第26話:ティファより弱ぇー・・・ part2
今回は非常に駆け足になりました。
ご了承ください。
2階層へ足を踏み入れると、以前とはまったく別のものになっていた。
城跡は3層以降へ向かう冒険者の中継地として、十数個のテントが張られている。
その光景に俺達は全く理解することが出来ず、ただ驚きをもってせわしなく視線を動かすだけであった。
「おう、じいさん達、元気そうだな」
そこには以前、俺達に2階層の状況、3階層の情報を伝えてくれた一人の冒険者がいた。
「お主も息災でなによりじゃ。それで、ここは今どういう状況なんじゃ?」
エリックが皆を代表して質問する。
「どうって、じいさん達のおかげでこうなったんだぜ?」
「わしら?」
「そうそう。じいさん達、2階層へ小鬼を供給するのは4階層だって報告しただろ?」
俺達はそろって頷く。
ティファニアだけはよく分かっていないようだ。
「それでだ、2階層の城跡を俺達が占拠した時にその報告があったんだ。それから、4階層へ向かう者、2階層で残りの小鬼を駆逐する者に分かれたんだが、実際に4階層へ行く冒険者が増えたら、本当に2階層へ出てくる小鬼の数が目に見えて減ったんだよ。これ幸いと、一部の冒険者が見張りをしつつ、城跡は完全に俺達の中継地点になったってわけだ」
やはり、4階層の推測は当たっていたようだ。
それにしても、たった二日でここまで影響が出るとは、やはり相当な数の冒険者が迷宮に潜っているということだろう。
よい傾向である。
「なるほどのぉ、今度は逆に、2階層をわしら人族が拠点にして、4階層へ冒険者を送り込む構図になったわけじゃな」
エリックがうまいこと言った。
「そうだぜ。ちなみに、3階層の岩狼は基本スルーだ。あれを倒すのは割りにあわないからな。たまに、肉が食いたい冒険者が少し狩るくらいだ」
なんとなく、分かるような気がする。
岩狼の体毛が硬いため、武器の耐久力が著しく下がる。
内側に回り込もうにも、動きがすばやいため骨でもある。
よし、俺達もスルーの方針で行こう。
「ありがとうのぉ、助かったわぃ。それじゃぁわしらは先へ進むかのぉ」
「おう、がんばれよ」
そう言って冒険者は手を挙げた。
俺達も手を挙げ、それに応える。
「そういえば、昨日『月下の大鷹』とアナライザーが下へ降りていったぜ。おそらく10階層を目指してるんだろうな。今度はがんばって先に到達しろよ」
去り行く俺達に、その冒険者は最後の情報をくれた。
そうか、『月下の大鷲』は昨日から潜っているのか。
それにしても、アナライザーは今回、彼女達について行ったのか。
なんとなく裏切られたような気がしていると、ルーカスが話しかけてきた。
「アナライザーは、最も早く目標階層へ到達できると思われるパーティーと共に行くことになっておるんじゃ。こればっかりは仕方ないのぉ」
どうやら、じいさん達『栄光の残滓』よりも『月下の大鷹』のほうが可能性が高いと思われているようだ。
実際に戦力差があるのだから仕方無いが、じいさん達は悔しくないのだろうか。
俺は勝手に悔しさを感じていた。
2階層から3階層へ続く階段に到達すると、一度休憩を取った。
昼食では、じいさん達が持ち寄った食べ物をティファニアへ進める
ティファニアは困った顔をしながらも、それらを受け取っていた。
さすがじいさん達である。
エルフが肉を食べないことを知っていて、山菜やドライフルーツなどを渡している。
休憩の後は3階層である。
計画通り、岩狼はスルー、――――とはいかなかった。
ティファニアは岩狼を見つけると、魔法の詠唱を開始し、岩狼を爆発させた。
素材とか、肉とかもう回収不可能である。
ここまで来ると、こいつも戦闘狂か? とさえ思ったが、どうやら違うらしい。
違うと言うのは本人談であるから信用はできない。
俺達はもう諦めて、ティファニアに戦闘を丸投げすることにした。
分かってはいたが、こいつの魔法では、岩狼は完全にオーバーキルである。
ティファニアも分かっているようで、途中から詠唱が適当になり、「爆ぜよ」とか「爆発しろ」とか言うだけで岩狼が肉片に変わっていく。
じいさん達の顔も大いに青ざめているのだから、そのありようは理解していただけると思う。
さて、3階層を抜け、階段を降りればいよいよ4階層である。
正直、こんなに早く進めるとは思ってもいなかった。
ティファニア様々である。
4階層は情報通り、冒険者であふれていた。
以前、この階層を一望した丘に上がり眺めると、冒険者達が徒党を組んで小鬼の集落を攻めていた。
「まるで戦場じゃな」
エリックの言葉に、皆が同意する。
小鬼達の集団を指揮するのは巨鬼で、存亡をかけて戦っているのがわかる。
「ティファ、今回だけは自重しような」
さすがにこれだけ大規模になると、戦闘中の横槍はやめたほうがいいだろう。
仮に、戦場が有利になるとしても、他の冒険者から恨まれるのはごめんである。
「わかりました」
少し不満気なティファニアに再度念を押し、俺達は下層へ続く階段めがけて歩き出した。
最初は陥落した集落がいくつか存在した。
しばらく行くと、今まさに攻略中の集落がある。
そしてそこを過ぎれば、未だ健在の小鬼の集落があった。
俺達はその横を通り抜け、下層への階段にたどり着いた。
「さて、ここからが本番じゃぞい。5階層の魔物は蜘蛛女じゃ。一応6階層へ続く階段の位置は麗しの鷹殿に聞いておる。じゃが、わしらにとってはほとんど初めての階層になる。もう一度気を引き締めて進もうぞぃ」
エリックの言葉に、皆了承の意を示した。
5階層への階段にも、何人かの冒険者はいた。
彼らは疲弊はしていたが、一様に満足そうな顔をしていた。
どうやら、うまく蜘蛛女の心臓を手に入れたようだ。
確かに、稼ぐという観点でいけば、この階層が最も適していると言える。
「よう!」
冒険者の一人に声をかけられた。
誰だよと見ると、どこかで会ったような顔をしていた。
はて、誰だっただろうか。
「おい、マジで忘れたのかよ。俺だよ、『荒野に二本の角を掲げて立つ、黒く雄雄しき野牛』だよ」
相変わらず長がいパーティー名である。
よく噛まずに言えるなと感心さえしてしまう。
「あぁ、黒牛A、B、Cか」
「はぁ?何だよその、A、B、Cって」
お前達だよと言いたいところであったが、正直今こいつらには絡まれたくない。
「俺達は急いでるから、またな」
そう言って立ち去ろうとする俺の肩を黒牛Aが掴む。
「待て待て、そんなに急ぐことはないだろ? せっかくの交友を温めようじゃないか。それで、そこの美人は誰だ?」
やっぱそうなるよな。
分かってたよ。
「はぁ~、彼女はティファニアで、成り行きでパーティーを組むことになった。以上」
「以上じゃねぇよ。ちょっとこっち来いや」
黒牛Aはティファニアに笑いかけながら、俺の首に手を回し、黒牛B、Cのところまで引きずっていく。
心底めんどくさい、それに男臭くて暑苦しい。
「おい、レーアだけじゃなく、あんな美人も手篭めにしたのかよ」
黒牛A、B、Cからの査問が始まった。
そして、なぜ三人とも涙目なんだよ。
「レーアも、ティファも手篭めなんてしていない。勘違いすんな」
「嘘付け。聖剣なんて持ってるお前なら女なんてイチコロだろ」
「まてまて、俺を見てみろよ。うだつの上がらないおっさんだぜ? そんな可能性皆無だって」
「うーん」
「まぁなぁ」
「確かに」
納得された俺は泣きたくなった。
俺だって本当はこんなおっさんじゃねーんだぞ。
「セリア様、どうされましたか? 皆、待ってますよ」
どうやら下火になったこの場所に、油が自分からやってきた。
「セリア様?」
「様って」
「有罪だな」
「あぁ有罪だ」
「許すまじ」
目がマジな『黒牛』達はそろそろ本気で面倒であった。
「ティファ、あと頼むわ」
え? という顔のティファニアの肩をポンと叩き、バトンを渡した。
俺は今にも5階層へ向かおうとするじいさん達に合流し、成り行きを見守る。
「私達、そろそろ出発したいんです。我々はただ友とだな。迷惑そうに見えましたが。いや、そんなことは・・・」
「お主、何を一人で言っておるんじゃ?」
「いや、たぶんそんな感じの会話をしてるんじゃないかと」
ルーカスの問いに俺は答えた。
しかし、じいさんには難しいようで、さっぱり理解できないという顔をされた。
シュンとした顔をしている『黒牛』を残して、申し訳無さそうなティファニアが戻ってきた。
少し俺を責める様な視線をしていたが、見つめ返すとただ微笑むだけであった。
なんだこいつ?
5階層は相変わらず夜であった。
その中を慎重に進みたかったが、それを許さないやつが一人いた。
邪魔な木の枝は風で払い、夜だと言うのに森の上には小さな太陽があった。
もう、なんでもありだな。
照らし出された蜘蛛女は片っ端から爆発していく。
じいさん達の誰かが、「心臓が・・・」と、呟いていたがもう無理である。
「なぁ、エルフって皆、ああなのか?」
俺はルーカスに問いかけた。
転生前の世界では、エルフは好戦的ではなく保守的で、魔物を殺すのさえ躊躇する優しい種族であった。
ティファニアすげーな、一人で俺のエルフへのイメージを覆そうとしている。
「いやぁ・・・わしらが会ったエルフはあんなではなかったのぉ」
前後左右から爆発と突風が荒れ狂う中、俺達はただ、ティファニアの背中を見て前に進むことしか出来なかった。
時折り巻き添えをくらいそうになった冒険者もいたが、ティファニアが微笑みかけると皆黙って許してしまった。
幸い出会った冒険者が男だけだから良かったものの、女が混じっていたら許してくれないぞ。
不運な冒険者へ心の中で謝罪しつつ進んだ。
俺達が6階層へ続く階段へたどり着いた時、もし上空から見ることができたのなら、一つの道が出来上がっていただろう。
それは5階層を最短距離で踏破する道であり、俺達が通った道でもある。
木は小枝を含めて枝すべて切り取られ、地面は爆発でクレーターが出来上がっている。
この空間だけは、もう蜘蛛女は巣を作ることは無いだろう。
図らずとも、5階層を抜ける安全な道が完成したのであった。
次回より未踏破の階層へ突入します。
このぶっとんだティファニアさんはどこまで行くのでしょうか?
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