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幕間

とりあえず、次への幕間です。




 世界は北側を魔王領、南側を人族領として2分されている。

人族領の最前線はサンドレット王国とベルレアン公国が担っている。

リェーヌの街はサンドレット王国に属し、人族領のちょうど中間程の位置にある。

魔王領からも程遠く、かといって安全圏と言われるほどでもない。

そんな街だからこそ、前線への中継地として重宝され、発展を遂げてきた。

更に言えば、リェーヌの街が陸地から飛び出た半島に位置していることが、海路での輸送を活発化させている。

リェーヌの街は北と東が海に面し、南と西には陸が広がる。

陸路としては、街を少し南下し東に針路をとってわずかに進めば、そこから北へ向かうことも可能である。

ゆえに、人族領でもリェーヌの街の位置は非常に重要である。


 そんなリェーヌの街を、一人の女性が歩いていた。

誰もが忙しく動いているその街であっても、彼女を見た者は立ち止まり振り返る。

彼女の赤毛の髪は美しく、大きな瞳は黄金色に輝く。

鼻立ちははっきりとし、薄い唇は淡い桜色をしている。

女性にしては珍しく長身であり、印象を一言で表すならスマートである。

端的に言えば、比類なき美しい女性である。

しかし、彼女を皆が見つめるのは彼女の容姿が整っているからだけではない。

彼女の特徴的な長く尖った耳もまた、人々の注目を集めていた。


 エルフ。


 人族とは違う彼女達は、今では非常に珍しい種族であった。


 彼女は街のメイン通りを真っ直ぐ歩いていた。

人族の営みが珍しいゆえか、はたまた誰か探し人でもいるのか、彼女は周囲を一つずつ確認しながら歩を進める。

しばらくすると、彼女は何かを諦めたのか歩きながらうなだれた。


「すみません。あの、冒険者ギルドはどちらにあるのでしょうか?」


 彼女は一人の中年男性を呼び止めた。

その男を呼び止めた理由は、皆が忙しそうにしている中、歩調が非常にゆっくりであったからだ。

ありていに言えば、暇そうに見えたのだ。


「冒険者ギルドなら、この道を真っ直ぐ行けば右手に噴水が見える。その噴水の向こう側にある」


「ありがとうございます」


 彼女は礼を言いつつ、男を確認する。

男の頭には寝癖があり、顎には無精ひげ、目は覇気がなくしかも若干赤く腫れ上がっている。

服装もおかしい。

猛暑でもないのに、シャツに短パン、そしてその服装には不釣合いな剣を携えている。

彼女にはその格好でいったい何がしたいのか、まるで理解できなかった。


「あの・・・」


 彼女は男に声をかけた。


「まだ何か用か?」


 彼女はその返事に違和感を抱いた。

エルフは珍しく、だからこそ皆の視線を遠巻きに感じていた。

しかし、この男からは彼女への一切の関心が感じられない。

エルフは珍しくないのだろうか? と疑問さえ抱かせる。


「あなたは、その格好で何をしているんですか?」


 彼女は、自身が最も気になることを尋ねた。


「ほっとけよ!俺だっておかしいとは思ってる。今から家に戻って着替えるから、そこには触れるな!」


 彼女は、怒り出す男を見て戸惑った。

おかしいと思っているなら、そんな格好で街を歩かなければいい。

彼女は、去り行く頭のおかしい男を呆然と見送った。


 冒険者ギルドの建物はすぐに分かった。

ご丁寧に、『冒険者ギルド』と大きな看板が掲げてあるから間違えることはなかった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 ギルドの中に入ると、レーアが尋ねた。

彼女は、自分がエルフであるにもかかわらず、顔色も対応も変えないレーアに好感を抱いた。


「私はティファニアと申します。お尋ねしたいことがあり、ここへ来ました」


「そう、ですか・・・。それでは、こちらへどうぞ」


 ティファニアの言葉に、何かを感じ取ったのか、レーアは奥の個室へと彼女を案内した。


 個室に入ると、レーアはサムウェルを呼んた。


「それで、エルフが人里まで現れると言うことは、余程のことなんだろう?」


 サムウェルは開口一番そう言った。

なかなか聞きにくいことを、歯に衣を着せることなく言うサムウェルに、ティファニアは理解を示す。

エルフが人族を敬遠するように、人族もまたエルフには思うところがあるのだろうと。


「はい。実は、この街に聖剣の担い手が現われたと聞き、エルフの代表として私が使わされました。私を聖剣の担い手に会わせてください」


 ふむ、とサムウェルは腕を組んだ。

()が持つ聖剣が何であるかは別として、エルフが聖剣を求める理由に心当たりがなかったからだ。


「聖剣の持ち主に会って、君はどうするんだ?」


「エルフの悲願である、世界樹の奪還に協力していただきたいのです」


「なるほど。しかし、彼が持つ聖剣は君が求めているものとは異なっているかもしれないが?」


 サムウェルがそう言うと、ティファニアが首を傾げる。


 本当のことを言うべきかと、サムウェルは心の中で考えていた。


「聖剣の担い手と言われている人は、確かにこの街にいるけど、あなたが思っているような強者ではないわよ?」


 レーアが口を挟んだ。


「お会いしなければ、私には判断できません。とにかく、せっかくここまで来たのですから、その人に会わせて下さい」


 サムウェルとレーアの反応を見て、人族は聖剣の担い手を独占したいのだとティファニアは誤解した。


「わかった。彼がどういう人物か、君が自分で判断するといい」


「ありがとうございます」


 サムウェルの返事に、ティファニアは満足そうに頷いた。


「それで、今どこにいらっしゃいますか?」


「さっきまでここにいたけど、たぶん家に帰ったんじゃない?」


「それでは、家を教えてください」


「いいけど、明日の朝にはここへ来るわよ?」


「私としては、一刻も早くお会いしたいのです」


 ティファニアの要求に、サムウェルとレーアは顔を見合わせる。


「わかった。では、居場所を教えよう。それと、今日の宿が決まっていないなら、このギルドに併設されいる宿舎を利用するといい。エルフだといろいろと奇異な目で見られるだろうし、ここが一番安全だからな」


「お心遣い、感謝いたします」


 ティファニアは礼をいい、宿舎の場所を聞いた。

その後レーアから、聖剣の担い手が住んでいるという家への道順を聞き、冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドを出ると、西門を目指した。

そして、その門まで行ったら右に曲がり、一つの建物を見つけた。


 建物の扉をノックするが反応はない。

おかしいと思い、扉を開けるとそこは掃除用具やガラクタが置いてある倉庫であった。


「だまされたのでしょうか?」


 人が住んでいるとはとても思えない。

途方に暮れているティファニアへ誰かが近づいてきた。


「どうしたんじゃ?」


 そこには一人の優しそうな老人が立っていた。


「あなたは?」


「ベンというものじゃ」


 ティファニアの問いに、ベンさんが答えた。


「ここに住んでいる方ですか?」


「そうじゃが、そこは倉庫の入り口でのぉ、住んでいるところはこっちじゃわい」


 そう言うと、建物の裏を指差す。


「なるほどです。ところで、こちらに聖剣の担い手が住んでいると聞きましたが、あなたでしょうか?」


「はてのぉ、聖剣の担い手とは聞いたことがないのぉ。少なくとも、わしではないのぉ」


 ニコニコと答えるベンさんに、ティファニアが更に尋ねた。


「ほかに住んでいる方は?」


「おぉ、最近セリアという若者が、うむ、もう若者という歳ではないかのぉ。セリアという男が一緒に住み始めたぞぃ」


「その人は今どこに?」


 ティファニアはもしやと思い、質問を重ねる。


「さっき戻って来たが、また明日から迷宮に潜るとかで買出しに行ったわい」


「わかりました。よろしければ、どちらへ行かれたか教えてください」


「このまま真っ直ぐ行って、突き当りを左に曲がれば商店街がある。その近辺じゃとは思うがのぉ」


「ありがとうございます」


 ティファニアはお礼を言って、踵を返した。

とにかく、商店街行き、聞い回ろうと決めた。


 ティファニアは商店街に着くと、聞き込みを開始した。


「あぁ、聖剣殿なら、さっきまでそのドライフルーツを選んでいたぜ。いつも懇意にしてくれるのは嬉しいが、毎回価格交渉されたんじゃ、割りにあわねぇーよ」


「グランディアなら、さっき干し肉を買っていったよ。いつも赤狐の肉しか買わないから、たまには角猪の肉を進めたけど、高いから遠慮するって言われたぜ」


「聖剣様かい?彼なら下着を見てたよ。この前多めに買ってたから、今回は迷った末、買わなかったようだね。下着なんて何枚あってもいいのにねぇ」


「聖剣の御使いなら、武防具屋へ行ったよ。でも、彼に必要なのはそういうんじゃなくて、ここで売っているような服だと思うんだよ。今朝の彼の姿を見なかったかい?見たら絶対、まず服を買うべきだと思うはずだよ」


 商店街での聞き込みから、ティファニアが推察できたことは、彼はお金に困っているようだ。

物色した商店の数は多かったのだが、そのほとんどで商品を購入していないようだ。

さすがのティファニアでも、貧乏な聖剣の担い手を想像することはできない。


 商店街から武防具屋へ移動すると、そろそろ空が暗くなり始めていた。

武防具屋の店主へ話を伺うと、聖剣の担い手についていろいろなことを教えてくれた。


 彼は比較的安価な剣を使い、着ている鎧は皮製とのことだ。

先ほど聞いたように、あまりお金を持っていないのだろう。

ティファニアはなんとなく、自分が求めている聖剣の担い手像とは大きくかけ離れているように感じていた。


 武防具屋を出ると、すでに空には星が出ていた。

今から彼が住んでいる家へ行ってもいいが、ティファニアはなんとなくそんな気分にはなれなかった。

それに加え、ここまで旅をしてきた疲れもあった。


「どちらにしても、明日は冒険者ギルドへ来るそうですから、そこで会えればいいですよね」


 自分を納得させ、ティファニアは冒険者ギルドへ向かった。

与えられた部屋に着くと、食事することもなく、ベッドに横たわり眠りについた。

次回より、ティファニアも参戦します。

果たして彼女の実力はいかに。

また、おっさんは彼女の期待に答えられるか。


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