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第22話:月下の大鷹より弱ぇー・・・ part7

PV150越えを記念して、一日前倒しで更新します。



 迷宮探索4日目。

俺達と『月下の大鷹』は準備を終え、それぞれ別々の方向へ旅立とうとしていた。

お互い、疲労の色は隠せなかったが、彼女達にはそれを覆すだけの若さがあった。

じいさん、おっさんの俺達とはそこが違い、うらやましいとさえ思う。


「貴殿らは、5階層を踏破し、6階層へ向かうのか?」


「いや、我々はアナライザー殿の手前、とりあえず5階層の魔物を狩ったら戻ろうかと思う」


 シーラの問いに、エリックが答える。

じつは昨夜の内に相談し、決めていた。

本来なら、5階層を覗くだけで戻っても良かったが、アナライザーにとってはせっかく5階層へ来たのだから魔物の強さを知りたいだろう。

よって、とりあえず蜘蛛女を一体討伐したら、地上へ戻ることになった。


「そうか。では餞別に蜘蛛女の情報を貴殿らに渡そう。まず、蜘蛛女の特徴は知っての通り、上半身人間の女性、下半身が蜘蛛だ。攻撃は、口から糸を吐き、鋭い足で突き刺してくる。また、これが最も厄介なのだが、夜の闇に紛れさせて、蜘蛛の巣の罠を張っている。糸は火に弱く簡単に燃えるため、火の魔法が有効だ。最後に、我らは6階層へたどり着くまでに蜘蛛女とは6度しか戦闘を行わなかった。つまり、5階層にいる蜘蛛女の個体数は、そう多くないと思う」


 シーラは蜘蛛女についての情報を提供した後、小声で「まぁ、セリア殿がいるから戦闘に関しては杞憂であるが」と続けた。


 俺達は彼女達へ感謝を口にし、お互いの無事と健闘を祈った。

手を振りつつ別れを告げ、それぞれの目的へ向けて歩き出す。

最後までチラチラと、こちらへ来たそうにしていたシーラも仲間に促され何とか4階層へ登っていった。

彼女は、レーアとは違った意味で苦手である。


 階段を降りると、そこは5階層である。

情報通り夜の森で、ただそれだけで危険度は上がる。


 エリックが松明を取り出し、俺達全員に配る。

6つの明かりを頼りに、俺達は5階層へ足を踏み入れた。


 物音さえしない、静まり返った森は不気味であった。

地上の森であれば、虫の鳴き声などするのだろうが、迷宮の森ではそれさえ聞こえない。

互いの息遣いと、地面を踏みしめたときに聞こえるかすかな摺れた音だけが辺りに響く。


「止まれ」


 しばらく歩いたあと、先頭を行くエリックが制止を促した。

松明を近づけると、そこには大きな蜘蛛の巣が存在した。

なるほど、これが蜘蛛女の罠ということか。


 エリックはその蜘蛛の巣に松明で火を放った。

蜘蛛の巣は燃え上がり、一瞬辺りを明るく照らして消えた。


「各自、警戒するんじゃぞ」


 エリックに続いて、俺達は前進する。

すると、十数歩進んだだけで、再度エリックが立ち止まった。


「おるのぉ」


「じゃな」


 エリックに、リゲルが同意する。


 俺達は前後左右を警戒するため、ルーカスとアナライザーを中心とし、残りの4人で2人を囲った。


「うぉ」


 突然エリックが叫び声を上げ、彼の盾を何かが強打した。

皆が一斉に松明を掲げると、そこには情報通りの姿をした蜘蛛女がいた。


 ルーカスが矢に火を着け、蜘蛛女へ射る。

3本同時に放つが、矢は蜘蛛女へ到達する前に蜘蛛の巣で絡め取られ、ただ蜘蛛の巣を燃やすだけにとどまった。


「おぉおぉぉ」


 リゲルがバトルアックスを構え、接近を試みる。

蜘蛛女は距離を取ろうと、後ろへ飛び退いた。

リゲルはバトルアックスで蜘蛛の巣を払い前進する。

どうにか近づき、斬りかかろうとバトルアックスを振り上げた時、蜘蛛女の口から糸が吐かれ、リゲルはそれをまともに浴びた。


 身動きができなくなったリゲルは、体ごと地面に倒れる。

その動きは射線を確保するためのものであった。


 リゲルが倒れた瞬間、後方からジンがものすごい勢いで短槍を投擲した。


「ぎゃぁあぁぁ」


 けたたましい叫び声が、静かな森の中をこだまする。

短槍は蜘蛛女の腹に突き刺さり、そのまま近くの木へ縫い付けた。

それを見定めたエリックは、盾を捨て、剣を構えて接敵し、飛び上がって蜘蛛女の額へ剣を突き刺した。


 俺はその一連のコンビネーションをただ見ていることしかできなかった。

まったくもって戦力外である。


「終わったぞぃ」


 剣と槍を回収したエリックは、そのまま蜘蛛女の胸の中をまさぐり、心臓を取り出した。


「蜘蛛女の心臓は、妙薬とされ、高値で取引されておるんじゃよ」


 怪訝そうな顔をした俺に、ルーカスが教えてくれた。


「エリックじいさん、ちょっとそれを見せてくれ」


「ふむ、良かろう」


 俺はエリックが差し出した心臓を見つめ、以前、赤狐に施した冷凍の魔術を行使した。


「これで、腐ったりすることはないと思う」


「お主、すごいのぉ。回復以外にもこんな魔法が使えるじゃなぁ」


 エリックは関心しながら心臓を袋に入れ、鞄にしまった。


「さて、戻るとするかのぉ」

 

 エリックの一言で、俺達は地上への帰還を開始した。


「しかしのぉ、5階層が一番楽な階層というのはどうにも解せんもんじゃなぁ」


 4階層と5階層を行き来する階段にたどり着いたとき、エリックが言った。

それに、リゲルとジンも同意する。


「さっきの蜘蛛女が一番弱い相手だったのか?」


「いや、単体で見たらそりゃぁ、この探索で出会ったどの魔物よりも強かったぞぃ。ただなぁ、蜘蛛女はあくまでも単体なんじゃ。赤狐にしろ、小鬼にしろ、集団で来られたらわしらとて全滅しかねん。その点、蜘蛛女なら苦戦はしても、まず負けることは無いじゃろうて」


 なるほど、そういうものか。

俺は納得し、頷いた。


 4階層に突入すると、俺達の足取りは軽かった。

もう帰るだけであり、今日は平らな場所で眠れると思うだけでがんばれるというものだ。

まるでハイキングのように腕を振り、足を動かす。


 なぜそんなことができるのか?

答えは簡単である。

もう地上へ戻るだけということで、俺達は持っているポーションをがぶ飲みしているのである。

完全なドーピング。

疲れを忘れさせる一本は、俺達に元気を与えてくれる。


 森で出会う小鬼はスルーである。

横目に見える小鬼の集落もスルーである。

とにかく、上への階段目指してのハイキングである。


 3階層へ到達しても、俺達のペースは衰えない。

時折り襲ってくる岩狼は撃退し、遠目の敵からは逃げの一手である。


「岩狼の毛皮とか肉って売れるのか?」


 俺がルーカスに尋ねると、相変わらずやつが答えた。


「もちろんだ。毛皮は硬質であるから、防御力の高いコートなど使用される。肉は赤狐よりも上位とされている」


「一匹持って帰るか!」


 ポーションを飲んで元気になった俺に不可能はない。

そう思ったが、いざ持ち上げてみるとあまりの大きさと重さに断念せざるを得なかった。

しかたなく、アナライザー曰く一番おいしい部位である、後ろ足の太ももを切り出し、持って帰ることにした。

ベンさんへのみやげである。


 2階層に着くと、そろそろポーションが切れそうであったため、再度一本飲み干した。

城跡を抜け、出会う冒険者へ手を振りつつ、俺達の行進は止まらない。

そのまま1階層までたどり着いた。


「さて、せっかくじゃから、赤狐を狩って持って帰ろうかのぉ」


 エリックはルーカスに頼み、遠目に見える赤狐を挑発して集団をおびき寄せた。

ポーションを飲んで元気な俺達は、苦も無く殲滅し、毛皮が綺麗な赤狐を選んで、一人一匹担ぎ上げた。

もっとも、担いだのはアナライザー以外の5人ではあるが。


「これだけの赤狐が五匹いれば、6人で等分しても少しは足しになるじゃろうて」


 エリックの談に、俺は内心不満があった。

結局戦闘に参加もしていない、赤狐を運ぶこともしないアナライザーにも報酬を分けるのかと。


 地上にたどり着いた時、まっさきに目に入ったのは綺麗な夕焼けであった。

そういえば、迷宮には夕暮れ時の階層はなかった。

もっと下の階層へ行けば、ずっと夕焼けが見れる階層があるかもしれない。

そんなことを考えつつ、リェーヌの街へ向かった。


 冒険者ギルドへ到達するころには、二本目のポーションが切れそうであった。

これが切れれば、一気に疲れが襲い掛かるだろう。

しかし、今日はゆっくり休むのだから三本目は必要ない。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 冒険者ギルドにはレーアがいた。

俺達は彼女に赤狐五匹、蜘蛛女の心臓、巨鬼のペンダントの査定を依頼した。

その間に、エリックとアナライザーはギルドマスターへ迷宮の報告を始める。


 やはり、『月下の大鷹』が5階層までの報告をすでに終えていた。

よって、最速での5階層到達は彼女達になり、報酬はすでに渡したそうだ。


 残念だと思っていると、レーアから査定が終わった旨を伝えられた。

エリックが戻ってきて、代表で査定金額を受け取る。


 ペンダントに関しては、もう少し時間がかかるようだ。

それ以外の赤狐五匹、蜘蛛女の心臓の合計で、金貨5枚である。

6人で等分すれば、一人金貨1枚も無い計算である。


 まだペンダントの価格が分かってないとは言え、迷宮へ4日潜っての報酬としては、正直割りに合わない。

これに5階層最速報酬があれば話は別ではあるが。


 迷宮で狩りを行っても、持って帰るのに苦労する。

そういえば、転生前の世界では、俺か仲間が転移魔法で狩った魔物を街へ送っていた。

そうか、転移を使えばいいのか。

――――今の俺に使えるだろうか?


 報酬への不満と、今後について考えていたところへ、報告を終えたアナライザーが戻ってきた。


「皆、迷宮探索では助かった。これがマッピングと、魔物の情報を報告した報酬だ。皆で分けよう」


 アナライザーさんが取り出した袋には、金貨が25枚入っていた。

これで、報酬の合計が金貨30枚、一人当たり金貨5枚になった。

アナライザーさん、これまで本当に失礼いたしました。


「ちょっと、え?私?」


「そりゃー、先輩の役目ですよー」


 カウンターを見ると、レーアとキャロルがこちらを見ながら話をしている。

何か用だろうか。


「はぁ~、仕方ないわねぇ」


 レーアは俺の方を見ると、手招きをし、個室を指差す。


「うん?」


 最近、何かレーアの気に障るようなことをしただろうか?

思い当たる節はない。


 個室に着くと、レーアが座るように促す。

言われたとおり椅子に座りながら、レーアの顔色をうかがう。

うん、怒ってはなさそうだ。


「迷宮から帰ってきて疲れているところ悪いわね」


「いや、それよりどうした?」


「えっと、あんたの依頼達成数と、迷宮での実績が評価されて昇級試験を受けることができるようになったわ」


 昇級試験か。

今の冒険者ランクは黒鉄級だから、鋼鉄級になれるというわけだ。


「それで、できるだけ早く受けてほしいのよ。迷宮が出現して、本部から鋼鉄級以上の冒険者が何人いるか、照会が来ているのよ」


「つまり、鋼鉄級を多く報告したいわけか」


「ありていに言えばそうね。まぁ、こっちの都合ではあるけど」


 レーアが少しだけ申し訳ない顔をした。

それだけで決定した。


「わかった。今からか?」


「いやいや、さすがにそれはきついでしょ。明日の朝はどう?」


「了解した」


「それじゃぁ、明日の朝、ギルドへ来て」


 話は終わりと、レーアは部屋から出て行こうとして、迷ったような素振りをしたあと言った。


「少しだけ期待してるから」


 レーアが出て行った方を見ながら考える。

何の期待だろうか。

明日の昇級試験のことだろうか。

だとするなら、杞憂である。

黒鉄級はいわば見習いであり、鋼鉄級からを本当の意味での冒険者と言う。

だからこそ、鋼鉄級の昇級試験はそれほど難しいはずがない。

楽勝である。


 考えながら部屋を出ると、エリックが待っていた。


「聖剣殿、我々は今後もあの迷宮に潜るつもりだ。お主はどうするんじゃ?」


「そうだな・・・」

 特に決まっていない。

金貨が5枚もあるのだから、装備を整えて、近隣に生息する魔物の討伐依頼を受けてもいいかもしれない。


「良ければ、これからもわしらと共に迷宮へ潜ってほしい」


 その提案には驚き、エリックを見つめるが、彼の目は真剣そのものである。

しかし、正直なところ俺自身が戦力になっているか甚だ疑問である。

赤狐や小鬼であればどうにかなるだろう。

岩狼も強化魔法を使えば問題ない。

だが、巨鬼は?蜘蛛女は?

どう考えても今の俺では単騎撃破は無理だろう。

そして、6階層以降はもっと強い魔物が現れるはずである。

足手まといにしかならない。

それでも、先へいけるだろうか?


「俺でいいのか?」


「皆とも話し合ったが、お主が良いのじゃ。2階層のあの時、お主がいなければわしらは逃げ出し、『月下の大鷹』に無様を晒したかもしれん。1階層への階段の時もそうじゃ。わしらだけならあの怪我した若い冒険者に何もしてやれんかったじゃろう。4階層でもじゃ。危険な偵察にジン一人で行かせ、もし何かあった場合、あやつを見捨てねばならん。わしらの中で誰もついていけるものがおらなんだから、それについては諦めてさえいたんじゃ。だから、わしらにはお主が必要なんじゃ」


 俺が必要。

この世界に来て、初めて言われた。

できることがあるのなら、応えたい。

例え、俺の成長限界が近いとしても、これ以上強くなることはできないとしても、このじいさんたちに不要だと言われるまでは力になりたい。

だから。


「こちらこそ、よろしく頼む」


 俺はエリックへ手を差し出した。

エリックはそれを力強く握ると、優しい笑顔で頷いた。


「さて、そうと決まればやることは一つじゃのぉ」


 ん?なんだ?


「わしら赤狐討伐依頼を完遂し、迷宮も5階層までたどり着いて今日戻ってきたんじゃぞ?であれば、やることは一つじゃろうに」


「いや、ぜんぜん分からん」


「迷宮探索は2日後から行うからのぉ。今日は飲むぞぃ!とことん飲むぞぃ!」


 エリックに引きずられ、飲食スペースへ行くとすでに酒盛りが始まっていた。


「おぉ!やっときたか。ささ、ここへ座って、まずは一杯」


 そういってルーカスがビールのジョッキを押し付けてくる。


「金はあるんじゃ。今日は飲み明かすぞぃ」


 ジンが陽気にビールを掲げる。


「これだけのためにがんばってるんじゃ。くぅ~」


 リゲルがビールを一気に飲み干す。

リゲルに関しては嘘だ。

リゲルは戦闘狂に片足を突っ込んでるから、戦いを楽しんでいるはずだ。


 まぁ、そんなことはどうでもいいかと、俺は目の前のジョッキを飲み干した。


 冒険者ギルドの飲食スペースへは、次第に冒険者が増えていく。

彼らはじいさん達の話をつまみに、酒を飲む。

笑い声と驚きと、心地よい喧騒であった。


「でじゃ、何度も聖剣について尋ねるシーラに対し、我らの聖剣の担い手殿はこう言った。『俺の聖剣は夜にこそ力を発揮する』とな!まさに聖剣、まさに英雄の所業ぞぃ」


 言ってねーよ。

誰だよそんなこと言ったやつわ。


 必死否定するが、「聖剣様に乾杯」などと言っていては、もはや収拾がつかない。

さらに、俺の隣ではギルドマスターサムウェルが大爆笑して腹を抱えている。

いや、夜がどうのはお前のせいだからな。


 それでも、皆でビールを飲み明かし、冒険譚を語るのは本当に懐かしい。

久々に気分良く、うまい酒が飲めた夜であった。

次回、昇格試験です。


感想、ブックマーク、評価、レビュー、良ければお願いいたします。


また、おっさんへの応援メッセージも募集します。


何卒、よろしくお願いします。

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