはごめんだと、離れようとした俺の肩をガッシリとじいさん達が手が掴む。
「お主が決断せねば収拾がつかん」
分かっている。
あの二人の諍いの原因が俺であるということも。
だから、こうして胃がキリキリと痛むのだ。
仕方なく二人に声をかけた。
「シーラ、ありがたい申し出だが、今すぐに答えは出せない。俺はこの迷宮へじいさん達と来た。途中で抜けるなんてのはなしだ」
水でもぶっ掛けられたかのようにしゅんとするシーラを見ると、本当に申し訳ないような気持ちにさせられる。
「ティファも、世界樹の話は今初めて聞いた。だから、街へ戻ったら今度こそちゃんと話を聞くから、今は迷宮攻略だけに集中しろ」
「分かりました」
ティファニアも同様にうなだれる。
その光景を見ていたじいさん達、『月下の大鷹』の面々、アナライザーはどこか尊敬と言うか、畏怖の念を抱いた瞳でこちらを見ていた。
そんな雰囲気を感じた俺は、迷宮探索より人との付き合いの方が疲れるなと、心底そう思うのだった。
今回は迷宮の階層攻略はありませんでした。
次回は迷宮をどんどん進みます。
次の更新は明後日を予定しております。
続きが気になる方、面白いと思っていただける方は是非是非、ブックマーク、評価をお願いします。




