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第2話:受付嬢より弱ぇー・・・

第2話を投稿します。

まだまだ物語は始まったばかりです。





 どこの異世界にも冒険者ギルドは存在する。

私と同じように転生したものが、そのシステムを広めたと女神アスラムリスから聞かされた。


 もっとも、私のように戦闘に長け、魔王を討伐する責を負った転生者もいれば、他の神により前世に培った善行の褒美として転生するものもいる。

また、荒廃した世界の復興を託された者や、神の気まぐれで転生するなどさまざまな理由があるらしい。


 この世界の冒険者ギルドも、大昔に存在した転生者が作り上げたのかもしれない。


 目の前にある冒険者ギルドの建物を見上げながら、物思いに浸る。


 ふっ、と小さく息を吐くと、思考を一瞬で切り替える。


「では、行こう。ここから、世界の救済を始めよう」


 冒険者ギルドの扉を勝手知ったるように、慣れた所作で開いた。


 目の前には、にこやかな笑顔の美人がいた。

カウンターの後ろにいるのだから、受付嬢だろう。


 顔は真っ直ぐ受付嬢へ固定しつつ、眼球運動だけで辺りを確認する。


 そこで違和感に気づいた。今歩いているのは広いホールになっている。

それにもかかわらず、冒険者の姿もいなければ、他の職員もいない。


 その理由はすぐに思い至った。


 なるほど、ここはSSランクの世界である。

この世界の人類に残る戦力はもうギリギリで、魔王軍との戦の前線へ動けるものは皆配備されたのだろう。

 

 そうかそうか。

それなら、この世界は運がいい。

人類の存亡を賭けた瀬戸際のこの状況で、私が現れたのはまさに行幸である。


「おはようございます。本日はいかがされましたか?」


 笑顔が似合うとは彼女のことを言うのだろう。

きっと、期待しているのだ。

私自身からあふれ出る英雄としてのオーラが彼女にそうさせている。


 そうであるなら、その期待に応えるのもまた、勇者と言われる者の宿命だろう。


「はじめまして、麗しの君。私はセリア・レオドール。魔王を打ち滅ぼすよう、女神アスラムリスより使わされた、この世界を救済する者です」


 さわやかな笑顔を作り、髪を掻き上げながら言う。


 受付嬢が目を見開く。

それもそうだろう。

絶望的な状況の中、突然救いの手を差し伸べられたのだから。

まして、その相手が絶世のイケメンならなおさらである。


「すみません、ご用件がよくわからないのですが」


 受付嬢がためらいがちに言う。

 

 この人美人の上、職務に忠実で真面目とはポイント高いな。


「そうですね。世界の救済の一歩として、冒険者の登録をお願いします」


「わかりました。では、登録いたしますので、お名前と年齢を教えてください。その後、登録料として、銀貨5枚をお納めください」


 笑顔のまま、事務的に事を進めようとする姿は、なんとも初心であった。


 名前はすでに名乗ったはずだが?という疑問より前に、どうしても聞かなければならないことがあった。


 その恥ずべき疑問を断腸の思いで口にした。

そう、できるだけ自然かつ、さわやかに。 


「申し訳ありません。あいにく今は手持ちが無く、その場合はどうすればよろしいでしょうか?」


 受付嬢は先ほどよりも更に大きく目を見開いた。


「その場合は一旦銀貨5枚をギルドからお貸しいたしますので、それで登録していただくことになります。ただし、返済するまでは生活系の依頼である雑務に従事していただくことにはなりますが」


 そう説明する受付嬢の笑顔は、若干引きつっていた。

 

 壮大なことを言ってお金がありませんではさすがに引かれたか。


 まぁ、問題ないだろう。

すぐに見返すことになるのだから。


「それで問題ありません。登録をお願いいたします」


 即断即決。

決断力ある男はモテる。

世の常である。


 もっとも、この世界のモンスターの強さも、この街周辺に出没するモンスターの難易度も、今は情報がまったくない。

素手や魔法で倒すことは可能かも知れないが、不確定要素は排除しておきたい。

ゆえに、まずは生活系の依頼を完遂させて装備を整えたいところである。

魔法マスターの私であれば、生活系の依頼の一つや二つ、三つや四つなど一瞬で終わる。


「わかりました。ではお名前と年齢を教えてください」


「名はセリア・レオドール。年齢は、19歳です」


 2度目の魔王を討伐したのは19歳の時で、その祝福で不老を得た。

ゆえに、19歳の姿のままである。


「セリア・レオドールさんですね、女性のような・・・いえ何でもありません。年齢は19歳と―――19っ!?」


 本日一番驚いたのだろう。

目は限界を超えて見開かれ、眉間にしわが寄っている。


 なんとも形容しがたい顔であるが、間違いなく笑顔ではない。

むしろ怒っているような気さえする


「嘘を言わないでください。19歳なわけないでしょう!」


「えぇぇ?」


受付嬢のまさかの言葉に心底驚いた。

受付嬢にまで見破られるとは思わなかったからだ。

どうやらSSランクの世界は、予想以上に一般市民でも能力が高いらしい。


「すみません。あなたを侮りましたことを謝罪いたします。ふむ、確かに私は19歳ではないですね。たぶん130歳代だとは思うのですが、正確な歳は・・・」


「いい加減にしてください。さっきからお金は持っていない、年齢は嘘をつく。なんなんですか?」


 受付嬢が「バン!」と机を叩いた。


「ひっ」


 突然のことで、軽く口から悲鳴が漏れてしまった。


「もういいです。年齢は勝手に判断させていただきますから、あなたはそこの掲示板でも見て受ける依頼を持ってきてください」


「は、はい!わかりました」


 あまりの受付嬢の迫力に、この私でさえ気圧されてしまった。

そのことに驚愕しつつも、美しい姿勢で180度回転し、受付嬢が指し示した掲示板へ向かう。


 いかなる時でも、それが例え動揺している時でさえ、優雅に振舞う。

なぜならば、私は英雄だから。








 レーアは溜息を吐きつつ、掲示板へ向かう男の後ろ姿を睨みつけていた。

あきれと、イライラですでに我慢は限界を迎えようとしていた。


 自分の今日の運勢は最悪だろう、朝から変なやつに絡まれたのだから。

本来であれば昨日の残った仕事も片付けていたはずである。

その思惑もはずれ、大幅に時間をロスした。


「はぁ~ぁ」


 一度大きく溜息を吐いて、頭を垂れたとき頭上から声がした。


「すみません、私、文字が読めないのでした」


 あはははっと気持ちが悪い笑顔で、頭の後ろを掻きながらセリアと名乗った冒険者(仮)が立っていた。


 ブチっ、何かが頭の中で切れる音がした。


 レーアはものすごい速度で左右を見渡し、誰もいないことを確認した。


 両手で机を「ドンっ!!」と叩きながら立ち上がると、カウンターから外へでる。


「てめぇ、さっきからふざけやがって。こっちとら、ただでさえ朝っぱらにてめぇみたいなどうしようもないクズの相手をしてイライラしてんだ。あぁ?わかるか??てめぇだよ、このクズが!いい歳して、文無し、自分の歳も満足にわからない、あげく字も読めない」


 レーアは依頼の貼ってある掲示板へ向かいながら、一気にまくし立てる。

そして一枚の依頼書を掴み取った。

それは誰もが受けたがらない依頼で、長らく放置されていたものである。


「クズはこれでもしていろ。どうせクズにはこれ以外の依頼なんて、できねぇだろ」


 レーアは依頼書を男の顔に近づける。

そんなことをしても文字など読めないだろうが。


「それは?」


「下水道の清掃依頼。報酬は銀貨30枚」


 男は少し考えた素振りをした後、大きく頷いた。


「わかりました。では、私の初任務はその依頼に決めます」


 レーアの溜飲は若干下がった。

下水道の清掃がどのようなものかも理解できない愚か者、それも今冒険者になったばかりの新米に誰も受けたがらない依頼を押し付けたのは大人げ無かった。

それでも依頼の取り下げをしなかったのは、若干溜飲が下がっても、未だにイライラしていたからである。


 レーアは手早く依頼書に、受注者の情報を書き込み、承認印を押した。

そして、男にくすんだ鉄でできたタグを渡した。


「これは自分が冒険者であるという証です。絶対に無くさないように。最初の冒険者ランクは黒鉄です。ランクは、黒鉄級、鋼鉄級、青銅級、白銀級、黄金級、聖級、神級とあります。これは依頼の達成状況によって昇格試験の推薦を受け、合格したらランクが一つ上がります。それから―――」


 レーアは無表情で淡々と、冒険者に必要な説明を早口に行った。

昇格試験の受け方、依頼未達成のペナルティー、指名依頼といった依頼の種類、冒険者同士のいさかい、禁止事項などである。


「先ほど受けた依頼ですが、この建物から出て、ずっと真っ直ぐ道沿いに行けば門が見えます。そこまでいって、右に曲がったら一段低いところに建物があります。たぶんこの時間ならベンさんっておじいさんがまだいると思いますから、その人に依頼の件で来ましたと言えば作業内容を説明してくれます。何か質問は?」


 とにかく少しでも早くこの男との関わりを絶とうと、レーアは依頼の作業内容の説明さえも依頼主に丸投げした。


「質問ですか。そうですね、依頼とは直接関係ないかもしれませんが、今って朝ですか?昼ですか?」


 男から悪意は感じられない。

本当に朝なのか昼なのかわかっていないのだと理解した。

だからこそ余計に怒りが湧き上がる。


「行って・・・・」


 レーアは搾り出すように呟いた。


「はい?」


「いいから、もう依頼に行けよ。このクズ」


 一刻でも早く消えてほしかった。


「その、クズというのはあまりにも」


「早く行け!二度と来るな!!」


「は、はい!」


 男は一目散にギルドから出て行った。


 レーアの頭を鈍い痛みが襲う。


「今日は午前中で早退しよう」


 まだ、冒険者ギルドのピーク時間にさえなってないにもかかわらず、すでに力を根こそぎ使い果たしていた。

このまま一日中仕事を続けることなど不可能だと思え、レーアは午前中が終わったら半休を取ろうと固く決意した。

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